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ルディア戦記  作者: 足立葵
第四話「地を染める千草の花」
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新入り騒動

「ちょうどいい、みんないるな。聞いてくれ!」

 執務室に戻って来たローズは部隊長たちの顔を見渡して声をかけた。

「今ウチに配属される新人十名が決まった。各部隊に一人二人配属することになる。すでに周知のことだが、今年は著しい人員不足を補う目的で新士官の配属を前倒した都合で恒例の卒業演習が行われないからこの資料だけで選んでくれ」

 そういって九部の資料を皆の手の届く位置に滑らせた。

 真っ先にルクレティアが手を伸ばし、次いでヴァイオレット、スカーレット、マチルドが各々一、二部ずつ資料を手に取る。見終えた資料を自然と隣りに回し、各自がすべてに目を通していく。

「アレ?」

 一巡してすべてに目を通したところでルクレティアが声を上げた。

「トレナールは? アンタがあの娘指名したってソレイユ少尉から聞いたんだけど」

「ノワの成績ならこれだが……ノワはやらんぞ」

 ローズが手元にキープしていた一部を掲げて予防線を張る。

「ちょうだいよ! あの娘は後方勤務向きでしょ」

「悪いが私もいい加減副官なしというわけにはいかないんでな」

「副官なんて誰でもいいじゃない! 今旅団の後方ほとんど私一人で仕切ってんだから有能な補佐の一人くらいくれてもバチは当たんないと思うけど?」

「それを言うなら私もけっこう忙しいんだ」

 ズルい! とルクレティアが子どもっぽい抗議の声を上げ、ローズと言い争いをはじめる。ルクレティアも相当ノワを欲しいらしく、ついにはじゃんけんで決めようとまで言ったが、ローズは応じなかった。

「貴女たちが取り合うなんてそのトレナールって娘優秀なのね」

 二人の取り合いがひと段落したところでスカーレットが呟くと二人は意味ありげに顔を見合わせ、

「ま、優秀と言えば優秀だな」

「そうねぇ、優秀よ」

「? 意味ありげな言い方ね」

「卒業時の席次はいくつなんですか?」

 もったいつけた二人の答えにスカーレットだけでなく、ヴァイオレットまで関心を示した。

「席次は……九十六席だな」

 手元の成績表を見てローズが答えるとあからさまにヴァイオレットの表情が一変した。

「今年の卒業生は確か九十六名だったと記憶していますが?」

 記憶も何もたった今目を通した成績表にはそれぞれ九十六分のいくつという形で席次が記載されているから間違いようがない。ローズが肯定すると「准将!」とヴァイオレットがいつもの厳しい口調で抗議をはじめる。

「ラフレーズ少佐、クラッスラ少佐と第二旅団の幹部に二人も准将と私的に交流のある人物を登用しているのですよ!? クラッスラ少佐は実力があるから良いとして、ラフレーズ少佐の任命には私情を挟んだと疑念を持たれると申し上げました。そのとき准将は何とおっしゃったか覚えておいでですか!!」

「『今回だけだ。今後は実力、人格を考慮して納得のいく人材だけにする』だろ? 忘れていない。ちゃんと覚えている」

「でしたら、なぜこのような任命を!? 新米士官をいきなり旅団長の副官というだけでも感心しないのにそのような劣等生――しかも、学生時代から交流のある者をなど……しっかりとした説明をしていただきたい」

 いきり立つヴァイオレットに深く嘆息してからローズが持っていたノワの成績表をヴァイオレットに差し出す。

「見て見ろ」

 差し出された成績表とローズを交互に見比べてから受け取り、目を通すと、

「なん……ですか…………この成績は?」

 ヴァイオレットが驚きと呆れの入り混じった声で呻く。その反応の意味するところに興味が湧いたのかスカーレットだけでなく、マチルドまでもがヴァイオレットの背後に回り、成績表を覗き込む。

