これは里帰りっていうやつですね! 5
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わたしが能天気にもぐもぐとお菓子を食べている間に、リヒャルト様たちの話し合いはどうやらまとまりつつあるみたいだった。
アデーレたちはリヒャルト様が現在試験稼働中の聖女の仕事場についてとても興味を示していた。神殿に嫌気がさしていたアデーレたちは、本稼働したらぜひ移動したいとまで言っている。
その上で、ストライキをやめる条件だけど、以下のような形でまとまった。
一、教皇猊下が退位する方向で進めること。
二、中央神殿および、東西南北にある各地の神殿の神殿長が、現教皇猊下の息のかかっていない者にすること。
三、聖女に選択の自由を与えること。
一は言わずもがなだけど、聖女が突きつけた要望で教皇様が退位したとすると、リヒャルト様が懸念したように聖女が教皇庁のトップに君臨していると思われてしまう。
そのため、聖女の要望で教皇様が退位するのではなく、中央神殿の前神殿長の引責で退位する方向で調整するとカンナベル枢機卿が言っていた。
聖女については国が保護をし、そしてその保護について教皇庁が責任を持つという約束の元、聖女たちは神殿に集められて生活している。
その神殿の、しかも神殿長の身分にいた人が聖女わたしを神殿から追い出し、あまつさえ命まで狙った。
この問題は、わたしが思っていた以上に(というかほとんどわかってなかったけど)、重大な問題なんだって。
言ってしまえば、国との約束を反故にしたとも取れるわけで、そうなると国と教皇庁の関係が大きく変わることになる。
場合によってはアルムガルド国の聖女の保護を教皇庁に任せないという決定を、国王陛下や議会が下しかねない状況だ。
まあ実際は、そんな無茶をすれば軋轢がすごいから、そこまで強硬手段は取らないらしいんだけどね。あくまで可能性の一つってことで、今はその可能性を持ち出してことを進めた方がスムーズだろうってリヒャルト様とカンナベル枢機卿が言っていた。
だから、大問題を起こした中央神殿の前神殿長を任命した教皇様の任命責任は無視できないってことらしい。
本来であれば、教皇庁のトップに君臨する、いわば教皇庁内の王様的な人を引きずり下ろすのは難しい。
それを可能にするには教皇庁内での問題提起だけでは不可能なため、このあたりは王家に協力を仰ぎ、国民感情も利用するそうだ。
ちょうど今、国民たちは聖女の薬が手に入らないと不満を抱えているからね。その責任が全部教皇様にあると情報操作することで、不満が教皇様に向くように仕向けるんだって。
……頭のいい人の考えることは、ちょっと怖いね。
アデーレたちも、その方向で問題ないと言っている。アデーレたちは教皇が引きずり降ろされれば、理由は何でもいいらしい。
次に、中央神殿や各地の神殿の神殿長についてだけど、これは問題ないとカンナベル枢機卿が言っている。
現教皇様が退位したあとにはなるけど、うまく調整してくれるみたい。教皇選挙は裏操作ができないけど、このくらいなら何とかなるんだって。
……これはあれですね、グレーゾーンとか言うやつですね!
具体的に何がグレーなのかと訊かれたらわたしはよくわからないけど、たぶんそういうやつだ。
そして最後。
聖女に選択の自由を与えること。
これも言ってしまえば単純なことである。
要するに、聖女たちが神殿で働くのか、それともリヒャルト様が作ろうとしている聖女の仕事場で働くのか、選択の自由を聖女側に与えろと言うことだ。
簡単に言えば、聖女がどこで働くか、教皇庁が口出しするのを禁止する、というのである。
リヒャルト様が聖女の仕事場を本稼働させても、教皇庁が圧力をかけたり、今回みたいに情報操作して聖女側に秘密にしたりすることで、聖女の方で選択できないと言うのを避けたいんだって。
……それはもっともなご意見だよね!
アデーレたちのその要望にはリヒャルト様も思うところがあったみたい。
いくら仕事場を作っても、教皇庁が聖女を抱えて出そうとしなかったら働く人が集まらないもん。
カンナベル枢機卿も、その意見については教皇庁内でしっかりと話し合いの席を設け共有すると言っていた。
「では、この条件で、他の聖女たちと話し合います。他の子たちがこれで納得したら、ストライキはやめますわ」
「ありがとう、アデーレ。それからベアタ、エルヴィラ、ザスキア」
カンナベル枢機卿がホッと息を吐き出した。
「お薬の隠し倉庫にも案内します。何なら速やかに回収して、必要とされる方たちに配ってくださいませ。薬はたくさんあるのに、薬を購入したくてやってきた人たちを『薬はない』と追い返している神官たちを見ると、腹が立って仕方がありませんもの」
「もちろんだよ。そして隠し倉庫についても、しっかりと責任を追及しよう」
「ついでに、隠し金庫もありますけど、そちらの情報もいりますか?」
「そんなものまであったのか……」
わたしもびっくりです。そして、情報通なアデーレにもっとびっくりですよ。
カンナベル枢機卿が頭が痛そうな顔をして額を抑えた。
リヒャルト様もこめかみを抑えている。
「たまに、教皇庁の人が来て金庫からお金を回収して行きますけど、カンナベル様が隠し金庫を知らないのであれば、そのお金はいったいどこに行っていたのかしら?」
ふふふ、とアデーレが人が悪い顔をして笑う。
リヒャルト様がハッと顔を上げて、にやりと笑った。
「なるほど、調べてみると面白いかもしれないな」
何が面白いのかはわたしにはわからないけど、リヒャルト様的に引っかかるものがあったみたいだね。すでに何か、それに関係しそうな情報を掴んでいる気もする。
まあ、難しいことはわかんないけど、何はともあれ、ストライキ解決の糸口が見えたってことだね。
……って、ああっ! 結局わたし、何のお役にも立てなかったよ⁉ またしても任務失敗……!
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