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EX IF√ 無知でいてほしかった

 ================




『無知』というのは、悪しきこととして扱われる単語の一つだ。

 しかし、『無知』であることで守られることも時にはある。

 “知らぬが仏”ということわざがあるように、『無知』にも良い面はある。


 だが、『無知』であるということは、同時に大きな罪でもある。

『無知』でいることは、自分の人生を放棄するも同然である。


 果たして、『無知』でいることは、善か悪か。

 少なくとも、一生の中で、その結論が出ることは無いだろう。




 ================





 吾輩は『アトラス』。

 我が主、アレイス様に使えるデュラハンである。

 まぁ、今は魔王さまと呼んでいるのだが。

 今は優雅にティータイムでもしようかと思っていたところで――――


「――――ぃへんたいへん大変!」


 ……アロマがひどく慌てた様子で走ってきた。

 今日は一体何なのだ?

 また間違えて地獄の公爵級の悪魔を召喚したとかではないといいのだが……。


「どうしたのだアロマ。また何かやらかしたのか?」


「違うわよ! 毎回毎回、私だけのせいにしないでくれる!?」


 アロマが頬を膨らませている。

 ハムスターか何かだろうか。


「じゃあ一体何だというのだ? そこまで慌てるようなことなのか?」


「そうなのよ! 大変なの!」


「だから何がだ。まず主語を先に言えこのア――――」


 ホと言いかけたそのとき。



「勇者がこの城に向かってきてるのよ!」


「――――ハァ?」


 アロマが唐突に、訳の分からんことを言ってきた。


「……なんでだ?」


「ウッソでしょ!? 理由が分からないの!?」


「スマン、いまいちどういった状況なのか理解できん」


「えーっとね、私たちのご主人様は誰?」


「そんなことわかり切っているではないか。魔王さまただ一人だ」


「じゃあ、勇者が戦う相手は誰?」


「魔王じゃ――――あっ」


「……さすがに気づいた? こんなことも分からないの?」


「貴様に言われると腹が立つが今回に関しては否定できんな。ッと、そんなこと言っている場合ではないのではないか!?」


 もしアロマの言っていることが本当なのであれば、勇者たちの目的は我が主である魔王さまだ。

 となれば、魔王さまの身が危ないではないか!


「そうよ! だからそれを伝えに来たのにアトラスったら!」


「今すぐに魔王さまにお伝えせねば!」


 吾輩はすぐに魔王さまの部屋へと向かった。




 ※※※※※※※※




「ハァッ、ハァッ」


 焦りのためか意図せずに呼吸が乱れる。

 普通だったらこんなことにはなるまい。

 吾輩の体力なら1000段の階段ぐらいなら朝飯前で登り切れるぐらいであるからな。


「あともう少しで、魔王さまの部屋であるな――――ッ」


 急がなければ。

 魔王さまの身が危ない。

 その一心で走り続けていた。


「魔王さまあああああああああッッ!!」



 吾輩らしくないが、死ぬほど焦っていたのだろう。

 魔王さまの部屋の前に来ても気づくことができなかった。


「えっ」


 目の前に扉が来たときにはもう遅かった。

 気づいたときにはもう間に合わない。

 体は意思に反して、勢いのまま扉に向かって進んd――――


「ぐあッ!?」


 体が扉に激突する。

 あまりに焦りすぎて、扉が閉まっていることに気が付かなかったのか。

 急に扉が閉まったようにも感じられた。


「アツツ……」


 勢いあまってぶつかったせいで頭を落としてしまった。

 急いで拾い上げる。

 おっと、こんなことをしてる場合じゃない!


 吾輩は急いで扉を開けた。



 扉の先には、見知らぬ女性と魔王さまが立っていた。

 とりあえずは無事なようで一安心する。


「……なんか凄い音したけど、大丈夫?」


 先ほど、吾輩が扉にぶつかったときのことだろうか。

 確かに、頭が取れてしまうほど勢いよくぶつかってしまったからな。

 そうとう酷い音が聞こえていたとしてもおかしくはない。


「ああ、いえ、大丈夫です……。ちょっと慌てて、ぶつかってしまい、頭が取れてしまっただけですので」


「慌ててって、一体どうしたんだ? 何かあったのか?」


「ああ、そうでした。実は――――」


 そこまで言いかけて、吾輩の頭の中にある考えが浮かんだ。


(魔王さまには伝えないほうが良いのではないのだろうか?)


