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11話 ドミノ倒し

 後輩が一人居なくなって数日、学校を休みがちになった豊のことが心配になって、自分も学校をサボってその姿を探していると、力無く公園のベンチに腰掛けうなだれていた豊を見つけた。

 僕は静かに近づいてその隣に腰掛ける。

「……急に終わりがわかっちゃうと……どんなことを考えて、話したら良いかわからなくなっちゃいますね」

 完全に気力が抜けきった弱々しい声音で彼は僕にそう言うと、肩をふるわせてしずかに泣き始めた。

「誰にでも、終わりは来るよ」

 全くの無関係じゃ無い僕達が見たからあれは充分に恐怖だとか、悲しい気持ちになる対象であって……自分もいつかそうなる癖に、他人がそうなったらどこまでも他人事にしかとれない。薄情なことを言ってる。

「……それは……わかってます……」

「ここにいてもしかたないよ。一緒に帰らない?」

 豊が落ち着くのを待つ時間はいくらでもとれるし、一人にしたらいつのまにかいなくなっているかもしれないから。

 なにより、僕だっていまは一人になりたくない。

「……先輩は……怖くないんですか」

「死ぬのって、そんなに怖いことかなって思ってた……なんで生きてるのか、その意味もわからないから」

「……そうですか」

 死ねば楽になれるという考え方はずっと変わらずに持ち続けるだろう。実際そうなんだから。

 けれど、仲良くなった誰かが酷い死に方をするのはどうしても別で、自分にもそういうときに感じる恐怖で心が揺さぶられて、怖いものだということを改めて認識して、身体が固まって動けなくなる。

「明日になったらまた話そう」

「……はい」

 気休めになっているような気がして地面から足元に置いた鞄の持ち手に視線を移すしていると、豊が立ち上がる音が聞こえてふらふら歩き始めたので僕は慌ててその後ろについていく。

「一駅分乗って、ゲームセンターにいきませんか」

 そんな状態で行ったりしたら、煙草の匂いとかでさらに具合が悪くなりそうだけど、

「いいよ」

 それで気晴らしになるのであれば、断る理由は浮かんでこないし、いまの豊から目だけは離さないでおきたかったから。

 会話も無く駅まで歩き、電車の時刻を確認してから切符を買って、まだそれなりに人がいる通路を通って改札を通りホームに出る。

「先輩」

「なに?」

 電車が近付いてくる音が聞こえて、隣に立っている豊を見た。

「……たえきれそうにないです。ごめんなさい」

 そう言い残して豊は自分から線路に落ち、電車がぶつかる寸前でふっと消えた。

 人がいきなり飛び降りてはねられたように見えた人間からの悲鳴が上がって、それが連鎖するように人が人を呼ぶ。

「……なんで……」

 寧子のときとほとんど変わりの無い消え方で、彼はこの世からいなくなった。

 血の気が引いてふらつきそうになりながら階段を上がり人混みからまた改札まで戻る。階段を上がった先に、さっきより砂の増えたように見える砂時計が視界に入って、瞬きをしたらそれはふっとなくなった。

「…………っ」

 いつもとは違う呼吸になりかけたので待合室の椅子に座りぎゅっと目を閉じ、これっぽっちも気持ちが追い着かないが、涙だけは一筋だけ流れていく。


        *


 放心状態の自分はその場所から全く歩けないものだと思っていたのだが、何かしらの交通手段で気付けば副会長のいる病院の病室まで来ていた。

「誰も……死のうとか、考えてなかったんですよね」

 問いかけた相手はベッドの上で生きているが、答えが返ってくることも無く自分の声だけが空気を静かにふるわせた。

 病院にいるからって、確実に治るとは限らなくて、けれどここにいる間は少なくとも生きていないといけない。死ねなかったから、世話をしないといけない他人が必要になるし、逆に言えば死んだら世話をしなくてすむようになる。

 色々な種類の管が繋がれている副会長の呼吸器に手を伸ばして触る直前までいったところで手を引っ込めた。

 僕がして良いことじゃない。

 他の誰かがすることでも無い。

「いつかは……さよならですね。」

 視界の先に写ったのはまたあの砂時計で

「…………こんなの、僕が殺しているみたいじゃないか……」

 副会長はゆっくりと目を開いて僕の方を見る。

「えっ」

「君は……なにも……わるくない……」

 どこから聞こえていたのかはわからないが、たしかに副会長はそう言って口元にだけ笑みを浮かべると、また目を閉じて、またいきなり砂に変わって、機械的に砂時計に回収されてしまった。

「…………またか……」

 騒ぎになる前に居なくなった方が良いと思ったが、虚脱感からしばらく動けない。

 露葉会長のことが心配になってきたけれど、また僕が会いに行ったら死んでしまうのかもしれないから、電話で報告をすませよう。

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