トーホー王国の呪い
今から600年前、この地は別の王が治めるトーホー王国だった。
その頃の王家というのは今よりもずっと専制君主で、独裁的で、周りの貴族といえども王の命令に背くことなど出来ない絶対的な君主。
そんな独裁下に異を唱える存在が、現れたの。
その者、大魔法使いソフィアという。
そのソフィアに勇気付けられた者が集まり、当時の独裁王と敵対して争うことになった。
その中で光属性を持つ一族、今の王家ね、そこの長男、光の魔術師エドワード1世がソフィアと婚約を結んだの。
『独裁王を倒したら、一緒に住みやすい国にしよう』と言って。
その言葉を信じたソフィアは魔力を解放し、数多の魔法を同時に使い、とうとう独裁王の軍隊に白旗を揚げさせ、独裁王を捕縛したの。
こうしてトーホー王国は新トーホー王国としてエドワード1世とソフィアが新王家として君臨するはずだった、のだけれど、捕縛した独裁王の娘の王女リリスが、その魔性の魅力を駆使して、エドワード1世を籠絡してしまうの。
そして、結局捕縛した独裁王の一族は処刑されること無く、そのまま貴族として存続させることがソフィアの知らぬうちに決まっていたの。
そして、新生トーホー王国の建国を祝う夜会の場で、ソフィアは婚約を破棄されてしまうの。
「ソフィア、お前のような恐ろしい者が王妃の地位に着いたら、独裁政治が罷り通る暗黒の時代になるだろう、お前のようなおぞましい魔女との婚約を破棄し、トーホー王国融和の為に、元王女のリリスと婚約することをここに宣言する!」
(ビシッとソフィアを指差して!)
そんなこと、と、ソフィアと共に戦った者たちは憤慨して、エドワード1世を認めないと騒ぎ出したが、ソフィアが戦いの最中に助けて可愛がって育てていた、戦争孤児の幼児を人質にしてソフィアを脅してその件を了承させてしまう。
更にソフィアを国外追放として、国境の外へと着の身着のままで孤児の幼児と共に置き去りにした。
その王国を去る時、ソフィアが王家から光の魔法を取り上げる呪いをかけたのだった。
その実エドワード1世は光魔法、治癒魔法しか使えない。
しかも、エドワードは戦地に行くこと無く、ソフィアたちを後方から支援すると言って自分が王になるための工作を王都でせっせとしていたのだった。
ソフィアと一緒に戦地で戦い、傷ついたソフィアや兵に癒しの治癒魔法をかけていたのは王弟のアーサーだった。
アーサーとソフィアと一緒に戦った軍の一族はソフィアを追って国を出た。
そして、森の中で幼児と穏やかに暮らすソフィアを見つけるのだった。
この時、人知れず、トーホー王国に光の魔法が封じられる呪いがかけられたことを、エドワードもアーサーも知るのだった。
自分の光魔法が使えなくなったのだから。
これ以後、王国内で治癒を必要としている者は教会に頼んで、治癒師を派遣してもらっている治療院へとかからねばならなくなった。
呪いはソフィアに解除させるしかない、しかし、軍事力に秀でた者たちは国を捨てて出ていってしまった。恐ろしい魔法使いのソフィアに対抗する手段はなく、トーホー王国の王家はその後600年の長い時間を過ごすことになるのであった。
「という話なのだけれど、まあサリーとっても怖い顔をして、まるでこの話を知った時のマリーの表情そのままだわ、フフフ」
レディアイラは呪いの話で一旦話を区切った。
「ええ、そのエドワードって大概悪い奴ですわ。ソフィアが可哀想!裏切られて。」
サリエルは大憤慨で頬を膨らめている。
「で、呪いの解き方はどうなったのですか?」
クリスが先を急かす。
「ええ、赤と碧の螺旋が闇を包む時光が溢れるって一文を見つけたのよ。それでわかったのだけれど。」
アイラが少し困った顔をした。
「この文章自体は以前から王家も知っていたの。王家の紋章は赤と青の双頭の竜でしょ?