 勇者たちに狙われているなんて言ったらどう思うだろうか。

 きっと、酷く動揺することだろう。

 別に、今すぐ魔王さまをどうこうするほどのことでもない。

 吾輩が勇者を倒してしまえばいいだけの話ではないのか。

 もし、それで済むのであればそっちの方が良い。

 魔王さまはもう十分頑張られた。

 これ以上面倒ごとに巻き込むのは良くないだろう。



「――――いえ、何でもないです」


「えっ、いや、何でもないことはないだろ」


「あ、いえ、確かに事があったにはあったのですが、今考えてみると、別に魔王さまにご報告するほどのことでもなかったと思いまして」


「ああ、そう? それならいいんだけどさぁ」


 どうやら、納得していただけたようだ。

 ……しかし、それにしても魔王さまの隣にいるあの女性は一体?

 よく見ると、背中に羽が生えている。

 視線を下に落とすと、尻尾も生えていた。

 …………あっ。

 スゥ――――ッ。

 ……なるほど、お楽しみ直前でしたか。

 それはとんでもないことを。

 やはり、魔王さまに伝えるのはよしておいた方が良さそうだ。


「お忙しいところをお邪魔してしまい、申し訳ありませんでした」


「いやいやいいよ別に、いつも色々してくれてるんだから」


「それでは、ごゆっくり」


 とっとと部屋から離れたほうが良いだろう。

 吾輩は部屋の外へ歩いていく。


「ああ、ありがとう」


 魔王さまから礼の言葉が返ってくる。

 吾輩はその言葉を噛みしめて、勇者たちの元へと向かった。


 あとで魔王さまに必死で説明されたのはまた別の話だ。




 ※※※※※※※※




「もう、もう許してくれよォ……」


 勇者が泣きながら許しを懇願する。

 この男は何を考えているのだろうか。

 魔王と戦いに来たというのであれば、逆に魔王に倒される覚悟もしてきたはずだ。


「黙れ、貴様は魔王さまを倒しに来たのであろう? ならば、自分が倒される覚悟もしていたはずだ」


「なんで……、なんでだよォ……ッ」


 勇者は周りにいる大量の横たわった兵士たちを見ながら泣きじゃくっている。

 あまりの恐怖にズボンが濡れてしまっている。

 全くあきれる。

 こんなのが今の勇者なのか。

 昔の魔王さまを見習ってほしいものだ。

 ……わざわざ殺す気も無くなってきたな。


「おい、貴様」


「ひゃいッ」


 勇者が怯えながら答える。

 何とも蒼白で、惨めな顔だ。


「貴様、誰の命でここに来た? 兵士と共に来たということはどこかの国からの指図か?」


 そう、この勇者は多くの兵士を従えてこの魔王城までやってきたのだ。

 他の勇者と共に来るのではなく、兵士たちと行動を共にしていたということは国家が関係している可能性が極めて高い。


「は、はい。こ、ここから一番近い国の大臣さんに言われて……」


 ここから一番近い国というと、『ストリング』か。


「その大臣の名前は?」


「えっ……、えーと……」


「吐かないと、どうなるか分かっているな」


 首に剣を押し当てる。

 表皮が切れ、首筋を血が伝う。


「はひッ!? 言います言いますから命だけはどうか!」


「ならさっさと言え」


「ど、ドングラス・ルートリアというお方です…………ッ」



 …………。

 ……何?

 その名前は、かつて魔王さまの仲間であり、吾輩の仲間でもあった方の名前ではないか。

 何故この男の口からその名前が?

