第七章 勧誘
建国記念祭初日、ローズは午前をパレードに駆り出され、午後を剣術大会の開会セレモニーの剣舞に参加を命じられて身動きできずに終わってしまった。剣舞の後、多少時間はあったがアポなしで面会できるような暇な要人などいるはずもなく、御前試合の観戦とラフレーズ邸での採寸で終わってしまった。
結果として午前と午後両方で行動制限を課せられる形となってしまったローズにとって、王都に来た目的である人脈づくりの最初の舞台は晩餐会だったのだが、
「アレでよかったのか?」
晩餐会を終えてスカーレットと二人になったところで不安気に確認してしまった。
「いいも悪いもないわよ。元々初日の晩餐会は顔合わせの意味合いが強いし。そうでなくてもローズは初めてなんだからまずは顔を覚えてもらうこと。パレード、剣舞、晩餐会で一応顔と名前をセットで覚えてもらえただろうから、本番は明日以降」
スカーレットの言葉が慰めなのか、本当にそれだけで良しと思っているのか、ローズには確信が持てない。たしかに席が指定されていた晩餐会では隣りと向かいの席くらいしか会話はできないのだからそれでいい、と言われればそうも思える。だが、両隣や向かいの席からの質問攻めに圧倒され、答えるだけで終わってしまえば不安になる。
「まあ、ただ明日からはもう少し愛想よくしてよね」
「普通にしてたつもりだけど?」
「……アレで?」
もちろん普通、と言ってもマーガレットやスカーレットに見せているローズ個人としての素をさらけ出していたわけではない。多少の緊張があったことも認める。しかし、ラズワルド准将としてはほぼデフォルトの状態で過ごせたはずだ。
しかし、スカーレットはそうは思っていないらしい。
「緊張してる分を考慮しても『氷の将軍』って感じだったわよ」
スカーレットの言いようにローズがムッと押し黙る。
ローズ自身、自分が愛想のいい方だとは思ってはいない。そのせいで上官や年上の下士官ともめたことも少ない。しかし、それでも『氷の将軍』という言われようには不満があった。
「ワザとやってんの!? あのね、軍人って言っても人間なんだから愛想でも笑顔一つで印象は随分変わるのよ。ホラ!」
そういって隣に座るローズの頬を引っ張り、無理矢理口角を吊り上げる。
「ひゃめほ! ……まったく、いきなり笑えるわけがないでしょッ」
「普段の顔でいいのよ。私たちと一緒にいるときみたいな。素材はいいんだから笑顔とまでいわなくてももう少し柔らかい表情するだけで倍は印象良くなるわよ」
そうは言われても先ほども言った通り、ローズ自身は普通にしているつもりなのだ。愛想がないのは性分。一言二言のアドバイスや一晩だけの付け焼刃でどうにかなるものならとっくの昔にやっている。愛想よくと言われてもどうしていいかわからない。
しかし、素直にそう言い返しても意味はない。結局、何と言っていいのかわからず、スカーレットから視線を切って斜め下へ向き直り、横から注がれる、逃げたな、という視線を黙殺するために舞台に集中するふりをする。
建国記念祭初日は夜会の代わりに『ルディア建国伝』の観賞会が開かれる。
国中の劇団から選ばれた劇団は名誉と誇りにかけて様々な嗜好を凝らした劇を演じる。賓客の中にはこれを楽しみにしている者も多く、抽選で手に入る一般市民向けの観覧券はかなりの値で取引されているらしい。
が、国民なら子どもでも知っている話。毎年参加している中央高官や賓客の中には関心の薄い者も少なくない。他国の賓客の中には観賞会に参加せず、早くも密談に入る者もいるが、さすがに臣下が特別な用件もなしに参加しないというのは問題がある。中央の高官はボックス席を都合に合わせて割り振り、観賞しながら密談しているらしいが、直前まで参加できるとも思っていなかったのだから事前の根回しをしているはずもない。
と、そこまで考えた流れで、晩餐会のあと誰からもお呼びがかからなかったことまで思い出してしまい、ローズがまた少しへこむ。
