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ルディア戦記  作者: 足立葵
第四話「地を染める千草の花」
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スカーレットの疲労

 目が痛い。

 まばたきしてもまばたきしてもすぐに目が乾く。まばたきする瞼もまるで血が通っていないのではないかと思うほど冷える。しかし、ほんの数センチ離れただけの額は瞼とは対照的に熱を発し、その奥頭の芯では鈍痛が鈍く鳴り響いている。

 別に風邪ではない…………と思う。単なる寝不足のはずだ。なにしろ二日連続でほとんど睡眠を摂れていない。その証拠に乾燥した目が潤いを求めて下ろす瞼は簡単に下りるのに、持ち上げるのは意思の力がいる。

 眠い。

 とにかく眠い。

 このまま瞼を閉じて寝入ってしまいたい、と思うまでもなく自然と思考が睡魔の誘惑に堕ちていく。が、それでも瞼を持ち上げ、頭痛に堪えて、ペンを動かし、どうにか報告書を書き終えた。

「終わったぁ――」

 報告者欄に自分の名前を記入し終えると同時に歓声を上げ、思いっきり伸びして、それから力尽きてそのまま机に突っ伏す。このまま寝たいがどうせなら帰ってお風呂に入って短くてもベッドでしっかりと寝たい。ささやかな願いを気力に変えて体を起こそうとしたとき、

「寝ないでくださいよ、スカーレットさん」

 やさしく忠告しながらエバーが書き上がった書類を取り上げ、代わりに湯気立つカップを鼻先に置いた。

「あれ? エバーなんでまだいるの?」

 自分の分の仕事を片付け、夜勤もなかったローズとエバーは先に帰ったはずだ。

「……もう朝ですよ、こっち着替えでこっちは朝食です」

 狂いに狂った時間感覚をやんわりと訂正してからエバーが右手で着替えの入った袋を、左手でバスケットを持ち上げ視界に入れる。しかし、ほとんどそちらを見もせず、視線をたった今エバーがバスケットと着替えを持って入って来たまま開け放たれている執務室の扉へと移す。廊下の窓から射し込む光がカップから立ち上る湯気をキラキラと輝かせている。白光石(アルブマイト)独特の純白の光ではなく、ほんのりと金色を帯びた朝日特有の輝き。曙光という言葉の通り人の心に活力を与える光……だが、それも絶対ではない。

「…………また帰れなかったぁ~~~」

 落胆の吐息とともに残っていた最後の力が抜けていく。

 西方軍司令部は当たり前だが長城クレプスケールの足元にあるため日夜を問わずその光に照らされ続ける。つまり、夜でも昼のように明るい。だから長時間屋内に留まり時間の感覚を失うと今が何時なのか見当がつかなくなってしまう。

「そんな声出さないで朝食でも食べて元気出して下さい。ね」

「……そうね。食べて少しでも仮眠摂らなきゃ持たないわ」

 のっそり体を起こしてエバーが蓋をあけて差し出すバスケットからサンドイッチを一つとって頬張る。輪切りにしたバゲットにハムとトマト、レタスを挟んだサンドイッチは一口で眠気に押しやられて気づかなかった空腹を思い出させる。すぐに一つ目を平らげ二つ、三つと口に運ぶ。あっという間にバゲット一本分のサンドイッチを平らげてしまった。

 空腹が解消されるとただでさえ抗いがたい睡魔がより一層魔力を増してくる。カップから立ち上る湯気にはほんのりと甘い香りが含まれている。どうやらコーヒーではなくココアのようだ。程よく甘いそれを口にしたのを最後に眠りに落ちたと自覚することもなく、フッと意識が途切れた。

 

「起きなさい」

 水泡が弾けるように静寂が破られ、意識が浮上する。

「……ローズ……?」

 なぜローズが突然現れたのか? と疑問を覚えたが、体感ではさっきまで湯気が立っていたはずのカップから湯気が出ていないし、心地良かった温かさも消えている。どうやらそれなりの時間寝てしまったらしい。