ソフィアは光以外の全属性だったけど闇魔法を得意としていたから、王家に婚約破棄をされたことを恨んで王家にソフィアの子孫を迎え入れたら光の魔法が戻ると信じて、何度も王家にソフィアの子孫が嫁いだり婿入りしたりしていたのだけれど、一向に呪いが解けない。
これはどういうことだ、とクエストを出したのだから、そんな簡単なことではないのだけれど。
ここで、ソフィアの養子になった戦争孤児の子が関わってくるの。彼は全属性持ち、神に選ばれし勇者だったの。
その勇者を呪いを解く鍵としたのね、人質に使った意趣返しでしょうね。その彼の行方をソフィアの死後知る者が居なかった、だから呪いが解けなかったのね。しかも、赤と碧の螺旋って意味もわからないでしょ?」
「光の可視光線の暗い部分が碧、明るい部分が赤、その螺旋か。だから勇者と光の乙女の子が鍵になるんだ!」
クリスが突然我が意を得たりと言った顔で呟いた。
「そうなの、さすがね!顔も推察力もジャック譲り。」
アイラがクリスの顔をまじまじと見て感嘆の声をあげる。
「ど、どういったことでしょう?」
今まで静かに気配を消していたエラが手をあげておずおずと尋ねる。
「えっと、赤と碧は光の色の幅のこと、転じて光の比喩だ。螺旋とは父と母の血筋のこと、転じて子を指す。その子が闇の属性を持った者と一緒に解除を願えば、呪いは解けるという意味だ。
そもそも、ソフィアは簡単にこの国の王家を許す気がなかったのさ。
孤児とバカにして命を盾にしたその子供がトーホー王国に居ない光の魔法使いと子を為さない限り解けない呪いをかけたのさ。ソフィアの行く末は見張っていても、孤児とバカにしていた幼児の行方なんて見張る訳ないからね、婚約という大事な約束を反故にする王家には。
だけど、たまたまその時はロトが側に居たんだ、神の導きとか言いそうだけれど。」
クリスがエラの質問に答えながら、アイラに質問をした。
「ソフィアの居場所とその子孫の行方は王家は知っていたのですか?」
ガブもアイラに質問する。
「ええ、知っていたわ。だって、ソフィアと夫婦になったのは王弟のアーサーだったのだもの。アーサーと一緒に戦った軍もソフィアの下に合流して、ソフィアの住むその森を切り開き村を造ったの、ソフィア・スコットの村という名前の。」
「ええ?それじゃあ、スコット公爵家ってソフィアの生家なんですか?」
エラが驚いて声をあげた。
「まあ、あなたのご実家もそれに連なるでしょうに、知らないなんて。アーサーと一緒にソフィアの下に向かった騎士の家があなたや公爵家の私設騎士団に連なる者たちよ。サリエルは知っていたようね。」
「ええ、ただソフィアという名は我が家の歴史書に無かった者ですから。王弟アーサーの婿入り先がスコット公爵家とだけ。しかも最初はトーホー王国では無かく独立した村だなんて、驚きですわ。」
サリエルがアイラの目をみて答えた。
「ええ、そうね、しばらくは独立した村として存在していたのだけれど、どんどんスコット村に国民が流出していってしまって、数年で王都の回りと南の領地、旧王家の領地であったダイエー領以外が離反する内戦が起こったの。ソフィアは静観の構えを見せていたのだけれど、劇化していく戦禍にアーサーが仲裁をしたの。
そしてスコット公爵領の独立性を担保にして、王家が横暴を働いた時に断罪する王の審判役とすることを条件にトーホー王国に入ったのよ、反乱部隊を飲み込んで。
ここからは帰ってからジャックとマリーにゆっくりお聞きなさいな。
大魔法使い、しかも約束を反故にして追い出し呪いを王国にかけて自らの魔法を封じたソフィアの復活にエドワード1世は震え上がって、すぐに退位してしまうの。そして、南の王妃のダイエー侯爵領に引き込もってしまう、王妃を連れて。
王妃は未練たらたらだったみたいだけれど。」
「まあ、見てきたようなことを言いますのね。」
サリエルがそのアイラの口ぶりに口を挟む。
「ええ、王宮の王族専用図書館に王妃の日記があって、エドワード1世の弱腰を責めることや領地になんて帰りたくないという愚痴がいくらでも書いてあったわ。
専用侍女の日記にも、王妃が退位を聞いてから暴れて手がつけれれないなんてのもあったし。エドワード1世は呪いでソフィアに殺されると思っていたようで、半狂乱だったみたいよ。
医師が鎮痛剤を処方したなんて侍従の日記によくかいてあったから。
ヤツはいつまでもソフィアが自分のことを好きすぎて恨んでいると思い込んでいたみたい。
バカな男よね、そんな過去の婚約なんて漂白剤で既にきっちり染み抜きして、むしろ別の色に染め変えているのにね、いつまでも別れた女は俺の女だと思っている様子に鳥肌がたったわ。」
そう言うアイラの目は絶対零度の冷たい眼差しだった。
「本当に。過去の辛い恋なんて、時が過ぎたら笑い話ですよ。」
珍しくエラが同調の声をあげたのだった。
「まあ、エー。過去に辛い恋をしたことが?」
サリエルがつい聞いてみると、
「いえ、そういったざまあ本を学生時代良く読んでいたものですから。」
「ああ、エーは読書の嗜み幅が広いからね。」
引っ越しの片付けで蔵書を運んであげたクリスがそう小さな声を溢したのである。
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