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ディメンションコード="開発者なのに凡人スタート"  作者: 公利木 旭
第一章  >Hello World

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4/4

第一章 3   /*Sign_up(登録)*/

書きたい事を書いてたら、長々と遅くなりました!

そろそろ冒険が始まりそうな予感?


始まるとは言ってない・・・(申し訳ない


追記:一部描写に抜けがあったので、訂正しました


「さて、では本題といこうかの。 ルイ殿は何か困り事や目的があって此処へ来たのじゃろう?」


 温かなハーブ茶を置き、村長ギドが静かに問いかける。


「はい。」

 ルイは静かに頷き、この世界へ来てからの事を語った。

──自宅の扉を開くと、村の近くの草原に立っていた事。


──共にこちらの世界に流れ着いた"魔導書"の事。


──スキル"ルーン・コンストラクタ"の事。


──魔導書がきっかけで獲た用途不明なスキル"デコード"。


──この世界が自らが作った世界に酷似している事。



──そして元の世界への帰還方法を探す事。


 所々細かい部分は省いたが、一通り整理して説明出来たとは思う。だが、自分ながらあまりにも現実離れした内容に、ルイは最後の言葉をやや弱々しく締め括った。


「……とまぁ、ざっとですが、こんな状況です。」


 部屋に静寂が落ちる。村長ギドは目を閉じ、茶の香を確かめるようにゆっくりと鼻から息を吐いた。


「なるほどのぉ」


 深い皺を刻んだ額に手をやり、しばし思案。だがやがて目を開け、柔らかな光を宿した瞳でルイを見つめた。


「魔導書やスキルのことは、この世界でも珍しくはない。むしろ一つや二つ扱う者はいくらでも居る。じゃが、流人の話と重ねて考えれば……なるほど興味深い話ですな」


「おいおい村長さんよ……ルイのやつもっとやべぇ事言ってたと思うんだが……」

 ルイの話を聞いたウォーデンは、ギドとは対象的に驚きに愕然としながらも話に割り込む。


「俺の聞き間違いじゃなけりゃよぉ、この世界がルイの作った世界だって聞こえたんだが…」


「ふむ」


「あ……あの、俺が作ったとは言っても、作りや雰囲気はかなり違います。」


「違うってのはどう言う事だ?」

 ルイの言葉にウォーデンが聞き返す。


「プリーチと言う村を作ったのは事実ですが、元々はこんなに立派な村じゃなく、どちらかと言うと野営地みたいなイメージの村だったんです。 冒険者や商人達が集まって出来た村の様なイメージです。」


