1.強制償還されたらしいです
祖母が亡くなり何度目かの月命日にお墓へ参ろうと家を出た。そこまでは覚えている。
両親に声を掛け『気を付けてな』『お花は玄関に置いてあるから』『わかってる!』等と簡単な挨拶をし玄関を出て家の門を出た瞬間意識が落ちた。
まさに落ちたとしか言いようがない、何せ次に目が覚めた時私は見知らぬ人達に囲まれて膝をつかれていたのだから。
母から託されたお花を胸に突っ立っている私と、その周りに円陣を組む様に膝をつく面々。
「・・・・・・・」
意味が判らない。
そんな状態で周りを見回せた自分を褒めたい。
何度も目を瞬かせ気持ち悪さが残る中瞳だけを動かしてざっと辺りを見回す。
見渡したことで判る事は、自分を囲む様にある円陣の向こう側、少し離れ、多分上座に当たる場所で半分腰を浮かせている人物が居る事。
驚愕に目を開かせそれでも直ぐに冷静さを取り戻すそんな相手と目があった、確かにあったと思う。
頭の中でけたたましい警鐘が鳴る。
相手が何かを言いかけた瞬間私は何故か叫んでいた。
「違います!!人違いです!無関係です!!」
この場で何かを言うなんてよほどの事じゃないと無理だろうと判る空気が支配しているのに、しっかりと言い切れるのはきっとこの抱えている花を手向けようと思っていた祖母のお蔭かもしれない。
何故かそう言いなさいと言われたように必死になって口を開いていた。
ここが何処だかもどんな状況下も判らないのに。
「・・・シュバルツの巫女・・」
「違います!」
せっかく必死になって言ったのに、円陣を組んでいる誰かがそう言った。
それはまるで伝染するかのように広がりざわりと空気が沸き立った。
それと同時に私の全身には言い知れない恐怖と勝手に流れる冷や汗。
聞きなれない言語の筈だというのに数秒遅れで理解出来たのはずっと馴染んでいた言語。そう日本語として聞こえて相手が何を言っているのかも衛星中継の誤差の様に伝わってくる。
その言葉は祖母の口から出た単語そのもので遺言でもある言葉。
だからこそ少し離れた上座からついには立ってしまった相手に向かって叫んでいた。
たぶんこの中で偉いのはその人物。
この直感に間違いないと
「人違いですから!」
ここまで大声で怒鳴ることなど生まれて初めてかもしれない。
思わず立ちくらみを感じ少しふらついてしまう。
大体がこんな状況下に置かれて平然としている方がおかしいのだ、立ちくらみだろうが気を失うだろうがあっても良いだろう。
でもそれをさせない雰囲気がここにはあり、身の危険を知らせてくれている何とも言い切れない気持ちがその場になんとか立たせていた。
玉座と言うのにふさわしいその場所から席を立ってしまった相手が口を開けば辺りは一瞬にして静まり返る。
「違うと言うがこの陣に召喚願うたのはシュバルツの巫女、だったな?」
それは自分に向けての言葉ではなく円陣の中心に居る人へ向けての確認だった。
嫌な響きの言葉につられて思わずその確認されている人へと同じように視線を向けると聞き間違いのないはっきりとした声で問うた相手へと返している。
「はい。間違いございません。シュバルツの巫女様の御髪を使わせていただいたのですから」
どうしてそこでこの人は間違いですと言えないかな?等と思ってしまっても仕方がないと思う。
何せこの仰々しい場所で威圧感たっぷりの相手がこちらに向かって歩いて来ようとしているのだ。
一見して言わせてもらえば今後二度と見る事は叶わないだろう人間離れした美丈夫。
絵物語にでも出てきそうな容姿に敢えて言葉を付けるなら、そう、あれだ。エルフの王。プラチナブロンドに輝く髪の毛に同じような青みがかった色合いの瞳。
目を瞑り寝ているようなら間違いなく死んでいるのではないかと疑う程の薄さ。
それなのに存在感が半端ない。
それが余計に恐怖を与える。それは何故かと問われれば、やはり祖母のせい・・・。
寝物語に良く聞かせてもらった話の中でシュバルツの巫女と顔は絶世の美男子だが性格は史上最低な男である王様の話がフラッシュバックしてくるから。
寝物語にこの話は強烈すぎると知ったのは物事の分別がつくようになってから。
それまでは喜んでその話を聞いて色々と諭されていた。
今となっては諭されていたのだと判る。
そう、この変な場所に突然自分が立たされた今となっては!
「確かめよ」
その声に一気に立ち上がる膝をついていた面々。
思わず後ずさったのは無意識な行動で、瞬時に逃げる道を塞がれたと気がついたのは四方八方を囲まれてから。まるで壁の様に包囲網を狭くしてくる。
「シュバルツの巫女様、どうぞお進みください」
「だから、違うってば!」
お進みくださいと言いながら動き出せば立ち止まっている余地などない。
丁寧な言葉の中の横暴さに憤慨しても決して触れる距離には近寄らないくせに隙を与えない動きで歩かされた。
まったく周りが見えない状態でこの囲む相手の背の高さに壁に囲まれて歩いて居る自分は何処か間抜けで突拍子もない事を考えてしまう。
たぶん現実逃避をしていたのだろ。
「どこぞのセレブだってこんな人数に囲まれて歩いた事ないんじゃないの・・・」
祖母への墓前に供える花を思わずぎゅっと抱え込み呟いていた。
「お祖母ちゃん・・・どうしよう・・・」
『澪は本当に私に似てるわね・・・ごめんね、絶対に護からねぇ』
『私、お祖母ちゃん大好きだから嬉しいよ?』
幼い頃の自分の声と懐かしい声が会話をしている。そんな光景いま思い出したとて何になる?この状況をどうしろと言うのか・・・。