「何? まさかもう飽きたの?」
ローズのささいな表情変化を読み取るあたりはさすがの付き合いの長さだが、さすがに薄暗いボックス席で、斜め後ろ気味の表情だけでは読みそこなったらしい。
「まあ、私は見飽きちゃったけど貴女にはめずらしいんじゃない?」
まだ劇本番は始まっておらず、前座として芸人たちが踊ったり、歌を歌ったり、曲芸をみせたりしている状況で、同席すると言っていたヴィクトールもまだ来ていなかった。
「大きな街ならこのくらいの芸めずらしくない」
「そうじゃないわよ、ホラ」
「?」
正直、芸には欠片も興味がないローズには最初何のことだかわからなかった。
一人が出番を終えて、次の二人組が舞台に上がったあたりで、おや? と思ったが、何にそう思ったのかはわからない。さらに次の芸人が舞台に上がった段階でようやく、スカーレットの言葉が入れ替わり立ち代わり舞台に上がる芸人たちの奇妙奇天烈な姿を指していることを理解した。
最初はメイクや仮装だろうと思った。しかし、二人三人と続く彼らの姿はメイクや仮装というにはあまりに統一感がなく、それでいて妙に生々しい。
例えば、今舞台で美しい音色の笛を吹く男はシルバーブロンドの髪と先の尖った耳いう光の民を模したような特徴をしている。しかし、男の髪は光を放つというエルフの頭髪とは違い舞台の明かりを受けて輝きはするが発光しているようすはない。それにエルフは誇り高く、閉鎖的なことで有名。加えて少数民族である彼らは姿を見ることさえ少ない。そのエルフが芸人をしているなどありえるのだろうか。
エルフもどきの芸人が演奏を終えて舞台そでに下がると、今度は緑がかった髪と羽という風の民に似た特徴を持つ少女が姿を見せる。しかし、少女が生粋のシルフではないことは一目瞭然。シルフの特徴である若葉を薄く削いだような透明感のある羽が、少女のそれはローズの知っているシルフよりも小さく、形もどことなく歪で、色もくすんで透明感のないシトロングリーンをしている。
「彼らは一体……?」
「彼らはジェスターですよ」
スカーレットに投げかけたつもりの問いに背後から男の声が答えた。
「アレクサンドル様!? なぜこちらに……」
驚きのあまり声を上げてしまったスカーレットにアレクサンドルが、静かに、と人差し指を口の前に立てて示す。
「ラズワルド将軍とお話しがしたくて兄上には悪いですが席を代わって頂きました」
「……そうですか」
本来ならば立ち上がって敬礼すべきだが、劇場のボックス席ではお互い簡素な挨拶で済ませるのが通例なので軽く会釈程度に頭をさげてからアレクサンドルとお付きとしてついてきたアンナマリアに空席を勧め、
「それで無知でお恥ずかしい限りですが、ジェスターというのは?」
「宮廷お抱えの芸人、宮廷道化師のことです。彼らのような居場所のない者たちを王宮で召し抱えているのです」
「居場所のない者たち……ですか」
アレクサンドルの言葉を繰り返しながら舞台に視線を戻せばシルフもどきの少女が低空を舞うダンスを終えて舞台そでへと下がり、入れ替わりに牛の角を生やした以外は人間の獣人もどきの男が上がる。
彼らの姿とアレクサンドルの言葉を合わせて考えれば答えは一つしかない。彼らは異類婚によって生まれた者――俗に鬼子と呼ばれる者だ。
命の芽は同じ民の間でしか子を作れない。
しかし、八つの民同士はもちろん、それ以外の獣人との間にも愛情が芽生えることはある。結ばれた異種族の男女が子を作るには体を重ねるしかない。そうして生まれて来る子どもは双方の特徴を併せ持つ鬼子となる。
「ええ。彼らに対する差別の少ない国もありますが、多くの民、国は人妖獣人を生む原因となる異類婚も、それによって生まれた彼らも認めません。我が国もアクティース教の教えが強い以上彼らの待遇は良いとは言えません。……いえ、身分制度のあった時代は人としての扱いすら受けなかったそうです」
