ベンチの隣
(ハナハナ君と言うより、ハニハニ君の方が似合うだろ……)
そんなことを思いながら、空いているベンチに座る。
もうすぐ五月。
新緑の木々が日の光を浴びて、キラキラ輝いているように見える。
「これから どうなるんだろうな……」
人と異形達が行き交う中、ポツリと呟く。
大学入学やらサークル入部、バイト面接等のゴタゴタした中での祖母の死。
それに突然の引越し。
色々なことが一度に有り過ぎたためか、多少憂鬱になる。
(まあ、何とかなるよな!)
丁度、新たな決心を志した時だった。
「お隣、座ってもいいカナ?」
「あ、はい。どう……ぞ?」
一瞬、自分の目を疑った。
いや、体質は関係ない。
寧ろ関係して欲しいくらいだ。
それ程までにその人物は奇妙だった。
奇妙と言うより、“変人”と言った方が良い見た目だったからだ。
白いワイシャツに黒のカーディガンといったスタイルのせいか、少し細めに見える。
下は黒めのジーンズにスニーカー。
くせっ毛なうなじ辺りまでの髪はセットしてあるのか、それとも寝癖かは分からない。
腕時計やショルダーバッグ等の小物は案外センスがいい。
と、まあ。
ここまで説明すれば、タダのオシャレっぽい若者だ。
俺が言いたいのはそこではない。
その人物の顔
本来ならば、ここまで説明されるとイケメンを想像するだろう。
しかし残念な事に、その人物の顔は分からない。
いや、見えないと言った方が適切だ。
何故なら、
「ん?ボクの顔に何か着いてるカナ?」
「あ、いえ。何も…………」
(着いてるも何も、何で狐面なんか被ってんだよ!!!?)
その人は狐面を被っていたのだ。
一応、凛太郎君は準主人公です。
本当の主人公は、この狐面の彼なんです。