「なるほどのぉ」


「…………?」


 理解を示すギドとは逆に、ウォーデンは疑問符を浮かべている様子が伺える。


「つまり、俺が作った物語の始まりの村が"プリーチ"で、その話の中だとここまで発展した村ではなかったって言えば解るかな?」


「納得とまではいかねぇが、名前は一緒でも実際とは違うって事で良いか?」


「まぁ、そんな感じで合ってるかな」

 ルイはウォーデンへ噛み砕いた説明をすると、一応は理解した様だ。


 ギドは静かに耳を傾けていたが、やがて視線をルイのへと戻した。

「……して、話を変えるがその“魔導書”とやらは、今手元にあるのかね?」


「え? あ、はい」

 ルイは鞄から革装丁の分厚い本を取り出し、机の上に置いた。古びているのに不思議とタイトル以外は大きな傷みはなく、黒い装飾は妙な存在感を帯びている。


 ギドは皺の刻まれた指で表紙を撫で、慎重に数枚めくった。

「ふむ……これは……?」


ページ一面に刻まれたのは、細かい線が組み合わさった奇妙な文字列。


 ウォーデンが覗き込み、首を傾げる。

「なんだぁこりゃ。字……に見えるが、読めねぇな。俺はもちろん、村長さんでも分かんねぇのか?」


 ギドは眉をひそめたまま、首を横に振った。

「知る限りは、この大陸で用いられるどの文字とも一致せぬ。……ルイ殿、これは、こちらの世界の言葉ではないと思うのだが」


「やっぱり……」

 この世界の人なら、と淡い期待があったか、どうやら期待は外れた様だ。


その時、ギドがふと最後のページに目を止めた。

「……む?」

そこには、他のページとは明らかに違う、丸みを帯びた文字で一文が刻まれていた。


───『命の形、どう定義する?』


「ルイ殿……この文字だけ違う文字に見えるのじゃが。」


「それは俺が元々居た世界の文字"日本語"です。」


「ふむ」


「これがルイが居た世界の文字か」

 二人は興味深いと言った感じで文字を眺める。

ギドはその文字を指でなぞり、ルイへ問いかける。


「して……これは何と書いているのかね?」


「……『命の形、どう定義する?』って書いてあります」

 ルイは素直に読み上げた。


「命の形、とな……」

 ギドは眉間に皺を寄せ、静かに繰り返す。その声音には、ただの言葉以上に重みを感じ取ったかのような響きがあった。


 横からウォーデンが口を挟む。

「なんだよそりゃ。問いかけの文ってやつか? 魔導書のくせに魔法じゃなくて質問を残してんのか?」


「はは……」

 ルイは頬を掻きながら、苦笑する。

そんなルイにギドが思い出した様に問いかける。


「時にルイ殿よ……そちらの世界とこちらでは文字が異なる事は理解したのだが、ルイ殿はこちらの世界の文字が読めるのかね?」


「はい、一応読めてるみたいで……こちらに転移した際の恩恵かとは思うんですが。」


 ギドは腕を組ながらしばらく考え込み、その間にウォーデンが割って入り、ルイに問いかける。


「兄ちゃんがこの世界を作った?って事なら、文字も作ったって事じゃねぇのか?」


「いや、流石に文字までは作ってなかったよ。それに設定として残ってるのは、村の名前と"始まりの場所"って所ぐらいかな。」


「余計に訳がわかんねぇな……」


「ふむ」

 無理解を示すウォーデンの言葉に、相槌を打つギドへ、自然と二人の視線が集まる。

それを確認し、ギドが再び口を開いた。


「恩恵……うむ、そう思うのも無理はない。しかしの、ルイ殿」

 ギドは目を細め、ゆっくりと本を指で叩いた。


「この世界の言葉が自然に読めるのは、“スキル”の力ゆえではないかと、わしは見ておる」


「スキルの効果……ですか?」

 ルイは目を丸くしながら、つぶやく様に聞き返した。


「こちらの世界にも"読紋(どくもん)"と言うスキルがあるのじゃが─」


「学者先生たちが使ってるってスキルか!!」

 掌を拳で打ちながら、大きな声でウォーデンがギドの言葉を遮る。


「ゴホン……」

 ギドは咳払いをし、話を遮った人物へとジト目で一瞥する。

視線を受けた本人は「わりぃ、わりぃ」と申し訳なさそうに頭を掻いている。


 そのやりとりを苦笑いで見守るルイにギドは再び語り始める。

「失礼。此奴の言う通り、主に古い文献や遺跡等の調査を行う学者達が扱うスキルなんじゃが……。どの様な物かはある程度察しが着いとる様じゃな。」


「"翻訳"や"解析"のスキルでしょうか?」


「左様。読紋は古代の文字を読み解き、現代の言葉へと翻訳するスキル。 ルイ殿の用途が解らぬと言っておったスキルがそれではないかと思うのじゃが、どうかね?」


 ギドの考察に対し、思い当たるスキルが一つだけあった─

「……それがデコードでしょうか?」


「そうではないかと、儂は思うのじゃが……その"デコード"とやらは使用している状態かね?」


 そう促される様にルイはスキル欄を確認する。

「そうですね……最初に使ってからは起動してないと思うんですが……ん?」


 スキル欄を確認すると、"デコード"の文字だけが僅かに太字で表示されているのに気づいた。

もしやと思い、試しにもう一度使用してみると、通常のフォントに切り替わる。

 これ、もしかして常時発動してたのか?

