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【完結】国立第5魔導研究所の研究日誌  作者: 九条美香
新人魔導師、発掘調査に参加する
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同日、発掘開始

 遺跡までの移動は一瞬だった。5人ずつに分かれて、零と夏希の術で研究所から移動した。眩しい白の魔力に目を瞑ったら、目を開けた瞬間廃校舎が見えたのでホラー映画か何かと思ってしまった。


「全員いるな?」

「はい、揃いましたよ」


 10人全員がいることを確認する夏希に、零が答えた。天音も周囲を見渡す。1、2、3……確かに、10人揃っている。


「葵と透はテントの準備しといてくれ」

「うッス」

「はい」


 技術班の2人が返事をした。葵は夜逃げするかのように荷物が多い。透も葵ほどではないがなかなかの量だ。何でも持ってきていいと言われたせいか、2人とも生き生きとしている。


「雅も2人の近くにいろよ、危ないから」

「わらわほどの魔導医師はそうおらぬからな。重要人物じゃ。守られてやろう」


 長い白衣を引きずりながら、雅は後方へ避難した。何かの術をかけてあるのか、いつも引きずられているというのに雅の白衣には汚れ一つない。


「んじゃ、始めるぞ」


 夏希の一言で、調査は始まった。彼女は言い終わると地を蹴り、空高く飛ぶ。周囲を見渡して偵察している。


「オレらも始めますよー」

「ドキドキしてきたな」

「お、お願いします!」


 箒をお守りのように握りしめながら、天音は裏返りそうな声で言う。発掘調査が初めてなのは和馬も同じはずなのに、彼は落ち着いて見える。研究員として天音より2年長く働いているからだろうか。


 恭平が魔力を探すため、ヘッドフォンを外した。瞬間、驚いたようにこちらを見る。


「え? こっちに遺跡がありそうですか?」

「ああいや、違くて……なんでもないです」


(天音サンからメチャクチャなギターの音がしない……なんか、ヴァイオリンみたいな音がする……ホントに変わったな、この人)


 魔力の色や音は、本人の成長と共に変化することがある。魔導を受け入れた天音は、破滅を望むようなギターの音ではなく、一流のヴァイオリニストが奏でるような音に変化していた。


 気を取り直して、遺跡探し。

 恭平は耳に意識を集中させる。魔導探知に優れていても、古代の「魔法」は別だ。魔導探知の低い者よりは見つけやすいだろうが、それでも魔導と魔法は大きく異なるため、難易度は高い。丙種遺跡であろうと、罠や気づかれにくい細工はしてあるだろう。隠れ家として使われていたなら、なお見つけにくくなっているはずだ。


 耳をすますこと数分。恭平はやや離れた位置を指して叫んだ。


「そこ! 地下……70……いや、80メートルくらいに、魔力を感じます!」

「了解!」


 上空から夏希の声が降ってくる。


「恭平は一旦離れて休憩! 和馬と天音は防御か上空に避難しろ!」

「え? え?」

「多分、副所長が地面を吹き飛ばすんだと思います!」


 和馬は避難を選んだようだ。飛行の魔導文字を空中に書いている。天音も慌てて箒に跨った。


「まあ僕だと遺跡ごと吹き飛ばしちゃいますからね」

「加減がヘタなんだよ、お前は」


 恐ろしい会話が聞こえた。どうやら零は手加減という言葉を知らないらしい。訓練のときは魔力制御の術を何重にもかけてから来ていたのだと、後に知った。


 夏希は魔力こそ膨大だが、繊細なコントロールを得意とする魔導師だ。遺跡に傷一つつけずに地面だけを吹き飛ばすことが出来るだろう。


 天音と和馬は夏希のいた地上50メートル付近まで上昇し、念のため彼女の小さな背中に隠れた。術を受ける反対側なら、怪我をすることもないはずだ。


「いくぞ!」


 白の魔力が光った。魔力量からは信じられない程に静かな発動だった。夏希は地面を吹き飛ばすだけでなく、余計な土砂を全て消し去ったようだ。


「お、あったりー」


 離れた位置で耳を休ませていた恭平が呟いた。夏希が吹き飛ばした地面の下、恭平が示したポイントぴったりに、朽ちかけていた遺跡が姿を現したのだ。


「和馬と天音は下がって調査! 恭平も、戻ってこれそうなら頼む! 無理そうなら零つけるからいいぞ!」

「そんな雑な扱いしないでくださいよ、泣きますよ」

「あ、オレいけまーす」

「零、お前待機な」

「いいですけど……さらに雑ですね……」


 少し悲しそうな、けれど何処か楽しそうな表情の零は、変わらず待機のようだ。恭平がすたすた歩いて、遺跡の中へ入っていく。天音と和馬は慌てて降下した。


「普通の家みたい……」

「遺跡というより、廃屋ですね」

「うわ、ホントにあった、石板。なんで紙じゃないんだろ……」


 恭平の魔導探知によると、特に罠は仕掛けられていないらしい。その代わり、魔力を持たない者や魔法を信じない者には気づけないような術がかけられているようだ。


「最初に石板の欠片見つけたって人、魔力があったんですかね」

「なかったらしいです、変な石があったって報告しただけみたいですね。ただ、解体作業していた人の中に、魔導商業許可をとって重機の代わりに解体の術使ってた人がいたからわかったっぽいです」

「この学校が建てられたときと違って、今のご時世、魔法を信じない人って、よっぽど過激な反魔導主義団体くらいのものですもんね」


 話しながらも、いくつか魔導文字の書かれた石板や装飾品、破れた紙などを見つけることが出来た。保護魔法をかけていたようで、地中に埋まっていたとは思えないほど綺麗な状態だ。


「どうです? 意外と楽しいでしょ?」


 緊張していた天音を気遣うように、恭平が聞いてきた。


「はい、博物館にあるようなものを自分で見つけることができるなんて思いもしませんでしたね」

「博物館? あーそっか、今の学生は魔導博物館行くのが決まりなんですよね。オレ、あんまり学校に行ってなかったから覚えてないや」


 特定魔導保護対象者が、義務教育期間は実務に関わらないと明確に定められたのは4年ほど前のことだ。恭平の幼いころは、少しでも異変があればすぐに研究所に召集されていたという。魔導適性値の急激な低下、上昇などがあれば定期健診の時期でなくても呼び出されるため、恭平はあまり登校できなかったのだろう。


「いつ行ったんです? 中学校?」

「いえ、小学生のときですね。6年生だったかな……」

「へえ。あ、そこ足元気を付けて。和馬ー、足元照らしてくれる?」

「右?」

「そうそこ、あ、行き過ぎた」

「ここかな」


 隠れ家はさらに地下に続いていた。段々と暗くなっていったため、和馬が光の術を使って照らしている。恭平は酸素を作り出し、埃っぽい空気を吸わないように注意を払っていた。


「じゃ、続けましょ」


 発掘調査は、まだ終わりそうにない。三角帽をぶつけないように押さえながら、天音はさらに地下へ向かっていった。


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