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銃撃士は相棒を選べない―最強美少女たちがパーティーを組もうと迫ってくる件について―  作者: アレセイア
第二章

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第16話

「ゴウル鉱山道の、大規模な魔物の出没、ですか。確かに公開依頼で出ていますよ?」


 いつものギルドの窓口――依頼探しのついでに、レオンはそのことについて訊ねると、ユキは少しだけきょとんとした表情で首を傾げる。


「……そんなに、大規模な話になっていたんですね」

「ええ、魔物の増加は実は数か月前から。当初は、自然発生だと思われていたのですが、どうにも様子がおかしくて。その調査報告も公開されています。読んでみますか?」

「あ、もしよければ」

「分かりました――よいしょ、と」


 彼女はカウンターから一冊の分厚いバインダーを取り出す。慣れた手つきでそれをぱらぱらとめくっていき、挟まっていた一冊のファイルを抜き取る。


「こちらですね。それは一般公開されているものです」

「ありがとうございます。どれどれ、と」


 それはB級冒険者のパーティーが探索した調査結果のようだった。

 できるだけ細かく、どこで何にいつ遭遇したか、一覧となって分かるようになっていた。


「出没種別は、シャドウウルフ、ポイズンフェネック、コボルト、オーク、ライト・ベア――かなりばらばらですね。出没箇所も、鉱山道一帯で偏りがなし……ですか」

「ついでに言うと、出没頻度も魔境並みです」

「それは、おかしい話ですね……」


 魔境は呼んで字のごとく、魔物の領域である。ケルドの森の深奥を抜けた先にある山脈からそう呼ばれ、グランド・ベアなどの大型魔獣がごろごろ現れる。


(そんな状況なら、流通も滞るわけだ……)