「何よこれ! 剣術・一。槍術・一。格闘術・一。馬術・一。操竜術・一。その他実技のほとんどが一じゃない!!」

「実技実習が壊滅の代わりに座学はオール五ですか……なんとも極端な」

 言うまでもないかもしれないが、軍という組織の職務内容、性質上体力が求められる。そのため、その育成機関である仕官制度の成績は実技や実習の方が重視される。座学がいくら優秀でも実技を補うことは難しい――いや不可能だ。

「これがノワの成績が低い理由だ。この通り運動神経は破滅的に悪いが頭の方はキレる」

 と、説明してもヴァイオレットの顔にははっきりと、釈然としない、と書かれている。

「まだ納得できないのも無理はないが、あとは実際に職務を見てくれ。それでまだ異論があるようならそのときに話し合おう」

「わかりました。これ以上は実際に目で見てからにします」

「さあ、残り九人の配属を決めてしまうぞ」

 

 ノワ以外の新人の配属は、次席の生徒をヴァイオレットとルクレティアが取り合ったことを除けば、これと言って揉めることもなく滞りなく済んだ。あとはノワの着任を待って実際にその働きを見せて異議を唱えていたヴァイオレットを納得させればこの問題は終了。

 そう思って帰宅した矢先――、

「何でですか、姉様!?」

 普段は子猫のようにローズにすり寄るエバーが、いきなりローズに噛みついた。

「どうした、エバー? 何をそんなに……」

「なんでトレナールが姉様の副官なんですか!?」

「ノワをウチの旅団に指名したのは夏にも言っただろう? 何を今さら……」

「副官にするなんて聞いてません! それにあれだけ忙しかった初夏のころでさえ私やクーシェを副官にしなかったのに何で落ち着いてる今、卒業してすぐのアイツを任命するんですかッ!? おかしいじゃないですか!!」

 ローズがたじろぐほどの剣幕で口角泡を飛ばしてエバーが喚く。

「ノワの能力は副官や参謀に向いている。そう判断したから指名したんだ」

「納得できません! 私だって一か月くらいだけどちゃんと姉様の副官を務めました! 私にどこか落ち度ありましたか!?」

「落ち度はなかった。エバーはよくやって……」

「なら私よりアイツの方が優秀だってことですか!? あんなどん尻の劣等生より私の方ができないってことですか!!」

「エバー! そうやって成績だけで他人を見下すようなことは感心しないな。そういう態度では……」

 前々から懸念していたエバーの問題点をこの機にたしなめようと試みたローズだったが、感情的になっているエバーは「話を逸らさないでくださいッ!」と聞く耳を持たない。

「逸らしてない。いいかお前の実力は認めてる。だが……」

「私の力を認めてもらえるなら私を副官にしてください」

 あまりに聞き分けのないエバーの態度についついローズも「バカをいうな!」と声を荒げてしまった。

「…………………………………………」

 潤ませながらも険しい目つきでローズを睨むエバー。自分まで感情的になって声を荒げてしまったことを後悔して次にかけるべき言葉を思いつけず固まるローズ。時間にして十数秒だったが、睨み合いの末、エバーは無言のまま踵を返して二階の自室に駆け上がった。

「ローズ、貴女が悪いわよ」

 呼び止めようとしたローズを制止し、スカーレットがきっぱりと告げた。

「私が?」

「ええ、エバーも士官として立派な態度とは言えないけど今のは貴女が悪いわ。頭に血が昇ってる相手を落ち着けるどころか説教なんてしたって聞くわけないじゃない」

 クーシェから聞いた士官学校時代のノワとのトラブルや復興作業中の下士官との衝突などエバーの階級や年齢が下の者を軽視する傾向を以前から懸念していたため、つい指摘してしまったが、タイミングを誤ったと言われれば返す言葉もない。

「それにクーシェに聞いたけど貴女が副官にするって言ってるトレナールって娘とエバーは犬猿の仲らしいじゃない。エバーは、自分たちは貴女が苦労してるとき力に成れなかったって悔んでたのよ? 昇進して臨時の副官になって側で力になれるようになったってやる気になっていたら解任されて小隊長」

