第五話 バカと禁止 scene1
馬車が動く。
海を取り戻すための旅が始まる。
「さあ行くわよ」
「はい、レイオリア様!」
ニーナが元気よく返事を返す。
ニーナの返事しか聞こえない。
「レイジ?」
「…」
「返事はどうしました?」
「あのな…」
「なんですか?」
「なんで俺が馬車の運転なんだよ」
ニーナと2人でキョトンとした顔でレイジを見てやった。
「なんだ?その顔は?」
「理解ができないって顔ですわ」
「なんでだよ。お前の馬車だろ」
「でも私もニーナも馬車の運転なんて出来ませんわ」
「そうですね」
レイジの表情がさらに理解できない、という顔になった。
ごく普通の事を普通に言っているだけなのに...?
「そもそも、ここにはどうやって来たんだよ。馬車で来たんだろ」
「運転手がいましたわ」
「そうですね。トーマスさんが運転してました」
「そのトーマスはどこに行った?」
その質問に首を傾げた。
そういえばトーマス...どこに行ったのかしら?
ここに来るときにはいた。
その後もちょっとは見かけた。
でも気が付いたらいなかった。
ああ、なんか急に不安になってきましたわ。
もしかして海で溺れてしまったりとかしていたのかしら?
「ニーナ、トーマスはどちらに?」
慌ててニーナに問いかける。
「トーマスさんは...失踪しました」
「はい?失踪…?どういうこと?」
「そのままです」
まあ、失踪と言われてしまえば失踪以外のなにものでもないですし、失踪なんでしょうけど…。
「なんで?」
素朴な疑問を率直に聞き返す。
「たぶん...レイオリア様が海の掃除をしている姿を見て引いたんだと思います」
引いた?
なんで?
共感要素こそあれど引く要素なんて1つもない。
「なんで引くのよ」
ニーナが言いづらそうにしゃべりだす。
「いや...やっぱり貴族令嬢が突然ドレスのまま海に入ってゴミとか拾ってたら…引きます」
「普通よ」
「いや、普通じゃねえな。引くほうが正しい」
レイジが口をはさんできた。
「なんで正しいのよ」
「正しいだろむしろ引くというより気がふれたと思うのが普通だ」
「ええ!?まさかあなたもそう思ってるんじゃないでしょうね?」
レイジは笑いながら答えた。
「引いてはないけど…」
「引いてはないけど何よ」
「とんでもない奴が来たと思ってるよ」
「なによその言い方」
「まあ、失礼ついでなんだけどさ。俺の隣に座ってくれねえか?」
隣に…座る?
あの狭い御者台に2人で座る?
なんで?
密着度が高くありませんか?
「そんな、いやらしいことは出来ませんわ!」




