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誰もが聖剣を与えられる世界ですが、与えられた聖剣は特別でした  作者: ナオコウ
第五章 〜ミュン・リーリアス15歳〜
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【21】ローズ(3)

 ローズの本質──


 それは、最も大切だと思う者が傷付けられたとき……何よりも残酷になれる事だった。


 それこそ、本来の優しかった性格が鳴りを顰め……口調すら変わってしまう程に……。


 メイドのジーナとの一件以来、ローズは常にセシリアの近くで彼女を護衛した。


 ジーナが国王に泣きついた際も、国王がどの様な判断をし、ローズに危害を加える様な罰を下したとしても……一向に構わないとすら思っていた。


 ただ、国王がセシリアに咎を負わせようと考えたなら──即座にその首を獲る覚悟もあったのだが……

 

 幸い、国王はローズの行いを笑って許し、セシリアに対しても特に責任を負わせるつもりはない様子だ。


 セシリアを虐げていた主要人物の一人であるジーナを排除できたのは、ローズにとっても僥倖だったと言える。


         *


 「デビュタントだと? あの出来損ないのか?」


 ローズの進言に対して、国王オルトロスは冷たくそんな問いを返す。


 進言の意味が、本気で分かっていない様子だ。

 

 「そうです。セシリア様は聖王国唯一の王女殿下……。他国に嫁ぐと言うのに、デビュタントも済ませていないとなれば、外聞もよろしくないかと……」


 ローズは、そう言って玉座に座るオルトロスの前に跪き、恭しく頭を垂れる。


 ローズがセシリアと出会い、数ヶ月の月日が流れた……。


 セシリアのため、国王に下げたくもない頭を下げる事にも随分と慣れてしまった。


 「──ふむ。サリア公爵は好色家だ。見目さえ良ければ、そんな事を気にする方ではないと思うがな……」


 サリア公爵……


 その名前を聞くだけで、ローズの心は荒波の様にささくれ立った。


 セシリアが嫁ぐ予定の……公国の君主……。


 色多きこの公爵は、女性を自分の欲を満たすための道具としか見ていない。


 セシリアが嫁ぎ、公国に行くというなら、ローズは無理矢理にでも着いて行くつもりだったが……


 ローズは、この公爵がセシリアを物の様に扱う様子を見たら、正常でいられる自信がなかった。


 ……今でさえ、オルトロスや王妃、家臣団のセシリアに対する扱いに憤りを覚えているというのに……。


 「まあ良い。お前の好きにしろ。どうせ他所にやる娘の事だ──最後くらいは、親らしい事をしてやるのも悪くない。」


 「……有難うございます」


 ──ギュッ……


 オルトロスのあまりの言い様に、ローズは恭しく頭を下げつつも、奥歯を噛み、拳を強く握った……。


         *


 「この宴は、セシリアのデビュタントであると同時に、婚姻を祝う席でもある。まあ、肩肘張らずに適当に楽しんでくれ」


 オルトロスのその言葉と共に、セシリアのデビュタントは始まった。


 祝いの席──


 顔も知らぬ……そして、女性を人とも思わぬ下衆に無理矢理嫁がされると言うのに、何が祝いの席なものか。


 ローズは叫び出したい衝動に駆られるが……元々、この場はローズが提案した事によって設けられた席だ。


 文句を言う権利などないに等しい。


 しかし……


 実の両親にすら蔑ろにされ、デビュタントなど行われる予定もなかったセシリアの事だ。


 ローズは、祝いたくもない席だとしても、セシリアに『人から祝福される』と言う場を設けてあげたかった。


 そんなローズの思いとは裏腹に……


 「……」


 セシリアはギュと口を結び、俯いて弱々しく身体を震わせていた。


 先程から、宮廷音楽家が奏でる軽快な音楽に混じり、セシリアを中傷する言葉や、嘲りの笑い声がローズの所まで届いている。


 ──原因はそれだろう。


 ローズは、この場にいる者たち全員を、即座に斬り殺してやりたい衝動に駆られるが……


 そんな事よりも、『セシリアのフォローをするのが先だ』と何とか踏みとどまり、


 「──セシリア様、大丈夫ですか?」


 努めて優しい声を出し、セシリアの側に寄り添った。


         *


 「セシリア様。私と踊ってくれませんか?」


 『外の空気を吸いたい』と言ったセシリアに伴われ、パーティ会場のテラスへとやってきた二人……。


 ローズは、セシリアをダンスに誘った。


 音楽もない、観客もいない、傍から見れば寂しいだけの場所だが……ローズにとって、セシリアと二人になれる──特別な場所の様に感じていた。


 「ふふ、こんなところでダンス? 何か、イケナイ事をしている様で……ドキドキするわね」