「それは――」

 言いさしたローズを「わかってるわよ」と手を上げて制して続ける。

「だから、私がフォローしてあげたのよ。それでエバーも納得したし、小隊長としての仕事を頑張ってた。なのに、いきなり仲の悪い後輩――それもできの悪い劣等生を任命するなんて聞いたら抗議したくもなるわよ。自分たちは一段ずつちゃんとステップを踏んで経験を積んでるのに、特に目立った成績でもない新米士官がいきなり副官だもの。トレナールの方を特別扱いしてるって思うわよ。違う?」

「…………」

 副官というのは将軍の補佐として階級以上の権限を持つ。卒業したばかりの准士官――いわば見習い士官を就けるような役職ではない。それを解かった上でノワを副官にするのは彼女の能力が成績の示す通りひどく偏ったものだからだ。段取りを踏ませては最終的にノワを据えたいと考えている役目に就けるまでには相当時間がかかってしまう。ならば副官として手元に置いた方が何かと都合がいい。

 そうした考えがあっての特別扱いであり、それを否定するつもりはないが、

「エバーにだって十分目をかけているつもりなんだが……」

「わかってるわよ、私はね。クーシェも黙々と頑張るタイプだから気にしてない。けど、エバーは尊敬する人に認めてもらったり、褒めてもらうために頑張るタイプなのよ。だから、副官外されたときもあんなふうに過剰に反応したでしょ。逆に貴女の声かけや接し方一つで簡単に好転するのよ」

「そういうものか?」

 ローズが髪をかきあげるようにして頭を抱える。他人の評価など気にせず――むしろ、多くの場合煩わしいとさえ感じてきたローズには理解し難い心理だ。

「そういうものなの。わかるのよ、エバーみたいな娘近衛には結構いるから。忠誠心を重視するし、主に認めてもらうことだけが自分の存在価値になっちゃうから」

 そういわれれば、とローズも少しわかった気がした。

 何しろ解説するスカーレット自身もそういうタイプだった。マーガレットがローズの方ばかり見ていたため、ローズに対抗意識を燃やしてことあるごとに張り合ってきた時期がある。たしかに今のエバーの態度はあのころのスカーレットに通じるものがある。

「なるほど……」

 こういうのを同病相憐れむというのだろうか、などと思いながらスカーレットを見る。

「何よ?」

 おそらく自分がそのタイプだったことに気づいていないスカーレットが、自分を見るローズの視線をいぶかしんで問う。ここで正直に思っていたことを吐露する意味はまったくないので「いや、別に……」と誤魔化した。

「何か引っかかるけど……まあ、いいわ。ともかく、あんな叱りつけるようなことしたら余計に反発するだけよ。もっとソフトに接して諭してあげなきゃ」

 スカーレットの意見を聞いてローズは頭を抱えたまま唸る。そういうあしらい方が一番ローズの苦手とするところなのだ。

「まあ、今晩は貴女もエバーも頭を冷やして明日しっかり話し合うことね」

 

 翌朝、ようやく東の空が白みはじめたころ、ローズは気分転換も兼ねてアルコンティアを駆って遠乗りに出た。

「なあ、アルはどうしたらいいと思う?」

 心の声を聞きとれるアルコンティアに説明の必要はない。心を鎖しでもしない限り、ローズが悩んでいる、その心の声を聞きとりすべてを把握できる。

 ――オレに訊いてどうする? オレには人間の考え方も価値観もわからない

「人間だからといって他人の考えや価値観がわかるわけじゃない」

 アルコンティアが小さく嘶く。

 ――どうしたらいいかはわからないが、オレはノワという小娘よりエバーの方が好きだな

「何故だ?」

 ――エバーは真っ直ぐだ。それに比べてあの小娘は小賢しい

 単純明快な解答に、なるほど、と苦笑する。

(まっすぐ……か)