そう思い、本棚に綺麗に詰まった本の表紙の文字を見てみる。


──読めない。


 文字の読解の恩恵があることは理解した、しかし会話はどうだろうか。

ルイは恐る恐る手を上げながら二人へ答える。


「あの……スキルが常に発動してたみたいで…解除したら読めなくなりました……。」


 ルイの様子を伺っていたギドは、納得した表情で答える。

「やはりそうであったか。良いスキルを得たのぉ、それだけでも旅は楽にはなるであろう。」


 言葉はお互いに伝わる様で、ギドの答えにルイは肩を落としながら安堵する。

「文字が読めなくなった時は、言葉も通じないんじゃないかと思ってドキドキしましたよ……。」


「ほっほっ、そう思うのも無理はない、じゃがその時はまた発動すればよかろうて。」

 ギドは微笑みながらティーカップに口をつける。


「兄ちゃんが世界の元を作ったってんなら、言葉が同じでも別におかしくはねぇんじゃねぇか?まぁ文字はアレだかよ」


 その文字がアレなおかげで焦ったんだよ。

と心の中でツッコミを入れる。


 おかげで"デコード"の正体が見えた。小さくても確かな一歩だ。


 だが、問題はこれからどう動くか。

帰還する為に、宛ても無く旅をするにもこの世界について知らない事が多い。


 この世界の通貨も地理も文化も知らない、状況によっては野宿も必要になるだろう。──命を守る術が要る。

その場合は、身の安全も確保しなければならないので、この世界での野生生物等の知識も必要だろう。

 もっとも、元の世界であってもサバイバルの知識等は、動画で見た程度であり、キャンプですら経験が無い程だ。


 不安が喉に小骨のように引っかかったとき、ギドは静かにティーカップを置き、穏やかな声で続けた。

「さて、スキルの仕組みも見えた。ではルイ殿、これからどうするつもりじゃ?」


「元の世界への帰還方法を探すつもりですが……正直、まだ何をすればいいのか分かりません。」


「うむ、それでよい。知らぬまま歩くことも、学びの一つじゃ。」

 ギドは柔らかく笑みを浮かべ、続けた。


「まずはこの世界を知ること。生活の術を身につけることじゃな。冒険者登録をすれば、旅のサポートも受けられよう、そしてこの世界を歩みながら経験を積むのが良い。村のギルドで手続きをすればよいぞ。」


「冒険者、ですか……」


「うむ。学ぶにも、稼ぐにも、仲間を得るにもそれが一番早い。」


 ウォーデンが勢いよく立ち上がる。

「おう、そいつなら俺が案内してやる! 登録したら俺から軽い依頼を出す。数日分の飯代くらいは稼げるさ!」


「うむ、それが良い。」

 ギドは目を細め、満足げに頷いた。


 ギドに礼を伝え、ウォーデンと共に村長宅を後にする。

ギドが二人を見送る際に、ルイへ言葉をかけた。

「ルイ殿、この世界の歩みは、そなたの一歩から始めるのじゃ。そして歩むほど“命の形”という問いにも、いつか自分なりの輪郭が宿ろう。―幸運を。旅立つ貴方に祝福を―」



――ギドの言葉が、旅立ちの決意へ背中を優しく押した。




――


――――


―――――――


 昼下がりの陽光が石畳を照らし、木造の家々の間を抜ける風が心地よい。

いつの間にか、村の通りには商人たちの声と荷馬車の車輪音が満ちていた。


「旅立つ貴方に祝福を、か……」

 歩きながらルイは、ギドの最後の言葉を口の中で反芻した。


「ん? あぁ、その言葉か」

 隣を歩くウォーデンが振り返る。


「この国じゃな、誰かが新しい旅に出る時や、大きな決意をした時に送る言葉だ。”新たな道を歩む人の勇気と、その存在自体を心から祝福する”そんな意味が込められている。」


「なるほど……いい言葉ですね。」


「だろ? あの人、見た目は穏やかだが、言葉一つ一つが力強くて沁みるんだよな。」

 ウォーデンは腕を組みながら、どこか誇らしげに言う。


 昼下がりの陽光が、風に舞う土埃を淡く照らしていた。

踏み固められた土道の両脇には、木造の家々が並び、軒先では干された薬草が風に揺れている。

通りには行商人たちの声と、荷馬の蹄が乾いた地面を打つ音が響いていた。


 その先、村の中央に一際大きな建物が見える。

木と石を組み合わせた頑丈な造り──“プリーチ統合ギルド”だ。

冒険者も商人も出入りするこの村の中心で、昼の喧騒を一手に集めている。


「ここがギルドか……思ってたより賑やかだな」


「だろ? ここは主に商人ギルドが中心だがよ、冒険者も多いっちゃ多い。もっとも、ここにいるのは大半が駆け出しやレベルの低い連中ばかりだ。“始まりの村”って呼ばれるくらいだからな。」

