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第六話:一

【六】


「リーナ?」

 ヒロトはナナミに声を掛けてきたプレイヤーを見て驚く。ナナミに声を掛けて来たのは、少し前に森の中でモンスターに絡まれていた詠士のリーナだった。

「ヒロトが見えたので」

 リーナはそう言って、体の前に魔導書を持ってニコッとヒロトに微笑む。ヒロトがリーナと出会った時はレベル三だったが、リーナもナナミと同じようにエーヴィヒバウムに挑戦出来るレベル一〇にまで達していた。

「ヒロト、この子と知り合いなの?」

 ヒロトとリーナを交互に見たナナミが首を傾げる。ヒロトはリーナを手で指してナナミに紹介をする。

「ちょっと前に森で出会ったリーナ。ナナミと同じで、まだ始めたばかりの詠士。ロールで言うとヒーラーだな。前に森で食材集めをしてる時のことを話したことがあっただろ?」

「ああ、聞いた聞いた! 私はナナミ。ヒロトとはフレンドよ。私は剣士をやってるの」

 ナナミは明るい声と表情で自己紹介をしながら、リーナに向かって手を差し出す。

「リーナです。ヒロトには森でモンスターに襲われているところを助けてもらって」

 ナナミとリーナが握手をして互いに自己紹介を済ませると、ヒロトは周囲を見渡して声を張り上げた。

「すみませーん! 一緒にエーヴィヒバウムに言ってくれるアタッカーの方、居ませんか~?」

 ヒロトが手慣れた様子で声を上げて勧誘をすると、ヒロト達の近くに一人の男性プレイヤーが歩いて来た。

「よお、新人プレイヤーの指導か?」

「ああ、タンクとヒーラーが初ダンジョンなんだ」

 近付いて来た男性プレイヤーが気の良い雰囲気で話し掛けてくる。それにヒロトも笑顔を浮かべて気軽な口調で話をした。だが、リーナが体を少し跳ねさせて後退りをする。それを見た男性プレイヤーは頬を掻いて苦笑いをした。

「新人にはビビられるんだよな~俺って」

「まあ、ウェアウルフを初めて見たら、身構える人が多いからな」

 話し掛けてきた男性プレイヤーはウェアウルフという種族で、外見は典型的な狼男。

 灰色の体毛と突き出た口にびっしりと生えた牙が印象的だ。ただ、見た目は恐ろしい狼男だが、男性の雰囲気は明るい。

 ウェアウルフはシックザールで選択出来る種族の一つだが、見た目の拡張性が乏しい上に見た目が凶暴そうな狼男であるため、あまり人気ではない種族だ。ただ、ウェアウルフを選択している人は、大らかな気持ちを持った人が多いとプレイヤー間では言われている。

「棒術師で良ければ俺を入れてくれるか?」

「ありがとう、助かるよ。俺はヒロト、クラスはハンターをやってる」

「俺はラルスだ。今日は棒術師だが、いつもはバーサーカーをやってる」

「私はナナミです。クラスは剣士です」

「わ、私はリーナです。詠士をやっています」

「二人とも、よろしく」

 ニッと牙を見せて笑うラルスは明るい声で二人に答える。ナナミの方は特に怯えた様子はないが、リーナの方はまだラルスの容姿になれていないようだった。そんなリーナに、ラルスはニッと牙を見せながら笑う。

「気楽に行こう。エーヴィヒバウムくらいだったら、そんなに気負うほど難しくないからな。リラックス、リラックス」

 初めてのダンジョンで緊張している二人のために気を遣ってくれることと、新人プレイヤーのパーティーに積極的に参加してくれるところを見ると、ラルスはかなり面倒見の良いプレイヤーのようだ。そう、ヒロトはラルスを見ながら思った。

