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残念令嬢と渾名の公爵令嬢は出奔して冒険者となる  作者: 有栖 多于佳


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大魔法《複製人形》

ガブに付き添われて公爵邸に戻ったサリエルに小公爵夫妻は腫れ物に触れるような対応で、『勘当など口にするものじゃない』と父から言われただけだったので、それ以降自分の部屋へと引き籠ってしまった。


サリエルは、王宮で行われる成人の儀とその後のお茶会をウフフと我慢してやり過ごせるとはどうしても思えない。なのでここはいっぱつ魔法を使って解決を図ろうと思い至った。


ガブに真っ白い陶器と艶々と光沢の有る黒い絹糸と熟して紅く熟れたローズヒップの実を用意させて、それに自分の髪の毛と指先を切って捧げた自分の血液で形代を造り、以前からクリスとの訓練の度に使用していた自分の複写(コピー)魔法を何十と形代に付与し始めた。


並の魔法使いなら魔力切れを起こすほどの大魔法だが、膨大な魔力量を誇るサリエルなので出来る技であった。

そのサリエルでさえも、魔力が枯渇寸前だったのだが。


その形代の見た目は、もちろんサリエルそっくりで、形代の体中に書き込んだ魔方陣で、貴族令嬢必須のマナーや挨拶などを付与されたそれは、優雅に話し美しい所作で動いたのだった。

なんなら、ダンスまで踊れるほどの精巧な作り。


「ずいぶん精巧に作ったんですね。自分そっくりな人形を作るなんて悪趣味ですよ。」

突然魔力切れを起こしかけたサリエルに、慌てて治癒魔法をかけながら、呆れてそう言うガブに、


「悪趣味じゃないわよ、単なる遊びでこんな大魔法を使うわけ無いでしょ。

他人に気づかれないようガブに結界まで張ってもらって作った大事な形代よ!


この子に成人の儀とお茶会に出てもらうわ。

お母様の求めている正しい貴族令嬢って結局、精巧なお人形ってことなのよ。


だからこれでいいの、これで解決よ。

わたくしが心を殺して我慢するよりよっぽど良いわ。」


サリエルは大変憤慨しながら、フンっと鼻息荒く言い捨てた。


「じゃあその日サリー様はどうするのですか?」

ガブがまだ全貌を掴めないといった顔つきで聞いた。


「王城の上を絨毯で飛びながら待機して、この子を操作するわよ。

まだこの子、臨機応変に対応が出来るほど、完璧に魔法の付与が出来ていないのよ。


とりあえず、これはプロトタイプよ。


今回の試験を糧にして、最終的には自発的に動けるような魔法を考えて付与するように改良するわ。


この大魔法は、その名も複製人形(コピーロボット)!と名付けたわ。わたくしのオリジナル魔法だから名付けの機会が得られたのよ!」



キャッキャウフフと楽しそうに魔法の説明を行う様子に、母親への反発だとか貴族社会への離反とか当初持っていたマイナスな感情は影を潜め、新たに自分自身で考案した魔法に夢中になっているサリエルを見てガブはホッと溜め息をついた。


なんにせよ、サリエルが天才魔法使いであることは間違いないのだ。


疎ましく思う事柄の解決を魔法を使ってしようなど、凡人には思いもつかない発想である。

しかもその為に既存の魔法ではなく、独自に魔法を、しかも大魔法を考案するとか本当に規格外の行動をする。


あのクリスの隠し子騒動の時に、今は騎士団長に昇格したあの騎士の言葉が甦る。


《うちのお嬢様も出来が良すぎる、しっかり守ってやれよ》


(確かにな、お嬢様のこれが王家に気づかれたらクリス様の状態よりも、もっと面倒になるな。


元来、大魔法使いが縛りの多い王家に居着くはずが無いのだから、出奔を気にして魔封じされて軟禁すらされる危険があるな・・・)


サリエルの先行きの暗さにガブは真剣に向き合うことを決意するのだった。


そんなガブの気も知らず、自信作の複製人形(コピーロボット)の出来を試してみようと、翌日の朝、侍女のエラがサリエルを起こしにやって来る頃、コピーをベッドに寝かせて自分は《魔法 闇のローブ》を使って姿を隠しながら様子を伺っていた。


何も知らないエラは、いつものようにサリエルの身支度を整えながら話をしていた。


「ねえ、エラ、お父様お母様にお時間を取ってもらえるように頼んでくれる?」

そう話しかけるコピーは、サリエルそのままであった。



(これで魔法大臣であるお父様に気づかれなければ、あと気づく可能性が有るのは魔術師団長の大叔父様だけね。

後で大叔父様のところにも伺ってみなくてはね!)


