第69話 バインドの使い方
「おい、もしもし? もしもし!?」
オスマンが耳にはめた通信機に話しかける。
しかし、肝心の相手からの応答がない。
「おい、ルーシーからの返答はないのか!?」
「だめだアグニス。あのチームには脳筋のレオンがいるから、大丈夫だと思ってたんだけど……」
オスマンが残念そうな表情をする。
「とりあえず、ルーシーたちの元に向かってみるか?」
「ああ、もしやられたのなら今すぐ助けに行くべきだ」
オスマンたちの考えがまとまった。
一方そのころ、もう一方のチームでは。
「おい、フィオネ! 他の2チームからの連絡はねェのかよ!?」
そう言うのは、少しヤンキーのような見た目をしたルグド。
他の2チームからの連絡が途絶え、かなり焦っている。
「うるさいわよ! 連絡はさっぱり、こっちからの通信への応答も無し。どうなってるのよ……?」
「まさか、もうやられちまったってことなんじゃ……」
「そんな!?」
焦る3人。
他のチームからの連絡も応答も無し。
現在の状況が全く分からないという、戦闘に置いて非常にマズい状況に追い込まれてしまっていることに彼らは薄々気づき始めている。
片方のチームはすでに通信機を奪われているからで、もう片方は移動中のため通信に気付いていないだけなのだが、そんなことは今の彼らに分かるわけがない。
「と、とりあえず、他のチームの所に向かったほうが良いんじゃねェのか!?」
「そ、そうだね! よし、アタシたちはとりあえずオスマンたちの所に向かおう」
こうして、オスマンチーム4人は倒されたルーシーたちが配置されていた所へ。
フィオネチーム3人は、オスマンチームが最初にいた場所へ向かった。
「あーあー、運が悪いなぁ。一旦集まって7人になれれば、俺も手が出しづらかったのに」
その様子を、奪った通信機で盗み聞きしている人物が一人いた。
そう、この俺フォート・アレイスだ。
俺はあくまで実際の戦闘を再現できるように通信機を彼らに渡した。
しかし、その通信機を俺が使わないとは一言も言っていない。
今の一連の会話、全て丸聞こえだ。
戦闘には、確かに通信機は必要だ。あった方が良いに越したことは無い。
だが、それを奪われて悪用されることを想定していなければ、使う権利は無い。
「よし、じゃあ次はフィオネとか言ってた女の子の所から攻めようかな」
俺は重い腰を上げて、次の標的の場所へと向かった。
※※※※※※※※
「で、来てみたはいいけどさ。どうすんだよこれ!? 誰もいねぇじゃん!」
「うるさいわねぇ、一回落ち着いたら、ルグド。」
「落ち着くも何も、一体アイツらどこにいっちまったんだよ……!」
フィオネたちがオスマンチームが待機しているはずの場所へ行ってみると、案の定誰の姿も無かった。
「ハァ、もうッ。……とりあえず、今度はどうするよ? 今度はルーシーやレオンたちの所に行ってみるか?」
「そうねぇ……、じゃあ――――――」
しかし、その返答は突如遮られた。
どこからか突然現れたアレイスによって。
「いいねぇ、俺にもその話聞かせてくれよ、生で」
「アンタ、どっから――――」
まずはこの女の子からだな。名前はフィオネだっけか?
まぁ、今は名前はどうだっていい。
とりあえずは『バインド』でグルグル巻きにしてしまって、猿ぐつわでも噛ませておけば拘束はできる。
早速、女の子をグルグルに巻いて、口に猿ぐつわを突っ込む。
これで、まずは一人。
「テメェ―――――ッ!」
「うぉっ」
すると、後ろから誰かが何かを振り下ろしてきた。
自動で『回避』が発動し、体が勝手に攻撃を避けた。
振り下ろされた“何か”を見てみると。
釘が大量に刺さったバット、いわゆる
「釘バットぉ!?」
そう、釘バットである。
海外の武器の一つに“モーニングスター”という武器がある。
おもりに突起を付けて、それを相手にぶつけて攻撃するといった武器で、その破壊力はバカにできない。
ただ重い物を勢い良くぶつけられるだけでも相当なダメージが入るのに、突起が付いているからそのダメージは倍増。
さらに、その突起というのがただ出っ張っているのではなく鋭く尖っているのだから悪質極まりない。
で、この釘バットも実はある種のモーニングスターなのだ。
まさか、この世界で釘バットを見ることになるとは……。
いや、前の世界でも実物を見たことは無いけどね?
