うるさい剣2
『なんだと? 私の力が必要なのではないか?』
「あればありがたいというだけの話だ。ないならないでいいんだよ」
いかにも自分が必要だろうみたいにアルドッグは思っているようだけど、そういうわけではない。
アルドッグには魔剣としての性能が備わっている。
常に己が持つ魔力をまとっていて、所有者自身の魔力を消耗することなく高い切れ味を誇る。
頑丈で刃こぼれもしにくく切れ味も落ちにくい。
自分の魔力で自己修復までしてくれる。
さらにアルドッグはエゴソードと呼ばれる特殊な剣だ。
エゴソードの能力は剣ごとに違う。
アルドッグの能力はオーラ強化である。
オーラの質や量を強化してくれるのだ。
装備しているだけでも効果があり、オーラユーザーならばどんな状況でも腐りにくいありがたい力だと言える。
「お前がいなくてもやっていける。知ってるだろ?」
ただありがたい力がなくとも、回帰前はそれでやっていた。
アルドッグの世界で、回帰前のことをざっくりとかいつまんで話した。
回帰前に手に入れられなかった力を手に入れるつもりはあるものの、あまり無理をするつもりはない。
無理なものは当然手を出さないが、コントロールできないものや負担になるものも手を出さないつもりだった。
アルドッグは今のところ負担になるものだ。
うるさいだけだが、そのうるさいのが毎日続くようなら意外とストレスになってしまう。
ならいらない、とイースラは思った。
「外に持っていって捨てたら俺の邪魔になる手に渡るかもしれない。それならお前はダンジョンと一緒に消えてもらった方がいいかもな」
『ぬぬぬ……分かった! 静かにする! 少し喋らないようにする! だからここに置いていくのはやめてくれ!』
「ふん……ほんとに静かにしてろよ?」
エゴソードを持ったのは今回が初めてだ。
回帰前に使っていた剣も相当いいものだったが、自分の意思というものはなかった。
エゴソードは基本的に持った者としか会話できない。
動けないし、意思だけあるというのもかなり暇なので、おしゃべりな奴が多いと誰かが言っていたことをイースラは思い出す。
剣がベラベラ喋るなんてありえないと思っていたものだけど、こうして実際に手にしてみると確かにおしゃべりだった。
「……話は終わりましたか?」
外から見れば剣と話す不思議なやつになっているイースラを、エティケントはいつものような目で見ていた。
「ええ、とりあえずサイレンスは後回しにしておきます」
頭に響いていた声が静かになった。
「そのうち鞘の内側にでもサイレンスかけてもらうかもしれません」
アルドッグには鞘がない。
このままアルドッグをもらえるならどこかで作らなきゃいけない。
鞘の内側にアルドッグを黙らせる魔法でもかけてもらおうかとイースラは考えていた。
「これからはどうするのですか?」
「ライアンウルフが見つからないと先には進めませんよ」
「……人使いが荒い。頑張って探しますよ」
今のところ何かできそうなのはライアンウルフぐらいものだ。
これに関してはエティケントに探してもらうしかない。
「あとはユリアナのこと、気をかけてやってください」
「それはどうしてでしょうか?」
「今回のゲートダンジョン攻略はうちのギルドはメインになっていますが、エティケントさん、あるいはその後ろにいるユリアナが支援していると聡い人なら考えるでしょう」
エティケントがいなきゃどうか分からないが、エティケントが直接動いたことでユリアナが動いたとみる人は絶対にいる。
「ユリアナを潰そうとまではしないと思いますが……牽制する動きはあるかもしれません。俺はそばにいてやれない。だから守ってあげてください」
「……やることが多いものだ。だがあの子を害するものは許さない。任せておけ」
『ユリアナって、あれだろ? お前の記憶にも出てきた子だろ? 美人だった。今もきっと綺麗なんだろうな。もう恋人なのか?』
「…………やっぱり今サイレンスかけられません?」
黙っていられた時間は短い。
イースラは思わず舌打ちしてしまいそうになる。
『悪い……つい、な』
「なかなか大変な剣のようですね」
「そういえば、そのバカ丁寧な話し方なんですか?」
事情を話したぐらいから多少打ち解けたような口調になっていた気がするけど、今のエティケントの話し方は固い。
「人前で子供だからと砕けた話し方なんてすれば悪評になりかねません。よそ行き用の話し方ですよ」
「なるほど……気持ち悪いけどしょうがないですね」
ひとまずゲートダンジョンは攻略できた。
本来なら死ぬはずの人は助かり、イースラは剣を手に入れた。
ゲートの攻略報酬は貢献度なんかによって分配されるので、アルドッグがイースラの手元に来るかどうかはまだ確定ではない。
それでも認められる可能性は高いだろう。
「なんか精神的に疲れたな……」
アルドッグを手にした時、イースラは回帰前の世界で戦った。
久々に見たみんなの顔は今でもよく覚えている。
「今度はもっと……平和に会いたいもんだな」
戦場じゃなく、安い料理と安い酒を前にしてでもいいから会いたいなと思った。
そのためには立ち止まっていられない。
前に進むのだ、とイースラは覚悟を改めたのだった。




