四月一日は嘘つきだらけ
「……まさか、九歳の妹に騙されるとは……。尋常小学校では成績悪いくせに……」
朝起きてすぐにエイプリルフールの被害に遭ってしまった楓は、落ちこみながら朝ご飯を食べていた。楓をまんまと騙して得意げな妹も隣の席で食事をしている。小学四年生にもなって、おかずをぼろぼろとテーブルにこぼしていて、何とも幼い妹だ。何だかんだで面倒見がいい楓は、手拭いでテーブルを綺麗に拭いてあげた。
「もうあんな嘘、ついたらいけませんよ?」
「は~い」
妹はニコニコ笑いながら返事をしたが、この子は物忘れがひどいので来年のエイプリルフールも心臓に悪い嘘をついてくるかも知れない。警戒しなければ……。
楓がそんなことを考えていると、廊下からドタバタと慌ただしい足音が聞こえてきて、商談のために外出していたはずの父が血相を変えて食堂に入って来た。
「む、娘たちは無事かっ!?」
「あら、あなた。取引先の会社の社長と商談があるからとおっしゃって朝早くお出かけになったのに、もうお帰りになったのですか? 楓たちなら、いま朝ご飯を食べていますけれど……」
家までずっと走って来たのか顔を真っ赤にしてハァハァ言っている父は、楓と妹がぽか~んと口を開けて驚いている顔を見ると、「ぶ、無事でよかったぁ~……」と脱力してその場に座りこんでしまった。
心配した楓が駆け寄り、父を助け起こす。
「お父様、しっかりしてください。いったい、何があったのですか?」
「し……商談中に、取引先の会社に学生時代からの親友から電報が届いたのだ。俺の家に強盗が押し入って、娘たちが連れ去られたと……」
「お父様! 今日は四月一日、エイプリルフールですよ! お友達に騙されたのですわ!」
「し、しまったぁーーーっ!! 今日はエイプリルフールだったか! あいつめ、去年も俺の家がゾウの大群に踏み潰されたなどと嘘をぬかしやがったんだ! ち、畜生!!」
「……お父様。さすがにゾウの大群は東京に現れませんわ。というより、その方は本当にお父様のお友達なのですの?」
楓があきれてそう聞くと、父はがっくりと肩を落とし、「分からない……」と力なく答えるのであった。
「気をしっかりとお持ちください、お父様。今日はエイプリルフールですから、どこで誰に嘘をつかれるか分かりません。家を一歩外に出たら嘘つきだらけだと考えなければ、四月一日を無事に生き抜くことはできませんわ!!」
「そうだな……。もしかしたら、良い商談があると言っていた取引先の社長も嘘をついているのかも知れん……」
「それはきっと嘘ですわ! 騙されないでください、お父様!!」
「ああ、分かった! くそっ、なんて恐ろしい世の中だ! エイプリルフールなんて、明治の御世にはなかったのに!!」
楓に励まされると、父は「今日持ちかけられた商談は全部蹴ってやる!」と息巻きながら再び出かけて行った。
母が「いいのかしら……」と心配そうに呟くが、楓は「いいのです、これで」と一人納得して頷いている。
「私も、今日は誰の言うことも信じないわ! 特に春光さんには警戒しなきゃ!」




