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5,パンデミック

「どういうことだよ!?妖魔ってなんだよ!?」

「ココネンのことだよ」

「はぁ?ヨーマ・ココネン??なんだそりゃ!?」

「カウコネンともいうぜ。サイケなやつさ」

カオサンは転がっていた赤レンガを砕くと、その破片をチョークのようにして玄関先のコンクリートに「妖ま」と書いた。

「ま、ってなんだよ」

「悪魔のマだけど、難しくて書けねえんだよ。お前書いてみろよ!」

言われるとドーも困ってしまった。

「いいよ。意味はわかった。なんでその妖魔が俺を襲ってくるんだよ」

「まだ襲われちゃいないだろ。見張ってるだけだよ」

「なんで見張られなきゃいけないんだ!?」

「まぁ入んな」

改めてカオサンの家に入った。

「そうだよ。なんだよあの石は?」

そう言いながら部屋に向かうが様子がおかしい。

(たしかこのあたりに階段があったはずだが……)

「おい、こっちだぞ」

カオサンに呼ばれる。

「お前の言ってるのはこれだろ?」

羅針盤を指差す。

「ああ、それと石と、あとはあれだよ」

ドーが奥の部屋を指差す。しかしあったはずの扉がない。

「部屋がなくなっている。階段もあったはずなのに!」

「見たのか?」

カオサンは考え込んでしまった。ドーはつめよった。

「妖魔、光る石、羅針盤、そしてあんた!あんた何者なんだ!?なんだよこのニオイ?変なクスリ売ってるならさっさと自首しろよ!」

カオサンが鋭い目でドーを見た。ドーはたじろいだ。

「まぁ座れや」

「お、おう」

「テーがいなくなったんだろ?」

「そうなんだよ。って、なんで知ってんだ!?」

「手がかりはないのか?」

「非処女洞窟に向かったって」

「非処女洞窟だと!?」

カオサンの顔色がさっと変わった。

「もうちぃ~と詳しゅう話してみぃや」

「お、おう。俺の友達っつか、俺にとっては唯一の女友達なんだけど……」

ドーは平手ゆり先生の占い館で起こったことを話した。

「それで莉乃が、っていうかその子がさ……」

「時々お前の話にはその、『りの』?……ちゃんって子が出てくるよな」

ドーは真っ赤な顔で立ち上がった。

「も、も、も、妄想ガールフレンドちゃうわ!ちっちゃい頃からの!!」

「わーったわーった。疑っていやしねえよ」

「これを見ろ!」

ドーはカオサンにスマートフォンに保存してある莉乃の画像を見せた。

カオサンには見せても大丈夫な気がした。

「こ、これはお前、この子って……」

「そうだよ!国民的アイドルグループ総選挙1位のオッギーこと荻原莉乃だよ!!」

「ほえー!お前にこんな彼女がいたとはな!!」

「か、か、か、彼女じゃねーわ!!男とも思われてねーわ!!」

「涙ぐまなくてもいいじゃねえか」

「こんなもんネットでいくらでも拾えるじゃねえか……!なぁんて俺は言わないぜ。スターでも一般人の友達や幼馴染はいるもんな。日常のありきたりの生活や人生設計があるわけだ」

「俺はネットなんて見ないもん!」

無職童貞のドーは定額のキャリア契約をすることができない。Wi-Fi環境のある店や場所で求職情報にアクセスしたり、年に数度の派遣バイトに出勤報告するくらいだ。

「わかってるって。お前からは莉乃ちゃんに連絡したりはできないんだよな」

ドーは頷いた。目の下のクマをファンデーションで隠しながら懸命にテンションを上げている莉乃を知ったからには、ますますドーのほうから連絡することなどできない。

「ああやって元気いっぱいに弾けてみせてるけど、莉乃には……」

ドーのスマートフォンに映る「荻原莉乃」の送信者名は「小倉莉乃」とある。

カオサンはそれを見ていった。

「誰だっていろんな抱えているものや、隠していることがあるもんだよな。特にこういう世界の人達には」

「莉乃には兄貴がいるんだ。スバルっていう。いるんだというか、正確には『いた』んだけどね」

「ほう」

「俺達のヒーローだったスバルはだけどある日いなくなった。俺の親友テーもまたこうしていなくなった。テーは非処女洞窟に行ったと言うけどさ、そんな話を簡単に信じられるか?いくら俺が童貞だからって、非処女洞窟から助け出せ、なんて話……」

ドーは泣き出した。

「俺もうどうすればいいんだよ!?これって全部俺の妄想なのか!?童貞だからってなんでこんな目に遭わなきゃいけないんだ!?尊敬していたスバルも、親友のテーも、それからカオサン、あんたも、そして莉乃も……、俺の作り出した妄想だっていうのかよ?童貞は、無職は、それほどまでの罪なのかよ!?就職も全然見つからないし!!見つかっても童貞がバレたらと思うとやっていける自信がないよ!!」

