表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ルディア戦記  作者: 足立葵
第四話「地を染める千草の花」
PR
91/162

盤上の決闘

 地図と計画という意味をかけてプランと呼ばれるそれはチェスに似ている。

 元は敵の位置取り、大妖の縄張り、地形上の難所を俯瞰的に把握し、部隊の展開、物資輸送のルートなど作戦立案をスムーズに行う目的で地図上にチェスの駒を置いて作戦を議論したのが始まりと言われている。

 その由来もあってチェス以上に実践的要素を含むプランはチェスのようなゲームとしてではなく、士官学校の戦略論や戦術論の授業において実習の代わりに対戦が行われている。実際に将校になってからも大規模な軍事作戦の際、地図の上にプランで用いられる駒を置いて作戦を練る者は少なくない。将来、部隊を指揮運用する用兵家としてこの科目は実技と同等かそれ以上に重要である。

 

「あっちゃぁ~アンタそれで許可しちゃったの?」

 士官学校のプラン公開対戦室の観覧席で一通りの事情を聞いてルクレティア呆れ声を上げる。

 ヴァイオレットがエバーたちの抗議に対して行った説明は、ノワは座学――とりわけ戦術論と戦略論に長けている、ということ。そして、その長所を伸ばすためには作戦指揮を執る上級将校の側に置いた方がいいとローズが判断した、ということ。

 しかし、これも軍という組織の悪習の一つなのだろう、その重要性に反して戦略論や戦術論は教官の評価基準が曖昧だったり、教官自身が偏った考え方を持っていたり、と正しい評価がされないことも少なくない。その所為でこの科目の成績が優秀でも眉唾物として見られることも多い。

 当然、エバーもそれに同調した新士官の次席デュクロ少尉もその点を上げた。そこでヴァイオレットが『ならば、公開対戦で彼女の実力に示させれば納得しますね?』と提案し、エバーたちは合意した。ローズは事後承認だが、ノワの実力が本物ならば受けて立つしかない。

「ゴールド少尉、かわいそ~~~大佐に利用されて、その挙句が公開処刑とか……」

 第二旅団の人事に対して陰口を叩く輩を黙らせるためのヴァイオレットの画策にまんまと利用されているエバーの冥福を祈ってルクレティアが十字架を切る。

「お言葉ですが、エバーだって学年上位の成績ですよ! 五年のときの合同演習での失点さえなければ首席だった可能性もあるんですから!!」

 エバーの敗北を前提にしたルクレティアの言い様にクーシェが抗議する。

「ゴメン、ゴメン。でもね、クーシェの友だち思いはわかるけどムリよ」

「やってみなくっちゃわかりません」

 プイッとルクレティアから視線を切り、未だ対戦者のいない対戦席に視線を固定するクーシェにルクレティアは肩をすくめ、ローズに囁く。

「でも成績上位者ならなおのことこの公開処刑は辛いんじゃない?」

「私もそう思うんだが……たぶんヴィオラもノワの実力を侮っているんだろうな」

 そんな二人のやりとりを見て、ノワのことを知らないスカーレットが訝しげに問う。

「貴女たちはトレナール准尉の勝利を信じて疑ってないみたいね」

「まあ私もトレナールにぺしゃんこにされてるし、ローズだって確か負け越してるもの」

「えっ!? どういう……」

 スカーレットが詳細を訊こうとしたが、観覧席に起こった騒めきがその声を呑み込んだ。

 審判を務める士官学校の戦略論教官フィリドール教官と手伝いの助手が二名。次いで槍玉に上がっているノワ、その後ろに続いてエバーとデュクロ少尉、それとマチルド指揮下の中尉の三人が抗議者の代表として姿を現した。

「三対一の変則戦?」

 ルクレティアが疑問を口にした理由は、プランは通常一対一で行うものだからだ。

「いや、ノワが三人と連戦する形らしい」

「三戦で二勝すればトレナールを認めるってこと?」

「いや、三連勝が条件だ」

「ずいぶんキツイ条件ね」

「それ一本で抜擢されたならそれくらいはできて当然というのがエバーたちの言い分だな。それに、舞台を整えたヴィオラにしてみれば人事の正当性を証明したいわけだから多少ノワに不利な条件にした方が効果的なんだろうな」