 まさか、大臣というのは――――




 ※※※※※※※※




「おい、一体どういうことなんだ」


「ま、まぁアトラス一回落ち着いてくれって」


 落ち着いてなどいれるわけがないだろう。

 事と次第によっては、吾輩はこの男を斬るつもりだ。


「最後に言い残すことはないか」


「ガン無視かよ!? 一応仲間だったよな俺たち!?」


「昔の仲間の元に勇者を送らせて暗殺を謀るとは、堕ちたものだなルートリア」


「だから誤解なんだって! 話を聞いてくれよ!?」


 ――――誤解だと?

 一歩間違えれば魔王さまは死んでいたのかもしれないというのに?

 ……やはり、この男はここで始末しておいた方が良s――――



「実は、新たな魔王が現れたんだ」


 ……何?


「その言い方だとまるで……」


「ああ、お前が思っている魔王、アレイスとは別に魔王が存在しているんだ」


「何だと……!」


 いくら何でも、次の魔王が現れるのが早すぎる。

 前の魔王を倒したのはおよそ20年前。

 普通なら、そんな短期間で次の魔王が現れるなんて考えづらい。

 魔王が現れるのには、今までの歴史の中でも短くて50年に一人の周期だった。

 それなのに、たったの20年で新たな魔王が?


「俺はアイツらに、その魔王を倒しに行ってもらったつもりだったんだが、新たな魔王城への道の途中に、アレイスの住む元魔王城があったようでな。で、見た目はいかにもって感じだし、中に多くの魔物がいたから」