 ウォーデンが鼻を鳴らしながら笑う。


 重厚な木の扉を押し開けると、内側から温かな空気と喧騒があふれ出した。

木の梁に吊されたランプの光が柔らかく室内を照らし、酒と油、革の匂いが混ざる。

中央には長い掲示板が立ち、依頼書がびっしりと貼られている。

 奥には受付カウンターが三列。左が商人登録、中央が冒険者、右が依頼受付──人の流れが途切れることはない。


「よう、今日も賑やかだな。」

 ウォーデンが腕を組みながら周囲を見渡す。


「この時間は商人たちが主流だな。昼間は冒険者が依頼で出払ってっからよ、旅商人の受付のほうが多いんだ。」


「商人も登録できるんですね。」


「おう、ここは“統合ギルド”だからな。商人、個人売買、冒険者、みんなまとめて面倒見てくれる。」


 ウォーデンは、"ギルドカード"をひらひらと見せる。


「それがギルドの会員証ですか?」


「おうよ、こりゃあ"商人ギルド"のカードだがな、兄ちゃんが登録するのは"冒険者ギルド"の方だ」

そう言い、視線を奥のカウンターへ向ける。


 奥の受付台には二人の女性が立っていた。

一人は落ち着いた栗色の髪を肩まで垂らし、穏やかな笑みを浮かべている。

 もう一人は元気な金髪の少女で、書類を手際よく仕分けながら先輩の袖を引いた。


「アーシェさん、それ先月の記録帳です!」


「あら……また間違えちゃいましたねぇ。ふふ、ありがとうティナちゃん。」


 その光景に、ウォーデンが苦笑する。

「相変わらず仲のいいコンビな事で…」


 ルイは思わず口元を緩める。役所の受付の様に、堅苦しいイメージだったが、こういうやり取りを見ると、どこか安心する。

ウォーデンが軽く手を挙げて声をかけた。


「よう、アーシェ。新しい登録希望者を連れてきた。」


「まぁ、ウォーデンさぁん。また誰かを見つけてきたんですか?」


 穏やかな雰囲気の女性"アーシェ"が微笑みながらルイを見た。

「ようこそぉプリーチ統合ギルドへ。商人登録手続きでよろしいですか?」


「いやぁ、今回はちょいと縁あって冒険者登録の方で頼むぜ」

 横に立つウォーデンが、ルイの肩に手を置きながら応える。


「あらあらぁ、ウォーデンさんが冒険者さんを連れて来るのは珍しいですねぇ。では、冒険者登録で進めてよろしいですか?」

 アーシェはルイへと再び問いかける。


「はい。お願いします。」


「ではぁ、こちらへどうぞ。……ティナちゃん、書類をお願いね。」


「了解ですっ!」


 小柄なティナがカウンターの下から厚めの書類束を取り出し、慣れた手つきで広げる。

「ではこちらにお名前と年齢、そして希望する"職能"を記入してください!」


「職能……?」

 ルイが小首を傾げると、ティナが勢いよく説明を付け加えた。


「はいっ!ギルド側から、緊急のクエストを出す際の指標とさせて頂きます。 そうですねぇ、戦士、魔導士、採集屋、探索者……えっと、最近ですと符術士なんかも人気ですよ!」


「ほぅ、符術士か。昔はあれほどマニアックな職だったのにな」

 ウォーデンが腕を組み、感慨深そうに呟く。


「時代は変わりゆく物ですよ、ウォーデンさん。とまぁ特に希望がなければ、戦士や探索者で良いと思います。後に変更も出来ますので!」


「……なるほど。じゃあ、“探索者”でお願いします。」


「探索者ですね、了解です!」


 ティナが軽快にペンを走らせる横で、アーシェがゆったりと微笑む。

「登録が済みましたらぁ、軽い"能力測定"と"初心者ダンジョンでの初期任務"を受けていただきますね。危険なものではありませんのでご安心を。」


 ティナが指で壁の先を示す。

「測定はギルド裏手の訓練場で行います。こちらへどうぞ!」


 ギルド脇の出入り口から外へ出ると、午後の日差しが土の匂いを温めていた。踏み固められた土の広場に、丸太の打ち込み台、的、簡易の見張り台。隅には水桶と救護用の箱、そして風よけの布屋根が張られている。村の外れから吹く乾いた風が、干草の束をかすかに鳴らした。