ずいぶん長い間、部屋に閉じ籠って出てこなかった娘から話があるから時間を取って欲しいと言われた両親は、

《勘当、除籍、出奔》と嫌な考えが脳裏を過る。


しかし拒否する訳にも行かないので朝食後早々に時間を設けることにした。


すると、そこには謹み深く、思慮深く、また憂いを含んだ悲しげな顔を向けて両親に謝罪する、美しい娘の姿があった。


ああ、やはり私たちの娘だ。

落ち着けばキチンとした対応が取れるのだ、そう言えば13才ともなれば第二次反抗期!

ああ、これが噂に聞く第二次反抗期か!と思った。


それは成長する段階で必要なことだと、いつか来る時を気にして学んでいた知識を不意に思いだし、妻と互いに納得し合ったのだった。

その結果小公爵夫妻は、ここでサリエルのことを考えるのを止めてしまった。


コピーに謝罪をさせて無事両親と表面上和解をしたサリエルは、大叔父のいる魔術師団へ父の小公爵と供に行って挨拶をしたいとお願いをした。


普段、甘えることの無い娘が珍しくお願いをしてきたのだ、張り切って了承し、自分が出仕する時に連れていってくれると答えた。



「まあ、お父様。突然のお願いにも関わらず、ありがとうございます。」

うっすらと頬を紅色に染めて喜ぶ娘に、小公爵の顔も緩むのだった。


王宮へ小公爵と共に馬車で向かい、その足で魔術師団の団長室へと進んだ。


「おおサリエル!突然どうした!?」

先触れも無く小公爵とやってきたサリエルに魔術師団長も驚きを隠せない。


「いや、うちのサリエルが団長へと挨拶に来たいというので私が連れてきたのです。」


「ずいぶんご無沙汰してしまいましたわ、大叔父様。領地ではラスコーにも度々クリス先生と伺って叔父様の御邸で過ごさせて頂いていたのに、ご挨拶もせず申し訳ありませんでしたわ。」

そう挨拶して美しく微笑むサリエル(コピー)に魔術師団長も頬を緩めた。


「なに、そんなことは良い良い。領地を任せている次男からは聞いている。うちの孫たちとも仲良く過ごしている様子で何よりだ。今回は成人の儀の出席か?」

そう言って小公爵を見て聞いた。


「ええ、もう13ですからな。」

やり取りを聞いても何も問題が無い、やはりうちの子はスゴいと自慢に鼻の穴を若干広げつつ小公爵が答えた。


「そうか、もうあれから8年になるのだな。サリエル成人おめでとう。」

魔術師団長はそう言って満面の笑みで祝福を口にした。



それを魔術師団の屋根裏から自前の水晶を使って見ていたサリエルは、魔術師団長も欺く自身の魔法の完成度に笑みを深めた。

その様子をガブがなんとも形容しがたい顔で眺めていた。


ちなみに、魔術師団内には魔力探知の結界がかけられているが、サリエルの魔力の方が上回っているので無効化され易々と侵入を許しているのだった、セキュリティー的にはおおいに問題がある。




そんな魔術師団内部侵入(しけん)を経て、王城で行われる成人の儀の当日を迎えた。


白い光沢の有る絹のふんわりとしたドレスに濃い紺色のレースを部分的に配い、黒い絹糸のような髪をハーフアップにしてそこにも共布の紺色のレースのリボンと煌めく真珠を飾り付けたサリエルは、それはそれは美しい高貴な佇まいであった。


その陶器のような滑らかな白い肌(陶器である)絹糸のような艶めく髪(絹糸である)紅く熟れたローズヒップの実のような唇(ローズヒップの実である)、薄化粧を施した顔は恐ろしいほどの美しさでまるで精巧な人形(ビスクドール)のよう(人形である)。


