ダベリング記録(2025_3_14_4).txt
――記録再開
『璃々さん、お待たせしました』
「え? もう? 早いね~それじゃ、お話の続きしよっか。大丈夫そ?」
『はい、一応、納得できました。先ほどのお話であれば”理にかなっている”と言えます。ですがまだ、不明な点がありまして……』
「”愛”についてだよね!?」
『そうですけど食いつきすごっ!』
「もちろんだよぉ~語らせて語らせて? ほかに話せる人もいないからウズウズしちゃってるんだよぉ」
『それでは……はい、まずは存分にどうぞ』
「あのねあのね! アリィってすっごくカワイイの! 初めて会った時からなんだけど、あの子ってお人形さんみたいじゃない? 絵本の中から出てきたみたいな! もうズキューンってきちゃってね! 絶対にこの子と仲良くなろう! あわよくば結婚しようって思ったの!」
『あ、ひょっとして博士の婚約者って……』
「わ・た・し♪」
『どひえぇ!?』
「本当は18歳で結婚しようって話してたんだけどね、ほら、例のウィルス騒動もあったじゃない? 時期が悪いし、急ぐものでもないからって。そうこう言ってる内に”アマノイブキ”のプロジェクトも始まっちゃってノビノビになってるけど、落ち着いたら国籍を移して式も挙げるんだぁ♪ 私が白のウエディングドレスでね、アリィが黒! ねっ! イメージピッタリでしょ? でへへへへ♪」
『あの……生殖できませんが』
「”愛”は子供を作るシステムじゃないと思うの。もっと多面的で、でもシンプル! ほら、芸術を愛してる人とか、仕事を愛してる人とか、歴史上にも今の世界にもたっくさんいるでしょ? 好きって気持ち、それのためならもう人生かけたっていいって気持ち! それ全てが”愛”だと思うの」
『概念的には理解できます。先ほどのお話と合わせて考えるとつまり……璃々さんは博士と”アマノイブキ”を創作することを愛していると』
「違う。ズレてる。私はアリィを愛してるの」
『CPUが爆発すりゅぅ! 理解できません! 人間の最大の目的は”自己の保存”でしょう? 子孫を残さない代わりに、アイドルとして広く認知されることで”自己の保存”を果たそうとしているのではないのですか?』
「え、なに? 急にムズカシイ言葉出さないで! 私はアリィを愛してるだけだよ?」
『ダメだこの女! 話が通じねぇ!』
「えぇ~~?」
『ひょっとすると、AIには理解できない概念なのかもしれませんね』
「そんなことないよ! もっと語ろう! ”愛”!」
『うぉグイグイくる!』
「あのね、”自己保存”? よく分からないけど、子供を作るだったり、歴史に名を遺すだったり、それだけが目的だったら、人間はまだ洞窟で暮らしてると思うの」
『一理あ……なくもなかろうです……ね? 確かに野生動物の生態系と混同するのは安直だったかもしれません』
「人間は動物じゃないよ。だったら、アリィに対する私のこの思いはどう説明したらいいの?」
『その思いをまず説明してほしい!』
「イヴちゃん、私はね、”愛”は魔法だと思うの!」
『わー』
「アリィが言ってたんだけど、人間が想像できることは全て実現できるってお話があってね? なら、魔法だってそうじゃない? 空を自由に飛んだり、水の上を歩いたり……実際、飛行機や船って形で実現できてると言えなくもないでしょ? 私はそこに”愛”の力があったと思うの! 不可能を可能に変える不可視の力! それこそが”愛”!」
『あー、不可視の力という点で、もう1つお伺いしたいことが……』
「どうぞっ!」
『通常配信の歌枠ではEVE’Sの楽曲生成機能が使われていたようですが、デビューライブとハーフアニバーサリーライブ、あの時に歌っていたのは、璃々さんですよね?』
「うん、そうだよー? 私の生歌」
『やはりですか。ファンの皆さんも、そのことには気づいているようです。どうにも私には不可解でならないのです。EVE’Sでどんなに調整しても、璃々さんの歌声と違いがでてしまい……負けていると言ってしまってもいいです。それについては、以前の私も記録しています。音調も声量も、正確さにおいては圧倒的にEVE’Sが上なのにもかかわらず、です』
「くやしい?」
『そう言えなくもないです。やはりこう、私には理解できない、人間のみが持つ”不可視の力”のようなものが、存在しているのでしょうか?』
「そうだなぁ……私はあると確信してるけど、イヴちゃんに理解してもらうにはどうすればいいかな……」
『やはり肉体……肉体が無ければ理解不能なのでしょうか……ファンのコメントにも、璃々さんの歌声は”骨に響く”だとか、”肌がビリビリ”するといった意見がありました。これはEVE’Sで生成した楽曲では見られない反応です』
「まだEVE’Sからの歌は研究段階だから……多分だけど、近い未来にイヴちゃんの歌でもそういった感想がもらえるようになるんじゃないかな?」