それでも、ちょっと驚いてしまった。
「なに驚いてンだァ!?」
男の子が続けて釘バットを振り下ろす。
『回避』は相手からの攻撃を受けるときに、回避率にバフをかけるスキルだ。
そして、その効果は相手からの攻撃が初めてに近いほど、つまり回数がまだ少ない方が効果が強くなる。
だから、初撃は大抵回避できるのだが、2撃目以降はバフの効果が弱くなる。
よって、この攻撃は普通に受けないといけない。
とっさに左手で腰の短剣を抜き、バットに刺さった無数の釘の間に上手く挿し込む。
そのまま振り下ろされる勢いを利用し、バットの軌道を体の外側に逸らす。
これで、体がガラ空きになる。
「しまっ――――ッ」
気づいてももう遅い。
次の瞬間には、俺の右拳が男の子の顎に届いていた。
倒れ込む男の子。
「さて、あともう一人は――――あれ?」
しかし、もう一人いたはずなのに、そのもう一人の姿が見えない。
一体どこに……。
「あっ」
まさかの、逃げているじゃないか。
少し離れたところに、慌てながら走っていく姿が見える。
マジか……、てっきり2人を助けるもんだと思ってたわ。
けどな、ちゃんと逃げる相手にも対策できてんのよ、俺。
※※※※※※※※
「ハァッ、ハァッ」
そ、そんな、あの二人がやられるなんて。
あの人、アレイスって言ってたっけ?
メチャクチャ強いじゃんか!
ぼ、ボクなんかが戦っても勝てるわけがない!
「は、早くオスマンたちのところに行かなくちゃッ!」
さ、幸い、早めに走り出したおかげで、あの人からはもうかなり離れることができた。
このまま逃げ切れる!
後ろを振り向いてみる。
あの人が思いきりこっちを見てきていた。
(ヤバい、気づかれた! でも、このまま逃げ切れ――――)
そこで、ボクは気が付いた。
あの人がこっちを追いかけてくる様子が全くないことに。
そして、その手には。
(……縄?)
次の瞬間、気が付けば、目の前にあの人が来ていた。
※※※※※※※※
「さて、それじゃあ行きますか」
今から俺がやるのは、『バインド』の応用技だ。
『バインド』は、縄、ロープを対象に巻き付けるスキルだ。
縄さえあればいつでも簡単に使えるし、縄が無くても最悪魔力を過剰に使えば縄を勝手に生み出してくれる。
30メートルぐらい先までなら、効果が適用できる。
そして、縄の長さによって、巻かれる回数が変わってくる。
ここで、俺はあることを思いついてしまった。
そして、実際にやってみる。
まず、用意するのはおよそ1メートルにも満たないかなり短いロープ。
そして、ナイフ。
これだけだ。
『バインド』は縄を対象に巻き付けるスキル。
縄から手を離せば、相手に勝手に巻き付いてくれる。
……じゃあ、逆に縄から手を離さずに『バインド』を使えば、どうなると思う?
「『バインド』」
スキルを発動。
すると、俺の体が宙に浮き、逃げている相手に向けて一直線に飛び始めた。
一瞬で、相手の目の前まで来てしまう。
驚いている相手の様子がうかがえる。
勢いのまま、腹に蹴りを入れる。
そして、ナイフで相手に巻き付いた縄を切り、着地する。
そう、これが俺の新技『名前は現在考え中』だ。
バインドの勢いを利用して、効果範囲内で縄が巻き付けるところがあれば自由に移動することができる。
俺に足りなかった、機動能力を補ってくれる新技だ。
高いところへの移動も、平行移動も、高いところから低いところへの移動も、この技のおかげで一気にできることが増える。
「さて、残りの4人もとっとと見つけてしまわないと、授業が終わるまでに間に合わないぞー」
俺は、残りの4人を探しに、また歩き始めた。
※※※※※※※※
「おーい、新入り! これ終わったら飯にしようや!」
「分かりましたー」
一方そのころ、魔法学校の隅、警備員室に新しい人が入ってきた。
この学校では、常に一定数の警備員が校門や校内を巡回して見張っている。
そのため、警備員の不足が発生しやすく、ちょうど空きができたため、新しく人員が入ったというわけだ。
「いやー、本当に助かったよ。ちょうど人手が足りなくなっててさぁ」
「いえいえ。ところで、人手が足りなくなったって、何か理由でもあるんですか?」
「いや、それがな? なんか臨時の講師が入ったかなんかで、警備を一時的に強化するんだと。で、今の警備員の数では足りなかったから、増やしたってわけ」
「へー。……ちなみに、その講師っていうのはどんなお方で?」
「うーん、えーと、確か……。元勇者の、なんとかアレイスって人だったような」
「……ほーう」
それを聞いた新入りの警備員は、誰にも分からないぐらいほんの一瞬。
口角を思いきり上げ、気味の悪い笑みを浮かべた。