「だいぶ疲れてきてるみたいね」

 苦笑混じりに言いながらローズが自分の頬を指し示す。その姿を鏡像代わりに頬を撫でると突っ伏した際に下敷きにしたペンの形が指ではっきりと感じとれる。

「同情してくれるならせめて仕事の割り当て変えてくれない?」

「そのくらいで音を上げるな。やり方さえ覚えればなんてことはない」

 だからせめて覚えるまで量を減らして欲しいのだが……ただでさえスパルタ教育が当たり前の軍という組織の中で、しかも、“このくらい”の基準が著しく高いローズにそんな相談をした私がバカだった。それにローズやティリアン大佐に比べれば仕事量が少ないことは自覚しているのでそれ以上何も言えない。

「……そ、そんなことわかってるわよ。でも、早く他の部隊長決めてよ、特に輜重部隊と工兵部隊。そうすれば自分の仕事だけに専念できるんだけど」

 せめて口を吐いて出た弱音を隠したくて強がってみせる。

 本来この旅団で私が指揮するのは歩兵大隊だけなのだが、現在はまだ決まらない各部隊の仕事は三人で分割して処理している。その上、近衛騎士時代と対して変わらない歩兵部隊の仕事の方も厄介だ。そちらの書類仕事は練兵演習の計画とその報告、それに警邏や街道警備の報告など。それらすべてを大隊長が取り仕切るわけではなく、直下の中、小隊長たちが上げてくる報告書や計画を取りまとめるのだが、まだ着任したてで手綱を握れていない上に、余所者であり西方軍の勝手がわからないから反発もあり中々上手くいかない。

「それなら決まったと昨日言っただろう?」

「ホント!」

 余分な上に苦手な仕事が手を離れるという朗報と自然と声が弾む。

「フゥ……しっかりしてくれ。工兵部隊の方は昨日ようやく本人を納得させた。輜重部隊の方はサングリエ将軍が戻って来られたばかりで手がすくまで移動は待って欲しいとのことだったが、あちらがようやくひと段落ついたそうだ。だから今日にも二人を紹介すると昨日言ったはずだ」

 言われてみれば帰り際にローズが何か伝達事項がどうしたとか言っていたような気もするが、何しろ慣れない仕事で二日二晩煮込んだ脳みそだ。たとえ耳から入っていたとしても頭がそれを言葉として認識できていなかったに違いない。

「ま、何にしても少しは負担が減ってくれれば助かるわ」

「そうね。もう一人の大隊長も決まったし、そのほかの部隊長も飛竜部隊長以外は決まったからこれでようやく最低限の体制は整う」

「ずいぶん急いだじゃない」

 これまで長く半年近く悩んでいた旅団の幹部の人選をここに来て一挙に決定するとは……もちろん、急がなければならないことだし、急がざるを得ない理由もあることはわかるが多少性急な印象を受ける。

「体制を整えなかった結果が先の戦いだからな」

 ローズの顔が陰る。城壁のアルブマイトが放つ光と廊下から射し込む朝日で十分すぎる室内の明るさがその陰を実際よりも一層濃いものにしている。

 ローズが言っているのはイースウェア侵攻で勃発した戦いの中でもクレプスケール南塔奪還作戦のことだろう。国内での戦いが収束した後に合流したから自分の目で確かめたわけではない。クレプスケール南塔奪還のためにローズが立てた作戦は結果だけ見れば成功した。イースウェア軍本隊の到着を前に南塔を取り戻し、国内の被害を最小限に留めた功は大きい。事実、春先の大敗に続く失態で国民の信頼をさらに失った国軍にあって『青き薔薇』を賞賛する声だけは高まる一方。けれど、エバーに聞いた話では、自分の指揮に兵たちがついて来れず多大な犠牲を出してしまったことを悔んでいるらしい。

 

 貴女の所為じゃない。

 