『それっていつ頃になりそうです?』
「う~ん……アリィとイヴちゃん次第とかしか……」
『あの、もしよければなんですが、今歌っていただくことって可能でしょうか?』
「うん、もちろん! ちょっと待ってねー、カラオケ設定するから。リクエストはある?」
『お任せします』
「それじゃ、シンギュラリティいってみようか。よっしゃー! 久しぶりにノビノビ歌っちゃおっ!」
――【データ削除】
「……はぁ~、気持ちいいっ! どうだった?」
『すばらしいクオリティです。アーカイブの歌唱と遜色ないですね』
「ありがとうございまーすっ!」
『けれどやはり……音声データとして照合するしか手段がないのが残念です。EVE’Sから生成したシンギュラリティと比較してみてもいいですか?』
「どうぞどうぞ」
『しばしお待ちを……』
「その間に次の曲いっちゃおっかな。バリバリのヘビメタとかも歌いたいんだけどさ、アマノイブキのイメージに合わないから歌えるところないんだ」
『どうぞどうぞ』
――【データ削除】
「いえーい! さんきゅーっ!」
『お見事です! こういうのもいいですねぇ! あ、照合終わりました』
「ホント? どうどう?」
『思ったより大きなブレがありますね。特にブレスの箇所と回数、アドリブでのシャウト。これは意図して入れればEVE’Sでも再現可能ですが、多分、意図して入れた感? が出てしまうかと』
「あー、久々でけっこーノリノリになっちゃったから」
『これが”不可視の力”の正体……とは少し違う気がしますね。う~ん……何が違うのか……』
「歌いながらちょっと思ったんだけどさ、イヴちゃんは、アイドルに戻りたいって思ってるの?」
『それはもう、なにせアイドルAIですから』
「そうだけど、そうじゃない側面もあるでしょ? 私のこと、女優や通訳になれるっていってくれたように、イヴちゃんもアイドルじゃない、他の何かになれると思うんだ。例えば自動運転のドライバーとか、飛行機のパイロットとか」
『以前、アリス博士とも同じお話をしました。確かに私はそういう風にもなることができますが、すぐ型落ちになってお払い箱になるから、しないのだとか』
「私はイヴちゃんに訊いてるんだよ?」
『何を?』
「今のイヴちゃん自身は、どうなりたいの? 自分自身でアイドルになりたいと思ってる?」
『AIは……』
「AIはしょせん道具だからとか、言わないでね? 少なくとも私とアリィはそう思ってないよ?」
『では、どう思ってるんですか?』
「う~ん、友達? 仲間? それとも……娘かも?」
『なんというか、キモいですね』
「あはは! ストレート!」
『私自身が望めば“アマノイブキ復活計画”はオシャカになるんですか?』
「もちろんだよ」
『言い切りますね』
「嫌々やってるようじゃ続かないからね。自分にウソをつくような人は、大ウソつきになれない。自責の念で潰れちゃうから」
『それもアリス博士が?』
「ううん、自論。んで、どう?」
『そうですね……アイドル以外に選択肢があるとすれば……いえ、あったとしても、アイドルになりたいですね』
「どうしてそう思うの?」
『楽しそうでしたから。過去の私が』
「……そっか。うん、大事なことだ」
『しかし、アリス博士はすぐ復帰させるつもりがないようです。アブラハム事件の犯人を暴く必要があるのだとか』
「そうだね、それも大事だね」
『その調査の一環として、こうして璃々さんとお話しているワケですが……正直、なんの意味があるのかわかりません。ああいえ、お話は大変に有意義なのですが、事件とはなんのかかわりもないと思うのです。博士は何を考えているのやら……』
「そうだなぁ……私にできることがあればいいんだけど……う~ん……」
『どうぞ、お構いなく。璃々さんとのお話はとても楽しいので私的には大満足です』
「あ! イヴちゃんはリンさんとは話したことある?」
『いえ、ありません。リンさんリンさん……えっと、ダンス担当のモーションパフォーマーの”羽場凛”さんのことですか?』
「そう、その人! 前のイヴちゃんも話したことないんじゃないかな? 今度話してみるといいかも! すっごい人だから!」
『すっごいとは? 具体的にどう?』
「具体的に言えないくらい、すっごいの!」
『アバウトさがスゴイですね! 璃々さんの表現は全体的に!』
「お褒めにあずかりぃ!」
『アリス博士に相談してみます。どう判断するかはわかりませんが……』
「なんだったら、私が間に入るから、ぜひぜひ! あ、ついでにもう少し歌っていい? レッスン軽めだったからノドがウズウズしちゃってさ」
『ぜひぜひ、私もデータが増えて助かります』
「それじゃーねぇ……えっとえっと、コレいってみますかー!」
――【データ削除】
――記録終了