「魔王がいると思って攻撃を仕掛けてきたと?」


「そう! そういうことなんだよ! だから悪気は無かったんだって!」


「……たとえそうであるとしても、それは貴様の監督責任なのではないか?」


「あ、それもそうだな。って、わる、悪かったから! よく言い聞かせておくから剣をしまってくれ!」


 納得した俺は剣を腰の鞘に戻した。


「で、急なんだが、アトラス。お前に頼みがある」


「……何だ? 一応は旧友だ、聞いてやらんこともない」


「さっき思いっきりスルーしてたじゃないか! ……えと、頼みって言うのはだな」


「魔王の討伐を手伝え、じゃないのか?」


「さすがだな、物分かりが早い! そうそれだよ!」


 まぁ、なんとなく話の流れで分かる。

 しかし、魔王の討伐か……。


「まさか、魔王さm――――我が主にもそれを手伝って欲しいと?」


「できればそうして欲しいんだけどさぁ。ほら、アイツも一応元勇者だからさ」


「しかし、我が主は当の昔に勇者としての務めは果たしておられる。それを今になってさらに働けと?」


「仕方ないだろ、新しい魔王が現れちまったんだから。なぁ、何とかならないのかよ? お前からアレイスに掛け合ってもらえないか」


 うむ……。

 今の魔王さまに、勇者としてもう一度立ち上がって欲しいとは、非常に言いにくいな。

 なんせ、魔王さまは昔、魔王との戦いで最愛の方、リスタさんを失ってから魔王城に引きこもり、およそ20年ほぼ全く城の外に出てこなかったのだ。


「……代わりに、吾輩と、他の配下の魔物たちが戦うのではダメなのか?」


「えっ、いや、別にダメってわけじゃないけど。こっちも人手が欲しいだけだし」


「そうか、それなら我が主の代わりとして、吾輩と他の者たちが魔王の討伐を手伝うとしよう」


「本当か!? ありがとう、助かるよ!」


 ルートリアが吾輩の手を握って握手をしてきた。

 しかし、新たな魔王か……。

 いくらなんでも、こんなにも早い周期で新たな魔王が誕生したということは、裏で何か大きなことが起こっている可能性が高いな。

 その辺についても、追々調べていくとするか。



「とりあえず、まずは吾輩は何をすればいいのだ?」


「そうだな、ちょっと前にこの近くの町で魔王軍の幹部が現れたらしいんだが、何もせずに帰ったらしいんだ」


「ほう? 何もしなかったのか」


「ああ、妙だろ。ちょっと調べてきてくれないか」


「分かった、早速行ってくるとしよう。場所は?」




 ※※※※※※※※




 アロマのテレポートで、件の町、ヴィンガルにやってきた。


「ここがヴィンガルか……、小さな町にしてはかなり発展しているようだな」


「そうみたいだね。確か、この国の王都へ向かう途中にある町だから、旅人がこの町で泊まっていったりしてお金を落としていくことでかなりの発展を遂げたと」


「なるほど、宿場町ということか」


 しずくの説明を聞いて納得する。

 すると、アロマがこんなことを言ってきた。


「ねぇ~、なんかキレイすぎない? ここに魔王軍の幹部級の奴が来たのなら、こんな穏やかかしら?」


 確かに、言われてみれば町が穏やか過ぎる。

 いくら何も起こらなかったとはいえ、魔王軍幹部が来たとなれば、普通住民たちは慌て、不安に駆られるだろう。

 しかし、そんな様子は今、町を見渡した限りでは感じ取ることができない。


「うむ、どうしたものか」


「とりあえず、この町の町長辺りにでも聞いてみるのはどうかな? 確か、その幹部って奴と会話したらしいじゃないか」


 確かに、そのほうが早そうではあるな。

 よし、ここはしずくの提案を採用しよう。


「ねー、私行くの面倒なんですけどー」


「ならば貴様に用はない。適当にその辺りのゴミ箱にでも突っ込むとしよう」


「アトラスがそう言うと本気に聞こえるじゃない……! 分かったわよ! ついてけばいいんでしょ!?」


「お前がいないと、吾輩は帰るためにわざわざ3日もかけないといけなくなるのだぞ」


 さて、早速この町の役場まで行くとしよう。




 ※※※※※※※※




 重要な情報は手に入れられた。

 まず、敵は『ミメシス』とかいう、スライム系統の魔物らしい。

 見た目の姿はほぼ人だったらしい。恐らく擬態能力を持っているのだろう。

 しかし、スライム系統の魔物で擬態能力を持っているということは、かなりの高レベルか位の高い種族である可能性が高い。

 場合によっては、吾輩でも勝てないなんてことも……。

 いや、それは流石にないか。


「で、どうするんだいアトラス? とりあえずルートリアさんの所に行くかい?」


「そうだな、とりあえずこのことをルートリアに伝えるとするか」


「うん。……あれ、アロマは?」


「うん?」


 そう言えば、アロマの姿が見当たらない。

 おかしい、さっきまで吾輩の後ろについてきてたはずなんだが。



「あ、いた」


「うん? あ」


 周りを見渡してみると、すぐそこにアロマがいた。

 近くには『占い』と書かれた看板が。

 またすぐに妙なものに興味を持ちおって……。


「おい、アロマ。吾輩たちは忙しいんだ。とっとと帰るぞ」


