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第59話 古代遺跡リニューアル計画と、最強のテーマパーク従業員たち

 ジークハルト様との極上の充電タイムで心身ともに完全復活を果たした、翌日の午前中。

 私は早速、セバスチャンさんや新人使用人たちを大広間に集め、緊急の作戦会議を開いていた。


「――というわけで、鉱山の奥で見つかった古代遺跡を、領民や観光客向けの巨大地下アトラクションとしてリニューアルオープンさせたいと思いますわ!」


 私が大きな黒板(リリィさんがピカピカに磨き上げてくれたもの)の前に立って宣言すると、集まった面々は目を丸くした。


「巨大地下アトラクション……つまり、肝試しや迷路のような娯楽施設、ということでございますか?」


 セバスチャンさんが、眼鏡のブリッジを中指で押し上げながら尋ねる。


「はい! あの子……遺跡さんは、長年地中に埋まっていて、ただ誰かと遊びたかっただけなんです。ですから、安全な遊びのルールさえ決めてあげれば、最高の観光名所になるはずです」


 私が自信満々に答えると、黒板が『俺の盤面を使ってくれ! どんな図面でもチョークで綺麗に表示してやるぜ!』と張り切って微細な振動を起こした。


 しかし、セバスチャンさんは慎重な顔を崩さない。


「ですが奥方様。古代遺跡といえば、侵入者を排除するための致死性のトラップが数多く仕掛けられているはず。いくら遺跡自身に悪意がないとはいえ、一般の観光客を入れるのは危険すぎませんか?」


「ふぉっふぉっふぉ。そこはワシの出番じゃな」


 セバスチャンさんの懸念を吹き飛ばすように、老魔術師のマーリンさんが進み出た。

 彼は立派な白い髭を撫でながら、楽しそうに目を細める。


「ワシが遺跡の魔力回路を少しばかり書き換えてやればよいのじゃ。例えば、串刺しの槍が飛び出す罠を当たっても痛くない幻影にしたり、毒ガスを少しばかり臭い色付きスモークに変更したりな。古代の魔術式をいじるなど、魔術師冥利に尽きるわい!」


「おおっ! それなら安全かつスリル満点ですね!」


 私が手を叩いて喜ぶと、今度はリリィさんが「はいはーい!」と勢いよく挙手した。


「だったら私、遺跡内の徹底清掃をやらせていただきますわ! いくらお化け屋敷だからって、不衛生なカビや本物の毒蜘蛛がいるのは美しくありませんもの! 怖くて薄暗いけど、床は舐められるほど綺麗という、最高に衛生的なホラー空間を作ってみせますわ!」


 リリィさんがモップを構えて熱弁する。

 お化け屋敷に清潔感を求めるという斬新な発想だが、女性客や子供連れには絶対に喜ばれるはずだ。


「よし、じゃあ俺とポチで、崩れそうな天井の補強と、安全な見学ルートの整備だな! 任せとけ、土木工事は俺たちの十八番だ!」


 庭師(兼・土木作業員)のガイルさんが、丸太のような腕を叩いて豪快に笑った。

 足元ではポチが「ワオォン!(俺の穴掘りテクニックを見せてやる!)」と尻尾を振っている。


「ならば私は、アトラクションの出口で販売する特製ダンジョン・ランチボックスを考案しましょう! 見た目は毒の沼地のように禍々しいけれど、味は絶品の黒カレーなどいかがでしょう!?」


 料理人ジャンさんが、またしてもマッドサイエンティストのような目をして怪しいメニューを提案してきた。

 見た目が毒の沼地というのは少し不安だが、ジャンさんの味付けなら間違いなく美味しいだろう。


 みんなの頼もしい意見が次々と飛び出し、作戦会議は異常なほどの盛り上がりを見せていた。

 ただの田舎の城の使用人たちとは思えない、各分野のスペシャリストたちによる完璧な連携だ。


「皆さん、ありがとうございます! これなら、絶対に素晴らしい施設になりますわね!」


 私がパァッと顔を輝かせた、その時だ。


「……待て。一つ、重要な要素が抜けている」


 ずっと腕を組んで黙っていたジークハルト様が、低く静かな声で口を開いた。


 大広間がしんと静まり返る。


 猛将である公爵様からの、鋭い指摘。やはり、何か領地防衛の観点から見落としがあったのだろうか。セバスチャンさんもゴクリと喉を鳴らした。


「アトラクションとやらには……客を驚かせるお化けや怪物の役が必要なのではないか?」


 ジークハルト様が、真面目くさった顔で問いかけた。


 ……ズコーッ。


 見事なまでに平和的な指摘に、大広間にいた全員が心の中で(あるいは物理的に)ずっこけた。


『ヒュー! ご主人様、一丁前にテーマパークの運営を心配してるぜ! 「コーデリアの完璧な計画に、俺も何かアドバイスをして役に立ちたい!」って、必死にひねり出した意見がそれだ!』


