ロンデール伯爵領でレディアイラに会う
スコット公爵領の最東端の崖から海上をサリエルの屋敷が飛びたって、王都より更に南東にあるロンデール伯爵領の拓けた丘陵地に勝手に着陸したサリエル一行改め《チームアズール》号。
朝、目覚めて外に出れば、敷地の外は、見慣れ緑の丘が広がる場所であった。
「ここって勝手に住んで良いのかい?」
ガブがサリエルに尋ねた。
「一応、結界貼ってあるし、そう長く留まる訳でもないでしょ?大丈夫よ。」
サリエルが目を泳がせて答えた。
「サリー様、めちゃくちゃ動揺してるんじゃないですか?無許可で建物建てちゃ、ダメ絶対×」
ガブが腕を交差させて朝からツッコミをいれた。
「まあまあ、とにかく食事にしましょうよ。」
エラがそう言うと、テーブルについた。
今朝も家政婦形代レイ子さんが、自慢の朝食メニューを並べてくれていた。
クリスも先に席に着いていて、目の前で家政婦形代ミタさんに紅茶をサーブされていた。
「おはよう。今日もミタさんの淹れてくれた紅茶は最高の味だ!」
「おはようございます。クリス様、ミタさんの紅茶をいつも飲んでいたんですか?」
ガブとサリエルも席につき、ミタさんから紅茶をサーブしてもらう。
「ああ、貴族学校のプレ時代からかれこれ15年ほどね。ミタさん以外の淹れた飲み物には媚薬や睡眠薬が必ず入っていたからね、怖くて口に出来なくなった。トラウマだよ。」
朝からクリスの話は戦慄を覚える。
「クリス先生、大変でしたのね。でも困ったら形代にやってもらおうなんてわたくしと発想が一緒、13才の考えることって同じなんですね、フフフ」
「いや、世間の13才でプレに通い出したばかりの生徒で形代を作れる人って滅多に居ません。天才だから似た発想になるんですよ、朝から尊い。」
エラがまた朝から祈りのポーズで呟いている。
「んんん、まあ。あ、あの、公爵さまからの命を伝えます。
これから我々、アズールのメンバーは敬語を禁止し平民の言葉を使い、名も平民風に変えること。
理由は王家に知られぬため、そしてひっそりと出国するため。
これより俺はガブのまま、サリエル様はサリー、エラはA、クリス様はQooだそうです。
冒険者ギルドの申込は公爵家がその名で既に申請しているそうです。
チーム名もお伝えしてあるので、午前中にはサリー様のマジックバッグに全員分の冒険者登録証が届くそうですよ。」
ガブがギルから出掛けに渡された手紙を読んでみなに伝えた。
「わかったわ、いえ、わかった、でいいのかしら?ギルに預けてある片方のマジックバッグでやり取りをするのね、いえ、するんだ、で良いのかしら?」
サリエルが平民風の言葉使いに困っていた。
「いや、女性はね丁寧に話す平民も多いからサリー様、じゃなくてサリーもあまり意識しなくて大丈夫だよ。」
ガブがサリーを呼び捨てにした、ちょっと二人とも耳が赤いのは見なかったことにしよう、とエラとクリス改めエーとクーが生温かい目を向けた。
昼前に約束通りチームアズールと入った証明書が各々分届いた。
エーは冒険者が着る剣士の女格好に着替え、サリーとクーは平民服にローブを纏った。
ガブは悩んだけれど、旅人の服を着てマントを羽織った。
「エー、その胸当てと腰、膝当て以外の場所は肌が隠れていないのですけれど、それでいいの?寒くは無いの?防具の下は何を着ているの?」
サリーがあまりに肌の露出が多いエーの女剣士の防具姿に自然と質問が口から出ていた。
「ああ、サリー良く聞いてくれた!これは女剣士の正装で、寒くても気合いで大丈夫。防具の下は水着を着ているんだよ。」
エーはすっかり口調も女剣士そのものである。
「そう、それは良かった、良かった?わかったわ。でも寒いならマントを羽織なさいよ。」
「では、レディアイラの屋敷に向かおう。」
そうガブが声をかけると、クリスが魔法を使って一瞬でアイラの屋敷前に転移した。
「ごめんください、スコット公爵夫人からの紹介で本日こちらのご主人にお会いする約束をしております、ガブリエルと申しますが、お取り次ぎをお願い致します。」
そう、公爵家仕込みの丁寧な挨拶を門番に告げると、聞いていたようですぐに敷地内へと通された。
