第十七話 今更ながら自己紹介
「お主が、妾の後釜となりうる人物かの?」
「ん」
「そうか……ところで、何故さっきからこ奴の角にぶら下がっておるのじゃ?」
「ん」
「……真面目に答えぬか」
「ん」
「……(ブチッ)」
「ああ、待って待って。これには深い訳が―――」
そんなこんなで、帰ってきました邪馬台国。
「……成程、の。無夢とやらは声が出せぬのか」
「ええ、まあ」
「で、お主が通訳か?」
「はい」
「そして、あ奴は拗ねておると?」
「……拗ねてない」
諏訪子様から無夢を貰い受け、私達はその日の内に邪馬台国への帰還の準備をして帰ってきました。なにせ、飛んでも三日は掛かるので即断即行で行かないと時間が足りなくなるのです。諏訪子様への個人的なお礼はまた後日ということになっています。……まあ、大々的なお礼は今現在やっておりますけど。
「しかし、まさか本当に見つけてくるとは思わなかったぞ? しかもこんな短期間に」
「諏訪子様に感謝して下さい。あの神様と接触してから僅か五日でこの子を発見したのですから」
「……私たちだけでは無理だった」
「まあ、信仰の対象が二つというのは少し、いや、大いに問題じゃが、仕方ない」
そう、大々的なお礼とは、諏訪子様の神社の分社を邪馬台国に設置する事。こうする事で諏訪子様はこちらにも信仰の勢力を伸ばせるのです。分霊もこっちに寄こせますし。
「ま、人間なんて自分を豊かにしてくれる方に傾きますからその辺は大丈夫でしょう。諏訪子様もこっち(邪馬台国)にちょっかい掛ける気はないと言っていたので」
「……ところで、お主らはどうやったら人探しで神と接触できるのじゃ? この話しを聞いた時は十二指腸が口から飛び出るかと思ったぞ」
「キモッ」
「……気持ち悪い」
「それだけ驚いたという比喩じゃ! 本当に出る訳ないじゃろ、化け物じゃあるまいし」
化け物ではありませんが人外ではありますよね、あなた。
「話しを戻しましょう」
「……どっかの邪馬台国の女王の所為で話しが逸れた」
「ん」
「……無夢は何を言っているか分からんが大体雰囲気で分かる。それを踏まえてあえて言おう、乗ってきたお主らも悪いと!」
「どっちが悪いとかどうでもいいんで。卑弥呼が私達にできるだけ早く見つけて欲しいと急かしたのなら、自分もそれなりに急ぐべきでは? 幸いにも、無夢は激流に身を任せると言ってくれているんですから」
「……考えることを放棄したともいう」
「ん」
「『考えるのがめんどくさくなった。もうどうとでもなれ』だそうです」
「ヤケクソになっておるではないか!」
いや、もっと詳しく言うと、『ここまで来たら式神だろうが不老不死だろうがなんだってやってやるです』なんですけどね。ヤケクソというより興味津々なんですよね、この子。まあ、諏訪子様の話によるとあまりあるその才能の所為で幼いながらも退屈して生活していたそうですので、こういう非日常はむしろバッチこいなのでしょう。
「……ん? あれ?」
「どうかしたのか?」
「いや……なんでもないです」
気の所為でしょうか? なんか無夢とは他人とは思えない『何か』を感じたのですが。こう……仲間意識みたいなものが。
まあ、無夢は人間で私は妖怪。仲間意識なんて出来るわけがない。という訳で気の所為。
「そういえば」
「うん?」
「妾はまだお主らの名を聞いておらぬのだが」
「ああ、それですか? うん、だってしていませんもん」
故意に。
「故意か! 今まで滞りなく進んでおったから違和感があってもさして問題なかろうと放置しておったが流石に今の時点で名前を知らぬというのは大問題じゃろうが!」
「私にとっての大問題は名を知られた事によって呪いやらなにやらを掛けられる事なんですけどね。ほら、私達って二人で旅してますけど、白亜って頭使うような事は殆ど私に丸投げしている節があるでしょう?」
「……むしろ面倒事は全て丸投げ」
本人は自覚があってもそういうこと言うなし。普通に腹立つ上にそれを当たり前の事と受け入れている自分に涙が出てくる。
「まあ、つまり怪しきには常に慎重にかつ疑って掛かっているですよ。私の能力には騙し打ちとか謀略とか全くと言っていほど意味がありませんけど、一応ね」
「……妾がお主らを陥れる様な真似をする為の予防策、という訳か?」
「いえ、今回の場合あなたの鬼道がどういう物か上辺だけで細部まで知らなかったからですね。ほら、名前知られて何かされたら嫌ですもん」
「まあ、そういう物かの」
そういうもんですよ。初対面の相手に対しての理由なき信用信頼なんて出来る人はただの馬鹿でしか無い。いや、それも一種の美徳なのか?
