25)エピローグ
今日でソラ視点版、完結です。ありがとうございました。
m(_ _)m
キースレア帝国とアノス王国の、和平条約締結における歓迎会は、微妙な空気に包まれていた。
カリンがキースレアで荒れ地を潤す聖歌を披露してから、すでに3ヶ月が過ぎていた。
テーブルの上には、カリンの歌を魔導具に収めたものが載っている。
生の歌ほどではないが、多少は効果があることはテスト済みだった。1割程度の効果がある。
何度か荒れ地で流せば、良い結果が得られるだろう。
この魔導具を渡すに際して、シオン殿下は、キースレアの陛下に、「より確固とした平和条約の締結」を申し入れた。
異論のあるのは、軍部だけだったらしい。
キースレアの陛下は、アノス王国の申し入れを受け入れてくれた。
魔導具は、永遠に保つものではない。
平和条約の締結が無効になったとき、あるいは、キースレア帝国で攻撃魔法の訓練が行われたとき、魔導具は使えなくなるように、仕掛けがしてある。
歓迎会が済んだら、私とカリンは、ギルモア王国に帰る予定だった。
もう私の父は引退したので、アノス王国に帰ってもよいのだが、ギルモア王国は居心地が良く、しばらく住むことにした。
叔母が、私たちに離れを提供してくれて、そこで暮らす。帝国から帰ったときの私たちの我が家だ。
歓迎会会場で、キリアン皇子は、私とカリンと少し話しをした。
「君たちは、最後まで、私を驚かせ通しだったね」
と言う。キリアン皇子は、どこか寂しげだった。
「なにか他に驚きましたか?」
カリンが首をかしげる。
「ハハ。
まぁ、いいよ。
私が、勝手に驚いていただけだから」
皇子が苦笑する。
「私も、なにか、驚かせましたか?」
と、私も首をかしげて尋ねた。
「最初に、君のコンクールでの演奏で衝撃を受けてから、最後に歌姫と結婚したところまで、かな」
「なにも不思議はないですよ。
私たちは、音楽を愛する者同士、ずっと、一緒になる予定でいたんです。
12の歳から」
「私が、カリンと君を見かけたのも、12の歳だったんだがね・・」
キリアン皇子が遠い目をする。
でも、皇子は、義理の姉上に恋心を抱いていたじゃないですか。
・・と、私は胸のうちで反論する。
道ならぬ恋に心を奪われていた。
おかげで、カリンの価値に気づけなかった。
もしも、カリンが、キースレア帝国にとって、有益だと気づいていたら、彼は、大国の力を使ってでも手に入れようとしただろう。
でも気づかなかった。
彼女をもっと見ていれば判ったことだ。
皇子がカリンに抱いていた感情は、「少々の好意」「同情」「好奇心」だった。
彼が、義理の姉上に惹かれた理由のひとつは、おそらく、皇太子妃が、キースレア帝国にとって、得がたい妃だったからだろう。
王族や皇族として教育を受けたものは、得てして、そういう価値観を持っているものだ。
だから私は、カリンの価値を知らせたくなかったし、結婚するまでは、キースレアに彼女を連れていきたくなかったのだ。
◇◇◇◇◇
1年後。
私のプロポーズの言葉は、
「子供たちの笑い声と、歌と音楽があふれる家庭を作ろう。子供たちに、たくさん、子守歌を歌って、カリン」――だったのだが、私と彼女は、今、そんな家庭を築いている。
私たちの間に、可愛い息子が生まれた。
カリンの父上は、たいそう喜んでくれた。
カリンの兄たちは、みな、幸せな結婚をしたが、まだ孫が生まれていない。
私たちの息子が、初孫だった。
カリンの父上は、ときどき、不可思議な歌を歌っている。
カリンは、「あの歌は、甘い菓子パンの勇者が、悪者をやっつける歌よ」と言う。
「ずいぶん遠い昔に、聞いた歌なの。・・たぶん、母が歌ってくれたんだわ」と。
それで、カリンは、小さな子供のとき、その歌を鼻歌で歌っていた。
カリンが幼いころ、父上にメロディを教えてあげたので、父上は、それに自分で歌詞をつけて歌っているという。
カリンが言うには、それは、「まん丸い菓子パンの勇者が、自らを犠牲にして民を助け、悪者を退治する物語」らしい。
「それは、勇ましい物語だね・・でも、私は知らない物語のようだけれど?」
と私は言った。
「そうよね・・」
カリンも、微かな記憶しか残っていないらしい。
カリンの父上の不思議な歌は、息子がたいそう気に入っている。
まぁ、祖父と孫が幸せなら、それで良いか。
父上が歌う。
「だから、君は、飛ぶんだ、どこまでも」
その歌は、青い空の向こう、どこまでも続いていく未来を思わせた。
お読みいただきありがとうございました。
おかげさまで、なんとか、無事、終えられました。
番外編が出来たら、また投稿します。
ブクマや感想や評価をありがとうございました。作者の励みでした。
新連載。(^^)
『世界にひとつだけの家』も、お読みいただければ幸いです。m(_ _)m