 真っ直ぐだからこそぶつかるのだ。ならば、ぶつからないように方向を変えてやるなり、包み込んでやるのが上官としての役目だ。しかし、

(問題はどうやって……ということだな)

 エバーには期待している。数年後には大隊長になって旅団を担う一角になって欲しいと思っているし、エバーならそうなれると信じている。しかし、それを直接口に出すことはできない。エバーのためにならないというのももちろんあるが、それ以上に旅団長であるローズが将来の人事を確約するような発言をするわけにはいかない。

(かと言って『期待している』程度の言葉では効果はないだろうしな)

 しかし、このまま放置しておけばトラブルの種になる危険を孕んでいる。エバーにも期待しているのだということを示さなければならないが、あまり具体的なことを口にするわけにはいかない。

(一晩おいてお互い頭も冷えただろうから、まずは、ゆっくり話してみるか)

 

 しかし、エバーの頭に登った血はローズの思っていた以上だった。

 

 ローズが遠乗りから帰るとクーシェとスカーレットはいたが、エバーの姿がなかった。

「エバーは?」

「それが……用があるから先に出るって……」

 ローズの問いにクーシェが言い辛そうに答え、スカーレットが肩を竦める。

 軍の仕事に関することなら直属上官のスカーレットやその上であるローズは把握しているが、今朝特別早く出なければならないような用事はないので仕事のことではない。私用という可能性はあるが、エバーがローズと一緒の時間を自ら捨てることはほとんどなかった。

(まだ顔を合わせたくないということか)

 エバーの行動をその程度に考え、呆れ交じりに嘆息しただけでそれ以上深くは考えなかった。ローズだけでなく、同類のスカーレットも、一番付き合いの長いクーシェでさえもやれやれ程度にしか思っていなかった。

 

 できるだけ早く、と思ってはいたが、それからの数日間、出陣まで日がないこともあって各旅団長や各部署のトップはクロチェスター奪還作戦の作戦会議や各種手配などに追われた。ローズも忙しさからエバーの問題を後回しにしてしまった。

 そして、その日。前倒しされた新人の配属日。諸々あって忙しかったローズは最初に短い祝辞をしただけで、後のことをヴァイオレットに任せて終日会議室に拘束されてしまった。夕方、ようやく解放されて執務室に戻ると、

「おつかれさま。ちょっと大変なことになってるわよ」

 あいさつもそこそこにルクレティアが数枚の紙を突き出してきた。

「何だコレは?」

 訝しみながら受け取ったそれには『ノワ・トレナール准尉の人事に関する異議申し立て』と書かれている。一枚目の内容はもちろん学年最下位の劣等生であるノワをいきなり旅団長の副官に抜擢したことに対する不満の声。二枚目には抗議に同意する者たちの署名その一番上に署名してあるのが、

「エバー……あいつ!?」

 間違いなくエバー・ゴールド少尉とエバーの筆跡で署名されている。

(しかし、なぜ? どうやって?)

 良い例ではないが、今までにも貴族派連中がお互いに決して成績優秀とは言えない子弟を優遇していた事例は山ほどある。しかし、そのときにはこのような意見書など出たことはない。不当に左遷された者が人事や他の将官を通じて異議を唱えた例はあるが、今回は他人の人事に直接的に関わりのない者たちが異を唱えている。確かに特別扱いの人事だが、これほど大げさになるようほどのことではない。

「どーも、大佐が一枚噛んでるみたいよ」

「ヴィオラが? どういうこと?」

「ホラ、大佐って清廉潔白な人事を望んでるじゃない? アンタたちが私に声かけるまで数か月あったのもその辺に理由があるんでしょ?」

「ああ……」

「だけど、蓋を開けてみれば第二旅団の各部隊長の内二人が団長であるローズの友人と同級生。そこへきて今回は学生時代から気にかけてたトレナール抜擢。このままだと貴族派が牛耳ってたころと同じに見られる恐れがあるからゴールド少尉に今回の人事に不満のある新入りたちをまとめさせて抗議させたんじゃないかしら」