「――――なの!? すごいわよアトラス! この人なんでも分かっちゃう!」


「はいはい、とりあえずテレポートの準備をしろ」


 吾輩はアロマのローブのフードを掴んで引きずる。

 それが痛いのか、アロマが抵抗してきた。


「えっ、ちょっと待ってってば!」


「あの、お待ちください。お代を……」


 すると、占い師が代金を寄こせと言ってくる。

 全く、アロマの奔放ぶりにはつくづく困らさせられる。


「うちの者がすまなかった。釣りはいらん」


 そう言って吾輩は5000ゴールド紙幣を机の上に置いた。


「ありがとうございま――――えっ、いやあのこれ」


「おいアロマ、とっととテレポートだ」


「分かったわよ! 『テレポート』!」


 去り際に、占い師が慌ててこちらに何か言っていた気がするが、どうせロクなことじゃないだろうから、考えないことにした。




 ※※※※※※※※




 あれから、およそ1週間が過ぎた。

 特にすることもないと思っていたのだが……。


「馬鹿者! 何故そのことを早く言わなかった!」


「だって、アトラスが聞いてくれなかったんじゃない! 悪いのはそっちの方よ!」


 なんと、アロマ曰く、例の『ミメシス』とかいうスライムの魔王軍幹部が、あの町に再びやってくるというのだ。

 というのも、あの占い師によるとおよそ1週間後に再び現れると予見していたとか。


「すぐに情報を集めないと……」


 とりあえず、相手のことについては魔王さま、いや我が主に聞くか。

 スライムのことなら、我が主はかなりお詳しいはずだ。

 ……いや、やはりやめておくとしよう。

 もう我が主が戦いに関係を持つ必要はない。

 わざわざ巻き込んでしまっては、迷惑極まりないだろう。

 大丈夫だ、吾輩一人でもどうにかできる。


「とりあえず、テレポートだ!」


「分かったわ! 『テレポート』!」


 吾輩たちは、再びあの町へ向かった。



 町に着くと、すでにかなりの被害が出ているようだった。

 人々が混乱しながら逃げ惑う姿が見える。

 この混乱の中心に、“敵”がいるのか。


「アロマ、テレポートで他の奴らもドンドン連れてきてくれ」


「分かったわ、急いで戻ってくるわね!」


 アロマが吾輩の目の前から一瞬で消えた。

 ……さて、吾輩は急いでこの被害の元凶を止めるとしようか。





「貴様か、『ミメシス』というのは」


「…………あ? なんだお前、なんでアタシの名前を知ってる?」


 確かに、そいつはそこにいた。

 液体のようなものから、女性の体が生えているような、何とも(いびつ)な見た目をしている。

 スライムというのは本当のようだ。


「貴様が“魔王軍幹部”というのは本当か?」


「あ、ああ、そうだけど、なんでアタシのこと知って――――」



 その言葉を聞いてすぐ、吾輩は駆けだす。

 瞬間、ミメシスの体が崩れた。

 まるで乱切りのように、数十個のパーツにバラバラになってしまった。


「剣技・五月雨(さみだれ)


 剣を腰の鞘に納める。


「ぐゥゥッ……、いきなり襲ってくるとは……! けど、こんなもの」


 すると、ミメシスの体が再生しだした。

 斬られた体が再びくっつき、元の状態に戻ってしまった。


「アタシにかかれば、屁でもないね!」


「ほう、やはりこんなものでは簡単に再生されてしまうか」


「誰だか知らないが、アタシの敵であることは分かったよ。アタシはミメシス。魔王軍幹部の一人、『スライムロード』の――――」


「では、これではどうだ?」


 吾輩は再び剣を抜いた。

 そして――――ミメシスを数百回切り刻んだ。

 もちろん、そんなに切り刻めばもはや何も残らない。

 残るのは、細胞くらい、いや細胞も残らないかもしれない。

 後に残るのは、残骸の粉だけだ。

 秘技・消失剣(ロスト・スラッシュ)

 吾輩の剣技の一つだ。



「何だ、骨のない奴だったな。文字通り」


 この程度で死んでしまうのであれば、魔王軍幹部とはなんと大したことが無いのだろうか。

 さて、アロマに仲間を呼んでもらうつもりだったのだが、これでは意味が無くなってしまったな。

 とりあえず、皆と合流するとしようか。


 ……ところで、この大量の残骸の粉、どうやって処分すればいいのだ?

 ……まぁ、適当に放置しておくか。




 ※※※※※※※※※※※※※※※※

 ※※※※※※※※※※※※※※※※




「おい、起きろ」


「ん? あれ、アタシ確か……」


「そうだ。お前は一度死んだ、が、俺がお前を蘇らせた。全く、残骸が無ければ流石の俺でもお前を蘇らせるのは不可能だったんだぞ? 本当に運が良かった」


「……?」


「さすがアトラス、これぐらいは普通にやってのけるか。一瞬でミメシスを切り刻むなんてアイツぐらいしかできないもんな。それでも、残骸に水をかけるだけで復活させられる俺ってやっぱ天才だわな」


「……一体何を」


「しかし、アトラスが動くのは想定内で想定外だったな。本当ならアレイスが動くはずだったんだが、そのためにミメシスをこの町に送り込んだわけだし。まぁ、復活できたからよかった」


