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4,光る石

ゴミ屋敷と廃墟が並んでいる区画にドーは侵入した。

壁を乗り越えて近道をする。人の家の庭だがどうせ空き家、誰もいない。

横切ってまた壁を乗り越える。一度中学生カップルが絡まり合っているのをみたことがある。

思わずじっと見入っていると気づいたカップルが大声で怒鳴りつけてきた。

「何見てんだこらあ!!」

ドーは必死に謝りながらすごすごと引き返した。

そのようなことがあってから空き家の中を覗かないようにしている。

ただ一点を見つめて前進あるのみである。

「カオサン!」

空き家のひとつに到達して声をかけた。

「今日はマルエースでお肉が安いよ」

カオサンはいつも何くれと無くドーに用事をいいつける。

お使いボーイとして使っているのだ。

誰もいない。気配がない。

玄関に回ってドアノブをひねる。ガチャリと音がして開く。

(鍵もかけずに……。)

いつものことだ。

「カオサーン!」

(死んでるんじゃないだろうな)

カオサンがどこで何をしているのか?いつ家を出て帰るのか?

見た人は誰もいない。何が収入源なのかも不明だ。

あちこちで空き缶やゴミあさりをして小銭を得ているのだろうと「いつもの店」のマスターは言うが

ドーにはそうとは思えない。

(盗られるものなんて何もないか)

鍵のかかっていない家の中に入ると独特のニオイがする。

バラのような、カレーのような不思議なニオイだ。

(お香でも炊いたのか?)

「カオさ~ん」

部屋を覗いて回るが誰もいない。雑然としてどうでもいいものが転がっている。

(またガラクタが増えてる。何に使うんだこれ?)

不思議な文字が書いてある羅針盤のような器具や見たこともない外国文字が書きつけた紙が散乱する。

(……??。梵語?いや違う。アラビア語でもないようだ)

次の部屋では様々な形をした石が転がっている。

(どこから集めてくるんだ?原産地はどこなんだろう?案外価値があるものだったりして……)

ドーはハッとした。その石の幾つかに見覚えがあったのだ。

(そうだ!これと同じものを平手ゆり先生のオフィスで!)

莉乃が写メを撮ろうとして怒られたあの輝く石だ。丁重に台に載せられ、何らかの法則性を意味するような間隔を維持されながら飾られてあった。ここではただ無造作に床に転がされている。

その真中には古いテレビが置いてある。いかにも無造作であり、何の思想も感じられない。

(ごみ捨て場から拾ってきて、とりあえず置いて、それっきりという感じだな。だいたいアナログテレビじゃないか。ただの置物だ。あのザラザラ言う白黒画面を眺めて喜んでいるのかな?)

こんなものか。ただの留守で死んでいるわけではなさそうだ。

いや、もうひとつ部屋があった。

「なんだこりゃ!?」

ドーは思わず小さな叫び声をあげた。

最初の部屋で見つけた不思議な文字が描かれた羅針盤のようなもの……。その盤面を拡大したものが床一面に不可思議な金粉で描かれているのだ。そしてそれぞれの部分に、今度は明らかに何らかの論理的思考に基づいて配置された、あの「輝く石」達が一定の距離を保ちながら配列されてあった。

背後に気配を感じた。

「カオサン!?」

誰もいない。カチャリと音がする。何かが開く音だ。

ドーには玄関ドアが開く音に聞こえた。

「カオサン!お邪魔してるよ~」

しかし誰もいない。また背後でパタパタと音がする。

(入れ違いになった?)

それは考えにくい。カオサンが脅かそうと思ってリビングのサッシから背後に回り込んでいるのかもしれない。そう思うとドーはなんだか愉快になった。

(カオサンめ~~。隠れんぼってわけだな)

童貞のドーは目を輝かせながら匍匐前進を始めた。そして洗面所にさっと身を隠し、そしてまたそろそろと忍び寄り、カオサンが待ち構えていると思しき方向に向かった。

(さっきのテレビの影にでも隠れてるつもりだな。そうはいくか。こっちこそ背後をついてやる)

「お、こんなところにドアがあった」

ドアを開けるとテレビの部屋の反対側に回るべく抜き足差し足移動する。

チリチリっと音がする。

(なんだ?あ、こんなところに階段が!)

全く気づかなかった。ドーの真横に階上へと続く階段がある。こっそりと人が登ったあとで木が軋む音に似ている。ドーは階段を登った。こちらも抜き足差し足だ。

しかし不思議なことに登っても登っても階段が終わらない。

(なんだこれは?)

ドーは立ち上がると階段を駆け上がった。階段はいつまでも続く。

「こっちだよ!!」

背後から声が聞こえた。

「えっ!?」

気がつくと階段がひとりでに動いてドーを階上に連れて行こうとする。

「なんだよこれ!?」

ドーはやっと異変に気がついた。

「飛べ!」

声が聞こえる。

「だーっ!!」

階段から飛び降りたつもりだったがドーの身体はただ水平に床を転がっただけだった。

不思議な香りがあたりを強く包んでいる。

「松村のオッサンは元ヤクザだぞ」

マスターの言葉を思い出した。

(カオサンめ。変なクスリを扱ってんじゃないだろうな!)

ドーは玄関を飛び出した。

「カオサン!何やってんだよ!?」

その先にカオサンが立っている。

「よー、来てたのか」

言うなりカオサンは手に持った光る石をドーの方に投げつけた。

ドーは避けることができない。

光る石は急カーブを描いて急速に上昇すると大きな螺旋を描きながら、そこから更に加速して一気に、そして唸りを上げながら屋根の上へと向かった。

それに追い散らされるように3つの影が飛び立ち、屋根伝いに黒い残像を残し、すっと空の色に同化して見えなくなった。

「な、なんだあれは!?」

「妖魔だよ。頭上に注意しろって言っただろ」

光る石はカオサンの手の中に戻っている。

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