うるさい剣1
「…………急に動きが止まった?」
ゲウィルは肩で息をしていた。
オーラを使いながらもイースラを殺さぬように手加減して戦うのは相当な重労働だった。
イースラが弱ければ良かったのだが、イースラはそれなりの実力を備えている。
オーラはまだまだ弱いのだけれど、剣の技術はイースラの年齢にしてはかなり熟練している域に達していた。
動きも独特で対応がしにくく、ゲウィルにはいくつか切り傷がつけられていた。
何回か一発ぶん殴ってみようかと思ったが、大勢が見ている前で子供を殴ることもできない。
そろそろ体力的にも厳しいぞ、と思っていたら急にイースラの動きが止まった。
「オーラが白くなっていく……」
剣を握って黒く染まったオーラが白くなっていく。
イースラ本来のオーラの色に戻りつつあるのだ。
「……何をするつもりだ?」
イースラは高く剣を持ち上げる。
「この……ナマクラが!」
イースラは剣を叩きつけるように投げ捨てて地面に突き刺す。
そして暴言を吐きながら剣を思い切り蹴り飛ばした。
「酒場の酔っ払い親父か、テメェは!」
「……な、なんだ?」
剣が飛んでいって地面を滑るように回転する。
ちょっと剣がカタカタと揺れているような気がするとゲウィルは思っていた。
「…………あれ?」
そしてイースラは気づいた。
みんなが自分のことを見ている、と。
「平気か、イースラ?」
「……ええ、ご迷惑おかけしました」
「ふぅ……信じていたが、心配だったぞ」
ゲウィルを見れば、イースラを止めるために苦労してくれたことは分かる。
イースラが笑顔を浮かべて、ゲウィルはため息混じりに大きく息を吐き出す。
「それで……その剣はどうなったのだ?」
「俺が屈服させました」
「屈服だと?」
「この剣は……エゴソードです」
「エゴソード……自らの意思を持ち、自ら主を定める伝説の名剣か」
魔力がこもった剣を魔剣という。
そして魔力を持った剣の中で、ごく稀に剣自身に意思が生まれることがある。
これをエゴソードといい、意思を持った剣は普通の剣や魔剣より遥かに強大な力を秘めている。
剣を手にした人が力に飲まれる理由が、ゲウィルにも分かった。
「屈服させた……ということはお前が主になったのか?」
「そうですね」
イースラは蹴り飛ばした剣を拾い上げる。
一瞬ゲウィルは顔をしかめるけれど、剣を手にしたイースラはなんてことないように笑顔を浮かべる。
「こいつはアルドッグ。俺がこいつの主人です」
「ウソはないようだな」
ダンジョンの中が急に揺れる。
これは崩壊の前兆。
イースラがアルドッグの主となり、ダンジョンがクリアされた。
近いうちにダンジョンは崩壊して無くなってしまう。
「みんな、ダンジョンから急ぎ脱出だ!」
ダンジョンが攻略されたことをゲウィルも察した。
イースラに何があったのかと聞きたいところではあるが、ダンジョンの崩壊に巻き込まれることは即ち死を意味する。
気になることは後回し。
イースラたちはダンジョンからの撤退を始めた。
「ええ、万が一を使わなくて良かったです。使っていたら姫様に嫌われていたかもしれませんからね」
イースラはそっとエティケントに近づく。
「拘束魔法は解除しておきます」
エティケントはイースラの肩に手を置いた。
いざという時の保険はしっかりとかけてある。
事前にイースラの体に魔法の準備をしていてもらった。
ゲウィルがイースラを抑えきれなくなったら、エティケントが魔法を発動させて拘束して時間を稼ぐつもりだったのだ。
魔法の鎖でグルグル巻きにされたイースラという絵面はあまりよろしくない。
カメラアイ越しに見ているユリアナにも、ショッキングな光景にはなってしまう。
そうならなくて良かったとエティケントは安心した。
「あとはゲウィルさんにも上手く説明をお願いしますよ。噛みつかれそうなほどに睨まれたので」
「あー……まあ、どうにかします」
ゲウィルのことを冷酷と思っていたわけではないが、イースラの想像よりも仲間を大切にする人だった。
事情を知らないゲウィルからすると、エティケントがイースラを都合よく利用したようにも見える。
実際は逆なのだけど、イースラが全て分かった上でエティケントを盾にしているなんて想像もできないだろう。
つまりゲウィルにはエティケントが自分の部下である子供を、血も涙もなく利用した冷血な人間に見えていたのだ。
イースラとしてもゲウィルとエティケントが仲違いすることは望まない。
「それよりもこいつにサイレンスの魔法かけられませんか?」
イースラは忌々しそうな顔をしてアルドッグをエティケントに見せる。
「エゴソードにサイレンス?」
「こいつうるさくて」
『なんだと! 少しぐらい話してもいいではないか! 久々に支配せずにいい相手を見つけたというのに……』
「うるさい……ここに置いてくぞ?」
イースラにはアルドッグの声が聞こえていた。
もっと物静かな剣かと思っていたのだけど、案外しゃべる。
話し相手ができて嬉しいのかもしれないが、これは大きな誤算であった。
崩壊するダンジョンに置いていこうかなと本気で考える。