 壁に立てかけられたグラムが、ゲラゲラと笑いながら念話を飛ばしてくる。


 私は吹き出したいのを必死に堪え、彼に向かってとびきりの笑顔を向けた。


「ふふ、ご安心ください、ジークハルト様。そのキャストの件でしたら、もう最高の人材(?)に目星をつけてありますの」


 私は窓の方へと歩き出し、大きく窓ガラスを開け放った。


「ガーゴイルさんたち! ちょっと入ってきていただけますか?」


 私の呼びかけに、バサバサバサッ! と大きな羽音を立てて、屋根の上から数十体のガーゴイルたちが大広間へと舞い降りてきた。


『呼んだッスか、奥様!』

『不審者ならさっき追い払ったッスよ!』


 彼らは石の体をガシャガシャと鳴らしながら、頼もしく敬礼をする。


「皆さん、いつも警備ありがとうございます。……実は皆さんにお願いがあって。新しくできる地下アトラクションで、お客様を驚かせるモンスター役として働いてみませんか?」


 私が提案すると、ガーゴイルたちは一瞬ポカンと口を開け、お互いの顔を見合わせた。


『……えっ?』

『オ、オレたちが、モンスター役ッスか……?』


「はい。王都の城では屋根の飾りとして退屈していた皆さんも、ここなら大活躍できますわ。暗闇から突然飛び出したり、石像のふりをしていて急に動き出したり……安全な範囲で、お客様を思い切り楽しませて(怖がらせて)ほしいのです」


 その言葉を聞いた瞬間。

 ガーゴイルたちの赤い目が、ピカーン! と輝いた。


『や、やるッス!! 絶対やるッス!!』

『うおおお! ついにオレたちのイカついルックスが役に立つ時が来たッスね!』

『ずっとただの石像扱いされてたオレたちが、テーマパークの主役になれるなんて……! 奥様、一生ついていくッス!』


 ガーゴイルたちは感極まって涙(砂ぼこり)を流しながら、お互いに抱き合って喜んでいる。

 彼らは元々、魔除けとして恐ろしい外見に作られている。暗い遺跡の中で彼らが動き出せば、どんな肝の据わった冒険者でも悲鳴を上げること間違いなしだ。


「……なるほど。確かに、適任だな」


 ジークハルト様が、感心したように深く頷いた。


 これで、遺跡アトラクションの運営体制は完璧に整った。


 魔術師マーリンの安全なトラップ。掃除屋リリィの清潔なダンジョン。料理人ジャンの特製ホラーグルメ。庭師ガイルとポチの安全なルート設計。そして、ガーゴイルたちによる恐怖のモンスター・キャスト。


「では皆さん! オルステッド地下迷宮(仮)のグランドオープンに向けて、準備開始ですわ!」


「「「おおーーっ!!」」」


 大広間に、活気あふれる掛け声が響き渡った。


 ◇


 会議が解散し、皆がそれぞれの持ち場へと足早に散っていく中。

 私は最後まで残って、黒板の図面を整理していた。


「……お前は、本当にすごいな」


 不意に、背後からジークハルト様に声をかけられ、私は振り返った。


 彼は、少しだけ眩しそうな、そして誇らしげな瞳で私を見つめていた。


「石の塊や、訳ありの使用人たち……。誰もが持て余すような者たちの声を聞き、居場所を与え、これほど完璧な組織を作り上げるとは。……俺の妻は、稀代の策士で、女神だ」


『翻訳不要! ご主人様の口から直接デレがこぼれ落ちたぞ! 「俺にはもったいないくらいの妻だ……」って、本気で惚れ直してるぜ!』


 グラムの念話を聞いて、私は胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じた。そして、彼に向かって一歩踏み出し、その広い胸にそっと額を押し当てた。


「……コ、コーデリア?」


 突然甘えてきた私に、ジークハルト様が驚いて肩を強張らせる。


「……私も、同じことを思っていました」


「え?」


「私にはもったいないくらい、優しくて素敵な旦那様だって。……いつも私を信じて、守ってくれて、本当にありがとうございます」


 私が背伸びをして彼の耳元で囁くと、ジークハルト様は「っ……!」と短く息を呑んだ。


『ヒュー! 奥様からの逆襲だ! ご主人様、完全にノックアウトされたぜ!』


 彼は私の背中にゆっくりと腕を回し、壊れ物を扱うように優しく、けれど力強く抱きしめ返してくれた。


「……ああ。お前が指揮を執るなら、失敗するはずがない」


 彼は私の髪にそっと口づけを落とし、愛おしそうに目を細めた。


 新しい挑戦に向けて、オルステッド領はまた一つ、大きな熱気に包まれようとしていた。

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