 最初の対戦相手である中尉とノワが歩み寄り、握手をして一礼。それから互いに背を向けて自分の席のある衝立に囲われた空間に姿を消した。

 プランは同じ地形図が描かれた盤を三面用いて行う。一面は公開盤で、対戦者は公開盤を挟んで相対する。残る二面はそれぞれ対戦者の盤。対戦者とその盤は衝立で囲われ、マスター以外には見えないようになっている。

 フィリドール教官が長々とした口上と条件説明をしてから開始の笛を吹いた。

 プランはチェスとは違い対戦者は互いに相手の駒の動きが見えない。最初は各々の拠点からスタートするがそこからどのように配置するかは全くの未知数。もちろん、互いに敵の配置を予想するだけでは運の勝負になってしまうので、偵察の駒を動かして索敵を行い、少しずつ敵兵の配置と数を把握していく。両者がどのように駒を動かしているかリアルタイムでわかるのはマスターが両者の手筋を再現している公開盤だけである。

「序盤は探り合いがセオリー……なのよね?」

 語尾が疑問形になっているのはスカーレットが士官学校に通っていないためだ。プランについては聞きかじったか、教本を読みかじった程度の知識しかないのだろう。

 本当に一度士官学校に放り込んだほうがいいかもしれないな、と一度真剣に考えてから首肯する。

「プランは遊戯(ゲーム)ではなく、訓練だからな。チェスならば相手の手はすべて見える――少なくとも盤面上は把握できるが、実際の戦では盤面を眺めるようにはいかない。だから、断片的な情報から戦況の全体図を予想し、対応する力が求められる。それを養うのがプランの目的の一つなんだが……」

 しかし、中尉は拠点確保を行わず、探索も最低限に留めて、全軍を真っ直ぐノワの拠点へ向けて進軍させている。これはおそらく

「短期決戦の腹か? あんまり賢い戦術とは言えないな」

 唐突に背後からかかった声にルクレティアとスカーレットが飛び上がらんばかりに驚き、クーシェに至っては実際に小さく飛び上がった。

「普通に現われろ心臓に悪い」

「そういうセリフは二人みたいに少しは驚いてるヤツがいうもんだぞ」

 騒動を聞きつけて見物に来たヴィクトールと久しぶりに軽口を叩き合う。

 スカーレットの目を掻い潜って抜け出してきたときのマーガレットと同じように目を輝かせている。騒動を楽しんでいることを隠す気すらないらしい。

「どうぞ、ヴィクトール様」

 スカーレットが一席ずれてローズとの間の席を勧める。

「おっ、サンキュ。で、この中尉はどんなヤツなんだ?」

「士官学校卒業時の成績は中の上から上の下。真面目で中隊長としてならそれなりに使えるが……一部の部下からは評判が悪い。何より上官に対して反抗的で、過去に命令を無視した行動で部隊を危機に晒し、そのことが理由で出世が止まっている」

「なるほど、サル山の大将タイプか」

 小さな集団の中では長になれるが大集団をまとめるには視野が狭く、思慮が足りない。一手先を読んだ行動がとれず、短絡的になりがち。その性質が今まさに盤上に表われていた。

「それはわからないが、少なくとも私とヴィオラは大隊クラスを任せる気にはなれなかったし、この戦い方を見て間違っていなかったと思っている」

「どうして? 敵が布陣を終える前に叩くのも立派な戦術の一つでしょ?」

 兵は拙速を尊ぶ、という用兵の常識の一つと照らし合わせると矛盾するローズの発言にスカーレットが疑問をぶつけると、

「確かに間違ってはないんだがなぁ」

 とヴィクトールが苦笑いをし、ローズに目くばせする。

「士官学校でも戦略を無視した手として悪手とも言う教官もいるが、逆に戦術的には優れた手だとして好手と言う人もいて意見が別れるところだな」

 兵は拙速を尊ぶ。たしかにそれは正しい。しかし、それも状況による。中隊規模――大きくとも大隊規模の部隊の指揮ならばそれで正しい。しかし、連隊規模以上の指揮官となれば局地戦を担う一部隊長としてではなく、戦況全体委ねられる立場になる。情報戦、兵站の確保、など戦術的思考の枠を超えた戦略的思考力を求められる。

