リヒャルト様のお薬実験 3
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ぎぃいいい~って嫌な音がする。
……むぅ、難しい。
ボルヒェルト先生から、ヴァイオリンは慣れることが一番と言われたので毎日練習しているんだけど、全然綺麗な音が出ません。
わたしが所かまわずヴァイオリンをぎーぎー言わせていたら、ベティーナさんがやんわりと、けれどもきっぱりと、練習はピアノが置かれている一階のサロンにしましょうと、他の部屋でのヴァイオリン練習を禁止した。
だから一階のサロンでヴァイオリンを弾いているんだけど、これ、いつか壊れるんじゃないかな。ものすごく嫌な音ばかりするんだけど。
早く猫の歌をヴァイオリンで弾いてみたいのに、音階すらこの調子だったらいつになることやら。
わたしがしばらくヴァイオリンをぎーぎー鳴らしていると、リヒャルト様がサロンにやって来た。
朝からお城に行っていたみたいだけど、わたしがヴァイオリンに苦戦しているうちに帰って来たみたい。
……お出迎えできなかった……!
わたしは慌ててヴァイオリンを置くと、リヒャルト様に駆け寄る。
「お帰りなさい! リヒャルト様!」
玄関でお帰りなさいはできなかったのは残念だけど、いつもより早い帰宅は嬉しい。
「ただいま。……苦戦しているみたいだな」
「ぎーっていう音しか出ません。きっとあのヴァイオリンは壊れてます」
「壊れてはいないと思うが……」
リヒャルト様が苦笑して、わたしの置いたヴァイオリンを持つと、流れるような動作で構えてすっと弓を引いた。
ふわわんって綺麗な音がする。
……壊れてなかった‼
わたしがいくら頑張っても、ぎーっという音しか出してくれないヴァイオリンが、リヒャルト様には素直に綺麗な音を奏でるのがちょっと悔しい。
「ほら、壊れていない」
「むぅ……」
「落ち込むな。最初は誰でもそんなものだ」
リヒャルト様がわたしにヴァイオリンを手渡して、ちらりと時計を確認した。
「そろそろティータイムの時間だぞ。今日はお土産に君が好きな店のシュークリームを買ってきた」
「皮がサクサクぱりぱりのやつですか⁉」
「そうだ」
リヒャルト様がくすりと笑う。
「ダイニングに用意させよう。ヴァイオリンを片付けておいで」
「はい!」
……やった! 今日のおやつはサクサクぱりぱりシュークリームっ!
リヒャルト様は着替える前にサロンに顔を出してくれたみたいで、わたしがヴァイオリンを片付けている間に着替えを済ませると言って二階に上がる。
わたしもヴァイオリンを抱えて二階に上がると、自室に置いているケースにヴァイオリンを片付けた。
練習の邪魔にならないようにまとめていた髪をベティーナさんがほどいてくれる。
そのあとで、ささっとハーフアップにして、可愛いリボンで止めてくれた。
「ベティーナさん、今日はシュークリームだそうです!」
「最近のスカーレット様のお気に入りのお店ですね」
「はい!」
どのお店のシュークリームも美味しいけど、リヒャルト様が買ってきてくれたお店のシュークリープは皮がぱりぱりしていて食感がとっても楽しいのだ。
スキップしたくなるのを我慢しながらダイニングに降りると、二分遅れくらいでリヒャルト様がやって来る。
ダイニングテーブルの上には、シュークリームの詰まった大きな箱が三つも置かれていた。
リヒャルト様に取ると、右の箱がカスタードクリームのシュークリームで、真ん中がカスタードクリームにフランボワーズを加えたシュークリーム。左の箱は、チョコレートを練り込んだカスタードクリームのシュークリームなんだって!
チョコレートは夏になったら出回らなくなるけど、このお店にはチョコレートクリームのシュークリームがあったから買ってきてくれたらしい。リヒャルト様優しい!
アイスティーが運ばれてきて、ベティーナさんがお皿にシュークリームを出してくれる。
……まずは王道のカスタードクリームからいただきますっ!
