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蛇に睨まれた蛙のように、不良に睨まれた地味女は一瞬固まり、ギュンと音がしそうな勢いで首を逆方向に巡らせる。
「……んだよ、なにが言いたい?」
しかし近藤は興味を逸らしてくれず、低い声で凄まれた。
威圧感を醸し出されて、「なんでもないです」とは言い辛い雰囲気だ。
仕方なく由紀は向き直り、さすがに料理への恨み節は恥ずかしいので、気になっていることを尋ねた。
「どっか遊びに行かないの?」
「このクッソ暑い時に、どこへだ」
近藤が眉を寄せて問い返す。
どこへと言われても、どこにでも行けばいいと思うが、とりあえず不良の定番出先をひねり出す。
「えー……、乱闘現場とか?」
「暑い時に暑苦しいモン見に行くとか、地獄じゃねぇか」
近藤がすごく嫌そうな顔をした。
――まあ、そうかもね。
由紀も自分で言っておきながら、夏に乱闘はないなと思う。
喧嘩になっても、大人しくゲームセンターで勝負を決めていれば、お互いに涼しいに違いない。
「でも、手下がやられたら出番が来るんじゃないの?」
不良同士の抗争は、時折漫画のネタになる。
現実にもそう言った事例があるのではなかろうか。
「なんだよ、その手下って」
興味半分怖さ半分で聞いた由紀に、近藤が訝しむ顔をした。
「え、いつも学校で群らがってるのがいるじゃん」
金魚のフンのごとく近藤の行くところはどこへでも付いて行く軍団を、手下と言わずしてなんなのか。
「アレは勝手に群れてる、赤の他人だ」
だが、近藤はバッサリと切り捨てた。
――赤の他人って、アンタ。
虎の威を借る狐のごとく、近藤の怖さを借りて結構なヤンチャをやらかす集団なのに。
あんなに騒がしくて迷惑な赤の他人が、あっていいものなのか。
じいっと疑いの視線を向ける由紀に、近藤は少しバツの悪そうな顔をする。
「……中学の頃は、ちぃっとだけグレてたけどよ。今は違うぞ」
あのやたら群れている赤の他人軍団は、近藤と同じ中学出身の不良たちらしい。
あの頃の思い出を忘れられない軍団が、散らしても散らしても群がって来るのだという。
「今はアイツらが出入りするような場所には行ってない」
近藤の言葉を信じるならば、不良は卒業したということか。
「じゃあ、なんで髪染めてるの?」
髪を黒くして、不良卒業アピールをすればいいのに。
そうすれば軍団も自然消滅しないだろうか。
髪を染めないでいたら、近藤も案外普通に見えるかもしれない。
大学生以上になれば違うのだろうが、高校生だと髪染めイコール不良である。
由紀の疑問に、近藤は「はあ」とため息をついた。
「俺のこれは地毛だ。俺のばーさんがイギリス人とかで、子供の頃からこの色だ」
「え、そうなの!?」
――初耳なんだけど!
言われてよくよく見れば、近藤の髪の色は由梨枝と同じである。由梨枝の方は普通に白髪染めだと思っていたが、それがまさかの地毛宣言である。
「なんでそれ言わないのよ!」
「聞かれれば言ってるが、聞かれもしないのに言いふらすのもおかしいだろう」
確かにそうかもしれない。
近藤曰く、学校側には伝えてあるとのこと。
思い返せば、たまに抜き打ちで行われる風紀検査に、近藤が引っかかっているのを見たことがない気がする。
だがまさかの新事実である。地毛であれば黒に戻して真面目になりましたアピールをしようがないし、そのためにわざわざ黒に染めるのも違うだろう。
「じゃあ、いつかファミレスにいた強面たちは?」
あれも不良じゃないのだろうか。
近藤とツルむ連中は、皆不良だとばかり思っていた。
「……強面っておめぇ。俺がいつもつるんでるのは、バイク仲間くらいだ」
――バイクとな。
近藤は由紀と同じく徒歩通学組なので、バイクに乗っているところなんて見たことがない。
家に置いてあるのだろうか。
ここまで近藤がなにを聞いても答えてくれたので、由紀はついでに聞いてみた。
「あの公園のにゃんこは?」
「……母さんが猫アレルギーなんだよ」
なるほど、コッソリ公園でお世話をしているのか。なんだかいじらしい脱不良男である。
というわけで結論。近藤は不良ではなく、猫好きのバイク乗りだった。
由紀が昼食を食べながらの聞き取り調査を終えると、午後のティータイム突入である。
本日のケーキはチーズスフレケーキとイチゴのショートケーキだ。
――このケーキ、どこから買っているんだろう。
後で近藤か由梨枝に聞いてみようか。
由紀がそんなことを考えながら、注文の品をせっせと運んでいると。
カランコロン
入り口ドアのベルが鳴った。
土曜は平日だった昨日に比べて、さすがに客が多い。
「いらっしゃいませー」
由紀がしながら入り口を見ると、黒のストレートロングヘアを風になびかせた女子がいた。
――あ、新開会長だ。