アクティース教は人の平等と権利について説いている。だから、奴隷制度を糾弾するし、慈孱院をはじめとした慈善活動にも従事している。しかし、アクティース教のいう人とは教義が『人と見とめる存在』のことだ。
まぐわいによって子を生すことを禁じた光の神を崇拝する以上、アクティース教にとっては異類婚も、それによって生された鬼子も忌むべき存在。救いの手を差し伸べるどころか魔女魔法使い以上に迫害の対象となっている。
「それで彼らを王宮で保護したということですか?」
「保護と誇れるほどのことはできていません」
ローズの問いにアレクサンドルが苦笑する。
「アクティース教国との関係上、彼らの権利を保障することも、彼らにまともな職を与えることもできていません。今でこそ芸風が自由でまともなお抱え芸人に見えますが、以前は見世物の扱いだったそうです。尊厳など無いに等しい最底辺の身分。そういう意味では獣人や鬼子でも受け入れるイースウェアの方が懐は深いのかもしれません」
アレクサンドルの言葉がローズの頭の片隅に置いていた問題を想起させた。
(イースウェアの方が懐は深い……か)
イースウェア公国は奴隷制度を残し、人道や人権という言葉など無きに等しい国。
しかし、アクティース教に抗い魔女魔法使いを保護しているため、同じくアクティース教に迫害されている鬼子にも居場所がある。獣人に関しても積極的に狩るようなことはしていないと聞く。
(あの魔女が言っていたことはそういう意味か?)
ルディア王国はアクティース教との関係もあってイースウェア公国とは対立している。イースウェア公国も大国だが、妖魔の害がないルディア王国に比べれば実りは少ないし、人口も劣る。今のイースウェア公国がルディア王国と渡り合えるのは魔女魔法使いの戦力もあるが、何より奴隷制度に支えられた食糧、兵士の生産体勢があってこそ。『自分たちの居場所を護るためには命令に忠実な奴隷を作る必要があった』という解釈はできる。
(しかし……それだけか?)
アレクサンドルも言ったようにルディア王国だけが鬼子、獣人を認めないわけではない。それに同じく国境を接するブルトルマン帝国とて以前から友好的とは言えない関係だし、歴史云々という言葉も含めるとまだ答えの一部でしかないような気がする。
「将軍はずいぶんと宮廷道化師に関心があるようですね」
ずっと引っかかっていたことの答えの欠片が見つかったような気がして思考に没頭していたローズの様子を興味深げに窺っていたアレクサンドルが言う。
「ええ。まあ」
「では、もう少し宮廷道化師のことをお話ししましょう。人としての扱いを受けられなかった彼らですが、一つだけある特権が与えられていました」
「特権……ですか?」
「彼らには公の場でも王族に自由にものを言うことが許されていました。信頼のある近衛騎士でさえ、公の場ではほとんど発言を許されないにも関わらず、王をジョークのネタにして笑い者にすることさえ許されていました」
アレクサンドルの発言を疑ったわけではないが、にわかに信じられない、というのがもろに表情に出ていたのだろうアンナマリアが補足する。
「知識と教養ある近衛騎士がそんなことをすれば王の面目や威厳に傷をつけることになってしまうけれど、教育も受けられなかった宮廷道化師なら、愚か者の戯言、として笑い飛ばせたという側面があるから特権といってもそう誇れるものでもないのだけれどね」
「なるほど……」
子どもが何か言っても大抵のことなら笑って流せるようなものだろう、とローズが納得しているとアレクサンドルがさらに続ける。
「そして、その特権故にいつの間にか宮廷道化師はもう一つある役目を押しつけられるようになりました」
「諫言役ですか?」
「正解です。さすがですね。一応は奏上役となっていますが。諫言や悪報、凶報など臣下が直接王に知らせることを憚ったり、躊躇うような内容を伝える役目を任せられるようになったそうです」