 気の利いた誘い文句など知らない、礼儀作法に則った訳でも無い……ローズの無骨なダンスの誘いに、セシリアは目を細めながら揶揄い交じりに了承する。


 ここには、ローズとセシリア……二人だけの世界しかなかった。


 ローズは進言する。


 『貴方は、もっと我儘になっていいんです』


 と……。


 自分を大切に……。


 嫌な事などする必要はない。


 セシリアが望むならローズは……


 『この国の全ての者を敵に回しても良い』とすら思っていた……。


         *


 ──斬る。


 ────斬る。


 セシリアを嘲笑った、全ての者を。


 大義名分など最初から必要なかった。


 何が、『この国のために新たな指導者が必要』だ。


 何が、『貴方が立てば、付いて来る者も大勢いる』だ。


 そんな話は建前でしかない。


 結局、このクーデターに参加しているのはローズだけだ。


 現国王に不満を持つ人間を募る事も考えたが……反乱分子はローズ自身が粗方征伐してしまったため、声を上げようとする者など皆無だった。


 それでも構わなかった。


 一人でも成し遂げられる自信と、その力がローズにはあったのだ。


 セシリアが自分の事を『憎からず思っている』事を利用し、勝手に旗印にした。


 『16歳の誕生日に、国王の寝屋に呼ばれている』


 ローズのその言葉がダメ押しになり、セシリアは王位の簒奪に乗り出した。


 王位継承権など持たない……他所の国へと嫁ぐ予定だったセシリアは、その日、『愚かなる簒奪者』となったのだ。


 そうさせたのはローズ自身……。


 しかし、ローズにはそうしなければならない理由があった。


 『お前は世継ぎを産む大事な身体だ』


 そう言って、下卑た笑みを浮かべた国王オルトロス……。


 別にそんな事は構わない。


 どう言われようと、何をされようと、ローズは耐え抜くつもりでいた。


 どれもこれも、全てセシリアのため──セシリアの側にいるために、仕方のない事だと割り切っていた。


 しかし、オルトロスはローズに言ったのだ。


 『お前はこの国の財産だ。他所の国にやる事は出来ぬ。お前はアレとは違うのだ』


 と。


 国王は──オルトロスは──


 ローズがセシリアと共にある事を許さなかった。


 それが……


 そんな些細な事が……


 ローズが聖王国に弓を引く原因となったのだ。


         *


 ローズは──


 たった一人で王城に乗り込み、オルトロスを護る兵士や聖剣士、貴族達をも皆殺しにしてしまった。


 大半の貴族はオルトロスを見放したか、王城に居なかったために免れたが……ざっと見積もっても、百人規模で守りを固める兵士や剣士を全滅させた事になる。


 それも、『抜剣術』を使う事なくだ。


 相手が『抜剣術』を使用したとしても、涼しい顔で斬り殺した。


 命乞いをする兵士に対しても、一片の情けもかける事なく、一撃の下に斬り伏せた。


 クーデターに参加しているのはローズだけ……セシリアは安全な場所──自室で待機している。


 ──ギギギ!


 重々しい音が響き、玉座の間へと続く扉が開かれた。


 「……」


 ローズは、無言で玉座に鎮座するオルトロスを見上げ──


 ドサッ──……


 玉座へと続く階段の中段辺りに、右手に持っていた何かを投げて寄越す。


 「──王妃……。死んだか」


 ローズの手から放たれたのは、恐怖に固まったままの表情で事切れた、王妃の首だった。


 オルトロスは変わり果てた妻の姿を前にしても、軽く一瞥しただけ、ですぐにローズの方に視線を戻す。


 王妃の生死など、歯牙にもかけていない様子だ。


 「……ふん。可愛がってやったと言うのに……恩を仇で返すか。簒奪者め、お前が私に敵うと思っているのか?」


 「……」


 ローズは無言だ。


 オルトロスはローズと同じ『皇級聖剣』で、王になる前は『聖王国最強』と呼ばれていた強者だった。


 ここに至るまでに、ローズが無慈悲に斬り殺してきた者たちとは格が違う。


 『抜剣レベル3を発動──使用可能時間は20分です──』


 オルトロスは『抜剣術』を発動させ──


 シャッ──……


 玉座の側に備えてあったサブウェポンを引き抜いた。


 『皇級聖剣』の『レベル3』……


 今までローズが戦ってきたどの相手よりも強者だが……


 「……お命、頂戴いたします」


 そう言って構えを取ったローズは……やはり『抜剣術』を使用しない。


 と言うよりも、『皇級聖剣』の『レベル3』ですら、使うに値しないと判断したのだ。


 クーデターを起こした理由も述べない。


 名乗りも口上もない……


 ただ、オルトロスの命を奪うと宣言した。


         *

 

