弟たち
「四男のグレンと、五男のアレン。」
双子をアリスに会わせに来たが、何故か弟たちは俺の足元にくっついたまま。
人見知りするタイプだったか?
「か、かわいい!」
アリスは喜んでいる。
まだ四歳だから可愛い盛りだ。
「アディの黒髪も好きですが、夫人の紫がかった銀色も素敵ですわね。」
双子は特に母上似で、髪色だけでなくフワフワした髪質までそっくりだ。
「はじめまして。アリス・アイティヴェルでございます。お会いできて光栄ですわ。」
目線を合わせたアリスが双子に微笑む。
普通の貴族坊っちゃんなら、アリスの可愛さに漬け込んで横柄な我が儘ぶりを発揮したかもしれないが、うちの双子はそうはならない。
「グレン? アレン?」
「四男のグレンです。」
「五男のアレンです。」
「「アル兄さまがお世話になってます」」
このようにノアが教育係をしている。
お陰で挨拶はできるし、我が儘は少ないし、貴族だからと他人に傲ることはない。
「可愛らしい挨拶を有り難うございます。でもお世話になってるのは私の方ですわ。」
「いえ! ノア兄さまからアリス姉さまは女神だと聞いています!」
「アル兄さまの救世主だと教わりました」
雲行きが怪しいな。
ノア、弟たちにそんなこと教えてるの?
間違ってはないけど。
「「だから姉さまと呼んでもいいですか?」」
「はい‥‥‥‥ 小さいアディのようで可愛い」
アリス、陥落。
眩暈がしたようなアリスを、然り気無く支えることに成功した。
俺は双子と似てないと思っていたが、アリスは色合いが違うだけで似ていると言う。
そうだったのか。
幼い頃の俺は、邸から出るのこともなかったから、誰かに幼い頃の自分と弟たちを比べられることはなかった。
アリスと出逢ったのも八歳のときだから、この年齢の俺のことはアリスも知らない。
「姉上。ふたりは明日母上と一緒に帰ることになったので、挨拶をと思いまして。」
「帰られるのですか?」
父上からの手紙をもらった母上が、急遽帰還を決めた。
手紙の内容は知らないが、俺には帰還命令を出していないようだから、大事ではないのだろう。
しかも、ノアは置いていくらしい。
母上の護衛なのにって思ったが、ユアランスから迎えが来るそうだ。
手紙の返事をもらう前に、既に迎えを寄越していたってことか。
母上は、アリスと観劇に行って、カフェでお茶もできて、観光も済ませていて、不満はないようだ。
双子は何もしてないのかと心配したが、ノアか遊びに連れだしていたらしい。
家族四人で遊びに行ったりもしたとか。
「グレン様、アレン様。是非また遊びましょうね。」
「「はい、アリス姉さま!」」
双子は表情豊かだ。
ニコニコ笑ってアリスと話してる。
やっぱ似てないのでは、と思ってしまった。
翌日、母上を迎えに来たのは、ユアランスの第一騎士団。
母上は、アリスや辺境伯夫人と別れを惜しんでから、ユアランスの馬車で帰って行った。
ちなみに、ノアを置いて行ったのは、猛暑対策の支援に役に立つと思ったようだ。
実際にノアは、広場の噴水を使って花が舞っているような演出をし、街では大変喜ばれていた。
通りすがりの観光貴族にまで「素晴らしいですね」などと言われているが、まさかユアランス侯爵令息だとは思ってないだろうな。
ノアだって「光栄です」と微笑むばかりだ。
近くにいる女性が頬を染めているのを見た。
でもノア、何でアイティヴェルの執事服なんて借りてきたの。
俺はというと、魔道具を作ってみた。
水源さえあれば、冷やしてから霧散させる仕組みだ。
辺境伯が購入させてほしい、と強めに進言してきたので、代金は要らないから納涼祭にアリスとの時間が欲しいと願い出た。
金銭より高価な願いな自覚はある。