 報告書に軽く目を通し、なるほど、とレオンは一つ頷く。


「これでは原因を突き止めようがないですね」

「ええ、ですので漠然とした依頼で銘打っています」


 ユキは掲示板の方を指差す。その真上の『重要』項目に、紙が貼り出されている。


『依頼:ゴウル鉱山道、魔獣出没の調査』


「まあ、あれはダメ元の貼り出しです。一応、王都の方から本業の調査部隊を依頼しています。いずれにせよ、レオンさんにはオススメできない依頼です」

「はっきり言いますね……いや、実際、そうだと思いますけど」

「はい、では別の依頼を探しますか――といっても、今回は是非ともお願いしたい依頼が」


 ずい、と身を乗り出すユキに、ぐい、と思わず身を引くレオン。


「――どうしたんですか?」

「いや、だって、前回オススメされた依頼……」

「あ、あれは――その、すみません、ギルドマスターが何としてもこの依頼を受けさせろ、って圧力をかけてきて」


 申し訳なさそうにユキは眉尻をへにゃりと下げる。その仕草にとても責める気になれず、レオンはため息をついて少し苦笑いを浮かべた。


「話は聞きました。まぁ、そちらも立場があるのは承知しています」

「……ありがとうございます。A級冒険者はこういう我がままを言うから困ったところです。ウチのギルドマスターも割と長いものに巻かれろ主義でして」

「らしいですね。その評判は冒険者の間でも聞きます」

「とはいえ、これは言い訳ですね――本当に申し訳ございません」

「謝らなくていいですよ。ユキさんの人の好さは、知っていますから」

「ふふ、ありがとうございます。レオンさんも大概、お人好しだと思いますけど。トラブルに巻き込まれるのを承知で、シュリと一緒に行動するのですから」

「――どうにか、ならないんですかねぇ、あの姉妹」

「どうにかなれば、苦労しませんよ」


 はぁ、と二人揃ってため息をこぼす。お人好しはいつだって、気苦労が絶えない。

 だが、ユキは顔を上げると咳払いして、すぐに思考を切り換えて告げる。


「ともあれ、愚痴はここまでにして――お仕事に話をしましょうか」

「はい。そのオススメの依頼というのは?」

「実は、今回はレオンさんを指名した依頼なんです」

「へぇ」


 冒険者が受ける依頼の中には、一般依頼と指名依頼がある。

 一般依頼は、不特定多数の冒険者が受けることができるのに対し、指名依頼は依頼人が誰を選ぶかを指定することができる。

 剣士、魔術師といった職種で指名することもできるし、個人を名指しで指名もできる。シュリが前回、銃撃士を指名したのもこの制度だ。

 今回は、レオン・ケンフォードをピンポイントで指名しているらしい。


「依頼主は、ミリアム・レクイアさん。不動産業を営んでいる方で、護衛の依頼となっています。行先は、アシュタル村」

「アシュタル村、というと――ああ、ケルドの森の先か」


 レオンは振り返り、ギルドの壁に貼りだされた地図を見やる。

 ケルドの森を抜けた先にあり、森の中の村だ。湧水が豊富であり、染め物などの産業が盛んとされる。ちなみに、ゴウル鉱山道からも近いので、魔獣の出没の危険もある。

 ユキは軽く頷きながら、書類を取り出しつつ説明を加える。


「アシュタルに二日逗留予定。その間の護衛もお願いしたい、とのこと。もちろん、宿泊費は先方が持たれています」

「報酬も――割合、いい額です、けど……」

「どうか、されましたか?」

「いや、このレクイアさんとは面識がないのですよ」

「え、そうなんですか。すみません、てっきりお知り合いかと」


 ユキが形のいい眉を寄せる。レオンはわずかに悩みながら書類を見る。

 面識がないとしても、シュリやカグヤのような実績のある冒険者なら、わざわざ指名して依頼するのも分かる。だが、レオンはまだC級の冒険者。

 なんとなく、不自然だ。ユキは書類をめくりながら首を傾げる。


「不安に思われるのでしたら、こちらで調べますが……でも、レクイアさんはとてもいい人ですよ? 下宿を経営されている方で、冒険者の方々もお世話になっています」

「そうなのですね……なら、受けましょうか」

「……よろしいのですか?」

「ええ、考えてみれば何故、自分に依頼したのか、直接訊ねればいいのですし」


 どちらにしろ、護衛する以上、依頼人とは出会うのだ。そこで疑問を解決すればいい。それもそうですね、とユキは頷き、書類を差し出してくれる。


「万が一、何かあればご相談に乗りますので」

「ありがとうございます。では、行ってきます」

「はい、いってらっしゃい」


 ユキの笑顔に見送られ、レオンはギルドの出入り口に向かう。そして、扉の近くで息を潜めるようにして外を窺った。

 外の往来はいつも通り――だが、レオンの狩人の眼差しはそれを見逃さない。


(……いた)


 遠くにちらりと見えたのは、短い金髪――シュリだ。喫茶店のテラス席でお茶を飲みながら、ちらちらとギルドの建物を窺っている。

 どうやら、レオンのことを待っているようだが……。


(シュリがいるなら、カグヤもいるだろうし……)


 ここで二人の喧嘩に巻き込まれたら、依頼人を待たせることになるかもしれない。ここは見つからずに行くべきだろう。

 レオンは冷静にそう判断すると、ギルドの裏口の方に足を向けた。


   ◇


 レオンが裏口から出ていく。その後ろ姿を見守っていたユキは首を傾げていた。


(レクイアさんとレオンさんは面識がない……か)


 心の中を占めているのは、その疑問である。

 受付嬢としての勘が、何となく変だと告げているのだ。


(そもそも、レクイアさんが街の外に出るのも珍しいですし)


 依頼を受けたときには気にならなかった。何か用事があるのだろうな、という程度にしか考えなかったが、そこも不自然に思える。

 レクイアは、冒険者の下宿を経営しているのだ。管理人が長く下宿を離れるのはよくないはずなのに――。


(……そういえば、レクイアさんの下宿には誰がいるんでしたっけ)


 ふと思い立ち、カウンターの中の書類を取り出す。

 ギルドは冒険者への依頼の仲介の他にも、下宿や移動手段の斡旋などもしている。その都合でギルドはこの街の下宿に誰が済んでいるか、全て把握しているのだ。

 下宿リストからメゾン・レクイアを選び出し、そのリストを何気なく眺め。

 思わず、うめき声をあげてしまった。


「……うわ……やり方があざとい」


 なるほど、彼女の仕業だとすれば、全て合点がいく。だが、気づいたところでもうレオンを止めるには間に合わないだろう。


(……ご愁傷様です。レオンさん)


 心の中で合掌しながら、ユキは再びそのリストに視線を落とす。

 そこの一つには、見知り過ぎた名前がはっきりと刻まれている。


『カグヤ・ユグドラ』――と。

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