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誰もが聖剣を与えられる世界ですが、与えられた聖剣は特別でした  作者: ナオコウ
第五章 〜ミュン・リーリアス15歳〜
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【18】ミュンの決意

 『え? え、え? な、何で……何で……ワタシ……』


 ミュンに言われて初めて自分の状態に気が付いたのか、『シリス』は狼狽しながら、顔を覆っていた両手を自分の口に当てた。


 『シリス』が、自身の口元を指でなぞると……


 口角は上がり──三日月の様に歪んでいた……。


 『あ、あり得ない……です。悲しいはず……なのに……。な、何で……笑って……?』


 「……貴方、最初からそうでしたよ。無表情だったのは最初に見た時と──と言うよりも、公の場所では常に無表情でしたけど──昨日、聖剣教会で会った時も、涙を流しながら笑ってました。そして、今も変わらず……」


 ミュンの言う通り、『シリス』は狼狽し切っているにも関わらず……


 口角は上がり、目尻は下がっている。


 涙を流し、身体は悲しみに震えているが……


 それを、喜んでいるようにしか見えないのだ。


 『ふむ、そうか……。どうやら『衝動』は克服ているようだが、未だに『感情』のコントロールが出来ていないのだな。感情と表情に統一性がない……』


 『シリス』の今の状態を詳しく説明するラティアスだが、


 「そんな様子だし、間違いなくローゼンディアスも気付いているでしょう……。貴方の本心がどうあれ、それでは信用されなくて当然です」


 「子供を平気で『処刑』しようとするローゼンディアスに、子供を人質に取られて笑ってる貴方──それに、あの元王女様も怪しいし……この国にはこんな人たちしか居ないんですかね?」


 『……あまり言ってやるなミミュ。この者──『魔族』はある意味、ソレミアの愚行の犠牲者だ。それに、『魔化』の衝動を克服しただけでも驚嘆に値する……』


 「……まあ、この人のこの笑顔が、本心でない事くらいは分かってましたけど……。少し、意地悪したくなったんです。私の故郷の村は、『魔族』に酷い目に遭わされましたからね……」


 ──チンッ


 ミュンはそう言うと、「ぷいっ」とそっぽを向き、またこれも目にも留まらぬ速さでサブウェポンを鞘へと納めた。


 そのミュンの様子を見て、ラティアスは──


 『まったく……そう言う所は年相応なのだな。普段、主人殿を追いかけている様を見ていると……ふっ、心や身体は随分とマセテいるが、そう言う部分はまだまだ未熟だ』


 「……何ですか、その妙な保護者目線は」


 『あ、あの……ミュン様……?』


 「私は……結論としては、潜伏し続けて『ユラン君が、ミュンちゃんに気が付くまで待とう作戦』を実施しようと思ったんです。私がここからユラン君にラブ光線を送り続ければ、ユラン君は愛する私の不在に気付くや否や、私への愛を求めて草の根分けてでも探そうとするはず。ユラン君の愛は、やがて国境を越え……聖王国にいる私に気付く。そう言う作戦です。ユラン君さえ来てくれれば、ローゼンディアスなんて目じゃないですから」


 ミュンの言っている事は、間違ってはいない。


 『愛を求めて』と言う部分は置いておくとしても、神級聖剣のユランならば、例え相手がローゼンディアスであっても問題なく制圧できるだろう。


 『……色々、ツッコミ所は満載だが……まあ、概ね──と言うか、その作戦しかないのだろうな。アレに太刀打ちできない以上、取れるのは最早、逃げの一手だけだ。そして、召喚するなら主人殿が望ましいのも確かだ。戦闘経験が少ないリリリでは……万が一があるからな』