 序盤は索敵と拠点確保というプランのセオリーは単にその手法が合理的だからではなく、戦略的思考力を鍛えるために推奨されているからである。つまり、序盤の速攻というのは戦略を学ぶという目的を無視した行為なのだ。

「いるのよねぇ、白星欲しさにこういう戦術とるヤツ」

 揶揄するルクレティアをスカーレットがねめつけるが、スカーレットも速攻を擁護したような自分の発言が的外れなものだったと理解しているのでそれ以上のことはしない。

 ルクレティアの言う通り、中尉のような戦術を採る者も士官学校の生徒には少なくない。むしろ中堅の学生はそちらの方が多い。セオリーに則ると序盤の守りが薄くなることが多く、その隙を突くことで白星を得やすいのだ。特に、序盤の隙を補うだけの力がない上の下から中の上の者に対して有効なため、その直下に位置する中堅の生徒は安易にこの戦術を採る者が後を絶たない。

「是非はともかく、この程度の稚拙な速攻ではノワには通じない」

 冷静に分析するローズの視線の先、盤上のノワの本陣に直前の地点にはノワが有利な地形を確保し、そこに約三分の一の兵力を据えて待ち構えている。全軍を進撃させる中尉も遠からず気づくだろう。

 ちなみに、プランはチェスとは駒ごとの勝ち負けも違う。チェスでは攻めた側が勝つが、プランでは各々の駒に兵力と兵科が決まっており、同種同数の場合は一部例外を除き膠着状態となる。また、有利な地形や城や砦を守る場合には守る側の兵力が多く計算されたり、兵科によって進軍速度や戦力価値に違いがある。

「地形を利用して三分の一の戦力で敵の足止めか……本陣を攻めるには大きく迂回するか突破するかしかないわけね」

 ノワが防衛ラインを引いたのは本陣直近。しかし、それだけに中尉には選択肢が限られてしまう。長距離進撃で、しかも兵站を確保していない中尉の軍にとって戦いが長引くことはそれだけで不利に働く。迂回も小さい迂回ではノワの本陣を攻める際に挟撃される危険を抱え、大きく迂回すればやはり兵站の問題に苛まれる。残された手はノワの防衛ラインを突破することくらいだが、単純な正面突破はやはり時間がかかり、しかも消耗戦となる。

「きっと『頭でっかちの小娘なんて軽く捻ってやる』とか考えてたんでしょうけど、コレはもう詰んだわね」

 進撃ルート上にノワの軍が布陣していることを察知した中尉の手が止まったのを見てルクレティアが告げた。

 速攻を選択するような人物が、速攻を止められた場合のことなど想定しているはずもなかった。勝ち目のなくなった中尉は無策のままノワの防衛ラインを攻め突破を図ったが、十数ターン後、兵糧不足による負けの判定が下された。

 

「あっけなかったな」

 呟いたのはヴィクトールだったが、ローズたちはもちろん代表三人を応援に来ていた者たち、騒ぎを聞きつけて面白半分で観戦に来た者たちもほとんどが同じ意見だった。ノワの采配勝ちというよりは中尉の自滅という印象だ。残るエバーとデュクロ少尉の結果次第では人事の正当性を証明するどころか不満の火が大きくなりかねない。

(大丈夫なんだろうな、ヴィオラ)

 心配してこの一件を任せた副団長を見る。

 反対側の観覧席に座っているヴァイオレットの顔ははっきり見えた。ここまでの不甲斐ない展開は予想外だったのだろう。苦虫を噛み潰したような渋面で衝立に囲われた席から出てきた中尉を睥睨していた。