王といっても人間だ。耳に痛い話というものはある。そうした諫言や凶報を伝える者は命懸けだ。機嫌を損ねれば地位や名誉はもちろん自らの命、家族の命も失いかねない。そんな報告を進んでしたいとは思わないだろう。そこに発言の自由を与えられた身分の下の者がいるとなれば身代わりとして彼らにそうした役目を課すことは容易に想像がつく。
「酷い話ですね」
ローズが吐き捨てる。
「何の罪もない者を迫害し、あまつさえ特権を持つ者が危険な役目を押しつけるとは」
「特権を持つ者の代表としては耳が痛い」
アレクサンドルは苦笑して受け流した。
同時に、ローズを挟んで反対側に座るスカーレットが心なしか少し小さくなった。さきほど彼らの容姿をめずらしい、などと見世物呼ばわりしたことを恥じているのだろう。
「ところで宮廷道化師には奏上役を任せられるようになったことに派生したあるおとぎ話……というか伝説のようなものがあるのです」
「伝説……?」
「はい。ある時、治世の乱れた王がいました。政治は乱れ、処刑という名の虐殺を行う王に宮廷道化師が諫言したところ、狭量の王は宮廷道化師も殺してしまいました。しかし、彼らの中の何人かは鬼子としての特異な身体能力や生命力で逃げ延びたそうです。生き延びた彼らは政争に敗れ地方に追いやられていた暴王の末弟を頼りました。その王弟は宮廷道化師たちの特異な能力と彼らの持つ宮中の裏の知識を活用して心ある貴族をまとめ、暴君と化した兄王を討ったのです」
「それは四百数十年前の史実を元にしたお話ですね」
地方に潜んでいた王弟が兄王を討って国を立て直すという話。最近、歴史書を読み漁ったばかりのローズには覚えがあった。もちろん、宮廷道化師うんぬんは歴史書には書かれていなかったが。
「ええ、事実その時宮中では宮廷道化師の虐殺があったそうです。そして、このおとぎ話から派生した伝説があるんです。話に出て来る宮廷道化師たちは王弟の即位後影の諜報部隊となり、彼の息子の内王位を継がなかった者に委ねられた、というのです」
「面白い話ですね」
道を踏み外した王を諌め、いざというときは打倒する一助としてあえて王位を継がなかったほうに委ねたのだろう。いかにも伝説の部隊という感じの話に軽い気持ちで答えると、
「ええ、興味深い話です」
その目に探るような光を帯びてアレクサンドルがあえて表現を換えて言い直した。
「ラズワルド准将、もし、その部隊が実在し、存続しているとしたら今は誰が手綱を握っていると思いますか?」
油断ない眼光とにわかに含みのある口調で問う。
(ヴィクトールがその部隊の手綱を握っていると思っている……のか?)
ローズがアレクサンドルとそんなやり取りを交わしているころ、席を譲らされたヴィクトールは女を抱いていた。
「お上手ですねぇ」
女を抱いていた、などと言い、向かい合った女性の口からこのような言葉が出るといかがわしく聞こえるが、ヴィクトールの腕の中にいる女は発言者の彼女ではない。その娘。まだ、産まれて一週間の赤子である。
「男の方は普通産まれて間の無い赤ん坊は怖くて抱けないものなんですよ」
それを先に聞いていればヴィクトールとて抱きたくはなかった。何しろ首の座る前の赤ん坊は頭の重みで折れてしまいそうで頭を手で支えてやらなくてはならない。しかし、力を込めたら握り潰してしまいそうでそれもそれで怖ろしい。
ヴィクトールがいるのは王宮の離れ、王太子妃が暮らす離宮だ。アレクサンドルに席を譲った際、『妻が暇なら来てくれと言っていた』という伝言を受けとった。することもないではなかったが、普段顔を合わせる機会の少ない義妹に会っておくのも悪くない、と思って顔を出したのだ。
「おいたん、ついあたし」
足元で二歳になるもう一人の姪ローラが抱っこをねだるので、ヴィクトールが腕の中の赤子をおそるおそる差し出すと、
「あの人もまだこの子を抱いてくれないんです」
まだ、名前のない次女を受け取りながら王太子妃ソフィーが悲しげに呟く。
「今はちょうど建国記念祭で忙しいからだろう」
