第四章 共闘 8
侵蝕される側として蜘蛛の森の拡大力に侵蝕されていたときは異常に速く感じられたアラグラーソの骸から生える木も、いざ焦土に森を再生する試みに利用するととても遅く感じられる。焦土と化した鉄の森の側に停泊した自分の船の甲板から岸にまばらに生え始めた木を眺めてシッファー少佐はそう感じていた。
今彼の指揮するドラグーンシュトックと周辺に錨をおろす旧式のドラグーンシュトックは積んでいた卵を降ろしたところだった。
獲物の臭いに惹かれて近づいてきた獣人や妖魔との戦闘で死者を出し、作業の最中にも孵ったアラグラーソに襲われつつもどうにか積荷を降ろし終えた。
岸辺では妖狼魔犬と獣人たちが弱い仔蜘蛛に襲いかかり、貪る。ある程度体液を啜り終えると硬いばかりの甲殻を放り出し新たな仔蜘蛛に襲いかかる。
そうして散乱した部下数百名の命と数千のアラグラーソの命を引き換えに散乱した骸から早くも小さな芽が芽吹いている。その光景は二重の意味で感慨深いものだ。
思うものの一つは当然部下の命。彼らが命を賭して得た成果が「小さな芽」。
しかし、同時に自分たちが失ってしまった――否、破壊してしまったものの巨大さを思い知らされた。部下の命と木の数だけのアラグラーソの命によって芽吹いた木はあまりにも小さい。アラグラーソ骸の力と燃えた木々の灰が養分となり、タケノコの成長を数十倍にしたようにみるみる成長していくが、それでもまだ「若木」。
あの悠久を感じさせる大樹の森を回復させるにはどれほどの代価が必要になるのか?
おそらく誰もが思っている疑問。
しかし、誰かが口にしてしまえば微妙なバランスの上に成り立っている協同作業は一気に破綻してしまうだろう。それだけはあってはならない。少なくとも鉄の森を焼いてしまった責のあるブルトルマン軍にはその弱音を吐く権利はない。




