三章 ナイルの奥へ6
私とマイケルは五日ほどムカマのコミューンで静養させてもらった。最後の日はモロコシ畑での収穫作業が大詰めのため、ムカマやチャンダギたちは早朝から畑に出ていた。諸々の礼は前夜にすませていたが、マイケルはもう一度挨拶するために畑へと向かい、私はコミューンの外れで待っていた。そこに牛たちの世話に行く途中のショーンが立ち寄った。
「先はまだ長いんだろう? これを持って行きなよ」
ショーンは包みを手渡した。ちょうど一冊の本くらいの大きさだった。
「ありがとう、食べ物かい?」
「たいしたものじゃなくて悪いけど、干し肉だよ」
「助かるな。また魚ばっかり食うのかと滅入っていたんだ」
私は包みを荷袋にしまった。ムカマたちからも食料を恵んでもらっていたが、食べ物で荷が増えるのは一向に構わない。
「君たちと会えて、よかったよ」
ショーンは私の肩を叩き、片目を瞑ってみせた。
「うん、おれもこんなところで昔馴染みの顔を見られるなんて思わなかった。運命に感謝するよ」
「なあ、ブルース」
ショーンは、一転して神妙な顔になった。
「なんだい?」
私は聞いた。
「君の身の上は、一緒に暮らしていた私もよく知っている。一人になったことは、さぞかし辛いだろうな。でもどんな世の中だろうと、君が一個の生命であることに変わりはないんだ。あまり悲観的にならないでくれよ」
「それじゃ、おれが死に急いでいるみたいだ。大丈夫、君が心配するほど悪いほうには考えてないから」
私が片目を瞑って返すと、ショーンは頬を緩めた。
「まあマイケルだけでなく、君までもがあの人の影響を受けているのだから、それほど心配することもないのかな。なあ、ブルース、旅の間マイケルを守ってやってほしい。彼はいま、変化のときを迎えている。たぶん、とても大切な時期なんだ」
「おれはあいつを辛い目に遭わせた。言われるまでもなく、無事に目的地まで連れて行くさ」
私が言うと、ムカマやチャンダギたちに礼をすませたマイケルが駆け寄って来た。荷袋を背負い、行こうと声を弾ませる。
モロコシ畑から、みんなが手を振っていた。ざざあっと穂が風に洗われる。砂煙がたっているのに、それでも誰も手を振るのをやめない。私は両手を挙げて彼らに応えた。
じゃあ、とショーンが別れ惜しそうに呟いた。
「君に会えて嬉しかったよ」
私は言った。




