12話 無いないいない
『生徒会、なくなっちゃうね』
電話越しに悲しげな声で露葉会長はそう言う。
「そうなりますね」
なんてことの無いようなトーンで言ってしまったのは、すこしよくなかったかな。
「僕が関わったから死んでいったみたいで……すごく苦しくて」
『きっと、そんなことは無いよ。大丈夫だよ待宵くん』
「……はい……」
まだこの人は生きている。
「露葉会長は大丈夫だと、おもいます……だって、会長だから」
情けない言葉の羅列だな。
『あはは。なにそれ。でも、うん。わかりました……』
困ったような笑い声だったけれどそれで通話は終わった。
*
生徒会室に行くときに、廊下で露葉会長とすれ違う。
あの日以来電話で報告だけを済ませて以降ろくに顔も合わせなかったから何か声をかけた方が良かっただろうか。
生徒会室の会長の席には大きな封筒が置いてある事に気が付く。
生徒会活動の文書か……?
それだとしたら会長が見るべきで気にする必要性は無いが、なんとはなしに封筒を開くと、ビデオテープと資料が数枚入っていた。
「…………っ」
嫌な予感がする。
さっきすれ違ったのは本当に露葉会長だったのか……?
テレビをつけて再生機器にビデオテープを入れる。
写し出されたのはどこかの部屋だった。
「貴方は、この質問に答えられますよね?」
映像越しに生徒会長は落ち着いた、けど楽しんでいるのを隠しきれないような声と表情でそう言う。
「あのとき。私があと少し近づいていたら貴方にしていたことはなんでしょう?」
あのときとはいつのことだろう。
僕が後でこの動画を見ること、見ないといけないことを知っているから平然とそんなことが言えるんだ。
「まぁ考えてもいないでしょう」
見ることに専念しているから考えて答えたってなにも意味も無いし。
答えたって、答えなくたってどこかで切り上げていただろう。
「答えは心臓に杭を刺す。でした」
違和感を覚える。
唐突な質問やこの状況意外のもの。いままで僕と関わってきた会長はこんなに邪悪な表情をしたことがあっただろうか。
そのあと彼女のしたことは鮮やかで華やかでもなく。鮮明に記憶に残ることのないような、面白みがない死に方で、でもこんなもので充分なんだろう。
動けないまま。
けれど凝視していて、緊張で心拍数は上がってくるし、指先からふっと熱が消えていって、呼吸すらも止まってしまったような錯覚にさえ陥った。
「ごめんなさい……貴方には迷惑だったでしょう?」
迷惑なんて。
そうだった。
でもちがうと言い切れる。
どちらかといえば、いま謝った彼女の表情が僕の関わってきた会長のものだ。
「……貴方だけ残るのには、なにか……意味があると思うの……」
声だけが聞こえる。
記憶する。
どんな声だったかまでは忘れてしまうと思うが、言葉だけでも記憶に焼き付ける。
「それが…………の気まぐれなだけかもしれないけど、でも、貴方なら……大丈夫」
死が近いのだろう。
時瀬露葉会長の目からだんだんと光が失われていく。
「さよなら」
「……さよなら。露葉会長」
映像が途切れて、画面は砂嵐に切り変わる。
目を閉じた彼女は涙を流していたように見えた。
「ごめん」
不意に口をついて出た謝罪は、誰に聞かれることもない。
……僕一人か。
何十分もなにも考えられないままチャイムの鳴った音で我に返り資料に目を通す。
一枚目は何故か学園の一階の見取り図で、一部分が黄色の蛍光ペンで囲まれている。階段があるらしい。二枚目もまた見取り図で、京華学園地下と書かれていたので折りたたんで胸ポケットにしまう。
三枚目以降は生徒会メンバーの写真と名前とそれから……狂花にされたときの改造過程の記録。
いまさら見たところでなにかが元に戻るとも思えず、該当する存在がほぼ亡くなったとはいえ個人情報なのでもう一度封筒にしまう。
学園の地下になにか助かる手段でも残されているか、望みはいくらも低い。
僕が助かる意味なんてどこにも無いのに。
まっとうな思想はなにかにつけて生きさせようとしてくる。
どんな人間だって生きていてもいいようにできているから、僕は死なないといけない。
迷惑をかけるのは嫌だから……それじゃちがうな、そんな他人の様子をうかがうような理由じゃなくて、まっと、ただ単純に生きていても無駄だから。
ぐるぐると重たい思考がまわりながら、一度倒れ込んでもまた目を覚まさないといけないし、それなら目的の場所に何があるかをみてからでも遅くは無いだろう。




