101号室の人
七辻は引き戸式玄関をカラカラと開けるとアパートに入って行く。
引き戸式なのに、本来磨りガラスであるはずのガラス部分ががステンドガラスなのが妙に異彩を放つ玄関だ。
「凄い派手っすね……」
「綺麗デショ?」
あ、綺麗なとこ重視なんだ。
七辻に続いて玄関に入る。
まず、右手側に靴箱の上に飾られた花が視界に入った。
「おお……」
ひんやりした玄関、ひっそりとした空間に思わず感嘆の声が出る。
凛太郎はひんやり、ひっそりした所が好きなのだ。
靴箱のすぐ近くには和室らしき戸がある。どうやら居間のようだ。
その奥には別の戸と薄暗い廊下。
廊下はTの字のようになっているらしく、左右に廊下が続いてる。
続いて、玄関から見て左手側。
事務室や受付にあるようなカーテン付きの小窓が付いている所を見ると管理人室、もといい大家の部屋だろう。
玄関を上がると大家部屋の扉に『七辻名無(大家部屋)』と書かれたプレートがぶら下がっている。
二階に続く階段は大家部屋を通過した所。
つまりは、二階から玄関へ直行する時は大家部屋の前を通過しないと行けない。
個人的には二階部屋は避けたいな……
「お腹減ったし、ご飯の後に話そうカ」
そう言って、和室の前を通過して奥の扉までマイペースに進む七辻
そう言えばもう昼か。
「縁君、いるカイ?」
七辻に続いて入ると、複数の椅子とテーブルが並んでいる明るい部屋。
窓から春の光が差している。右側、カーテンの傍に薄型液晶テレビ(しかもブルーレイレコーダー付き!?)が設置されている。
左奥にはカウンターが見える。
つまりここは食堂なのか。
「おう、もう帰って来たのか。お、俊もいるじゃねぇか!後ろに居るのが新入りか?」
「久しぶりだな。縁」
カウンターの奥からガタイのいい男性が顔を覗かせる。
黒いバンダナから微かに染めたであろう金髪が見える。
ラーメン屋の店員のようなエプロンだと一瞬思ったが、その人物が着けているのは、お洒落なカフェの店員やバーテンダーがしているような腰辺りでで結ぶエプロンであったが、
ラーメン屋店員の印象は筋肉バランスのいい、ガッシリした体格と『節約!!』とプリントされた個性的なTシャツのせいだ。
両手にレザーの黒手袋をしている。
くっきりした顔つきで目付きが少し悪いが、ニカッと笑っているためサッパリとした兄貴系に見える。
ぱっと見た限りだと『面倒みが良さそうな兄貴』って感じ。
しかし、
左手には黒い服装には不釣り合いな、白い包帯が巻かれていた。
左手首から二の腕まで。いや、もしかすると左手から二の腕までかもしれない。
包帯に違和感を感じながらも、挨拶をする凛太郎。
「あ、はい!今日からお世話になります。鈴村凛太郎っす!」
男性は元気な挨拶が気に入ったのか、ニカッと笑う。
「おう!俺は百目鬼 縁だ。101号室に住んでる、アパートの賄い担当だ。よろしくな、坊主」
わしゃわしゃと凛太郎の頭を豪快に撫でる。
猫みたいな、ふわっとしたくせ毛だから後が大変だ……。
「う、うっす」
早速、兄貴と呼びたくなるような豪快さな人(住人第一号)に出会た。
「俊、来週、黎のヤツが帰ってくるらしいからよ、今度呑みに行こうぜ!」
「ああ……確かローマだったか?」
「ワインを土産に頼んだ」
「……酒に関しては目利きだからな」
「あの…………お二人は知り合いっすか?」
「ん?ああ、黎の教え子なんだっけか?黎と俊は幼馴染みで、俺は二人の中学からのマブダチだ」
「おお…………ってことは……」
「不良時代は黎が大将で俺が副将な」
誇らしげにドヤ顔で言われた。
つーか……………………どんだけ強いんだ封江教授ーーーー!!!
あんた、百目鬼さんより細いよ!?腕相撲で負けそうな位だよ!
遠き異国で現地資料調査 兼 土産を選んでいるであろう師に、心の中で大シャウトした。
「そんなことより、お腹減ったヨ」
「アンタはアンタでマイペース過ぎんだろ!!??」