21,光る手
「ええい、ジーンを見失ったか!」
デニム妖魔長は唇を噛んだ。残った部下のスレンダーとともにビルの屋上に身を潜めると伝魔を飛ばした。シャルル少佐が応じた。
「どうした。定時連絡には早いようだが?」
「ジーンが命令を無視して『ラウムの欠片』と思われる人物、そしてその仲間の追跡、そして襲撃を開始したのであります。」
「……ううむ。貴様に新兵を抑えられんとはな!」
「申し訳ありません!奴め魔回線を切ってしまっています」
「しかしちょうどいい機会だ。これを見るがいい」
ホログラフィに画像が浮かんだ。
「これは!?あの男が、そんなバカな!」
「いや間違いない。あの一緒にいる男、あれが『時空海賊ゼブラ』の転生した姿なのだ。」
「しかしあまりに姿が異なりますが」
浮かび上がるゼブラの3D映像は精悍かつ獰猛な表情、そして見事な体躯を持つ威風堂々たる宇宙海賊だ。それに対してデニム達が目撃した「マツムラ」なる人物は初老の入り口にいるちっぽけな痩せぎす男、いかにも世の中の泥に潜んで暮らしてきた貧相で自信なさげな顔つき、とても時空を股にかけてその名を轟かせる伝説の戦士には見えない。
「うむ。転生にしてもこれだけの乖離は珍しい。記憶のすべてを取り戻してもいないようだ。しかし偶然に接触したと思われる妖魔がサイコブレードと思われる武器で虐殺されたという報告が入った」
デニムはカカトを合わせて音を立てながら背筋を伸ばした。
「ご指示を!」
お台場に到着したヘリはテレビ局の屋上への着陸態勢を整える。
莉乃がドーの手を握った。
「お、おい!」
「うーん。なんでかなあ!?そっちの手も貸して」
莉乃はそういいながら今度は両手でドーの両手を包み込むようにぎゅうっと握る。
「これでもか!!」
ぎゅうぎゅうと何度も握りや角度を変えて試してみる。
「開いてみて。手のひらこっちに向けて」
「こ、こうか?」
ドーが手を開いてドーに向けるとその指と指の間に莉乃が自らの指と指を潜り込ませ、絡ませる。
「ぎゅっと握ってみて!」
「お、おう……」
おっほん!とマネージャーが漫画チックな咳払いをしてみせる。
「それって恋人つなぎだよ?」
「ダメかあ~!」
莉乃は手を離した。しかし尚も諦めきれないのかドーの手を角度を変えて握ったり、さすったり。そして遂にはぁ―っとため息をついた。
「光らないなあ!」
ヘリの着陸は離陸と違って「ジー」がそれ程かからず穏やかなものである。
「なぁ~んで私、勇士じゃないのかなあ!」
「でもさ、姫ポジションっぽいじゃん?」
「でもやっぱりさ、こうなったら勇士になりたいじゃん?女だって戦わなきゃってのが現代社会だし。RPGみたいに、最初ダメでも、なんかの要件満たしたらフラグが立って、鍵や宝箱が開くみたいな感じでさ、手が光るかなあって思ったんだけどなあ!」
「ちょっともう、危険なことはさせられないからね!」
マネージャーが口を挟む。
「大丈夫。させませんよ」
ドーの顔がお台場の陽光を受けて輝いている。
「お願いよ?」
そういうとマネージャーもドーの手を握った。
「あ、光らないか」
「なんだあ~!マネージャーも密かに思ってたんじゃん!しょうがないなあ!」
莉乃が笑った。ドーも笑った。マネージャーも苦笑いだ。機長も微笑んでいる。
「あ、機長も握手してみます?」
「いや、私は結構……」
「ほらそう言わずに、もうコンピューター操縦に入ってるんでしょ?」
莉乃がドーの手を伸ばして機長に近づける。機長も苦笑いしながらも、少々緊張した面持ちで片手を伸ばして握手する。しかし何も起こらなかった。
「ふぅ―!機長が勇士だったらどうしようかと思った!ちょっと私ドキドキしちゃった!」
ドーが腕組みをした。
「にしても、どーなってるんだろうな。流れとか展開からしたら莉乃とカオサンが最有力なんだけど、これ以上になると俺、あまり親しい友達いないし。勇士見つかっても知らないモノ同士で気まずいのはつらいなあ~」
「そうよね。その人達にも仕事や家庭があるもんね。もし異時空の異世界に行かなきゃいけなくなったら有給申請するってわけにもいかないし」
「異時空の異世界か……、帰ってこれるかどうかもわからない」
「でもそれこそ勇士のロマンではあるよね。世界を救うとかってなったら」
ドーと莉乃は視線を感じた。秋長康人59歳が熱い視線で見ている。
「せんせ~~~。まさか~~~!?」
半笑いの莉乃に言われて秋長は頬を赤らめた。
「い、いや、ボクは何も言っていないが!」
「もう、こう見えて永遠の少年なんだからあ~。ほらほら素直に握手してもらいなさいっての」
「あ、いや、ボクはいいよ。でもちょっとだけ!」
そう言って秋長は身を乗り出してきた。ドーは手を差し出した。
「先生、色々本当にありがとうございます。莉乃は僕がしっかり守ります」
「頼むぞ!ボクは協力を惜しまない」
秋長の目にはまごうこと無き童貞の光があった。ドーの胸に熱い思いがこみ上げた。
(秋長先生は芸能界という場所に人生を置いて、女優やアイドルをたくさん食べてきたけど、それでも童貞の心を忘れていないんだ!!)
「ありがとうございます!」
ドーと秋長はしっかりと目を見つめ合い、ガッチリと固く手を握りあった。お互いの熱が通じ合い、身体を駆け巡る。
「うわああっ!!」
「ええええええっ!!」
ドーと秋長、莉乃とマネージャー、そして機長が驚きの声をほぼ同時にあげた。
莉乃が手を口に当てて改めて叫んだ。目の前で起こった光景に驚愕するしかない。
「なんで!?これなんで!?まじなのこれ!え―!まじで―っ!!?」
ドーと秋長、握りあった二人の手が激しく発光したのだ!!




