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東方心操録  作者: ハヤテ
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第九話 朱に交われば赤くなる




「にゃぁ」

「……ココロ、これなに」

「何と言われましてもねぇ」


 生物と答える以外になにかあるのでしょうか。私だってこんな生物見るの初めてですよ。


「とりあえず、また私の服を裂いて応急手当しましたけど……」

「……この生物は食べ物?」

「みゃっ!?」

「んー、駄目ですね。焼くなり煮るなりすれば食べられるんでしょうけど、筋張っててまずそうです」

「……じゃあ、いい」


 最近、生物と見るや何でもかんでも食べ物か聞いてくる白亜。そりゃぁ、極端に言えば全ての生物は食べられるんでしょうけど、その中にも美味しくない物とか食べたくない物とかありますよね。


「ですが、本当にこの生き物なんなんでしょうね」

「……さあ? 角が生えてるから鬼の一種かもしれない」


 そうなんですよね。まあ、人の形は成してないどころか鳴き声が『にゃあ』ですし、大して危ない生き物でもないでしょう。それに、酒虫ちゃんには及びませんが可愛いですし。皆さん、可愛いは正義ですよ。


「まあ、干物が出来るまでまだかなりの日数が要るのでその間ぐらいは面倒見ましょうか。拾った側の責任ってやつですよ」


 特にこれからする事も無いので、傷に触らない様にこの謎の生物を持ち上げ、頭に乗せて再び散策を開始します。うん、ぶっちゃけ、怪我した謎の生物を手当てする為だけに拠点に戻る事なんてしないんです。怪我にお酒ぶっ掛けて布巻くだけですし、戻る必要性ないんですよ。


「……名前付ける?」

「名前ですか? そうですね、一時的とはいえ、面倒見るのですから名前ぐらい付けても良いですね」

「にゃー」


 どうやらこの謎の生物も同意しているようです。いや、泣き声で判断したのではなくて心を読んで判断したんですよ。この能力は生物全般には有効ですからね。本当に便利です。


「……じゃあ、角で」

「にゃ」

「却下だそうです。『なんだその見た目通り過ぎる名前は! もっとまともなものにしやがれ!』だそうです」

「……今の一言にそれほどの罵倒が?」

「本当は『却下。もう少し捻って』と言っています」

「そい」

「ぎゃふっ」


 顔面を殴られました。平手ではありません。


「……じゃあ、タマ」

「みゃ」

「却下だそうです。安直過ぎるとの事」

「……ココロも考えて」

「私ですか? んー、ミケとかどうですか?」

「にゃ」

「死ねってどういう事ですか」


 もう論外どころの話じゃないってことですよね。死んだ方が良いってそんなに気に食わなかったんですか。


「じゃあ、白とか」

「……却下」


 白亜に却下喰らいました。この謎の生物ではなく、白亜から却下喰らいましたよ。


「何故?」

「……私と被る」


 それの何がいけないのでしょう? ちょっと心を拝見……ふむ、単純に気に食わないと。分かりやすくてよろしい。


「ハァ、じゃあ、次で最後の提案です。……コンとかどうですか?」

「にゃっ」

「む、『今までよりマシ』ですか。なら、これで良いですか?」

「……罵異悪煉蘇ばいおれんすが良かった」

「にゃっ!?」

「『なんだその糞みたいな名前は!?』だそうです」

「……糞」


 あ、隅っこに行って地面を弄り始めました。そんなに悲しかったのでしょうか? ですが、はっきり物申させてもらうと、私も流石に罵異悪煉蘇は無いかなと思いました。ていうか、なんですか罵異悪煉蘇って。どういう言語ですか。そんな言葉思いついた白亜の脳みそに私は驚きましたよ。


「よし、じゃあ、紺。これから少しの間ですが、よろしくお願いします」

「にゃぁ」

「……糞みたい…糞みたい…」


 何このしょんぼりしてる白亜。可愛いんですけど。






 さて、あの謎の生物もとい紺と出会って数日後。漸くあのバカでかい魚の半身を干し終わったのでまた出発となります。

 出発という事はつまり、紺とはお別れという事になります。

 ここ数日、私の頭の上が気に入ったのか暇さえあれば私の頭に飛び乗ってきたので正直鬱陶しいと思っていました。が、こうして別れの日になるとそれも妙に寂しく感じられます。こういう心理って謎ですよね。


「紺、元気に達者でやって下さい」

「……またいつか」

「にゃぁ…」


 どうやら私達と別れたくないようですが、そうはいきません。紺がどんな生物か知りませんが、どう考えても妖怪よりも早くに寿命が来るでしょう。

 ぶっちゃけた話、折角親しくなったのに先に死なれてしまってはこちらとしても悲しいのです。あちらとしてもどう頑張っても先に死んでしまう事を呪う日があるかもしれません。

 ただでさえ妖怪は精神的に脆いところがあると言われているのです。親しくなった人を片っ端からホイホイ旅のお供にして、その全てを見取る羽目になったら気が狂ってどうにかなります。ですから、


「すみません、一緒に行く事は出来ないんですよ」

「……にゃぁ」


 渋々ながら納得してくれました。これがお互いのためとはいえ、なんだか罪悪感が湧き出てきますね。


「……にゃぁ」

「ん?」

「にゃ、にゃにゃにゃ」

「……プッ、クッ、アハハハハ!」


 ああ、そうきましたか。うん、それなら私も拒む理由がありませんね。


「ハハッ、ええ、いいですよ。その時を楽しみにしていますね」

「にゃっ!」

「それじゃ、白亜、行きましょう」

「……うん」


 ま、そんな事が本当に起こる可能性は限りなく低いのですが、私はいつまでも待っていますよ、紺。


「……紺はなんて?」

「ん~? ああ、紺はですね――」



―――いつか、私が長生きして妖怪になったら、一緒に旅しても良いですか?



 妖怪の寿命は長い。焦らずじっくり待つとしましょうかね。





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