「動機は納得できる気がするが……何か証拠でもあるのか?」

「ないわ。ただその異議申し立ての書面と署名書を持ってきたゴールド少尉に対する大佐の雰囲気と口約束とはいえ『前向きに対応する』ってあまりにも簡単に約束したあたりが、ね」

 ヴァイオレットの性格や確かにノワの人事を聞いたときの反応などを考慮すれば信じてしまいたくなる憶測……だが、所詮憶測は憶測でしかない。

「それでは話にならないな。直接話を聞いてみなければ……ヴィオラは?」

「大佐は抗議署名に名前のある連中から直接話を聞くってゴールド少尉とトレナール准尉を連れて出てったきり。スカーレットはゴールド少尉が自分の隊員だからってついてった。モンゴメリー少佐は普通に夜勤に備えて仮眠中」

 複数人から話しを聞くとすれば下の会議室だろう。しかし、今更駆けつけて引っ掻き回すより、ヴァイオレットたちが整理をつけた上で話を聞いた方がいい。

 そう判断してローズは踵を返したい衝動を抑えて自分の椅子に腰を下ろし、今日中に目を通さなければならない書類のチェックをはじめた。

 

「なるほど、ノワの件でエバーが不満を持っていることを聞きつけて、入れ知恵したことは認めるんだな?」

 抗議の代表であるエバーと新士官の次席であるデュクロ少尉、渦中の中心にいるノワを伴って戻ってきたヴァイオレットとスカーレットから話を聞くため隣りの応接室へ移動した。エバーたちの抗議の内容と直に話し合った結果に関して二人から口頭で報告を聞いてから、ルクレティアの憶測を話し、真偽を尋ねたところヴァイオレットは悪びれもせず肯定した。

「ええ、ゴールド少尉に一人で抗議しても意味がない。するならば複数人をまとめて団結しなければ上は取り合わないだろう。逆に複数人から抗議があったなら准将も無視することはできないだろう、とたしかに言いました」

「なんでそんなことする必要があるのよ!」

 頭を抱えるローズに代わってスカーレットが声を上げる。

「何故? 簡単なことです。第二旅団の人事が准将の一存による歪んだものでないことを内外に示すためです」

「そんなこと聞いてるんじゃないッ! なんでわざわざエバーを焚きつけるようなマネをしたのかって聞いてるのよ!! ヘタに反抗心を煽ってこんなことさせたりすればあの娘のためにならないでしょ!」

「おつちけ、スカーレット」

 スカーレットを制止しつつ自身も大きく深呼吸して心を落ち着けてから、

「ヴィオラの言うこともわかる。感情的になって乗せられたエバーにも非がある。だが、それにしても大規模な作戦行動を目前に控えたこのタイミングで旅団内の争いの種を芽吹かせるような真似をした?」

「この機を逃せばおそらく一年以上はこの問題に触れる機会は失われてしまいます」

 旅団内の大きな人事は飛竜部隊隊長を除いて済んでいる。おそらく来季の卒業生のときには今回のような目を引く抜擢は行われない。今はっきりしておかなければこの問題を追及し、明確にする機会は当面なくなってしまう。

「ラフレーズ少佐、クラッスラ少佐それにトレナール准尉、ゴールド少尉とソレイユ少尉も手順は踏ませていますが自宅の部屋を貸していらっしゃいます。すでに准将は個人的な交流のある者や女性ばかりを重用しているという陰口を叩く者も出はじめています」

「それを気にして対応してくれるのはありがたい。しかし、こんなやり方では……」

 ヴァイオレットがエバーたちから話しを聞いて、折衝案をまとめたメモを指して呻く。

「ですが、これが内外に人事の潔白を示す最良の方法です」

 ヴァイオレットは退く気はない。そもそも、すでにこの案でエバーたちが納得しているという以上、ここでローズが却下しても事態を拗れさせるだけだ。

「仕方ない」

 諦念の息を吐き、腹を括る。

「ヴィオラに一任する」

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