 これも間違いではない。


 リリアは神級聖剣とは言え、ルミナスソードの補助がなければ『レベル3』が限界で……


 実は、リリアには大遠征の時の後遺症が一年経った今でも残っており、ルミナスソードによる『強制レベルアップ』のバフが現在、使用不可能な状態である……。


 リリア自身も訓練の練度の低さや、戦闘経験の少なさから『レベル3』を使用しても──ローゼンディアスに敗北する可能性は十分にあるだろう。


 まあ、それもリリアが一人で戦った場合の話だが……。


 正直、分身体である事が影響して……


 今のラティアスは、相手の能力を正確に推し量る事が不得手になっていた。


 見誤っていたのだ。


 ローゼンディアスの強さを……。


 ミュンとラティアスが頭を捻って考えた結果、ローゼンディアスに対抗するためには──


 ユランをここに呼び、代わりに戦ってもらう──


 リリアを呼び、共闘して戦う──


 この二つの選択肢くらいしかない。


 『あと、私の知る限り、王国内でアレに対抗できそうなのは……ほら、いただろう、王族の中に『皇位の五星』が。やたらと主人殿に付きまとっている……名前は、ジェイゴブズだったか?』


 「……『皇級聖剣のレベル5』、ジェミニ様です。何ですかジェイゴブズって……ジェしか合ってませんよ。それに、明らかに男性の名前ですし、絶対にわざと間違えてますよね? 間違え方に悪意ありすぎです。どんだけ王族が嫌いなんですか」


 ラティアスが言った様に、『皇級聖剣』のジェミニならば、『Over Drive 2』のゴリ押しで対抗できるだろうが……


 ジェミニがユランの説得なしにミュンに協力するとは思えないし、そんな事をするくらいなら、最初からユランに来てもらったほうが早い。


 それに、恋のライバルと言って良い相手に頼るのは何となく癪だった。


 その点においては、リリアに対しても同じ様なもので……


 結局、ミュンの中での選択肢は、最初から『ユランをここに呼ぶ』しかなかったのだ。


 何とも……この様な状況に置かれても、ミュンの中の変な乙女のプライドが色々と邪魔をして、それが原因で選択肢を狭めていた。


 「まあ、とにかく、それが今の私に取り得る最善の策ですし、最良の手段と言えます。そうすべき、なんでしょうけど……私がそう決断したなら、多分──」


 ──バンッ!!


 突然、ミュンたちの会話を遮るように、食堂の大扉が開き……転げる様に、宿屋の主人が食堂に入ってきた。


 宿屋の主人は、興奮した様子で頬が上気しており、その顔は〝何かに〟期待して綻んでいた。


 そして、その手に持っていた羊皮紙を広げ、言ったのだ。


 「『シリス』様! つ、ついに『邪教徒』を生み出す元凶が見つかったのですね! まさか、『魔族』の仕業だったとは! 女王ローゼンディアス様が、王国民に紛れ込んだ『魔族』を見つけ出さなければ……聖王国は滅んでいたかもしれませんね!」


 興奮し、『シリス』に対して捲し立てる様に言う宿屋の主人。


 宿屋の主人に、詰め寄られる様な形になった『シリス』は、意味が分からずに困惑した様子を見せる。


 「……そんな事だろうと思ったわ。本当に、どんだけ反則的な能力なのよ……あの女の〝副恩恵〟っやつは……」


 『……だろうな。やはり、〝運命を捻じ曲げる力〟が強すぎる……。このまま順当に成長して行けば、ヘタな王位なら越えかねん逸材だ』


 だが、ミュンとラティアスは宿屋の主人の言葉の意味が分かっている様子で、ため息混じりにそう言う。


 『あ、あの……一体、何が……?』


 『シリス』だけは、相変わらず意味がわかっていない様で、宿屋の主人に尋ね──


 「何って……人間に擬態した『魔族』を見つけ出したんですよね? その『魔族』が『邪教徒』を生み出してるって……首都中に御触れの張り紙が出てましたよ? ああ、『魔族』の討伐なんて危険ですし、ローゼンディアス様は『シリス』様に敢えて説明しなかったかもしれませんね!」


 『……え?』


 「何でも、見つかった『魔族』は()()()姿()をしていたそうですよ? 確か『魔族』のリーダーの名前は……ああ、この張り紙に書いてある。──ヨシュア? 一端に人間みてぇな名前だな……」


 『シリス』は、その答えに困惑した表情のまま固まってしまった……。


 『あ……はへ?』


 言っている事が理解出来ない。


 いいや、理解したくない……。


 何故?