「妾も似たようなものじゃったしな」
「ですよねー」
「……話しずれ過ぎ」
「おっと、そうでした。では改めて、私の名前は鬼無心と申します、鬼無とでも心とでもお好きなように」
「……白木白亜。好きに呼べ」
「うむ。妾は邪馬台国の女王、卑弥呼じゃ。まあ、もうそろそろ引退じゃがの」
引退……そういえば気になっていたのですが、卑弥呼ってここ引退したらどうするのでしょう? まあ、卑弥呼ならいきなりこの広い世界に放り出されてもどうにか出来そうですけど、一応聞いてみますか。
「ねぇ卑弥呼。あなた、ここの女王やめたらどうするんですか? 放浪します?」
「む、そうじゃな。今の所は、鬼無らと共にのらりくらりと―――」
「……は?」
空気が凍りついた気がします。いや、そう感じたのは私だけなのか、私の頭上では無夢が髪の毛で芸術を作り上げてますし、横では召使いの様な人が『ずずぅ』とお茶を啜っています。
呑気な人を上と横で流し見ますが、やはり気にしていないようです。心を読んでも『芸術は爆発』『そんなことよりおうどん食べたい』とかどうでもいいことしか考えてません。ってか、止めろよ無夢。爆発とか洒落にならんからな。
「……私達に、ついてくる?」
「そう言ったのじゃが、何か問題でも?」
そして、前では卑弥呼をバチバチと火花が散りそうなほど睨みつけている白亜と、何故睨まれているのか心底分からないと首を傾げている卑弥呼がいます。正直、逃げ出したい。なまじ白亜の心の内が分かってしまうだけに余計逃げ出したい気持ちが募る。
というか、何故こんなに白亜は怒っているのか。いや、それは心を読めばすぐに分かる事ですが、私は深いところまで心を読まないと決めているのです。簡単な感情と何を考えているかぐらいなら読めるようにしてますが、深い所まで追求しない様にしています。何故かというと、白亜への負い目というのもありますが、その多くは深い所を私自身が視たくないからです。
汚いんですよねぇ……人間の深い心の内って。
白亜に関しては十割負い目から視ないだけですが、その他の大多数はそういう理由からです。
まあ、そんな訳で私は白亜が怒ってのは分かりますし、『付いてくるな雌猫が』とか恐ろしいこと考えているのは分かりますが、その根本的な原因は分かりません。だから……
「どうするんですかこの状況」
「……ついてくるのは駄目だ。絶対に」
「何故じゃ? 見たところ、気儘にフラフラと旅しているだけじゃろ? 妾一人ついてくるぐらい何ともないと思うのじゃが……のぅ? 鬼無よ」
「え」
「……駄目に決まっている。……そうでしょ、ココロ」
「なんですと」
何故そこで私に振るのです。止めて、そういう判断を私に仰がないで。私としてはどっちでもいいんですから。
「ふむ……もしや白木よ。お主……」
「……なに?」
私が慌ててどう言ったものかと考えていたら、急に卑弥呼が思案顔になり白亜に話しかけました。何を言い出すすつもりでしょう。お願いですからこれ以上空気を凍りつかせないで欲しいんですが。
「鬼無に惚れておるのか?」
凍りつくどころか時間を止めていきましたよこの女王。さっきまで目から火花バチバチ出してた白亜も目を大きく見開いて硬直しています。それだけではなく、私の髪で爆発物的芸術作品を制作していた無夢はその手を止め、ジーッと白亜と卑弥呼に視線を回しています。召使いさんは……え? 『そんなことよりおうどん食べたい』? この人ってなんかすごいですね。我が道を全力で爆走しています。こんな人に私はなりたい……って、今はそんな事どうでもいい。
「……私が、ココロに、惚れている?」
「うむ。いや、よく考えれば当たり前じゃな。男女が長年共に過ごせば恋心など普通に―――」
「黙れ」
ズドン、と屋敷の天井を突き破って人間の半分程の岩が卑弥呼の目の前に突き刺さりました。かなりの速さで飛来した為、目視出来たのは卑弥呼と私ぐらいでしょう。現に卑弥呼が落ち着き払っているのに対して、召使いさんは札を構えて白亜を警戒していますし、上にいる無夢は驚きのあまり固まっています。
「……私とココロの問題だ。……お前が首を挟むところじゃない」
「……ふむ、確かにそうじゃな。いや、すまん。こちらも同行の許可を得ようと見た目の割に必死だったのじゃ」
「……旅の主導権はココロが握っている」
「む?」
「……同行したいならココロに聞け」
え、私ですか。いやー、ぶっちゃけ、どっちでもいいんですけど? 付いてくるなら付いてくるでも、付いてこないでも。
「そうか、分かった。では、鬼無とは後に話しあうかの」
「あ、はい。分かりました」
一時はどうなるかと思いましたが、被害は天井と床だけですね。私に害は一切なかったので良しとします。
「……それとココロ」
「え、なんです―――」
白亜が呼んできたので返事をしたら、頭に尋常じゃない衝撃がきました。揺れる脳、薄れゆく意識。そんな中で私が聞いた最後の言葉は……
「……忘れて。卑弥呼が言った事全部」
そういう事ならもう少し優しくして下さい。そう口に出そうとしたところで、私の意識は途切れました。