 「──ごふ……。さすが……『鬼神』と呼ばれるだけはある……。同じ『皇級聖剣』でも、ここまで差があるか……」


 聖剣を握る右手を飛ばし、早々にオルトロスの『抜剣術』を解除させる事で、即座に勝負はついた。


 ローズは、オルトロスがあっという間もなく、腕を落とした後に……致命状にならない程度に斬撃も与えた。


 王を殺すなら、セシリアの名の下に、大衆の前でだ……。


 そうすれば、誰もがセシリアを新たなる王として認めざるを得ないだろう。


 「……ふん。致命傷ではないが、これではもう戦えんな。まさか、たった一人の剣士に私が追い落とされるとは……。それも、碌に『抜剣術』も使わぬ者に……」


 オルトロスもその事を理解しているのか、抵抗する事なく、ローズの前に跪く格好で頭を垂れる。


 「……お前は──」


 ただ、ローズの異常なまでの戦闘能力の高さに、納得がいかない様子で目を細めた。


 そして、しばらく考え込んだ後、唐突に──


 「……! そうか! お前は……そうだったのか!!」


 勝手に何かに納得した様子で、声を上げる。


 「──はっは! そうか、お前は『皇級聖剣』の中でも選ばれし者──〝副恩恵〟を持っているな!」


 ……〝副恩恵〟。


 その言葉は、ローズも聞いた事があった。


 アカデミーに在学中、講義で習った事がある……


 特別な才能を持った者にだけ発現する──特別な力。


 本来ならば、『抜剣術』を用いなければ起こす事の出来ない『神の奇跡』を体現する事が可能だと言う……


 そんなものが、自分にあるなどと……


 ローズはオルトロスの言葉を信じていなかったが……今まで自分に起こってきた事を思い起こせば、あながち間違いではないのかもしれない……とも思った。


 ローズが既に至っている『レベル4』……『先見』は先読みの力だが……ローズは──


 『抜剣術』を使わずとも、相手の動きが手に取るように分かる。


 その能力のおかげで、激しい戦場でも傷一つ負う事なく──今回のクーデターにおいても、手傷の一つも負っていない。


 「であれば……これは必然か。お前の〝副恩恵〟は、凄まじい……。運命をも飲み込み──お前を〝王〟にするため、因果を捻じ曲げたのか」


 何を言っている?


 王になるのは自分ではなく、セシリアなのに……。


 ローズはオルトロスの言葉に、何か不穏な……


 とてつもなく、嫌な予感と不安に襲われ……背筋に、冷たい汗が流れるのを感じた。


 「……あ、あぁ……」


 そして──


 そして────


 オルトロスの言葉を受け──ローズは唐突に理解した……。


 自分の〝副恩恵〟の存在……そして、その〝副恩恵〟が(もたら)(いびつ)な……抗いようのない強制力を……。


 ローズの〝副恩恵〟は、ローズ自身に都合の良い様に〝運命〟を捻じ曲げる。


 『先見』の能力から生じた、〝先読み〟を超えた──〝強制〟だ。


 ローズがどう思おうが、どれだけ否定しようが〝副恩恵〟は……


 『必ず、ローズにとって都合の良い結果になる様に進んで行く』


 しかし、それは裏を返せば……


 〝都合の良い方向にしか進まない〟と言う事でもあるのだ。


 つまり、仮にローズが望み、選んだ選択が──ローズにとって都合の悪い未来へと進むモノなら……


 〝副恩恵〟は、それを強制的に〝都合の良い結果〟へと書き換えてしまう。


 ローズが『その結果を望まなかったとしても』だ……。


 そして、自分の〝副恩恵〟を理解した事で、ローズはある〝悍ましい答え〟に行き着いてしまった。


 ──弟は……何故、死んだのだ?


 完治していたはずの病気が再発し、最高の治療を受けたにも関わらず……なす術もなく死亡した。


 何処からが正常だ?

 

 何処から捻じ曲がった?


 両親の事もそうだ。


 何故、優しいと思い込んでいた両親が……あの時、突然『弟に対する虐待』を露呈させ……それを()()ローズが聞いてしまったのか。


 その、両親の行動ですら──何かに動かされた結果だとしたら……?


 家族を第一に思い、ある意味、家族に縛られていたローズ……。


 ローズを上へと押し上げるために……


 〝副恩恵〟は──運命は……


 ()()()()()()()()()()()のだ。


 「──っ!? あぁぁぁぁぁぁ!!!」


 真実に気付き、半狂乱になったローズは──


 ドヒュッ──!

 

 持っていたサブウェポンで、オルトロスの胸を貫いた。


 「──がふ……」


 その一撃で、最も簡単にオルトロスは絶命する。


 最後の言葉も残せず、一瞬の内に心臓を貫かれた……。


 ──ドシュ


 ──ドシュドシュ


 ──ドシュドシュドシュドシュ……


 動くものが誰も居なくなった玉座の間に──


 狂ったように叫び声を上げるローズの声と……


 サブウェポンを肉塊に突き刺す音が……


 延々と響き続けた……。

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