「ナナミ、俺達を誘って四人パーティーを作ってくれ」

「分かった。少し待ってて」

 ナナミがパーティー編成を行っている間に、ヒロトはラルスの横に立って話し掛ける。

「ラルス。どうしてラルスはここに居たんだ?」

 ヒロトは周囲を見渡してラルスに尋ねる。

 シックザールに存在するクラスには、大きく一次クラスと二次クラスという分類がある。

 ナナミの剣士とリーナの詠士は一次クラス、ラルスの棒術師とバーサーカー、ヒロトのハンターは二次クラスに分類される。

 二次クラスは対応する一次クラスのレベルを三〇まで上げた時に、二次クラスの解放クエストを完了するとなることが出来る。つまり、その二次クラスをメインとして言ったラルスは、少なくともレベル三〇にはなっているということだ。

 それに、ラルスの身に付けている装備は、シックザールを始めたばかりのプレイヤーのものではない。レベルをカンスト後にしか装備出来ない武器防具を身に付けている。つまり、ラルスはカンスト、つまりレベルキャップの五〇に到達していることになる。

 ヒロト達が今居る場所は、エーヴィヒバウムの入り口。そして、エーヴィヒバウムはレベル一〇のダンジョンで、シックザールを始めたプレイヤーが初めて挑戦するダンジョンだ。カンストしたラルスが今更用事のあるダンジョンではない。

「ああ、俺は時々ここで新人プレイヤーパーティーのフォローをやってるんだよ。メンバーが足りなくて途方に暮れてる新人が多いからな」

「そうだったのか。そういうプレイヤーが居ると、ルーキーも安心してシックザールを遊べるな」

 ヒロトはラルスの言葉に嬉しそうに笑顔を浮かべる。

 シックザールのようなMMORPGでは、サービス開始直後や大型バージョンアップ直後は新規プレイヤー、いわゆるルーキープレイヤーが増える。しかし、それ以外の時期はルーキープレイヤーの増加は落ち着いている。

 そんな時に始めたプレイヤーは、同じくらいの進行度のプレイヤーが少なく低レベルのダンジョンを攻略するメンバーが足りなくなることが多い。

 そういう時のためにパーティー募集掲示板が存在するが、ルーキープレイヤーの全てがいきなり自らパーティーメンバーを募集出来るわけではない。

 そんな時、ラルスのような先輩プレイヤーから優しく声を掛けてくれれば、ルーキープレイヤー達も安心してシックザールを遊ぶことが出来る。

 ラルスのようにルーキープレイヤーに優しいプレイヤーの存在に、ルーキーではないヒロトも嬉しくなった。

「そういうヒロトの方が、あの剣士の女の子をここまで丁寧に引率してるだろ。……もしかして気があるのか?」

 ラルスはからかうように牙を見せながらニヤリと笑うが、ヒロトはそのラルスに首を振って笑みを浮かべる。

「いや、そういうわけじゃない。ナナミがシックザールを始めたばかりで何も分からない時に、ギルド本部まで案内してチュートリアルを受けさせたんだ。それが縁でフレンドになって、今日はナナミのダンジョンデビューだから、その付き添いに来た」

「そうか。まあ、初心者でタンクは結構険しい道になりそうだからな。しっかりフォローしてやれよ」

「ありがとう。ちゃんと面倒は見るつもりだ」

 ヒロトがナナミのパーティー勧誘を受けていると、同じくナナミからのパーティー勧誘を受けながらラルスが視線だけをリーナに向けて、ヒロトに小さな声で囁く。

「リーナは超栄旅団ちょうえいりょだんのメンバーみたいだが」

「ん? ああ、そうみたいだな」

「超栄旅団はあまり良い噂を聞かないぞ。ルーキーを囲って色々こき使ってるって」

 ラルスの抑えた声で発せられたその言葉に、ヒロトはパーティー勧誘を受け終わった腕を組んで視線をリーナに向ける。リーナはナナミから受けたパーティー勧誘をぎこちない動きで受諾しながら、ナナミと言葉を交わしている。

 リーナがパーティーに所属して、リーナのキャラクター情報を見たラルスの隣で、ヒロトもリーナのキャラクター情報を見る。

 他人のキャラクター情報を黙って見るのはあまり褒められた行動ではない。ただ、ルーキープレイヤーの中には、ナナミと同じように武器や防具と言った装備品の更新し忘れや、そもそも装備の仕方が分からないというプレイヤーも存在する。だから、ラルスの装備チェックは善意からだった。しかし、それでラルスは別の箇所に目を留めた。