 ──『シリス』は、少なくとも公にはローゼンディアスの仲間であるはずなのに……。


 「『魔族』は『粛清』──公開処刑に処されるらしいですよ……。えっと、粛清日は──今日の夕方からじゃないか! はっはは、昨日は久しぶりに宿に客も入ってくれたし、今日は『粛清』も見られる……良い事ばっかり起こるな!」


 余りのショックに固まってしまった『シリス』とは裏腹に、宿屋の主人は小躍りでもしそうなほど喜んでいる。


 やはり、聖王国で『粛清』……『処刑』は最高の娯楽なのだ。


 「『シリス』様もいつもの様に、『粛清』前に『聖女の祈り』をお与えなさるんですよね? ああ、でも、『邪教徒』と違って『魔族』は人間じゃないから……『救い』は必要ないか。──おっと、こうしちゃいられない! まだ時間はあるけど、良い場所で『粛清』を見なくちゃな!」


 宿屋の主人は一人で盛り上がり、固まってしまった『シリス』は勿論、ミュンたちも置いてけぼりにして声を上げる。


 そして──


 「お客さん、悪いけど、俺は家族を連れて『粛清』の場所取りをするよ。会場は、代理が場所取りする事が許可されてないからな。早く行かないと。宿の部屋は、引き続き好きに使ってくれて良い。晩飯の時間までには戻るから──じゃあな!」


 そう言って、足早に食堂を出て行った。


 残されたミュンとラティアス……そして『シリス』は、無言で宿屋の主人を見送る。


 それぞれ、別の思いを胸中に秘め……


 いいや、その中でも、ずっと固まったままだった『シリス』は──


 突然、身体がガタガタと震え出し、


 その、黄金色の両の目には、見る見る内に涙が溜まっていき……


 すぐに、止めどなく溢れ出た。


 『あぁ! ヨシュア! 皆んな! 何で! 何で! 全部、あの人の言う通りにしていたのに! 何で……何でぇ……』


 今までは、感情と表情が一致せず、泣きながら笑っていた『シリス』だが……


 今は──頭を抱えながら何度も掻き毟り、発狂した様に叫びながら、嗚咽を漏らしている。


 やっと、表情が感情に追い付いてきた様子だ……。


 『助けて、ミュン様……お願いです……。何でも言う通りにします……何でも……。だから、ヨシュアを……子供達を……た、たす……うぅぅ……』


 宿屋の主人は、『魔族のリーダーの名前はヨシュア』と言っただけだ。


 そのヨシュアが『シリス』の子供達の一人──子供達のリーダー的存在の一人、『ヨシュア』と同一人物かどうかは今の所は分からない。


 ……いいや、状況から見て、まず間違いはないのだろうが……


 ミュンは足下に縋り付く『シリス』を無視し、宿屋の主人がテーブルの上に置いていった羊皮紙を手に取り、内容にを目を通した。


 ──『邪教徒』を生み出す『魔族』の『粛清』を行う──


 時刻は本日──時から──


 ──以下の罪人──


 ヨシュア、アルト、リナ、カーリ──……

 

 ──の刑に処す。


 概ね、宿屋の主人が言っていた事と同じ内容が記載され、『粛清』される者のリストも載っていた。


 やはり……。


 「動いてきましたね。私が『ユラン君を待つ』と選択をしようとしている事に……気が付いたようです。……いや、違いますね……〝副恩恵〟で、無意識に『そうならない様に選択した』と言うのが正しいのでしょうか?」


