結成落ちこぼれ魔法少女戦隊
第一話
桃井星歌には、一つだけ分からないことがある。
自分の魔法が、何なのか。
「発動しました!」
「……何が?」
「分かりません!」
訓練室に星歌の声が響いた。
目の前には、組織の職員が操作する測定機器。
そこに表示された数値は、確かに動いている。
魔法は発動した。
魔力も消費した。
そこまでは間違いない。
問題は。
「……何も起きてませんね」
「ですよね!」
炎が出るわけでもない。
氷が出るわけでもない。
身体能力が上がるわけでもない。
何かが召喚されるわけでもない。
光ったりもしない。
音すら鳴らない。
ただ、魔力だけが減った。
「…………」
「…………」
職員と星歌は、揃って首を傾げた。
これが初めてなら、まだよかった。
今日まで何度も。
何度も。
何度も試した。
条件を変えた。
対象を変えた。
場所を変えた。
それでも結果は同じだった。
発動したことだけは分かる。
何が発動したのかは分からない。
魔法少女の基礎訓練課程には、明確な修了条件がある。
まず、変身や防御をはじめとした基礎魔法を習得すること。
そのうえで、自分だけの《固有魔法》を発現させること。
――ただし。
固有魔法が発現しないままでも、訓練開始から一年が経過すれば、基礎訓練課程は修了となる。
つまり、基礎魔法を習得し、固有魔法を発現するか、あるいは一年が経過すること。
そして桃井星歌は。
今日、その一年を迎えた。
「……桃井さん。規定通り、今日で基礎訓練課程は修了です」
「はい……」
基本的な魔法は使える。
変身もできる。
防御もできる。
必要な知識も身につけた。
なのに。
自分だけの魔法が、何なのかだけは最後まで分からなかった。
「私……何の魔法少女なんでしょう」
「…………」
「そこは何か言ってください!」
困った顔をされた。
知ってた。
◇
そして四月。
新しい学年が始まった、その日の放課後。
星歌は組織の施設へ呼び出されていた。
「あなたたちを担当する守護者が決まりました」
「守護者……ですか?」
「はい」
守護者。
未熟な魔法少女を守り、導く存在。
魔法少女が一人前の《魔女》となるまで、その成長を支えるパートナー。
実地配属になる以上、星歌にもいずれ守護者がつく。
そう説明は受けていた。
ただ。
「それで、どうしてこの人数なんですか?」
星歌は周囲を見回した。
自分を含めて、五人。
知らない顔が四つ。
「同じ守護者が担当するチームだからです」
「五人まとめて!?」
聞いていた話と違う。
守護者というのは、基本的に一人の魔法少女を担当するものではなかったのか。
「事情がありまして」
「事情」
嫌な言葉だった。
ものすごく嫌な予感がする言葉だった。
「……もしかして、あんたも?」
声をかけてきたのは、阿久別香仁子。
明るそうな雰囲気の少女だった。
「何が?」
「なんか問題あってここに回された?」
「言い方!」
「ちなみに私は魔法を使うと爆発する」
「いきなり重い!」
堂々と言われた。
「どういうこと!?」
「そのまんま。魔法使うとなんか爆発する」
「なんで!?」
「知らない!」
「知らないんだ!?」
元気に答えられても困る。
「私は流星昴!」
今度は一番年下に見える少女が胸を張った。
「この中で一番速いから、つまり私がリーダーね!」
「どういう理屈!?」
「一番だから!」
「何の!?」
「速さ!光より早いわ!」
「そんなスピードで攻撃したら、すごく強そうね」
「…………」
昴が目を逸らした。
「……あー、訓練用の的、一回も壊したことない」
「えーー!?」
星歌は早くも頭が痛くなってきた。
「須久井鏡子だ」
続いて名乗ったのは、五人の中では一番年上に見える少女。
落ち着いた声音。
涼しげな表情。
ようやくまともそうな人が来た。
「私は氷壁を作れる」
「おお……!」
星歌は初めて安心した。
ちゃんと魔法少女っぽい。
「ただし、私から離れるほど脆くなる」
「…………」
「遠くに出すと、かなり脆い」
「…………」
「近くなら非常に硬い」
「それ、つまり……」
「遠くを守れない」
「やっぱり問題ある人だ!」
星歌は頭を抱えた。