 不安と憂鬱が大きくなりため思わずローズが息を吐く。

 しかし、そんなローズ心配を余所に公開盤の向こう側では第二戦の対戦者デュクロ少尉とノワが歩み寄り、握手を交わしていた。

「アンタが出て来るなんて意外ね」

 言葉通り意外そうな表情を浮かべてノワが言った。

「なんだ? 挑発のつもりか?」

「ただ意外なだけよ。アンタは私より弱いけどそっちの先輩と違って私に勝てないってことがわからないようなバカじゃないもの」

 挑発のつもりはない、という言葉の真偽を疑いたくなるような挑発的なノワの発言にも同級生のデュクロ少尉は慣れているらしく、少し不快そうに眉根を寄せるだけだった。むしろ、ギリギリ聞こえる程度の会話を聞き取ったエバーの方が、ノワに掴みかかって殴りたい、という衝動に襲われていた。

「へッ、好きに言ってろよ」

 何か秘策でもあるような笑みを浮かべてそう言い捨てるとデュクロ少尉はノワに背を向けて自分の席に着いた。

 

 ノワ対デュクロ少尉の戦いは一戦目とは打って変わって定石通りの静かな滑り出しだった。互いに着実に勢力図を広げ、一か所でも多く有利な地点を抑えつつも、戦力分散の愚を犯さないように距離とバランスを考えて戦力を振り分けていった。互いに手堅い采配で盤面はほぼ五分と五分の状況で拮抗した。

「さっきとは打って変わって静かな戦いね」

 少し退屈したようにスカーレットが呟く。

 いくらうまい試合運びとはいっても、それが三時間以上続けばただ観戦しているだけの観客は飽きもする。特にここ三十分あまりは両者ともに示威行動や欺瞞行動のような一見すると意味のない行動ばかりだった。スカーレットだけでなく、ルクレティアやクーシェ他の観客もほとんどが飽きはじめていた。

 しかし、そんな中ローズと他にもごく一部の者は固唾を飲んで見守っている。ヴィクトールの表情も先ほどとは違い真剣さが勝っている。

「あっ……」

 そんな二人の様子を訝しんだルクレティアが改めて盤上に集中して十数手が進んだときに事態に気がつき、小さく息を飲んだ。ルクレティアと前後して事態に気がついた者が少し増え、何かあることを察したクーシェとスカーレットは一層真剣に盤上を見つめ、

「判定狙い……?」

「ああ」

 クーシェの呟いた答えをローズが短く肯定した。

「どういうこと?」

「プランには引き分けがないことは知ってますよね?」

 事態を飲みこめないスカーレットにクーシェが確認する。

「ええ、チェスなら同じ手が三度繰り返されるとスリーフォールド・レピティションで申告して引き分けだけど、プランは同じ手が十周繰り返されると試合はそこまでにして判定勝敗になるのよね?」

 プランは明確な勝ち負けはもちろんのこと、例え盤上引き分けでも、そこまでの運びや被害、対応力なども考慮される。例えば形勢不利な側が何とか拮抗させ盤上で引き分けに持ち込んだとしても、自軍に大損害を出していた場合は減点となり判定負けになる。なお、十周というのは盤面が広く、均一ではないプランでは単純に同じ手が繰り返されることばかりではないため十回同じサイクルが続いた場合とされている。

「でも、引き分けがないなら……あっ、そういうこと!?」

 判定を下すのは審判。だが、両軍の被害状況、地理的優劣、そこまでの運び、引き分けに持ち込まなければどうなっていたのか、など様々な基準があるために審判がどのような判断を下すかは拮抗した試合ほど予想することが難しい。

「判定は審判の胸一つ……だが、今回ノワは圧勝して当然と見なされていて、実際条件もそうなっている。この状況で引き分けは事実上ノワの負けだ」

 拮抗させるまでの、そして拮抗させてからの試合運びを振り返れば最初から攻める気がないこと――拮抗させることこそが目的だったとわかる。

「デュクロ少尉か……相当な策士だな」

 これで次席というからにはもちろん実技もできるのだろう。優秀な新人の存在は嬉しい誤算ではあるが、ノワの敗北は余計なしこりとなって今後も第二旅団を苛むことになる。

 