「あの!」


「ん?」



「……あんた一体誰なんだ? 何をさっきからブツブツ言ってるんだ?」


「――――あぁ、放置しといて悪かったな」


「ちょっと、アタシの話を聞いてあ△%#●ぷぇ★$※§〆◇るぉж■!?」


「んー、こんな感じでいいかな」


「はぐっ!? ぐぁ…………ッ!?」


「こんなところで倒れられたら困るんだよ。お前にはもっと働いてもらわないとなぁ」


「お、お前は一体……、誰なんだ…………?」


「答えよう。俺は『エンド』、世界に終わりをもたらす者。お前に新たな力を与えよう、ミメシス。この力で、“世界を喰らい尽くせ”」




 ※※※※※※※※※※※※※※※※

 ※※※※※※※※※※※※※※※※




「おい、やめろミメシス! 俺たちは仲間だろ? 落ち着けって、な?」


 Dr.が顔を引きつらせながら、後ずさりする。

 それを追うように、フラフラとミメシスが一歩踏み込んだ。

 その様子は明らかに正気じゃなく、目の焦点が定まっていない。


「ご、ごめんなァ……。で、でもよ。もう、アタシにも、抑えられないんだよォ。この、“食欲”がァ……ッ」


「ひッ、く、くるな! それ以上近づくと、いくら仲間のお前でも容赦しないぞ!」


 Dr.がミメシスに警告する。

 だが、そんなこともお構いなしで、ミメシスはジリジリとにじり寄っていく。


「アタシたち、仲間だよなァ……? 仲間だったら、困ってる仲間を助けてくるよなァ……ッ?」


 そして、ミメシスはその“家ぐらいなら丸呑みできそうなほど大きくなった口”を開き、



「アタシのために、喰われてくれよオオオオオオオオオオオオオオッッ!!」


 Dr.に襲いかかった!


「αぁぁあああああッ!」


「お任せください」


 どこからかαが現れ、『絶対防壁』により、無敵のバリアを展開した。

 これでDr.の身は守られた……かのように思われたが。


「う、嘘だろ……!? 『絶対防壁』を侵食してきてるだと!?」


「そ、そんな馬鹿な! 私の『絶対防壁』は誰にも侵すことのできない不可侵領域です! こ、こんなこと、ありえない……!」


 しかし、“その力”は想像を遥かに超えていた。

 本来ならどうやったって壊すことのできない無敵のバリア、『絶対防壁』。

 今、ミメシスがその“絶対”の力を上回ろうとしている。


「う、うわああああああああああああああああっっ!!?」


 その叫びが、Dr.のものだったのか、αのものだったのか。

 いや、もしくは2人とも叫んだのかもしれない。

 少なくとも、この2人は消えてしまった。

 その事実だけが後に残った。




 ※※※※※※※※※※※※※※※

 ※※※※※※※※※※※※※※※




「『切断』! 『切断』! な、何故だ、全く歯が立たない……。俺の『切断光刃』で斬れないものは無いはずなのに……。何か、表面に謎の壁があって、それが邪魔をしているのか」