最後の一人へ視線を向ける。
「…………」
「…………」
目が合った。
少女はすでに泣きそうだった。
「宍戸猫です……」
消え入りそうな声で、少女が名乗った。
「わ、私の魔法は……体の外では発動しません」
「体の外では?」
「はい……」
「じゃあ、自分の身体を強くする魔法?」
「……はい」
「それなら接近戦が得意なんだ?」
「…………」
猫の目に、みるみる涙が溜まっていく。
「こ、怖いんです……」
「敵が!?」
こくこくこく、とものすごい勢いで頷く。
「接近戦しかできないのに?!」
さらに涙目になった。
「ごめん! 責めてないから!」
星歌は慌ててフォローした。
そして。
四人の視線が、星歌へ集まった。
「……で、あんたは?」
香仁子が聞いた。
「私?」
「うん。何が問題なの?」
「問題ある前提!?」
「だってここにいるし」
「ものすごい説得力!」
否定できない。
星歌は咳払いした。
「私、桃井星歌」
そして。
「魔法は――」
少し溜める。
「――分かりません」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「いや何か言ってよ!」
「分からないって何?」
「発動はしてるの! 魔力も減ってるの! でも何が起きてるか分からないの!」
香仁子が頷いた。
「なるほど」
「分かってくれた?」
「一番ダメそう」
「なんで!?」
訂正。
たぶん、この中に味方はいない。
◇
「それで」
しばらくして。
五人は一つの部屋へ通された。
「私たちの守護者って、どんな人なんだろ」
星歌の言葉に、香仁子が首を傾げる。
「五人まとめて担当するんでしょ?」
「そうらしいけど……」
「相当すごい人だったりして!」
昴が言う。
「五人担当できるくらいだし!」
「それはあるかも」
少し期待してしまう。
自分たちには、それぞれ問題がある。
そんな五人をまとめて担当するのだ。
きっと経験豊富で。
頼りになって。
いかにも歴戦の守護者というような――
扉が開いた。
「待たせたな」
五人が振り返る。
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
男が立っていた。
顔には。
ひょっとこのお面。
「…………」
星歌は瞬きをした。
見間違いかと思った。
もう一度見る。
ひ・ょ・っ・と・こ・だ・っ・た。
「……え?」
「今日からお前たち五人を担当する」
「…………」
「守護者だ」
「…………」
いや。
そこじゃない。
星歌が聞きたいのはそこではない。
「あの」
「なんだ?」
「なんでひょっとこなんですか?」
「正体を隠すためだ」
「そうじゃなくて!」
もっと他になかったのか。
仮面とか。
マスクとか。
もう少しこう、守護者っぽい何かが。
「問題あるか?」
「ありますよ!」
「顔は見えていない」
「機能の話じゃない!」
隣で香仁子が肩を震わせている。
「ちょっと待って、無理……ひょっとこ……」
「笑っちゃダメだよ!」
「だって……!」
昴は遠慮なく指を差した。
「変なの!」
「ストレート!」
鏡子だけは真顔だった。
「なるほど。合理的だ」
「鏡子さん!?」
「顔は完全に隠れている」
「そういう問題じゃないんですよ!」
猫はというと。
「…………」
ひょっとこを見て。
ぷるぷるしていた。
「猫ちゃんまで怖がってる!」
「……こわい……」
「ほら!」
「そうか」
ひょっとこは少し考えた。
だが、面を外す気はないらしい。
声からして、そこまで年上ではない。
むしろ若い。
だが顔も名前も分からない。
「と、とりあえず……なんて呼べばいいんですか?」
「好きに呼べばいい」
「好きに……」
五人が顔を見合わせた。
そして、もう一度その顔を見る。
どう見ても、ひょっとこだった。
「……ひょっとこさん?」
「それでいい」
「いいんだ……」
こうして、五人の魔法少女と、一人の守護者。
なんとも不安になる顔合わせが終わった――かと思った、その時。
「お前たちのことは、資料を見てある程度知っている」
ひょっとこさんが五人を見回した。
「全員、落ちこぼれのダメ魔法少女だな」
「しんらつ!!!」