父の小公爵は麗しの娘をエスコートして王城の広間へと妻と共に入っていった。


そこに集まった多くの貴族の目がサリエルに向けられる。

多くの歓声は、娘の美しさへの感嘆と《残念令嬢》という渾名から悪い振る舞いを期待してのものだろう。


しかし多くの貴族の期待を裏切り、サリエルは完璧な令嬢として振る舞った。


成人の儀でもマナー教本に載りそうなほどの完璧な所作で美しいカーテシーを披露し、その後の王家のお茶会でも張り付けたような薄笑いのアルカイックスマイルが崩れることは無く、穏やかなやり取りで周りの令嬢たちと挨拶や歓談をしていた。


「なんだ、あの噂は嘘だったのか。」

「もしかしたらあの噂で、ご令嬢の期待値を下げておいて、その実、完璧な姿をみて好感度を急上昇させるという公爵家の策略かもしれない。」

「確かに、あの噂があったから完璧な振る舞いに一同目が釘づけですものね。」

「いや、さすが公爵家は違う。」


そんな話がそこここで交わされ、サリエルと公爵家の評判はグングンと上がっていったのである。



「初めまして、サリエル嬢。私は王太子の第一王子であるエドウィンです。どうか麗しのあなたとファーストダンスを踊る名誉を私にお与え下さい。」


突然、どこからともなく王子が現れて、手を出された。


「初めまして、王国の若き太陽にご挨拶申し上げます。スコット公爵家次期当主が娘サリエルにございます。過大なる名誉感謝申し上げます。」


サリエルも令嬢教育本の回答のような返答をして、その手を取った。


王家主催の夜会ではなくお茶会であり、別段踊ることもないのだが、まあ余興の一環として楽団の演奏が行われており、目当ての者がいればダンスを誘って相手の反応をみるのは、このお茶会が各貴族家の婚約者探しという隠れた目的があるからである。


今回10才の成人前の王太子の息子が参加するとは、つまり王家は王子に婚約者を探し始めたと宣言したようなものであった。

その相手に公爵家の令嬢であるサリエルが選ばれるのも、また当然の成り行きだと貴族たちは口々に語りだした。。


これは、王家へ嫁ぐのも決まりだな


噂の残念令嬢じゃ、その可能性も無かったが完璧令嬢だからな


二人のダンスを目にした貴族たちはそう思い自分の娘は王太子の側近の子の誰かにしようと胸の中で呟くのだった。


王城の屋根の上で、ラグを広げて水晶でその様子を見ながらサリエルは指をクルクルと回すと、水晶の中のコピーもクルクルと回った。

基本のダンス技術を付与したコピーを遠くから操っているのである。


「楽しそうだね、サリー様。」

「ええ楽しいわ。まるでお人形遊びのようだもの。」


そう悪い笑顔をガブに向けてサリエルが言った。


「さあ、そろそろ帰りましょうか」

王子とのダンスが終わり両親の元へと戻ったコピーを見ると、サリエルがそう言って立ち上がった。


「もういいのかい?」

「ええ、もう茶番は十分よ。さあ帰りましょう、公爵領(いえ)へ。」


そう言って魔力を注ぐと、ラグがフワリと浮いて北へと飛び立った。


恙無くして成人の儀とお茶会を無事に終え安心して馬車に乗った小公爵夫妻は、公爵邸のタウンハウスに着く手前で自分の娘が陶器のカップと絹糸とローズヒップの実になって消えてしまったことに声をあげて驚いた。


そこにはサリエルからの手紙が付けられていた。


『お父様もお母様も人形のように心が無いわたくしがよろしいのでしょうから、魔法でそうしました。本当のわたくしは心の向くまま公爵領へと戻りますわ。次にお会いするのは16才になる年、貴族学園に入学する時です。ごきげんよう サリエルより』


それを読み、素材に戻ってしまった人形の残骸をみて、小公爵夫妻が頭を抱えながら屋敷へと入っていったのだった。



「ねえ、そろそろガブが浮遊魔法を使って交代してよー」

「え?まだ飛んだばかりじゃないか、サリー様の方がだんぜん魔力量が多いのだからもうちょっと遠くまで飛んでよ。」

「はーい、わかったわよ、もう。」


王都を飛んで抜けていった二人がそんな呑気な会話をしているとは、小公爵夫妻は気づくはずもなかった。


お読みくださいましてありがとうございました。


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