「涙拭けよ」

ドーはカオサンが差し出したハンカチで涙を拭った。

「拾ってきたものだけど、一応洗濯はしてある」

ドーは鼻も拭った。

「まぁこれを見ろ」

そういってカオサンはテレビの電源を入れた。ザーという音と共に砂嵐のような画面になる。

「面白いのかよ?」

「まぁ見てろって」

カオサンはテレビの下にあるボタンを押した。

「あっ!これは!!」

テレビはテレビデオだった。

『あっはあ~~ん!!』

なんと!エロいAVが始まった。

「エロい!かおさん、これエロいよ!!」

ドーの息が荒くなる。

「俺もこんなことしてみてええ!」

「莉乃ちゃんとか?」

「い、いや、それは……」

画面では激しいエッチプレイが展開されている。女優が激しい声をあげる。

「これ本当に気持ちいいと思うか?」

「えっ……、でも、こんなに声を出してるし……」

「お前ネットの環境がないと言ってたな。あったら毎日見るか?」

「『ディーちゃんねる』とか?」

「ディーちゃんねるは最近権利持ってるやつが変わってビィーちゃんねるになったらしいぜ」

「え、なにそれ、持ち主ってネット民じゃないの?」

「管理者としての権利持ってる奴ら同士で争ってたんだよ。俺がオーナーだって」

「書き込んでくれる人達あっての掲示板じゃないの?」

「広告料が莫大なカネを生むからな。ビィーちゃんねるに張ってある広告を踏むとエロいサイトに飛ばされる。それがビィーちゃんねるの収入になる。エロいサイトでユーザーがAVを見ると更にその分の何%かがビィーちゃんねるに入る。女から出る汁をシノギにしとるわけよ」

「あ、そういえば、ネットは世界中に繋がってるんだっけ」

「そうだ。性表現が厳しい国々にも日本のAVが垂れ流されている。エロいサイトも課金じゃユーザーが集まらないからどんどん無料で流す、無料で流してAV漬けの脳みそになった奴らを有料動画にひっぱるためだ。だけどAVジャンキーどもはAV見たさにプロテクトを破ってしまう」

「カネを払うのは俺みたいなネット見慣れてない連中だけってわけか」

「無法サイトでAVが見放題。AV脳になった若い奴らがAVのプレイをどんどん実際に行ってしまう。文化レベルの低い国々の連中もだ。奴らには元々なんていうかな、こういうことはやっちゃダメだよなっていう感覚がないんだよ。そいつらが爆買いなんていって日本にやってくる。モノだけではない、春も一緒に買っていく。カネ欲しさの愚かな日本人がそれでもよしとする」

ドーは荒い息を吐きながらテレビ画面を見つめている。ドーの脳内では自然に女優の顔が莉乃の顔に変換されていた。

「うわっ、顔に!!」

「莉乃ちゃんがこんな事されていたら?」

カオサンの声にドーはハッと我に返った。

「こういうプレイをどんどんメーカー側は創作して世界中に流してしまう。真似をする奴らがバイバイゲームで増える。それと同時に増えるものがある」

カオサンは床に転がる光る石を手に取った。

「そうそう、これだよ、これ、一体なんなの?」

「光の中心をよく見てみろ」

目を凝らして見ると小さく細い螺旋状の紐のようなものが幾重にも重なり合って蠢き合っている。

「教科書に載ってたような……」

「ゲノムだよ」

「遺伝子!?」

「全ての遺伝子のもとになるエネルギーだ」

「それがどうしてエッチと!?」

「元来こうやって堅く封印され、人間が好き勝手に操作することはできないものだ。それをこうやって……」

カオサンは画面を指差した。2本目のプレイが始まっている。

「無秩序に開放することで混じり合い、得体の知れないものができあがる。人間の力では抑制できないものがな」

「性病のこと?」

「性病、と呼ばれるレベルで止まってくれればいいけどな。人間の身体はこのゲノムを封印する石のようなものだ。だが、これが固い石ではなく、こんなふうに!」

そういってカオサンは石を別の石に投げつける。

ドーがカオサンにしがみついた。

(石が砕け散って中のモノが混じり合ってしまったら……!!)

「安心しろって」

強い力で投げつけられたはずの石であったが瞬時に減速し、ふわりと浮かび上がるとゆっくりと部屋を一周し、カオサンの手元に降りてくる、カオサンは手を広げてそれを迎え入れようとする。

と、そのとき石が反発するように飛び上がるとフワフワと宙を舞う。石から光が放たれた。

テレビの電気が消えてAVが自動的に排出された。

それから石はゆっくりとドーの前で漂った。ドーは胸の前で両手を広げた。

その手のひらに石はゆっくりと降りていった。

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