黒の禁忌兵装バスターモード
古の魔王――それは現在の魔王ジ・オーバーのように魔族たちを率いる王という意味ではない。
この世界に最後まで残った純粋にして強大な七柱の神々が、堕ちて〝魔〟という概念の〝王〟になったものだ。
故に何者とも共存を望まない、意思ではなく命を滅ぼすという究極の行動原理に基づいて行動しているだけの自然現象のようなものだ。
たまに何かと協力したり、意思を感じさせる場合は、命を滅ぼすための過程で必要だったために生まれた一時的なモノだ。
エルムが元いたバングズ王国に復活して、ブレイスを利用した嫉妬の魔王もその一柱だ。
命を滅ぼすための手段はその名の通り〝嫉妬〟だ。
生者を憎むアンデッドの嫉妬を利用して、バングズ王国のあった大陸を密かにアンデッドで埋め尽くし、その中にはエルムを逆恨みする貴族アンデッドたちの姿もあった。
それと同時にブレイスのエルムへの気持ちを反転、嫉妬に変換させて天敵である竜装騎士を陥れようとしていた。
だが、ブレイスは強引に蘇らせられてアンデッドにされても、その魂を磨り減らしながら必死に耐え続けた。
自分に残された少ない時間を使い、嫉妬の魔王に感付かれないようにエルムにアンデッド対策を施していたのだ。
そして今、嫉妬の魔王はバングズ王国の大陸からアンデッドを載せた船団を数万引き連れて、ボリス村の海岸へと航海していた。
大陸全ての船を使ったような船団は海を黒く染め、さながらひしめくアリの大群かのように見えるくらいだろう。
嫉妬の魔王は巨大な身体で頭部の触手が髪のようになっていて、全身に目を持つという異形の存在だ。
これも肉の身体ではなく、エーテルという魂と魔力が混合された精神体で形作られたものだ。
嫉妬の魔王に意思はないのだが、その存在意義である命たちを〝嫉妬〟の概念でもうすぐ消滅させることができることには、喜びのようなものを感じていた。
人間で言えば、腹が減ったときに何かを食べたときに自動的に湧き出てくる喜びのようなものだろう。
条件反射に近い、感情と呼べるのかも怪しいモノだ。
嫉妬の魔王と、数万ものアンデッド軍団がボリス村のある大陸に到着したら、瞬く間にアンデッドが増殖し、元凶である嫉妬の魔王という〝神〟を倒せる者もいないと確信していた。
そのはずだったのだが――。
『!?』
嫉妬の魔王の全身の眼が、海を挟んだ大陸で何かが待ち構えているのを発見した。
それは六百年前に封印してきた相手――エルムだった。
そこでアンデッドにしたブレイスが失敗したのだと悟った。
だが、それだけで何も影響はない。
六百年前もエルムはその頑丈さとスタミナでひたすら交戦してきて、長時間かけてやっと封印を成し遂げただけなのだ。
数万のアンデッド軍団がいれば、倒せなくても足止めができるし、何ならエルムを放っておいてこの大陸もアンデッドで埋め尽くすというのも可能だ。
問題はない。
――そのはずだったのだが、嫉妬の魔王の算段は一瞬にして崩れ去った。
エルムは見た事もない黒い鎧を着ていたのだ。
そこから放たれる魔力量を感じ取り、悟ってしまった。
アレは神々と戦うための神器――宇宙規模の主神殺しだと。
***
「モードチェンジ――〝黒の禁忌兵装バスターモード〟」
バハムート十三世は自らの身体をエーテルに変化させ、エルムと一体になった。
万象神凱は七つ目の色を示す。
強力すぎて普段は使うことのできない色。
それが〝黒の禁忌兵装バスターモード〟である。
その名の通り黒い鎧だが、それは異質であった。
邪神龍テュポーンのライバルである、主神ゼウスの神器〝雷霆〟の輝きでさえ飲み込みそうな――黒。
「バハさん、やっぱりこのモードは何か他とは違うな……」
「そりゃそうだよ。主神からパクッ……んん! 下賜された鎧の力を一番引き出してる状態だからね! ケイ素生命体が混じっている神の鎧だから、ちょっと〝こっち〟とは雰囲気が違うんだよ」
用途不明の光るラインや、溝などが人知を越えた精密さで彫られている。
各部から小さな駆動音が響き、動きを補助していることを感じられた。
「それにボクの身体を通して、5000匹の竜軍団を炉としているんだ。やろうと思えば大陸……いや、宇宙の銀河一個くらいなら滅ぼせるよ」
「話の半分もわからないが、ようするにバハさんの〝黒〟は強力すぎるということだな……。もう一度確認するが、あそこにいるアンデッドたちはもう助けられないんだな?」
「うん、残念ながら魂が消滅して腐敗した肉体だけになってるね」
「わかった、せめてもの手向けだ――目の前の邪神船団を一瞬で消滅させるくらいの力で頼む」
「1%以下で充分だよ、エルム」
「わかった――それじゃあ――」
神槍が黒モードに適した形へと変化していく。
それは槍の形をした砲だった。
「異界の主神オーディンよ、俺に力を寄越せ。――絶対勝利、ただ其れだけの為、魔呼びし邪神を穿ち殺す楔と成れ」
神槍砲に凄まじいエネルギーが集まっていく。
物理法則を無視しているはずなのに、熱とエーテルが鎧を赤黒く染め、雷がスパークし始めている。
(くっ、持つのか!?)
「エルム、ボクが一緒だっていうことを忘れないでよね。制御は任せて」
鎧となっているバハムート十三世は、背中の翼を大きく広げた。
余剰エネルギーが翼に集まっていき、背後の空間だけを歪めていく。
(これなら……!)
エルムは、この一撃で〝過去〟に決着を付ける。
魔王の手によって何もかも失い、ゼロになっていた自分。
そして、同じようにすべてを失っていたバハムート十三世。
その二つのゼロが合わさり――
「いけるよ、エルム!」
「最強の邪竜と竜装騎士の名において――我放つ――〝必滅せし黒炎の神槍〟!」
エネルギー量無限とも言える黒炎が放たれた。
空間がねじれ、11次元まで崩壊していく。
神ですら宇宙ごと焼き切る神話の主神殺し。
視点は大海原に向かっていたのだが、見える範囲すべてが黒いエネルギーの奔流に染まった。
それが数秒間続き、射線上にあったモノは宇宙空間にある星ですら消滅していた。
もちろん、嫉妬の魔王と、そのアンデッド船団も例外ではない。
再生できないレベルまで全身を消滅させられていた。
「お疲れ様、エルム」
「ふぅ……」
黒い鎧の翼が大きく展開され、熱を吐き出していく。
次回、最終話です。





