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【完結】国立第5魔導研究所の研究日誌  作者: 九条美香
新人魔導師、発掘調査に参加する
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4月30日、発掘調査前最終確認

 発掘調査、当日。

 天音は緊張と興奮で朝早くに目覚めてしまった。夏希から聞いた開始時間までまだかなりある。もう一度寝ようとも思ったが上手くいかず、ベッドから出ることにした。


 最近日課となっていたストレッチをして、魔導衣に着替える。室内なので三角帽は被らず、ローブだけを着用した。肩よりも長い黒髪は、後ろで1つに結んだ。


 この時間ならば、既に和馬は起きているだろう。まるでここで目覚めた最初の日のようだと思いながら「家」へ上がった。


「おはようございます」

「あ、おはようございます。眠れませんでしたか?」

「いえ、眠れはしたんですが、楽しみで起きてしまって」

「ふふ、わかります。俺も発掘調査は初めてなので」

「そっか、確かにそうですね」


 天音が配属されるまで人数が足りなかったこの研究所では、独自に発掘調査を行うことができなかったのだ。2年先輩である和馬でさえも、今回が初めての発掘調査となる。


「ええと、9時に最終確認をした後、所長と副所長の術で遺跡まで移動して開始、でしたよね?」

「はい。天音ちゃんは帽子と箒、忘れずにね」

「忘れませんよ、大事なものですし」


 天音の魔導衣デザインにも、技術班以外のメンバーが関わっていたのだと聞かされたのは昨日のことだ。嬉しさのあまり、昨日は休日で魔導衣の着用の必要がないというのに着ていたら、恭平が「やっぱりこれにして正解じゃん」と透に言っているのを聞いてしまった。天音の訓練に付き合う以外の時間で、全員で12年以上前に作られたアニメや映画、漫画を探してデザインを考えていたらしい。最終的に恭平の案が採用されたようだ。透の案はもっと刺繍などが全体に入っている派手なものだったようだが、絶対に天音の好みとは違うと全員から反対されたのだと、葵が笑いながら教えてくれた。


 ただ、裏地には星空のような凝った刺繍が施されていたし、ローブの中はミニスカートにブーツだった。おまけによく見るとスリットが入っている。動きやすくするためだと信じたい。


 天音が朝食を食べ終わったころ、他の研究員が起きはじめた。寝癖をつけたままのかなたと、それを直しているはるか。入口に頭をぶつけたらしい透。葵と恭平は半分寝ている。雅は自身の白衣を踏んで転びかけていた。


 最後に食堂に入ってきたのは、零に手を引かれてようやく動けている夏希だ。相変わらず朝が弱い。


 基本紅茶派だが、眠気覚ましのためか朝だけ珈琲を飲む夏希がカップを空にしたころ、ちょうど9時となった。


「はい、では皆さん静粛に」

「もともとうるさくはなかったッスよー」

「いいでしょう別に。言ってみたかったんです」


 意外と子どもらしい一面を見せる零に、天音と和馬はつい笑ってしまった。

 それを見て零は安心したように息をついた。どうやら天音と和馬が緊張していないかの確認のようだ(本当に言いたかっただけかもしれない、いやむしろその可能性の方が高い)。


「本日の発掘調査について、我らが女王陛下からお話があります」


 お願いします、と零から話をふられた夏希は和馬から2杯目の珈琲を貰いつつ話し始めた。


「今回調査に行くのは県内の丙種遺跡。申請したのは首都外れの乙種遺跡だったんだが、どうやらお上は我々には難しいと判断したらしい。ご丁寧にも、移動も調査も簡単な遺跡をご紹介いただいた」


 皮肉たっぷりに言う夏希を、周囲は笑いながら見ている。魔導考古学省の人物に聞かれればとんでもないことになるが、これが彼女の平常運転であることは天音も理解し始めていた。


「遺跡は元々は小学校だった土地だ。廃校になって解体作業が入った際に、地中から魔導文字の書かれた石板の欠片が発見されたらしい。ま、その小学校ができたときは魔導のまの字も出てきてない時代だったから気にせず建てられたんだろ」

「地中からってコトは、遺跡は地下?」


 恭平が手を上げた。その顔には、「土まみれになりたくない、面倒」と書かれている。


「ああ、地下だな。場所が決まってからこっちでも調べてみたが、どうやらかなり新しい時代のモンで、科学技術の発展で追いやられた魔法使いが隠れ家として作った場所っぽいな。古くてせいぜい200年ってトコか。第2の連中なら触りもしないだろうな」


 第2研究所は陰陽寮跡地ということもあり、1000年以上前の日本の魔導について研究している。それに比べれば、200年前などあまりにも現代に近すぎて研究する人物も少ない。


「うへぇ」

「軽めの防御術張っとけ。汚れも防げるだろ」

「はーい」

「んじゃ、続けるぞ」


 夏希は現場の地図を取り出した。既に彼女のやや癖のある字が書き込まれている。全員に見えるよう、食堂の長テーブルの中心に置かれたそれを指しながら、話が続けられた。


「雅は離れて治療に備えてくれ」

「うむ、任された」

「で、葵と透はテント内で待機。補助具や魔導衣の破損に対応できるようにしといてくれ。あと、出土品の管理な。役立ちそうなモンや試したいモンがあったら好きなだけ持ってきていい」

「よっしゃ!」

「僕は班長の監視しておきます」


 はしゃぐ葵を見て不安になったのか、透は静かにそう言った。一昨日とは立場が逆になっている。


「んで、調査班な。まず、恭平は探知役。地面のどの辺から魔力の音がするか探してくれ」

「ですよねー、わかってた」

「和馬はその横で防御の準備。罠や外部からの攻撃に備えておいてくれ」

「はい、頑張ります!」


 地図にはそれぞれの名前と、デフォルメされた似顔絵が描かれている。夏希が描いたのだろうか、なかなかに可愛らしい。


「天音」

「ひゃいっ!」


 呼ばれると思っていなかったので、準備が出来ていなかった。裏返った声を聞いて皆が笑う。


「お前は恭平と和馬につけ」

「は、はい!」

「調査について、第1で既に勉強されている恭平先輩から教えてもらえ。和馬もな」

「はい」

「お、お願いしますっ!」

「オレで大丈夫なんですかねぇ」


 緊張してきた天音の顔を覗いて、恭平が心配そうにしている。


「で、そなたらは何をするのじゃ?」


 地図に書かれていない2人を見て、雅が立ち上がって問うた。遠回しに、「わらわたちに任せていないでそなたらも働け」と言っている。


「あたしは上空からの偵察、零は足りないトコのサポートだな。安心しろ、ちゃんと働く」

「まあ、適任じゃな……」


 納得したのか、そう言って雅は座った。


「よし、じゃあ5分後に移動するから準備して来い」


 ついに、初めての発掘調査だ。天音は期待に胸を膨らませながら立ち上がった。


「はい!」


 箒と三角帽を部屋から持ってこなくては。

 まだ時間に余裕があるというのに、天音は小走りで部屋に向かった。


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