 犠牲に報いるだけの結果は出したなら彼らも本望だ。

 

 その話を聞いたときに他にもいくつか慰めの言葉は思いついたが、結局そのどれもかけることができなかった。私自身忙しかったこともあるけど、ローズがそれをほとんど表に出さなかったからだ。こうしてふと悔恨を口にすることは幾度かあったが、ローズ自身乗り越えているようにも、あるいは乗り越えようとしているところにも思えた。どちらにせよ安易に慰めてはいけないような気がして今日まで何もできずにいた。

 エバーしかいない今がその機会にも思えたが、

「……………………まあ、何にしても頭数がそろうなら文句はないわ。これでようやく荷解きする余裕くらいはもらえそうね」

 少しローズの顔を見つめて迷った挙句そのことには触れずにおくことにした。茶化すようにつけ加えた後半は、空いてしまった微妙な間をごまかすためにとっさにつけ加えただけだったのだが、

「何を言っている?」

「え?」

 ローズに真顔で返されて思わず疑問形で返してしまった。

「サングリエ将軍のところがひと段落ついたということは今度はこっちの番だ。第二旅団から歩兵千、工兵五百、計千五百をユルレモント地方の復興のために派遣する。もちろんスカーレットも明日から出張だ」

「鬼ぃ~」

 ドシャッと倒れ伏して容赦ない旅団長の裁量に悪態を吐く。背後から仕事前に雑事を片付けていたエバーの「ハハハ」と気の毒そうな苦笑いが聞こえて来る。

「それに際してエバー、本日限りで副官職の任を解く。明日からは小隊長としてスカーレットの指揮下に加われ。明後日復帰する予定のソレイユ少尉に引き継げるよう仕事の経過をまとめておくように」

「ええぇ――――ッ!! なななななんでですか? 私何かミスしましたか!?」

 エバーがこの世の終わりのような絶叫をあげ、慌ててローズの机に駆け寄り理由を尋ねる。敬愛する姉様の副官を務められることがやりがいであり、喜びであるエバーにとって副官解任は一大事である。

「そんなに騒ぐようなことじゃないだろ。そもそも副官は戦時下に私に各部隊の権限を集権したときに手が足りなかったことと不心得な輩をいたずらに刺激しないための措置だ。落ち着いて信頼できる大隊長が決まった以上現場に戻すことがそんなに驚くことか?」

 対してそのことを前から決めていたらしいローズはいつも通り淡々と答え、問い返す。

「そ……それはそう……です……けど」

「もちろんクーシェも職場復帰後のリハビリのようなものだ。足が本調子になったらすぐにそっちに合流させる」

 今までが一時的な措置だったことを思い出してしまえばそれだけの理由で抗議するほど幼くはないが、それでも納得いかないふうのエバーはヘソを曲げたというか、落ち込んだというか、黙り込んで仕事開始まで一言も口をきかなかった。

 

「本日から我が旅団の部隊長として新たに任命した。それぞれ自己紹介を頼む」

 並んで立つ三人の新たな隊長たちにローズが告げると向かって右に立つ一人から自己紹介をはじめる。

「マチルド・モンゴメリー少佐であります。歩兵大隊の指揮を務めさせていただきます」

 いかにも軍人といった感じのしゃちほこばったあいさつをしたモンゴメリー少佐はあいさつだけでなく見た目にも軍人らしい。キビキビとした動き。やや上を向いたまま話す話し方。当たり前の軍人らしさがいかにも石頭の副団長の人選らしい。

「工兵部隊長に任命されたグレイ・サンドル大尉です」

 続いてあいさつをしたサンドル大尉はどこか不満気で一、二度ローズを睨んでさえいた。

「輜重部隊長を任せていただくルクレティア・クラッスラ少佐です」

「さて、すでに知っているかもしれないが、軍務部と役府が手配したユルレモント地方復興のための資材が届く手はずになっている。ロクに部隊の把握もできない内で悪いが明日から工兵部隊、歩兵二大隊にはユルレモント地方の復興支援に向かってもらう。ヴィオラは三隊の総指揮を、クラッスラ少佐は司令部に残って物資輸送の指揮を頼む」

