第12話好きでも届かないと分かっている恋
【登場人物】
鈴音→主人公の背の高い可愛らしい女の子
楓→鈴音の同僚。スタイル抜群。
霜月→影屋敷の影武者候補の少年。橙次と仲が良い。中性的な美少年。
橙次→影屋敷の影武者候補の少年。霜月と仲が良い。背の高いがっしりしたイケメン。
香風→鈴音の大先輩。おっとりしている。
長月豪→香風の夫
楓と諒のやり取りを見てから、鈴音の霜月に対する気持ちは一層大きくなった。
霜月は仲間を紹介してくれてから、以前より頻繁に部屋を訪れるようになった。嬉しい反面、もやもやも募っていく。
鈴音は口を尖らせ、大きくため息をついた。
それを見た楓が声をかける。
「はぁーあ」
「まあ、大きなため息。どうしたの?」
「あー楓がうらやましい」
「えっ……最近は霜月さんもよく来てくれるじゃない」
「でもさ」
そう言いかけて、鈴音は座り直すと楓を正面からじっと見た。
「私は結ばれないわ」
「何言ってるの? 霜月さんだって脈ありじゃない」
「はぁ……そういうことじゃないの」
鈴音は楓から視線を外し、机の上に腕を置いて、その上に顎を乗せた。
楓は難しい顔をする。
鈴音は独り言のように呟き始めた。
「忍の人って、だいたい三種類くらいに分かれるの。
恋に興味がない人。恋したとしてもあきらめる人。どちらも背負う人」
楓は静かに鈴音を見ている。
鈴音は顔を上げ、楓を見る。続きを待っているようだ。
「任務が大変でしょ。死ぬことも多いから、恋愛なんてできないって最初からあきらめて任務一筋の人もいるわ。任務と想い人、両方を背負う人もいるの」
「霜月さんは前者だって言いたいの?」
「……たぶん。だって全然反応してくれないもの」
「告白してみたら?」
「いやよ。断られたら終わっちゃうじゃない。聞かない限り、夢を見続けることはできるもの」
楓はそれを聞くと、鈴音の背中を優しく撫でた。
それから数日、楓は様子を見ていたが、鈴音は少し元気がないようだった。楓はあえて聞かなかった。聞いて解決するものではないと思ったからだ。
楓は時間を確認すると、鈴音に声をかけた。
「ちょっと干した布、取り込んでくるわ」
「あっ、私も行くわ」
「いいの。ちょうど運動不足だから、一人で行ってくるわ」
楓はそう言うと部屋を出ていった。
別の部屋へ籠を取りに行きながら、ぽつりと呟く。
「橙次さんでもいいから来てくれればいいのに。鈴音には早く元気になってほしいなぁ」
楓は籠を掴むと、橙次と霜月を探すように周囲を見回しながら、洗濯干しの場所へ向かった。
一方、鈴音は机に向かっていた。
霜月のことで元気がないだけではなかった。なんだか全身がだるい。
(……体が重いな)
そう思いながら、目を伏せがちに記録を見ていると――
「鈴音さん!」
声に顔を上げる。
「あら、諒くん。それから霜月のところの……」
「瑛真っす」
「そうだ、瑛真くんね」
諒が部屋の奥を覗いているのに、鈴音は気づいた。
(楓を探してるのね)
少しだけ考えて、ふっと笑う。
「残念。諒くんの探してる楓は用事でいないの。それでもよかったら、お茶でもどうかしら?」
「えっ……じゃあ、お言葉に甘えて」
「ありがとうございます。俺、お茶入れてきます」
瑛真が手伝いを買って出てくれたので、茶器や湯呑みの場所を教えた。
諒はその様子を見ながら口を開く。
「もし時間があったら、薬草の情報交換しませんか?」
「あら、いいわね。諒くんは私の知らない薬草をたくさん知っているものね」
二人は種類、栽培方法、効能、使い方など、お互いの知識を確かめ合った。
やがて瑛真がお茶を持って戻ってきた。
三人でお茶を飲む。
瑛真は静かに二人を見ている。
話が一段落したところで、諒が少しもじもじしながら言った。
「よかったら……いくつか欲しい薬草があるんですけど……」
「貴重な情報をもらったもの。できるだけ希望のものを渡すわね」
二人は薬草棚へ向かう。
諒は目を輝かせていた。
(可愛いわね)
鈴音は微笑む。
いくつか分ける準備をし、諒の隣に座って手渡した。
「ありがとう。欲しかったやつがあって助かったよ。湯呑、片付けるね」
諒が立ち上がる。
鈴音も立ち上がろうとした。
「いいわ、私がやる――」
その瞬間。
「⋯⋯ッ!」
背中に痛みが走る。
視界が暗くなる。
「鈴音さん!?」
諒が駆け寄る。
「大丈夫……」
無理に笑う。
「座ってください。俺がやります」
瑛真が静かに支える。
鈴音は観念して座った。
諒が肩を貸してくれたので、そのまま甘えることにした。
座り終えると、諒が鈴音の目を覗き込む。
「鈴音さんが落ち着くまで、瑛真とここにいてもいい?」
「ありがとう。気の利く弟が二人できたみたい。少し居てくれると助かるわ」
今は誰かに頼りたい気分だった。
鈴音の心に、その優しさがじんわりと染みていく。