 リーナの所属ギルド名だ。

「MMORPGの経験があるルーキーが何人か、超栄旅団に声を掛けられたらしい。それで、パーティープレイの基本だと言われてファーミングをさせられたようだ。そいつ等は超栄旅団がきな臭いって思って所属はしなかったみたいだが、全くMMORPGの経験が無いルーキー達はそのまま超栄旅団に残ったらしい」

 ヒロトはそれを聞いて、先日見掛けたルーキーを指導するパラディンの姿を思い出した。ほぼ確実にその時のパラディンが超栄旅団のメンバーだと考えて良かった。しかし、まだそれではリーナ達ルーキーが騙されているとは限らない。

「まあ、でも、本人達が納得してやっているとしたら、外野が口を出すようなことでもないだろ」

 ヒロトがそう言うと、ラルスは目を細めて鋭い視線をヒロトに向ける。それは、本当にラルスが人が良くて正義感が強いプレイヤーだという現れだった。

「明らかにリーナは気が弱いし、MMORPGの経験が無さそうだ。そういう新人がバカなベテランの食い物にされて――」

「もしそうだとしたら、全力で止める」

 ヒロトの返答を聞いて、少し驚いた顔をしたラルスは、嬉しそうに破顔した。

「なんだ。目を付けてたのか」

「ああ。最初にリーナに会った時に、そのファーミングの現場を見た。でも今は変に嫌なことを考えさせて、せっかくの初ダンジョンを台無しにさせたくない。リーナに聞くのはダンジョン終わりにしよう」

「そうだな。リーナもヒロトみたいなプレイヤーが居ると安心してシックザールをプレイ出来るな」

 ラルスがニッと牙を見せながら笑って言った言葉に、ヒロトは小さく微笑んでラルスに視線を返す。

「それは、俺の台詞だけどな」

 パーティー編成が終了し、いざ突入という前に、ナナミが険しい顔をして首を傾げた。そして、表示されているメッセージを指さして口を開く。

「ヒロト、ロットルールって何?」

「ロットルールって言うのは、ダンジョン攻略後の報酬をどう分配するか決めるルールのことだ」

 ナナミの素朴な質問に、ヒロトは簡単な説明をする。

 ダンジョンに限らず、戦闘系のコンテンツではほぼ全てにクリア報酬が設定されている。それは、武器や防具、アクセサリーであったり、生産に使われる素材アイテムだったりする。

 それらの報酬は、クリアした時のパーティーで分け合うことになる。その分け合うための方法を決めるのがロットルールだ。

「まず始めに、報酬を抽選することをロットって言うんだ。その抽選にはニード、グリード、パスがある」

「にーど、ぐりーど、ぱす?」

「たとえば片手剣が報酬として出てきたら、ナナミは欲しいだろ?」

「欲しい!」

「そういう時は、ニードをするんだ。ニードは必要って意味の英単語から来てて、絶対に欲しい物が出た時に使う。ただ、ニードが出来るのは自分が装備出来る物だけ。ナナミは剣士だから、片手剣にはニードが出来るけど、槍にはニードが出来ない。防具の場合も、軽防具にはニードが出来るけど重防具にはニードが出来ない」

 剣士等の各クラスには、それぞれ適正装備という物が設定されている。

 剣士は片手剣、盾、軽防具が適正装備で、それらはニードが出来る。でも、適正装備以外の物が報酬として出てきた場合はニードが出来ない。

「なるほど。今の自分が使える物しかニードが出来ないってことね。それで、グリードは?」

「グリードは、ニードする人が誰も居ないんだったら欲しいって時にするんだ。あり得ない話だけど、たとえば俺とナナミの二人だけでダンジョンをクリアしたとする。その時に槍が報酬として出てきたら、ハンターの俺と剣士のナナミは槍が適正装備じゃないからニードが出来ない。でも、俺はもらえる物なら欲しいと思った。そういう時にグリードだ」