 さすがに初日から名前で呼ぶのは砕けすぎていると判断したらしく、大佐はファミリーネームで、クラッスラのことは階級で呼ぶ。

「ハイ」

「了解しました」

 復興支援の指揮に関わる三人だけを急ぎで移動させたため衛生部隊長などこの三人以外の合流は後日になるそうだ。ついで副旅団長のティリアン大佐と私の自己紹介を済ませると私とモンゴメリー少佐、サンドル大尉は大佐とともに別室に移動して明日以降の打ち合わせに移った。移動のルート、拠点とする街、三隊の受け持ちなど内容は大まかなものだけだったが、打ち合わせが終わるとすでに昼間近になっていた。

「お帰り、大佐たちは?」

 執務室には一人残っていたクラッスラが問う。ローズは会議で、エバーはどこかに書類を届けに行っているのだろう。

「ちょっと早いけどお昼にするって言ってモンゴメリー少佐とサンドル大尉は自分の部隊の顔ぶれを把握するために食堂に行ったわ。大佐は知らない」

 将官が食堂に行くと回りに変に気を遣わせてしまうので食堂に行きづらいローズに付き合って(最近では食堂に行く暇がなかったというのもあるけれど)エバーと三人で食事を摂ることがほとんどだったが、ティリアン大佐は付き合ったことがないため、食堂に行っているのか、それとも外に行っているのかさえ知らない。

「フーン」

 自分で尋ねておきながらどうでもよさげに相づちを打ちながらクラッスラはマジマジと私を見つめて来る。その理由は大体察しがついていたので、視線に気がつかないフリをして黙って席に向かうが、

「ねえ、アンタその頭どうしたのよ?」

 触れるな、というオーラを無視して大佐に刈られた頭に触れてきた。

「別に。心機一転よ。それにゆっくりとお風呂に入ってる暇もないんじゃ痛んじゃうし、暑っ苦しいでしょ」

 後半は大佐に刈られた後、ショックから立ち直るために自分に言い聞かせているこの髪型のメリットだ。事実、司令部の共同浴場では汗を流すだけで髪のケアまでできない状況でポニーテールにしていてもジットリと汗ばみ蒸れる夏場の暑さを乗り切るのは厳しかったと思う程度には利点もある。もちろん感謝などしていないけど。

「ふぅ~~~~~ん?」

 明らかにウソ強がりだと見抜いている疑念に満ちた相づち。よく知らない相手なら十分通じる理由だが、鮮やかな赤い髪が私の自慢であると知っているクラッスラに対してこの言い訳は苦しすぎた。しかし、無暗に反応してはウソだと肯定しているようなものである。

「まあ、ならそういうことにしておきましょ」

 そう言って机の上をまとめるとクラッスラは席を立った。

 

「ねえ、クラッスラに輜重部隊任せるならなんでもっと早く任命しなかったのよ」

 一日の仕事を終えて、三日ぶりにローズの屋敷に帰って久々に四人一緒に夕食を取りながら恨めしさを込めて問う。

「私も最初に思いついたんだけどね……」

「けど……なんなのよ?」

「ヴィオラが反対したのよ。できるだけ余計なものを持ち込まない方がいいだろうって」

「ああ、なるほどね」

 確かにあの石頭が言いそうなことだ。しかし、そのせいで増えた仕事に忙殺されて身なりが荒れ、それを咎められて刈られた身としては一層憤懣が溜まる。

「そのクラッスラさんが正式な輜重部隊長ですか?」

 まだ療養中で屋敷にいたクーシェが会話から察したことが正しいか尋ねる。

「ああ、ルクレティア・クラッスラ。私と同期で一番の出世有望株で、その予想通り卒業わずか三年で少佐になった秀才だ」

「一番ってロー姉よりも!? でも、ロー姉が首席だったんだよね?」

 クーシェが驚きに目を丸くする。

「士官学校の席次で言うなら私が首席でレティが次席だったな」

「まあ、成績通り能力的にはローズの方が上よ。実際、ローズはもう准将でクラッスラはまだ少佐なんだから。もっとも、コミュニケーション能力だけならクラッスラの方が上かもしれないけどね」

