“お願い”
ウィル、大激怒である。
ウィルに “お願い” されて、アリスのノートをウィルに見せると同じ結論に達したようだ。
あんな怖い笑顔での “お願い” を経験したのは、生まれて初めてだった。
当然アリスには許可を得ている。
皇太子殿下にノートを見せるなんて、と令嬢な言いそうだと思ったが、アリスは気にしていないようだ。
アリスは講義の様子を話してくれて、更に受講している生徒から話を聞いてきてくれた。
アリスの話では、アンジェ嬢も同じようだ。
それってエドから報告あっても良かったのでは?
この話をウィルに話したとき、側近として傍にはエドが居たのだから。
アンジェ嬢とエドは、講義の話はしないのだろうか。
「俺も魔法学の講義受けてみようかな?」
考えが纏まらないなか、俺の呟きに反応したのは昼食を共にしていたアリスだった。
「ダメです。」
アリスがこんなにキッパリ否定するなんて。
「魔法学には聖女様がいらっしゃいます。私としては、婚約者を慕う女性が居る場に来て欲しくはありません。」
ア、アリス!!!!
そんな可愛いこと言ってくれるなんて。
夢だったりしないよね?
「頬を引っ張ってはいけません。」
「い、痛い。これは現実?」
大混乱だ。
こんな幸せなことあって良いの?
アリスが、可愛い可愛い俺のアリスが、俺を慕う女性が居る所に来てほしくないって言った。
「アディ。解って頂けました? 来ませんよね?」
「はい。あ、なら俺が教えるのはどう?」
「有り難うございます。」
怒ってキリッと眉があがるアリスも可愛いけど、やっぱりこうやってふんわりとした笑顔が一番好きだな。
でも、アリスがこうやって強めに言うなんて珍しい気がした。
「‥‥聖女と何かあった?」
アリスの肩がピクッと反応した。
え! まさかあの女がアリスに何か‥‥?
「私は何もありません。なんというか、私がアディの婚約者だって認識されてないような気がします。」
「は?」
「アンジェ様のことはファンブレイブ様の婚約者だと分かっているようなのですが、私のことはアンジェ様の取り巻きだと言っていました。」
「はぁ!?」
朝はアリスと登校して、教室までエスコート。
昼休みは、アリスと裏庭で過ごす。
放課後は、都合がつく限り一緒に帰っている。
しかも夜会でアリスは俺の傍に居たのに、あのドレスを見ていないのか?
まさか視力ないとか?
この学園に身分差は存在する。
学園内で上の者が名乗れば、そこからは自由に会話ができる。
故に、自分より家格の高い生徒を把握していないと、無意識に失礼な言動をしてしまう可能性があり、入学内に覚えるのが普通だ。
俺はアリスを紹介してもいないし、おそらくアリスも名乗っていないのだろう。
それなのに、男爵家の令嬢が辺境伯家のアリスに勝手に話しかけて、更に取り巻き呼ばわりだと?
「アンジェ様が、私に対して失礼なことを言わないでほしいとお伝えして下さったのですが、全く聞く耳も持たなくてですね。」
「待ってなにそれ。アンジェ嬢は伯爵家、アリスは辺境伯家の娘。聖女って信仰の対象として教会では地位が高いけど、国での身分は男爵令嬢だが???」
「アディ、落ち着いて。」
大混乱だ。
皇族、公爵家、侯爵家、辺境伯家、伯爵家までが高位貴族だ。
アリスはアンジェ嬢より身分が高い。
聖女なんて比べるまでもない。
俺は深呼吸して、やっと少し落ち着いた。
「アリス、ひとりで嫌な思いさせてたよね? ごめんね。これからは何でも話して欲しい。」
「有り難うございます。今のところは気にならない程度でしたから大丈夫です。」
アリスは本当に気にしていないようだった。
ウィルはあまり怒らないタイプの人です。
そういう人の怒ってる姿って
なかなか怖いですよね。
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