そして、屋敷の入口には、執事が待っていてそのままレディアイラが待つという応接室へと案内された。
「ガブ様ご一行お付きになりました。」
ノックの後、そう声をかけると入室の許可の声がかかった。
「どうぞ」
恭しく中へと通された。
そこは、公爵邸ほどの大きさはないけれど、落ち着いた調度品が配置され趣味の良い絵画が飾られた部屋に、白い絹のベールをきっちりと被った女性が椅子に座っていた。
「待っていたわ、ガブ。まあ若い頃のジャックに瓜二つあなたがクリス!あら、似た面立ちのあなた、あなたもジャックの面影がとてもあるわ。あなたがジャックとマリーの孫のサリエルね。フフフ、ねえ、あなたは侍女と聞いていたけれどまるで女剣士みたいね、エラね。初めまして、私がアイラよ。」
アイラは一行を見ると一人一人ににこやかな顔で話しかけて、座るように即した。
「初めまして、チームアズール私がガブ、こちらからクー、サリー、エーです。」
ガブがみなを代表して冒険者名で紹介した。
「ああ、そうね。ごめんなさい、ガブ、クー、サリー、エーだったのね、これからはそう呼ばせてもらうわ。」
「初めまして、サリーです。アイラ様は祖母と同じパーティで行動していたことがあると聞いています。よろしくお願いします。」
「初めましてクーです。叔父に似ているとは聞いていましたが、瓜二つだとは知りませんでした。」
「初めまして、侍女兼女剣士のエーです。どうぞ、よろしくお願いします。」
みなの挨拶も終わり、ガブが今回訪ねた経緯を告げた。
「ええ、マリーの手紙で大体のことは聞いています。ガブのお父上の行方を知りたいのよね。ねえ、あなたのお父様が何者だったかはパーティのみなは知っているの?」
「いいえ、私も良くは知らないので話していません。」
「じゃあ、あなたのお母様のことも」
「ええ、もちろん。アイラ様の娼館にいた娼婦とは伝えてありますが。」
「まあ、そこも!その口ぶりじゃ、あなたもマリーから聞いてないのね。全く、マリーったら相変わらずね、でもイタズラが過ぎるわ。では少し長い話になるけれど、聞いてくれる?」
アイラは目を大きく見開くと、窓の外に視線をやってはキッと一睨みし、そしてパーティの面々をゆっくりと見回しながらそう言った。
「ぜひお願いします。」
そうガブが答え、他の者も首肯した。
「ガブの父親はロントンディといって、私たちはロトロトって呼んでいたわ。先代のロンデール伯爵、ダニエルが南の大陸で助けた孤児でその魔力は凄まじく、初めて私が会った時まだ10才の子供だというのに震えがくるほどだった。
ダニエルはロンデール伯爵家を出て、腕試しの旅をロトとしていて、その頃トーホー王国に戻ってきていた。
私は南の島の出身、マリーは北の国出身でね、各々トーホー王国に密航した似た境遇の同性の冒険者だったからあっという間に仲良くなって、すぐパーティを組んだわ。
そしてジョージはソロ冒険者としてとても有名だった。
そんな私たちに名指しでクエストが申し込まれたの。
私たちはそれぞれが、当時有名な冒険者だったしクエストを未達成だったことが一度もない者たちだったから。
《トーホー王国の呪いを解け》という王家からの依頼だった、もちろん表面上は秘匿だったけれど。
《トーホー王国の呪い》といえば、光属性の者がトーホー王国には生まれないというもの。
ではなぜ、その呪いがかけられたか、誰がかけたのか、それを知るために王国中の文献をあたり祠を調べ、王家の墓である丘陵の史跡にも潜ったわ。
その為に王家の書物庫で禁書も読んだし、禁足地にも立ち入る許可がなぜか得られるんだもの、王家の誰かが依頼したとパーティの面々は確信したわ。
そして、私たちは知ったの。
王家の呪いをかけたのが、初代王の元婚約者で、建国するのに最前線で戦った大魔法使いであったことを。」
「え?建国の大魔法使い様がかけたのですか?元婚約者っていうのも、、、」
サリエルが口を挟んだ。
「そうよ、気になるでしょ?その話も今からするわ。ガブの両親の話までもうちょっとかかるけど、頑張ってね。」
レディアイラがそう言って微笑んだ。
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