「お前も、オマエモ、喰わせろオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!」


 もはや、元のミメシスの形をしていない、流動の何かが、ロミオに襲いかかる。

 ただ、腹を満たすためだけに、喰らい続ける“何か”。

 常に全身に、“不可侵の鎧”をまとっているように、まるで攻撃が効かない。


「これは、俺にはどうしようもないのか……。すみません、ルートリアさん。俺、帰れそうにありません」


 ロミオはとても悲しそうに微笑みながら。


「あぁ、最後にまた食べたかったな。『海鮮たっぷり!まるでうどん!霜降り牛肉の――――」


 波に飲み込まれた。




 ※※※※※※※※※※※※※※※

 ※※※※※※※※※※※※※※※




 次は、シアンだ。


「こいつが、ロミオを食ったやつ……」


「お、オオ、オ前モ、くく、喰ワセヤガレェェエエエエエエエエエエエッッ!!」


 もはや、人の感情はほとんど消え失せていた。

 どれだけ食べても満たされない空腹感。

 それは、果たしてどれほどの苦痛なのだろうか。

 食べても、食べても、飢えに苦しみ続けなければならない。

 喰っても、喰っても、まだ足りない。


 喰って、喰って、喰らい尽くさなければ。

 そうすればきっと、満腹になれる。



「……返せよ」


 次の瞬間、“何か”の巨体は後ろに大きく吹き飛んでいた。

 しかし、地面に着地する間もなく、次の攻撃が跳んでくる。

 その体が地面にめり込み、亀裂が走る。


「返せよ! 私たちの大切な仲間を、返せよ! この野郎!」


 怒りに身を任せながら、何も考えずにただひたすら殴打し続ける。

 しかし、その攻撃が通用することは全くない。

 そして、


「かえっ――――――」


 シアンの体を、光の刃が貫いた。

 どんな攻撃も通さないほど、防御力が高い、シアン。

 そんな体でさえも、易々と切り刻んでしまう。

 無慈悲な、光の刃。



「そ、んな……、今の、ロミオの――――ッ」


 そして、シアンの体は、流動状の“何か”に――――




 ※※※※※※※※※※※※※※※

 ※※※※※※※※※※※※※※※




 そして、あれから10年が経過していた。

 吾輩が、あのときしっかりと始末をしておくべきだったのだ。

 そうであったならば、今こんなことにはなっていなかったはずなのだ。


「…………何よ、あれ」


「吾輩にも皆目見当がつかん。だが、一つ分かることは……」


 目の前の、あの巨大な、流動体の何かが、ミメシスとかいう魔王軍幹部であったということ。

 そして、ありとあらゆる生き物が、あの“何か”に喰われてしまったということだ。


 今、すでに世界の半分の地域が、あの“何か”によって喰らい尽くされてしまった。

 もはや、ただのスライム如きの力ではない。

 明らかに、一生物の限界を遥かに凌駕している。



「皆の者、ここで吾輩たちが食い止められなければ、この世界は終わると思え! 全力で、倒しにかかるぞ!」


「「「応ッッ!」」」


 頼りになるような者は、もはや吾輩の仲間たちしかいない。

 今の勇者たちは、皆行方不明になってしまった。

 まぁ、“行方”は大方分かり切ってはいるのだがな。



「秘技・消失剣(ロスト・スラッシュ)!」


 吾輩の得意技で、一気に勝負を仕掛ける。

 1秒後には、あの時のように粉々に――――


「――――なんだと」


 しかし、その考えは浅はかだった。

 攻撃をしようにも、刃が全く通ろうとしないのだ。

 まるで、“壁のようなもの”に遮られているような……。


「ならば、その壁も粉にしてくれよう!」


 吾輩の最高速度で斬り続ける。

 一秒間に、10、いや20、いやもっとだ。

 もっと早く斬らなければ。

 しかし、



『ピシッ』


「えっ――――」


 嫌な音が聞こえてきた。

 音の元凶を見てみると、吾輩の愛刀に、ヒビが入ってしまっていた。

 こんな、こんなときに寿命がくるとは。


「は―――――――」


 そして、その一瞬のスキを見抜かれたのか、“何か”の攻撃が吾輩を襲った。

 それは、スライムの攻撃というにはあまりにも重く、そして硬かった。

 まるで、数百トンのダイヤモンドに殴られたかのような衝撃。

 骨が、臓物が、砕け散る音がした。



「ガッ、ぐあッ!?」


 勢いのまま、吾輩の体はいくらか吹き飛んだ後に、転がりながら地面に着地した。

 いかんいかん、まさか攻撃を喰らってしまうとは、油断していた。

 さっさと起きて次の攻撃を――――


 ――――体が、動かない。

 マズいぞ、思ったよりもダメージが大きすぎたのか。

 体の再生が間に合わない。

 そんな馬鹿な、あの一撃で吾輩の回復が遅れるほどのダメージを受けたというのか?

 それではまるで、“吾輩の防御力を上回る攻撃力で攻撃された”ということではないか。

 そんな、レベル999の吾輩を上回るほどの攻撃力だと……!?


