引き抜き話2
「こちらです」
一定間隔で廊下に騎士が立って守る部屋にイースラは通された。
ガチガチに警備された部屋の中にいたのはトモマガイアンと女の子が一人、それに二人の騎士だった。
若めの騎士と中年の騎士は後ろで手を組んで微動だにせず立っている。
トモマガイアンの隣に座る女の子は白いドレスを着ていて、くりっとした目の大きな可愛らしい顔立ちをしている。
「お呼びですか?」
イースラは軽く頭を下げる。
礼儀としては不十分な行為に若い方の騎士が渋い顔をするが、王族の護衛たるイースラが自国の王でもない相手にへりくだりすぎることもまた問題となる。
トモマガイアンも最低限の礼を示したイースラに何かを言うつもりはなかった。
「急に呼び出して悪かったな。今なら護衛の必要もないと思ってな」
「シーナクロデが厳重に守ってくれているのですから、何も心配はしていません」
「ふむ、だが問題は起きてしまった。うちの愚息が迷惑をかけたな」
問題とは、クラーボンが起こした決闘騒ぎのことである。
わざと止めなかったことではあっても、問題は問題である。
「上の子に厳しくしすぎたことを反省して、少し甘やかした結果があれだ。巻き込んでしまって悪いことをしたな」
「いえ、ユリアナ様を守るためでしたから」
むしろもっと騒ぎ立てて怒られればよかったものを、とすらイースラは思っている。
「ふっ、できる男だな。正規の騎士ではない……というのにな」
「雇われ傭兵でも護衛ですから」
「高い忠誠心に、オーラの才能か」
トモマガイアンのまとう雰囲気が一段階張り詰めたものになった。
本題に入ったのだとイースラも警戒を強める。
「ユリアナ嬢は美しいな」
「……ええ」
思いもしない言葉にイースラは一瞬返事に詰まる。
「アルゼストも顔はいいから兄妹揃って容姿端麗だ」
「……人の容姿をどう評価するかは個人によりますから」
ユリアナを含めオワイトたち王子も顔だけなら悪くはない。
ただ認めるのもしゃくなので、濁した言い方をしておく。
「我が子供たちも悪くはないと思うのだが、この子ノアータは親の贔屓目を抜きにしても容貌が優れているとは思わないか?」
「……はあ、確かに」
「お父様!」
ノアータは顔を赤らめる。
こんなところにいるのだからトモマガイアンの娘であることは予想できていた。
こんな風に聞かれては、イースラも否定できない。
「ユリアナ嬢は王族だ」
「そうですね……」
「仮に恋慕の情を抱いていたとして、一回の冒険者が結ばれることなどあると思うのか?」
「…………それはどういうことですか?」
「叶わぬものが世の中にはあるのだ」
内心少しムカつく思いがありながらも、イースラはなんともないように表情を取り繕う。
「お話がわかりませんね」
イースラがユリアナに恋している、と決めつけているかのような言い方をする。
「そう言うな。誰もが成り上がることを夢見る」
流石にちょっと怒りそう。
前世からの縁があり、ユリアナにそうした思いがないとは言い切れない。
だがユリアナを自分が成り上がるための存在だと物のように考えたことはなかった。
そもそも回帰前に付き合った時だって、ユリアナはもはやお姫様ではなかったのである。
立場上お姫様ではなかったけれど、普通に付き合うことはできていた。
「どうだ、俺の娘は?」
「……なんですって?」
「我が国でその力を振るってみるつもりはないか? 今なら王族の末席も用意しよう」
ノアータのみならず、騎士すら驚きの顔をする。
イースラも内心驚いたのだけど、ほんの少し顔をしかめただけでなんとか表情を取り繕う。
呼ばれた理由として、引き抜きを予想していた。
オーラユーザーは軍隊に匹敵するとまで言わなくとも、小さな部隊ぐらいには匹敵する。
使い方によっては、軍隊にだって匹敵するような力を発揮できるだろう。
イースラがオーラユーザーだと知れれば、声をかけてくるような人が出てくる可能性もあると考えていた。
トモマガイアンに呼ばれた時点で、引き抜きだろうなと予想していた。
だが、まさか条件として自分の娘を出してくるのは、全くの予想外である。
「なんなら君が所属しているゲウィル傭兵団だったかな? もうちの国で騎士として丸ごと雇ってもいい。君が王族になれば彼らも王族直属の騎士部隊だ」
この際イースラのみならず、ゲウィルたちを含めたオーラユーザーを国の騎士としても引き抜く気のようだ。
想像していたよりもはるかに剛腕。
「どうだ? 話に興味はあるかね?」
どんな人なのか全く印象になかったけれど、国を一つ安定的に運営している手腕は侮れない。
パーティーを開いてお祝いできるほどに長く王をやっているトモマガイアンの目に、イースラはそれだけの価値があるものだと映ったようだ。
ここまでの好条件を誰の相談もなしに出せるのは王であるトモマガイアンぐらいだろう。
「……このような若輩者に、そのようなお話、光栄の極みです」
「ふふ、なるほど。これぐらいでは揺らがないか」
イースラが頭を下げると、トモマガイアンはむしろ笑みを浮かべた。
もちろん、イースラがそんなものに釣られるはずはない。