「なるほど……判定狙いってわけね」

 衝立に囲まれた閉鎖的な小空間で手元の盤面を睨みながら苦々しげにノワがひとりごちた。

 盤面はほぼ互角だが、ほんのわずかに自分がいい、とノワは自負していた。判定に持ち込まれても自分が勝つ見込みが高いとも思っていた。しかし、それが、通常なら、と限定されることを自覚してもいた。

「このまま同じことを繰り返せば判定……はおそらく私の負け」

 苦々しく歯噛みしていたノワの口元から力が抜け、緩やかに吊り上がる。

 やられた、という思いはノワの内にあったが、それは痛恨ではなく痛快だった。盤上だけでなく、盤外の状況まで考慮して自分を嵌める戦略を立てていたデュクロ少尉の強かさは賞賛するしかない。しかし、

 

「トレナールが拮抗を崩した!?」

 ノワが空けるわけにはいかなかったはずの要所から駒を動かし、別のポイントへと合流させようとしている。

「隙を作って誘い込むつもりかしら?」

 現在の拮抗はノワが下手に攻勢に出られないような固い形をデュクロ少尉が作っていると言った状況。ならば、あえて隙を作り、その形を崩させよういう狙いは至極真っ当なのだが、

「あんな見え見えの誘い誰も乗りませんよ」

 クーシェ同様デュクロ少尉もノワの作った隙を誘いだと判断したのだろう、動かずただ守りを固めている。しかし、一手、二手、三手とノワは自らの隙を大きくしていくにしたがってノワの意図が別のところにあることに盤面全てを俯瞰して見られる観客は少しずつだが気がついていった。しかし、

 

「あっ!」

 索敵で得た情報だけが頼りのデュクロ少尉は気がつくのが遅れた。ノワが駒を動かしたのは隙を作るためではなかったということに。少しずつ何手もかけて一か所――デュクロ少尉の主力が集まる地点をまるで包囲するように集結させていたことに。

 もし、デュクロ少尉が最初から判定に持ち込むつもりではなく、戦う気で望んでいたならば気づけたかもしれない。しかし、彼は今回のノワの置かれた立場を利用するプランに固執してしまった。結果、デュクロ少尉が気づいたときにはすでに彼の主力は逃げようがなかった。ノワは勢力図を一時覆されることを代償にデュクロ少尉の主力を潰した。

 ただ騒ぎを聞きつけてきた純粋な観戦者たちの健闘を讃える拍手に衝立から姿を現したデュクロ少尉は特に敗北のショックもない様子で答える。

「彼にしてみれば負けてもいいということか」

 ローズが感心と関心を込めて呟いた。

 都合で卒業演習が省かれたことで今年の卒業生たちはその実力をアピールする機会を失った。それでも全員扱いが同じならば成績が優秀な彼は有利だが、配属された先の旅団の団長であるローズには自分以外に目をかけている者がいる――その状況では次席という評価も形骸化してしまう。しかし、自分には力がある、ということをローズに示せれば次席という評価は息を吹き返す。つまり、デュクロ少尉はローズの前で善戦した時点で目的を達成していたのだ。

「彼まで盗らないでよね! 彼持ってくならノワとトレードよ」

 しかし、そんなローズの反応を見てすでに彼を勝ち取っていたルクレティアが釘を刺した。

 そして、デュクロ少尉が退場するのと入れ替わりにエバーが公開盤の前に歩み出た。遠目に見てもエバーがノワの手を握り潰そうとしているのがよくわかるような力の籠もった握手を交わしながら、二人はついでに言葉も交わした。

 そのやりとりの詳細はローズたちの元までは聞こえなかったが、エバーが興奮気味に何かを否定したらしいことだけはわかった。しかし、ノワが返した言葉に何かショックを受けたらしく握り合った手を解いたときエバーは何やら動揺した様子だった。

 その動揺から立ち直れないままエバーはノワに惨敗した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