「なるほど」

「まあ、グリードは適正装備の人でも選ぶ場合がある。ニード者が重なったり、ニード者が居なくてグリード者が重なったりした場合は、それぞれの人達で抽選になる。そういう平等性を考えて、あえてグリードを選ぶ人も多いな」

「じゃあ、基本的にはグリードを選んだ方がいいの?」

 そのナナミの質問に答えたのはヒロトではなく、横に居たラルスだった。

「もらえる物はもらっておいた方が良いから、ニードが出来るなら基本はニードだ。シックザールではダンジョンのドロップ品のほとんどはマーケットに出せるからゴールドになるしな。ただ、レベルが上になってくると、グリードパーティーって募集があるから、グリードパーティーに参加する場合はニードが出来る装備でもグリードを選ばなきゃいけない。でもまあ、グリードパーティーなんてのは当分先だから、とりあえずニード、ニード出来ない物でもとりあえずグリードって覚えておけばいい」

「そっか。じゃあ、ニード優先でニードが出来なかったらグリードね」

「そうそう」

 ナナミの言葉にラルスはウンウンと頷きながら笑顔を向ける。すると、横からリーナがヒロトの肩を突いて首を傾げた。

「パスというのは?」

「パスはその言葉通り、要らないってパスすることだ。一応設定はされてるけど、所持品がいっぱいって時か、誰かが欲しがってるし譲ろうって時くらいしか選ぶ時はないかな。ラルスが言った通り、とりあえずニードでニードが出来なかったらグリードで良いと思う」

「ありがとうございます」

 リーナに答えて視線を戻すと、ナナミがメッセージを指さしながらラルスに尋ねていた。

「フリーロットっていうのは分かったけど、リーダーロットって何?」

「リーダーロットは、パーティーリーダーに報酬の分配権を持たせることだ。リーダーロットの場合だと、リーダー以外のパーティーメンバーはニードもグリードも出来ない。パーティーリーダーが選択したプレイヤーに報酬が渡されるロットルールのことだ」

「えっ!? それって、リーダーをやったら報酬を独り占め出来るってこと?」

 ナナミが険しい顔をしてラルスに聞き返す。そこで、嬉しそうな顔をせず険しい顔をする辺り、ナナミの人の良さが表れている。

「そうだ。だから、リーダーロットはよっぽど信頼の置ける身内同士でのパーティーでしか使わないな。それか、希望品パーティーって言って、パーティーメンバーが予め欲しい物を宣言しておく形のパーティーでコンテンツをクリアした場合、希望品以外をニードして持ち逃げすることが起きないようにリーダー責任でリーダーロットをすることがある」

「そっか。じゃあ、今回はフリーロットにしよう」

 ナナミがロットルールの選択を終えると、小さく深呼吸をする。後は、ダンジョンへの突入開始を押すだけだからだ。

「よーし、じゃあ円陣でも組むか?」

 両腕を組んだラルスが微笑ましそうな笑顔をナナミに向けて、全員に視線を向けながら

提案する。

 ヒロトは、日頃コンテンツ挑戦前に気合いを入れるような性格ではないが、ラルスの提案に乗って右手を中央に伸ばす。すると、ラルスがニヤッと笑ってそのヒロトの手の上に自分の右手を重ねた。

「よし、リーナも組もう!」

「う、うん」

 ナナミがそう言いながらラルスの上に手を載せると、リーナがナナミの上に手を重ねる。それを確認したラルスは、口を開いてもう一度全員を見る。

「エーヴィヒバウム攻略、頑張るぞ!」

「「「おおっ!」」」

 ラルスがかけ声とともに手を上に跳ね上げる。それに合わせ、ヒロト達も大きくかけ声を上げた。

「よし! じゃあ、ダンジョン突入よ!」

 元気一杯の声でナナミがダンジョン突入申請を出すと、ヒロトに突入を承諾するか拒否

するかのメッセージが表示される。ヒロトはそれに迷わず承諾を選択した。

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