第33話:【増設配備】ツンデレ魔導士レオノーラ、論理的に言い負かされる
運動会と小説添削によるPCE出力のV字回復から二日後。
前線で索敵を行っていたバールックの連隊が、新たな「獲物」を連れて帰還した。
「ゼノ先生! 前線でウロチョロしてた帝国の特務魔導部隊を叩き潰して、隊長を生け捕りにしてきたぜ!」
バールックが誇らしげに担いできたのは、特製の衝撃吸収ネットに包まれた一人の少女だった。
燃えるような深紅のツインテールに、理知的な黒縁メガネ。
豪華な宮廷魔導師のローブを纏ったその少女は、ネットの中でもがきながら、金切り声を上げていた。
「離しなさいよこの野蛮な筋肉ダルマ! 私を誰だと思っているの!? 帝国宮廷魔導軍・第3特務隊長、天才魔導士レオノーラ・フォン・アイヒベルク伯爵令嬢よ! 無礼な手を退けなさい!」
「おお、レオノーラ君か。久しぶりだね」
俺が白衣のポケットから手を出して挨拶すると、少女の動きがピタリと止まった。
「……えっ? ゼ、ゼノ教授……!? な、なんで貴方がここにいるのよ!? 学会を追放されて野垂れ死んだんじゃなかったの!?」
「ご覧の通り、オーク軍の最高魔導顧問として元気に研究を続けているよ。君の卒業論文の査読をして以来かな」
「だ、誰が査読よ! あんたが私の渾身の卒論『高次火炎魔導の励起理論』を、『前提条件の熱力学定数が三桁ズレている』とか言ってC判定で突き返したせいで、私の首席卒業がフイになったのよ! 絶対に許さないんだから!」
レオノーラは顔を真っ赤にして地団駄を踏んだ。
プライドの塊のような、典型的なエリート知性派女騎士である。
「なるほど、良い波形が出そうだ」
俺は彼女の頭部に、新型の超小型周波数測定端子をペタリと貼り付けた。
「な、何よこれ!? 変なものを貼らないでよ!」
「レオノーラ君。君が先月、帝国魔導学会誌に発表した最新論文――『聖樹の雫を用いた空間転移術式の効率化に関する試論』を読ませてもらったよ」
俺は懐から学会誌のコピーを取り出し、パラパラとめくった。
「ふ、ふん! どうよ! 帝都中が大絶賛した私の最高傑作論文よ! あんたみたいな追放変態学者には理解できないでしょうけど!」
レオノーラは勝ち誇ったように胸を張った。
「いや、結論から言うと――完全に破綻しているね」
「…………は?」
レオノーラのドヤ顔が凍りついた。
「三十二ページの式第十四項を見てくれたまえ。君はマナの流体密度を定数として計算しているが、空間歪曲下におけるマナ密度は圧力の二乗に反比例する。したがって、この術式を実際に起動した場合、転移先で座標が百キロメートル上にズレて、被験者は成層圏から自由落下することになる」
「な……っ!?」
「さらに、四十五ページの術式展開図。ここの幾何学補正ループ、三年前の私の論文の盗用……いや、孫引きだね? しかも引用元の前提条件を読み落としてそのまま貼り付けているから、魔力逆流で術者の眉毛が全焼する設計になっているよ」
俺が赤ペンを取り出し、論文の決定的な矛盾点をスラスラと数式で証明していく。
「あ……あ……う……」
レオノーラの顔が、白から青、そして屈辱の深紅へと目まぐるしく変化していった。
知性派エリートとしてのプライドが、寸分の慈悲もない論理のメスでズタズタに解体されていく。
「う……嘘よ……! 私の計算が……間違っているはずが……! あぁぁぁ……! よりによって、こんな変態の目の前で論文の誤りを論破されるなんて……っ!」
レオノーラは頭を抱え、メガネをずらしながら涙目で絶叫した。
「キィィィィィィッ!! 恥ずかしい! 恥ずかしすぎる! 私の名声が! 私のエリート人生があぁぁぁっ! いっそひと思いに殺しなさいよ! くっ……殺せぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」
キィィィィィィィィィンッ!!
測定器から、耳をつんざくような高周波の電子音が響き渡った。
【計測値:78,000クック(超高周波β波・論理崩壊スパーク)を検知!】
「素晴らしい! シルフィア君の重厚な低周波とは対照的な、極めてシャープな高周波PCEだ! この波形なら、精密レーダーや量子魔導通信機の動力源に最適だぞ!」
「誰が高周波バッテリーよぉぉぉっ!!」
こうして、研究所に新たな増設サブバッテリー――ツンデレ魔導士レオノーラが配備されたのだった。
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