表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
恋は虹色orドブ色?  作者: 黒辺あゆみ
第二話 地味女の夏休みの始まり

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

11/50

4

そういえば新開会長は「そのうち店に顔を出す」って言っていた。

 あの時は近藤の家が喫茶店をしているなんて知らなかったので、なんの暗号かと思っていたが。

 ストレートに「家に遊びに行くよ」宣言だったようだ。

「こんにちは弘樹」

新開会長は入り口のあたりに立って、微笑みを浮かべて厨房の奥にいる近藤を真っ直ぐ見ている。

 由紀のことは全く視界に入っていないようだ。


 ――えーと、どうしようかな。

 本来ならば由紀は客をすぐに席へ誘導するべきである。

 しかし新開会長はたぶん、近藤に席へ案内してもらいたいのだろう。

 由紀の眼鏡の端まで漏れるように、新開会長の纏うピンク色がチラチラとうつり、恋愛アピール全開である。

 これに対して近藤はというと、新開会長にちらりと視線を寄越しただけで、特になにを言うでもなく、その場を動かない。

 由梨枝もそんな息子と新開会長を、困ったように見比べている。


 ――誰も出て来んのかい。

 であれば仕方ない、元々客の応対は由紀の仕事である。

 由紀は新開会長に見えるように、前に回り込む。

「席へご案内します」

そう声をかけると、ここで初めて新開会長は由紀の存在に気付いたらしい。

「あら? あなた……」

「その節はどうも」

新開会長はぶつかった相手のことを覚えていたようだ。

 目を見張る彼女に由紀はペコリと頭を下げつつも、席に誘導する。

「こちらの席へどうぞ」

由紀がそう言って窓際の席へ案内しようとすると。


「え、出来ればカウンター席に……」

新開会長が座ろうとするカウンター席は現在結構混みあっていて、他の客と間を空けることができない。ゆったり座れるようにと、空きのある窓際を進めているのだが、恐らく新開会長は近藤のいる厨房が見える席がいいのだろう。

「えっとぉ」

どうするべきかと、由紀がチラリと厨房に視線をやると、近藤が小さく首を横に振っている様子が見える。

 ――相手をしたくないってか。


「ただいま混みあってますので。あちらの方が一人でゆったり座れて寛げますよ」

由紀が窓際の席を押すと、実際混んでいることもあり、新開会長は渋々窓際の席に座った。

「ご注文が決まりましたら、お呼びください」

一礼してとっととこの場を去ろうとする由紀だったが。

「あなた、どうしてここに?」

新開会長はそれを逃すまいとするかのように、テーブルに置いてあるメニューを開きながら問いかけた。


「夏休み中のアルバイトです」

由紀はできるだけ笑顔を作って答える。

 それ以外に、エプロンを着けてここにいる理由があるとでもいうのか。

「……そうなの」

この答えに新開会長が低く声で相槌を打つ。

 由紀はその様子が気になって、眼鏡を直すフリをして、少しずらして相手を見る。

 ――およ?

 新開会長の纏うピンクに、微かに黒が混じっていた。


あれから近藤は厨房から出てこないままだ。

 丁度立て続けに客が来て、忙しかったのも幸いしたのだろう。

 奥でひたすらドリンクを作り続けている。

 けれど新開会長は近藤を待って、ケーキセットで二時間粘った。

 ――頑張るなぁ。

 だが由紀はすごく気まずい。

 なにせ新開会長の横を通るたびに、「どうしてお前なんだ」という視線が突き刺さるのだ。

 出てこないのは近藤なのに、えらい八つ当たりである。


 けれど粘った新開会長も、そろそろ帰らなければいけない時間になったのか。

「お会計、お願いします」

憮然とした顔で席を立つと、レジに向かった。

「ありがとうございました」

伝票を置いてお金を出す新開会長に、レジを打つ由梨枝が爽やかな営業スマイルを向ける。

 ガン無視し続けた息子を待っていた相手なのに、由梨枝はさすが経営者というべきか、神経が図太い。


 新開会長が由梨枝からプイっと目を背け、無言で店を出て行くのを、由紀はガラス越しに見送る。

 ――また来るかなぁ、もう来ないといいなぁ。

 気疲れした由紀が肩を回していると。

「西田さん、上がっていいわよ」

由梨枝に上がり時間を告げられた。

「はい、お疲れ様でした」

由紀は上がりの挨拶をして、脱いだエプロンをロッカーに仕舞うと、厨房を覗く。

 あの気まずい空気を吸わされた身としては、近藤に一言物申したい。


 アイスコーヒーを作っている近藤に、由紀はススッと近寄る。

「あの一画だけ、空気が悪かったんだけど」

背後で腕を前で組む由紀を、近藤はちらりと振り返るが。

「エアコンが壊れたんじゃねぇの」

ボソッと言うと、またアイスコーヒー作りに戻る。

 ――ふーん、そういうこと言うんだ。

 しらばっくれようとする近藤に、由紀は白い目を向ける。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