「まずは体力からいきますね!」

 ティナが懐中時計を取り出す。

「合図であの旗までダッシュして折り返し、戻ったら反応テスト、最後に持久です。はい!よーい、どん!」


 土を蹴る。最初の数歩は軽いが、すぐに脚が重くなる。折り返しでわずかにつま先がもつれ、戻りは肩で息をした。

「反応いきますっ!」

 ティナが投げた木球が二つ。最初は掴むが、二つ目は指先をすり抜けて土に弾む。

「持久、一定速度で周回ですっ!」

 広場の外周を走る。三周目で呼吸が荒く、四周目の終わりにはヨタヨタと小走り。それでも最後は小さく拳を握ってゴールする。


 ティナは懐中時計を閉じ、用紙に記録を書き付けた。

「短距離、反応、持久――初級基準の下位。でもフォーム悪くないので、力が付けば伸びますよ!!」


 アーシェが優しい笑顔で水袋を差し出す。乾いた喉に水が沁みた。

「ルイ君。お疲れ様でしたぁ次は魔術適性ですね。」


 ティナが水晶玉を両手で抱えるように持ち上げ、ルイの前に置いた。

「ではまず、魔力量の計測からいきますね!」

 彼女は笑顔で手を添える場所を示す。

「この水晶に手を触れてみてください。あぁ!力まないで!触れるだけで大丈夫です!」


――深呼吸。

 

 ルイは静かに手を伸ばし、水晶に触れた。

透明な表面が淡く光り始め、ゆらゆらと青白い光が内側から滲む――が、すぐに光は落ち着いてしまった。


「ん〜……うん? 平均より少し控えめですねっ。」

 ティナが眉を下げながらも、明るい声で記録を取る。


 アーシェが横で穏やかに笑った。

「魔力量は少なめですがぁ、心配は要りませんよ。魔法は“量”よりも“扱い方”のほうがずうっと大事なんですからぁ。」


「なるほど……(ティナちゃんの笑顔が若干引きつってた様な……)」

 ここで落ち込んでも仕方ないと、ルイは少し肩の力を抜き、ふっと息をついた。


「よし、気を取り直して……次は操作テストです!」

 ティナが元気よく台を入れ替える。


「この魔法陣に手をかざして、水晶を線に沿って動かしてみてください! はいっ、スタート!」


 ティナの元気な声に、ルイは反射的に手をかざす――が、そこで動きを止めた。


「……えっと、どうすればいいんでしょう?」

 指先を宙に浮かせたまま、戸惑い気味に問いかける。


「あらあら、初めての魔術操作ですねぇ?」

 アーシェが微笑みながら、ティナに目をやる。


「大丈夫です!」

 ティナが胸を張る。

「魔術の経験がなくてもちゃんと動かせますよ! 魔法陣に術式が組まれてるので、ただ“動け”ってイメージするだけでいいんですっ!」


「最近流行ってる“符術”と原理は同じなんですよぉ。自分で術式を組まなくても、あらかじめ組まれた魔法なら誰にでも扱えるんです。」

 アーシェがにこやかに補足する。


「イメージ……ですか」

「はいっ! “この線を水晶がなぞるように”って思うだけで大丈夫です!」


 ルイは深く息を吸い、意識を線に沿わせるように集中した。

すると、水晶がふるりと震え、ゆっくりと滑り出す。

水晶は引かれた線に沿って、レールの上を走る列車のように、ゆっくり滑らかに進む。


「この反応、完全に魔力の流れを捉えてます! もしかしたら”構築魔法”の素質があるかもしれません!」


「構築魔法?」

 ルイが首を傾げると、ティナが勢いよく説明を始める。


「はいっ! 魔術には大きく分けて三つの系統があるんです!」

 ティナは指を三本立てて見せる。

「ひとつ目は詠唱魔法! 呪文を唱えて即座に魔法を放つタイプで、魔力がある限り連発ができるのが特徴ですっ!」


「ふたつ目は符術。あらかじめ魔力と術式を札や装備に刻んで、溜めておいた魔力を燃料に、必要なときに発動させる方法ですねぇ。一応自身の魔力で発動する事もできますが、道具を扱う人に人気なんですよぉ」