 『間違い無いだろうな。主人殿が応援に駆けつければ、ハッキリ言って彼奴など瞬殺だ。──『処刑』を今日の夕方を選択したと言う事は、冷却時間も終わり、同時に……主人殿がもうすぐ事態に気が付くと言う事なのかもしれん。やはり、一事が万事……全てが彼奴の都合の良いように動いておる』


 「……私が、ノコノコと出て行くと思っているんでしょうか? 顔も見た事のない子供達のために?」


 『確実に来ると踏んでいるのだろう。そう言う能力だからな。にしても、やはり彼奴はこのシリスを信じていなかった様だな。ミミュを誘き寄せるために、この者を簡単に切り捨てた。この分だと、お前たちが秘密裏に会っている事も確実に勘づかれているぞ?』


 「……でしょうね。やっぱり、あらゆる面で私より一枚上手ですか……」


 ミュンは、両手を上げて肩を竦めると、渋い顔でそう言った。


 ──詰み。


 ミュンに残された選択肢は二つ。


 ローゼンディアスと戦って死ぬ──


 ユランが事態に気付き、救援に来るまで待ち……子供達を見殺しにする──


 『何にせよ、主人殿らが今のミミュの状態に気付くまで潜伏するのは正しい判断だぞ? お前では、戦っても確実に死ぬだけだ。だが、そうなれば、その間に『粛清』とやらの対象となる人間──子供達を見捨てる事になるな……。しかし、それも致し方ないか。大義を成すために、多少犠牲は……なあ、ミミュよ?』


 ラティアスはそこまで言うと、意味深な視線をミュンに向ける。


 ミュンは、ラティアスの言いたい事を察したように、大きく息を吸い──


 長い、長い、ため息を吐いた。


 「わざとらしく話を戻しましたね……。まあ、私はそれが最善だと思ってます。実際、ユランくんが私の置かれた状況に気付くまでには時間がかかるでしょうけど……。幸いにも潜伏に有利な装備(ローブ)も有りますし、時間を稼ぐだけなら問題ないかと……」


 『そ……そんな……で、では子供たちは……』


 『シリス』はミュンが発した言葉に、『自分の願いは拒否された』と感じ、顔を歪めて俯いてしまった。


 「まあ、そう思ってたんですけどねぇ……。昨晩は、色々一人で悩みましたよ。おかげで寝不足です。ああ、分かってますよラティアス様の言いたい事は……。私に──()()()()って言うんでしょう? どうせ私は、話を聞いてしまったら子供を見捨てられませんよ……。例え、顔も見た事がない様な子供達だとしても……知ってしまったからには、ね」


 『そこまでは思っていないが……概ね正解だ。そろそろ覚悟を決めろ。お前はどうせ私の助言など聞かん。言う通りにせん。だったら好きにやれ。私はもう諦めたよ……お前はそう言う(優しい)子だ』


 「私が目指すのは……『凄い聖剣士』ですから。弱い者を護る……ユランくんの代わりに──いいえ、違いますね……。ユランくんの隣に立っても、恥ずかしくないような『凄い聖剣士』に成るんです」

 

 ミュンはそう言うと、薄く笑い、そっと……足下で俯いていた『シリス』の頭に右手を乗せる。


 「私は貴方の言う女神へドゥンの御使でもありませんし、ローゼンディアスよりも弱いですが……まあ、やれるだけやってみますよ」


 『……ミュン様……あ、ありが……どう……ございま……』


 そして、座っていた椅子から静かに立ち上がると──


 「取り敢えず、先ずは──寝ます!」


 そう高らかに宣言した。


 『……はへ?』


 「寝不足で力が出ないので……。『粛清』までかなり時間もありますし、取り敢えず今は寝ときます。ローゼンディアスは私が何とかするので、貴方は、ラティアス様と子供たちを助け出す方法でも考えて下さい」


 ミュンはそう言うと、驚いて固まっている『シリス』を尻目に、ヒラヒラと手を振って宿の部屋へ戻って行くのだった……。

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