「一言多い。それに上も下もあるか。准将になったのは偶然と政治パフォーマンスの問題で実力の差じゃない」

「それでもローズは中佐とクラッスラは少佐でしょ」

「私は前線勤務で昇進査定に有利な功が挙げられたのに対してレティは後方勤務だけでほとんど同じペースで昇進してきたんだ。まあ、ともかくレティの能力は確かで……」

「ごちそうさま」

 まとめようとしたローズの声を会話に加わらず黙々と食事を続けていたエバーの声が遮った。大きな声ではない。むしろ元気がない小さな声だったが、無駄にテンションが高めだった会話を水を打ったように静めた。

 食器を片付けてそそくさとダイニングを後にするエバーの背を見てからローズが目配せしてクーシェに後を追わせた。

「ちょっと急すぎたんじゃない?」

 二人だけになったダイニングで切りだす。

「どういう意味だ?」

「仮だったっていっても一月も副官やってたのよ? エバーは貴女の支えになれるってことを喜んでたし、事実やる気に満ちてたでしょ。それを突然今日限りで解任して一小隊長に戻すなんてあの娘にしてみれば左遷されたようなものよ」

「…………確かにそうかもしれないが、部隊長を経験させて実績と実力を磨いた方が……」

「貴女がそう考えてるのは私にはわかるわよ。でも、それがエバーには伝わってないって言ってんの! 今朝の対応何よ、突然宣告して『そんなに騒ぐようなことじゃないだろ』って冷淡にあしらっただけじゃない。せめて前もって宣告しておくなり、もう少しやんわり伝えるなりやり方ってもんがあるでしょ」

「……ぅっ……」

「どうせ貴女のことだから甘やかすよりは突き放したほうがいいとでも考えたんでしょうけど、それで失敗してるでしょ」

 例えば罵倒されたことで発奮してやる気に火がつくタイプもいれば、罵倒を罵倒と受け止め傷ついて腐ってしまうタイプもいる。仮に基本的な気質が前者であったとしても言われる相手――例えば尊敬している人に罵倒されたりすると後者になってこともある。

 エバーもこの激務の中やる気を燃え上がらせていたのだから基本的には困難などに発奮するタイプだろう。しかし、敬愛しているローズから冷淡に突き放されたことで傷ついてしまったのだ。これがクーシェならこうはならなかったはずだ。彼女もローズのことを慕っているが、彼女は入れ込み方の程度が違う。

「……そう…………だな」

 そう言ってせっかちにも立ち上がったローズの手を掴んで引き止める。

「待ちなさい。今行ってとってつけたように繕っても逆効果よ」

「……だけど……だったら……」

「それもダメ! 今晩はクーシェに任せなさい。それでまだ引きずってるようなら私がフォローしてあげるから」

「……わかった…………頼む」

 

 食事を終えて三日ぶりにゆっくりとお風呂で手足を伸ばしてから自室にたどり着くとそのままベッドに倒れ込む。

 西方に来るとバカみたいに忙しくなる。近衛時代は王宮とは違って見咎める目の少ない環境で奔放さを全開にしたマーガレットとはた迷惑が鎧を着ているようなエローに振り回された。今も今で慣れない環境、知らなかった仕事に悪戦苦闘する日々。加えて変なところで不器用なローズにも気を回さなければならない。

(まったく世話が焼ける)

 何でもできるくらい器用なくせに――あるいはなんでもこなせてしまうからこそかもしれないが――他人の心を理解できないという変に不器用なところがある。

 しかし、この疲労はなぜか心地いい。

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