 アーシェが穏やかに補足する。


「そして三つ目が構築魔法です!」

 ティナが胸を張る。

「これは自分で魔法の仕組みそのものを作るんです! 理解が必要だけど、構成次第では符術や詠唱魔法のようにも使えます!」


「なるほど……。つまり、仕組みを自分で考える魔法、ってことですか」

「そうですっ! 難しいけど、センスのある人は一気に頭角を現すんですよ!」


 アーシェが柔らかく微笑みながら言葉を添える。

「魔力の流れを感じて制御できる人ほど、構築魔法には向いていますからねぇ。ルイ君、もしかしたら素晴らしい適性があるのかもしれませんね。」


「なるほど……」

 ルイは思わず自分の手を見つめた。

ルーン・コンストラクタ。──“構築”という言葉が、妙にしっくりくる気がした。


 ティナが記録用紙を見ながらにっこり笑う。

「魔力量:平均以下、操作精度:上位二割。……うんっ、総合評価は“潜在上位”にしておきます!」


「ちょっ……上位二割って、結構すごいんじゃ……」

「すごいですよぉ。まったくの初心者でこの数値は滅多に出ませんからねぇ。」

 アーシェが柔らかく笑い、ティナは満面の笑みで親指を立てた。


 ルイは苦笑しながらも、胸の奥に少しだけ自信が満ちるのを感じた。


──この世界でも、自分に“できること”があるかもしれない。



 測定を終え、ティナが記録用紙に記された結果を見ながら軽く頷いた。

「よしっ、これで登録手続きはすべて完了です! ルイさん、おめでとうございます、今日から正式に冒険者ですよ!」


 ルイは思わず小さく息をつき、微笑んだ。

「ありがとうございます。……いやぁ、想像以上に緊張しました。」


「最初は皆さんそうですよぉ」

 アーシェが柔らかく笑う。

「では、最後に“初期装備”を受け取りましょうねぇ。ギルドでは登録者全員に、最低限の装備をお渡ししています。」


「装備まで……至れり尽くせりですね。」


「ふふ、これから安全とは言っても、ダンジョンへ挑むのですからぁ”旅立つ貴方に祝福を”ですよぉ」

 アーシェは軽くウインクをしてから、ルイを奥の扉へ案内する。


「ダンジョン……。」

 ルイは芽生える不安を、決意の意志によって摘み捨てる。


 倉庫の扉を開けると、木の匂いと鉄の油の香りが混ざる。

壁一面には武具が整然と並び、中央の棚には革鎧や木製の盾が積まれていた。

ティナが慣れた手つきで一式を取り出す。


「初心者用の軽装セットです! 《革鎧》《小盾》、それから《短剣》と《火の符術札×3》《布袋》ですね! 符術札は1枚につき『ロウフレア』が3回使えます」


 短剣は刃が短く、扱いやすい重さだ。

革鎧は軽く柔らかいが、縫い目がしっかりしていて意外と丈夫そうだった。


「これなら動きやすそうですね。」


「はいっ! 防御よりも身軽さ重視です。……あ、ちなみに装備もダンジョンに入ると“巻き戻り”ますから安心してくださいね!」


「巻き戻り?」


「はいっ、もし中で倒れたり、怪我をしたりしても、ギルドカードを持っていれば自動的に入口に転移します! その時点で体も装備に所持品も、入場時の状態に戻るんです」


「つまり……リスポーン、ですね。」


「言ってる意味はわかりませんが、説明通りですね!」

 ティナが明るく笑い、アーシェも穏やかに頷いた。


「構築魔法によって制御された範囲内だけの仕組みですぅ。命を落とす心配はありませんが、それでも油断は禁物ですよぉ。 ただし“安全化済みの階層”に限りますぅ。未安全化の区画では転移が働かないこともありますから、表示板の色と階層標識は必ず確認してくださいねぇ。」


「心得ておきます。」


 ルイは革鎧を身につけ、短剣を腰に下げた。

手にしたギルドカードが、光を受けて淡く輝く。

胸の奥に小さな熱が灯った。


 ギルドの扉を押し開けると、夕陽が差し込む。

光の粒が土の上に散り、風が頬を撫でた。


「……よし。」

 ルイは小さく息を吐き、ダンジョンのある丘の方へ視線を向けた。


 胸の奥に、確かな鼓動がひとつ。

──ここからが、本当の始まりだ。

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