誕生日
到着したのは、領都の隣街にある綺麗な湖畔だ。
「アリス、体は痛くない?」
「大丈夫です。ヴィーツア様、有り難うございます。」
アリスは精獣にお礼を言ってくれるけど、そういう感謝を普通に伝えられるアリスがとても好ましい。
精獣には礼を尽くすのに、精霊には雑な魔導師は多いのがこの国の謎だからな。
此処はアイティヴェルで有名な観光地のひとつ。
舟遊びもできるので、貴族に限らず恋人たちにも人気の場所らしい。
たくさんの花は綺麗だし、湖だってとても大きい。
周りにはオシャレなカフェがたくさんあるし、お土産が買えそうなお店もある。
それにしても、周りの人が普通に俺たちに気付いている。
「えっ! お嬢様!?」
「手を繋いでらっしゃるわ。可愛らしい。」
まぁ、貴族としての観光なので構わないけどね。
今日は変装もしていないし。
それにしても、可愛いアリスに好意を寄せる男性の心は、全て粉々に砕ければ良いと思う。
念のため、アリス効果で光ってるだろう魔眼でひと睨みしておく。
「まずは舟に乗りませんか?」
「いいね。」
アリスに手を引かれて、幸せいっぱいで向かった受付で、漕ぎ手付きの小舟か、自分で漕ぐふたりきりの小舟か選べることを知った。
貴族なら自分では漕がないだろうからな。
俺は漕ぎ手付きの小舟を、漕ぎ手なしで借りることにした。
もちろん代金は多めに渡しておく。
どちらの舟を借りたかで、案内されるコースが変わるらしい。
漕ぎ手有りの方は、料金が高いから貴族用って感じかな。
アイティヴェルの観光地って、端々まで気を遣われていて本当に凄い。
俺はアリスの日傘を持って、隣に座った。
漕ぎ手は居ないけど、代わりに向かい側には精獣がくつろいでいるので重さのバランスが崩れることもない。
ヴィーツアとフローは、大きさを変えられるから便利だよね。
舟遊びは凄かった。
アリスが言う通りに進むと、綺麗な花が水辺に浮かぶ場所や、光る洞窟に入ったりもした。
納涼祭直後なので、片付けの日にしてる人も多く、今日は空いている方らしい。
「風魔法も上手なんですね。」
「いや、少しイカマサしてるよ。」
俺がこんなに風魔法を上手く使えるわけはない。
魔法が発動する直前で、ヴィーツアかフローが魔力を吸って調整してくれている。
お陰で突風や強風にならない。
「あ、でもこういうのはできるようになったかな」
俺は水面に指先を触れさせて魔力を流し、小さな氷の花を作って辺り一面に咲かせる。
これくらいのサイズなら舟にぶつかっても、氷が割れるだけで問題ない。
「まぁ! とても綺麗。」
水魔法が苦手だから、ノアみたいに水を好きな形に変えることは難しかった。
なので、水を氷に変える途中、氷魔法として形を変えてはどうかとノアに言われてやってみたら成功。
見た目も涼しそうだし、アリスは喜んでいるし、練習して良かった。
「なにこれ綺麗!」
「お嬢様か婚約者様の魔法なのか!?」
せっかくならと思って広範囲に展開したので、あちこちから喜びの声が上がる。
その声が届いて、アリスは嬉しそうに手を振って答えた。
それに気付いた人々が歓喜したように、今度は感謝の言葉をあげた。
アリスは笑顔だ。
この魔法を練習して良かった。
「アディ。十六歳の誕生日、おめでとうございます。一緒に過ごせて嬉しいです。」
アリスの笑顔も、風に靡く美しい髪も、俺を見つめる桃色の瞳も、全てが綺麗だ。
舟から降りて、アリスが持ってきてくれたお弁当を食べることにした。
「フロー様、荷物を預かって下さって有り難うございます。」
『たいしたことではない。』
やっぱりアイティヴェルの料理は美味しい。
アリスが教えてくれたんだけど、納涼祭で身分関係なく邸の庭園で食事を振る舞うようになってから、その味を参考にして領都の料理がどんどん進化してるらしい。
なるほど、屋台であのレベルの高さは、領主邸の料理が基準だからなのか。
今日のサンドイッチも美味しい。
夜には、アイティヴェル邸で豪華な食事をご馳走になり、ミハエルからは祝いとしてアリスの話をたくさん聞かせてくれた。
本当に、幸せな誕生日だった。
アリスからもらった贈り物は一生大切にする。
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