二章 呪縛の継承12
「とりあえず、急いでシャクティと話し合う必要があるな。彼女は、いま三階の研究室にいる。おれはそこに立ち入ることができないんだが、そうも言ってられないだろう。ここで待っていてくれるか?」
レンとパシャスの話だけで判断するのはフェアでなかった。マイケルが監禁されているなら手段を選んでいられないが、それはシャクティが事実を認めてからだ。このままでは彼女は一方的に悪役になってしまう。弁解の場がなくてはならない。というよりも、私はなんらかの誤解であってほしい、と心の底から願っていた。
「私たちも行きましょう。マイケルは、その研究室にいるのかもしれない」
「いや、いきなり君たちが来たら、彼女も動揺する。まずは、おれ一人で話してみるよ」
「あんたが立ち入り禁止ということは、いちばん監禁場所の可能性が高いわけだろう。だったら彼女が変な細工をする前に、三人で踏み込んだほうがいい。いまなら、用心する間もないからね」
パシャスがその意見に強く同意した。二人の気持ちはすでに固まっていた。
「しかし、それではいきなり彼女を犯人扱いにするのと同じだ。万が一、間違いだったとしたら、彼女は深く傷付くぞ。君たちのことは信じるしかないが、まだ百パーセントなわけじゃない」
レンとパシャスは、困ったように互いの顔を見合わせた。彼らにはもう段取りを踏まえて筋を通す考えがないようだった。
「あんたが彼女を大切にしたいのは、もっともだけど。はっきり言って百パーセントだよ。何度も言うけど、マイケルは彼女に囚われている。あんたのことも裏切ってね」
遠慮のない言葉が、私の胃を鷲掴みにした。急激に吐き気が込み上げてくる。
「ブルース、マイケルを助けたいなら、いますぐ行きましょう。そのほうが私たちにとっても有利だ」
私の返事を待たずに、パシャスは歩き出した。レンも私の肩を抱きかかえ、建物に向かうことを促した。私は足早に進む二人の後を追った。吐き気がする。歩きながら、津波のような激情が私を支配しはじめていた。
裏切り。シャクティは、私を欺きつづけていたのだろうか。彼女には、私より大切なものがあるとでもいうのだろうか。私には、ない。最後の仲間以上に大切なものなど。しかし、彼女は違う。だから私は、こんな仕打ちを受けているのだ。