 顔を見上げると、目の前にまで、次の攻撃が迫ってきていた。

 今の吾輩の体では、この攻撃を受け止めることはできない。

 ここで吾輩が消えてしまえば、アロマやしずく、他の皆はどうなる。

 ここで消えるわけには――――


 次の瞬間、急に体が消滅した。

 吾輩ではなく、“何か”の方の体が。



「「「…………は?」」」


 その場にいた全員が、口を開きっぱなしにしながら、放心してしまう。

 しかし、それもつかの間、そこに現れた謎の男によって空気が変わった。


「初めまして、吾輩はシャクス。期限切れに付き、この世界を破壊することになりましたー」


 そのタキシードを着て、サングラスを付けた謎の男がそう言った。


「じゃあ、とりあえず他の所破壊してくるから、待ってて」


 そう言うと、瞬きをした途端に男の姿が消えた。

 すぐに地響きが起こった。


「な、なんだこれは!?」


「どうなってるのよ!? 誰なのアイツ、急に現れて“世界を破壊する”って!」


「吾輩にも何が何だかさっぱりだ!」


 地響きが収まる気配はない。

 次の瞬間、吾輩たちは驚愕の光景を目にしてしまった。



「な……んだ……、あれは……!?」


 数キロメートル先の町、その町がまるで元から無かったかのようにドンドン消えていっているのだ。

 町だけではない、空も色が無くなるかのように、ドンドン黒ずんでいっている。


「マズいぞ、我が主が危うい! アロマ、急いでテレポートを!」


「分かった! みんな集まって! 『テレポート』!」






「わ、我が主いいいいいッ!」


 急いで主の部屋に駆け込んだ。

 部屋の中では驚いた様子の主が立っていた。


「おお、アトラス! 一体どうなってるんだ!?」


「それが――――ッ、今は説明している時間はありません! 急いで非難を!」


「わ、分かった!」


 急いで我が主と共に部屋の外に出ると、すぐそこにソルトが来ていた。


「ソルトも我が主と一緒に逃げるんだ! もうすぐそこに奴が来ている!」


「は、はい! 分かりました!」


 ソルトが主を連れて、吾輩と別方向に逃げていく。

 とりあえず、奴から少しでも遠い所へ――――



「逃がすことには成功したのか。流石はアトラス、判断が早いな」


「ッッ!?」


 急に背後から声がした。

 振り返ると、あの男が立っていた。


「貴様、吾輩のことを知っているのか……?」


「さぁ、どうだろうな。案外、適当に呼んだら当たっただけって可能性もあるかもしれないぞ?」


「ということは、適当に呼んだわけではなく、吾輩のことを知っているということだな」


「…………ご名答。流石だな」


 ここで倒さなければ。

 ……いや、倒せなくとも、時間を稼がなければ。

 少しでも、我が主が逃げるための時間を――――


「うおおおおおおおおおおおおおッッ!!」


 吾輩は、男に斬りかかった。

 吾輩の今までの剣の道。その全てを込めた一撃を喰らわせるために。

 吾輩の最高速度で、男に迫る。

 そして、男の首に刃が触れ――――――――――




「《刃が触れることはない。お前の攻撃は当たらないし、お前が今後吾輩を認識することもない。お前は、消える》」


 ――――――――――ようとしたのに、なぜか当たらなかった。

 次の瞬間、吾輩の体が崩れ始めた。


「なん……、だと……」


 奴はどこだ!?

 せめて、せめて数秒だけでも時間稼ぎを……!



『やはり、アトラス。お前の力では運命は変えられなかったのだ』



「どこだ、どこにいるんだ!」



『あのとき、お前がアレイスを巻き込みたくないなどという考えに至ってしまったことが、全ての始まり。そして元凶だった。もう、この世界は救えない。俺の手で、終わらせる』



 どうして。

 どうしてなのだ。

 吾輩は、ただ主のためを思って、行動をしていたというのに。

 それが、間違いだったとでも言うのか。

 一体何が間違いだったというんだ。






「お前は、一体何を――――…………」


 その続きは、言いきれなかった。

メッチャ長かったです。

作者の全力を注ぎました。




とりあえず、寝ます。

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