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「、、また、来てました。お嬢様」
今週に入って何個目になるかもわからない花束をおざなりにサイドテーブルへ乗せ、ミリーが複雑そうに顔を歪める。
侍女の、そのあまり見せない複雑そうな様子がおかしくて、フィリアはくすりと笑った。
「本当に、熱心な方ね、、」
置かれた瑞々しい花の花びらを、そっと撫でる。
きらりと、窓から差し込む太陽の光が、反射した。
「全く、、あの方は本当に、、」
ぶつぶつと、ミリーが小さく呟く。
素直じゃない、、究極にわかりづらい方、、子供のよう、、とだけ、なんとなく聞こえた。
「ともかくえぇっと、今日の花言葉はなんでしょうねぇ、、」
ペラペラと、ミリーが手慣れた手つきで辞典の項をめくる。
「ありました。、、謝意」
「そのままじゃないの」
二人で吹き出す。
この所ーー、とはいっても、フィリアが(不覚にも)フィリップを前に泣いてしまった日からであるが、毎日毎日、フィリアあてに大量の花が届く。
いわく、話がしたいと訪ねてくるフィリップにノーをつき続けた結果、こうなったのだという。
(なぜ、、)
花を贈り続けるのか。
彼ならば、そんなことをされた瞬間、つんとした態度で、もう二度とここに現れなくなると思ったのに。
「あの方も必死ですねぇ、、」
辞典をぱたりと閉じたミリーは、悪そうな笑みを浮かべながら、さぁ仕事、と言わんばかりに、フィリアの髪結いの準備を始める。
「ミリー、」
「はい?」
「、、貴女はなぜだと思う?」
毎日送られてくる花の意味。
話したい、という彼の心理。
「さぁ、、今も昔も、あの方の行動は私にはわかりかねますが、、」
そう言った後、ミリーはふむと首を捻る。
「あの方自身、わからずに今に至るのかもしれません」
「、、それって」
「あとは、フィリア様次第かと思われますよ」
ミリーが、ふふ、と優しく笑う。
彼女の答えはフィリアにとって、わかったような、わからないような、、また、わかっていても、違ったら怖いような、様々な感情がない交ぜになったような思いだった。
「気になるのであれば、いっそ一度、お会いしてみたらいかがですか?」
ミリーはなんてことないように言う。
「、、実はこの花はおびき寄せるための餌で、また面と向かって罵倒するための作戦だったり、、」
「フィリア様、、まぁなんて、、お気の毒に、、」
ミリーが、心底哀れんだ表情でフィリアを見る。
そうはいっても、長い間嫌がらせのようなことばかりされてきたフィリアである。
端から見ればあさっての方向に思考が飛んで行っていたのだとしても、それもまた彼の心理の一つである可能性であるとも言い切れないと、心の底から思っていた。
「、、フィリア様の思うままでよろしいかと。フィリップ様は、、まぁ、しばらく放っておいて、変わりなくいつまでも花を送ってくればいいのですよ」
相変わらずのミリーの辛辣さに、笑みがこぼれる。
「ありがとう、ミリー」
「いいえ、私はなにも」
、、とはいうものの、フィリア自身、、なんとなく複雑な思いはあった。
あれだけ皮肉を言われたフィリップに、、いつの間に、恋、、?をしていたのか。
自覚したくはないが、泣いた理由が、それ以外に思いつかない。
世間で言われる、虐げられることが好きな趣味、、でもない。
だとすれば。
いったい、いつから?どこを?
ーーいや、本当は、彼と最初に会った時から、、恥ずかしくて怖くて逃げたかったその感情の底に、その芽はそっと芽吹いていたのかもしれない。
(あぁ、、わたくしって、、自分が思うよりも鈍いのかしら、、)
なんだか無性に恥ずかしくなってきて、赤くなってきた頬を両手で覆う。
では逆に、フィリップは、、?
フィリアは、はたと考える。
どこをどう考えても、好きになって貰う要素がない。
初めて会った時の辛辣な物言い、その後の彼の皮肉に、徹底抗戦をする構え、、
、、なにひとつない。
ため息をつく。
(もう一度、会ってみようかしら、、)
ちらりと花を見て、そう思う。
悪い人ではない。
泣かせたことを、紳士の一人として、恥じているのかもしれない。
だから、もしそうなのであれば、今までよりは、少しぐらいは仲良くなれると思う。
婚約については、恐らくこのまま破棄になるだろう。
フィリア自身は気まずいがーー、友人として、仲良くなれるのなら。いつか他の好きな人ができて、そして。
「、、いつか、この日のことも笑える日が来るのかしら」
フィリアはそっと、ため息をついた。