アレクサンドルがソフィーを愛していないなどということはあり得ない。何しろ宮廷学校(文官を教育、育成するための学校)で後輩だった彼女を数年がかりで口説き落としたのはアレクサンドルの方なのだから。ソフィーとの間にできた娘も当然愛しているはずだ。
「そう……でしょうか」
慰めも大して効果がない。
だが、ソフィーが落ち込んでいる理由もわかる。
「アレクはそんなこと気にしてない。そうでなければわざわざオレを姪に引き合わせたりしないだろ」
ゾエラカーノでつくれる子どもには限りがある。
女児が生まれた株――雌株からはゾエラカーノの種命の種が採れ、男児が生まれた株――雄株からは涵養の氷という結晶が採れる。これらの数=ゾエラカーノでつくれる子どもの上限になる。問題なのは普通五から十個ほど種や結晶があるのだが、アレクサンドルの場合結晶が三つしかないということ。
「アレクはそうかもしれませんが……」
アクティース教を国教としているためゾエラカーノ以外での子づくりは認められていないルディア王室ではチャンスはあと一回。
一応、王位継承権は王女にもあるが、王子優先。歴代でも二人しか女王はおらず、それも他に王家に連なる者がいなかった場合の非常手段。ほとんど認められていないに等しい。
必然、アレクサンドル派の者たちからは、王子ではなかったのか、という落胆の声が聞こえてきているはず。
それと同時に、跡継ぎたる王子ができないことで貴族派に付け入る要因を与えてしまっていることも聡明なソフィーは気づいているのだろう。
「だいたい男か女かなど誰の責任でもない。なあ?」
「なあー」
ヴィクトールが同意を求めるとローラがおそらく意味もわからず応える。
「せめて義兄上に男児がいれば少しは気も楽になるのですが……」
(アンナがダメなら次はソフィーか……)
アレクサンドルのしつこさと周到さにヴィクトールが小さくため息を溢す。
(一体何が目的だ?)
当事者のヴィクトールから直接聞いた話でも、スカーレットから教わった客観的な情報でも、アレクサンドルとヴィクトールは敵対的ではないはず。なのに、この問いはヴィクトールに近しいローズに探りを入れているとしか思えない。
(その部隊の情報収集力がどうしても欲しい……のか?)
だが、国の中枢にいるアレクサンドルならば都市伝説のような不確かな部隊などに頼らなくても必要な情報収集力は持っているはずだ。アレクサンドルの辣腕ぶりは国内で知らないものなどいない。権謀渦巻く政治の中枢で腕を振るえるのは才能だけでは不可能。敵の動きを知る情報収集などすでに手中になければおかしい。
(まさか……ヴィクトールとも敵対することを考えている?)
たしかに、ヴィクトールが立太子していれば目の上のたん瘤であることは間違いない。しかし、現実にはヴィクトールは王位を継承しないと態度で示している。貴族派という明確な敵がいる状況でヴィクトールとまで対立することにメリットなどない。
「王位に着く者以外に受け継がれる伝説の部隊を今指揮しているのは誰か、ですか……」
答えはでないが、あまり黙考するわけにもいかないので、
「その条件ではおそらくジョアシャン王子ではないでしょうか」
「なぜジョアシャンだと思うのです?」
アレクサンドルの表情に特に変化はない。
「庶民出のミネゼンガー大公妃様を母に持つヴィクトールは前任者とのつながりがないので可能性が薄いでしょう。アレクサンドル様は立太子されていらっしゃる。対して、ジョアシャン王子は二人の兄の後塵を拝している上、生母は貴族の名家の出。秘匿された部隊を受け継ぐ条件が一番整っているのはジョアシャン王子かと」
ローズの答えはアレクサンドルの期待通りではなかったはずだが、
「なるほど、論理的な考えです」
アレクサンドルは本心から感心したようにうなずいているように見える。そして、意図を推察する隙を見せず、即座に角度を変えて斬り込んできた。
「しかし、だとすると私にとってもラズワルド准将、貴女にとっても喜ばしいこととは言えない。そう思いませんか?」