さくっとかぶりつけば、中からふわんとバニラの香り。
とろっと口当たりのいい柔らかめのカスタードクリームと、サクサクのシュー生地がとてもよく合う。
クリームがこぼれないように注意しながら夢中で食べていると、リヒャルト様がミントを添えたアイスティーを飲みながら笑った。
「美味しいか?」
「はい!」
「そうか。……食べながらでいいから、聞いてくれ」
「んぐっ」
わたしが頷くと、リヒャルト様は笑みを深めて話を続ける。
「イザークとエレンの結婚式の予定だが、来春に執り行うと正式発表された。学園の卒業式の次の週末だそうだ。場所はしきたり通り王都の大聖堂で行われる。それに伴い、クラルティ公爵家が親戚筋から一人養子を入れた」
「んぐ?」
「ああ、スカーレットは知らないんだったな」
頷くと、リヒャルト様が簡単にクラルティ公爵家のことを教えてくれた。
クラルティ公爵夫妻には現在、お子様はエレン様お一人だけだと言う。
だから、将来エレン様は婿を取って、そのお婿さんが公爵家を継ぐ予定だったんだけど、イザーク殿下との婚約がまとまった。
ゆえに、公爵家は親族の誰かに継がせる必要があるのだけれど、今日まで正式に発表されていなかったのは、エレン様とイザーク殿下の結婚がこのままスムーズに執り行われるかどうか不透明だったかららしい。
エレン様とイザーク殿下は不仲と言われていて、クラルティ公爵もそれが気がかりだったそうだ。
状況によっては婚約を白紙に戻すことも視野に入れていたため、跡取りがエレン様になる可能性が残されていたのである。
だけど、ここに来て正式に結婚式の日取りが発表された。
結婚の日取りが決まれば、破談になることはまずない。
クラルティ公爵も安心して後継の教育に乗り出すことができるようになり、教育のため、親戚筋から養子を入れたのだ。エレン様の従弟で、何事もなければ彼が次期クラルティ公爵となる。
とはいえ、養子にしたと言ってもエレン様の従弟は家族と王都暮らしなので、住まいは当面移さないらしい。まだ十歳の子供なので、実の親の元ですごさせた方がいいだろうと判断されたのだ。
「クラルティ公爵はまだお若いからな。代替わりと言ってもずっと先のことになる。少しずつ領地経営とか政について教えていくのだろう。公爵が選んだのだ、その子はとても優秀なのだと思う」
わたしはふむふむと頷いたけれど、正直、貴族のしきたりはチンプンカンプンだから、よくわからない。
ただ結婚式の日取りが正式に決まったと言うことは、エレン様がイザーク殿下とお別れすることはないと言うことだ。わたしはそれだけで大満足である。
あとはイザーク殿下がたくさん頑張ってエレン様を幸せにしてあげてくれるのを祈るだけだ。
……というか、エレン様を泣かせたらわたしが許さないもんね!
エレン様がお別れを検討したのを知っていて、お別れしなくてすむように計画を立てたのはわたしである。まあ、わたしが知らないところでイザーク殿下が頑張った結果でもあるので、わたしの影響はあんまりないかもだけど、破談にしなかったせいでエレン様が不幸になったりしたら、責任はわたしにもあるということだ。
だからこそ、わたしもエレン様の幸せを見守る義務があるのである! 義務がなくても見守るけどねっ!
「本題はここからだが……」
うん? これが本題じゃなかったの?
かぷっと勢いよくシュークリームにかぶりついたら、ぶわってクリームが溢れてきた。
あわあわしていると、ベティーナさんがすっとわたしの手や口についたクリームをハンカチで拭ってくれる。
……シュークリームは勢いよくかぶりついたらダメだね。ついうっかり!
ぐちゃってなったシュークリームを慎重に口へ運びながら、おすまし顔でリヒャルト様を見れば……顔を背けて肩を揺らしていた。むぅ、笑われちゃったよ。
「リヒャルト様、本題は?」
「あ、ああ、そうだったな」
こほんと咳払いして誤魔化したみたいですけど、笑っているところはしっかり見ましたからね。ちょっと失敗しただけなのに~。
「イザークとエレンの結婚の日取りが決まったから、私たちの結婚の日取りも決めてしまおうと思っている。イザークたちの結婚式のあと、少し空ければ問題ないだろう。春の終わりか、夏か……このあたりにしようと思っているんだ。スカーレットはどちらがいい?」
おお! ここにきて、急展開というやつですね!
来年のどこか~って漠然としていた結婚式が、一気に現実味を帯びてきましたよ!
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