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銃撃剣士カルム〜目立ちたくないのでソロでダンジョン潜ってたのに、助けた子が超有名人で目立たないとか無理そうです〜  作者: Some/How
第一章

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3/9

閑話「出会い」

 その場所は薺がよく自宅までの近道として使っていた路地裏。

 そこに、その子猫はいた。

 雨上がりで湿ったアスファルトの上。

 ボロボロになった段ボール箱の隅で、その黒い塊は力なく震えていた。


「……あ」


 薺は思わず足を止めた。

 

 手のひらに乗るほど小さな、真っ黒な子猫。

 泥にまみれた毛並みは固まり、四肢は小刻みに震えている。

 

「ニャア……」

 

 細く、今にも消え入りそうな鳴き声。

 見上げたその瞳は、吸い込まれるような金と銀のオッドアイだった。

 

「キミ、大丈夫……?」


 割れ物を扱うように慎重に、持ち上げる。

 手のひらに感じる体温はあまりに低く、その命の火が今にも消えかかっているのをまざまざと教えてくる。


 そんな小さな命を見捨てられるほど、彼女は非情ではない。


「……冷たいね」


 薺はハンカチで子猫を包むと胸に抱き、家路を急いだ。


 胸元に感じる、微かで、けれど必死に鼓動を刻む小さな心音。それが途絶えてしまわないことだけを願い、薺は泥だらけのパーカーも構わずに走った。


 自宅に飛び込むと、すぐに暖房を入れ、乾いたタオルで子猫の体を優しく、根気強く拭いていく。


「……よかった。……まだ、生きてる」


 しばらくして、少しだけ温かさを取り戻した黒い塊が、その小さな鼻を「ピクッ」と動かした。金と銀、二色の瞳が再び弱々しく開かれる。


「……キミ、強いね。……あんなに冷たかったのに」


 薺は安堵の溜息を漏らし、その小さな頭を指先でそっと撫でる。


 その時、ぱたぱたとスリッパを鳴らして奥の台所から薺の母、菖蒲(あやめ)が顔を出した。


 「おかえりなさい、薺! 今日は少し遅かった……あら、まあ!?」


 エプロン姿の菖蒲が、薺の泥だらけの服と、その腕の中に抱かれた小さな塊を見て目を丸くした。

 驚きに一瞬固まった菖蒲だったが、すぐに娘の必死な表情を見て、すべてを察したように柔和な笑みを浮かべる。


 「お外にいたのね。……そんなに汚れてまで、よく頑張って連れて帰ってきたわね。偉かったわ、薺」


 菖蒲は優しく薺の頭を撫でると、手際よく動いた。

 すぐに温かいミルクと、小さな湯たんぽ代わりのペットボトルを用意し、古い毛布を敷いたカゴを差し出す。


「さあ、まずはこの子を温めてあげないとね。……薺も、雨で濡れちゃってるでしょう? 風邪を引いちゃうわ。お風呂を沸かしてあるから、先に温まってきなさい」


「……でも、この子が……」


「大丈夫よ。お母さんがしっかり見ててあげるから。ね?」


 菖蒲の温かい声に、薺の張り詰めていた緊張がふっと解けた。


 薺はコクンと頷くと、バロンと名付けた小さな命を菖蒲に託した。



 風呂から上がり、髪を乾かしながらリビングに戻ると、そこには微笑ましい光景があった。

 菖蒲が指先にミルクをつけて、子猫の口元に運んでいる。子猫は弱々しくも、必死にそれを舐めとっていた。


「薺、見て。この子、あんなに弱っていたのに、自分から飲もうとしてるわ。とっても強い子ね」


「ん……。名前、どうしよう」


「薺が連れてきた子だもの。貴方が付けてあげて」


 薺は指先のミルクを求める子猫を見つめる。


「……バロン」


 薺は昔見た映画に出てきた猫のキャラクターと同じ名前を呟いた。

 深い意味はなく、なんとなく、それがぴったりだと思ったのだ。

 

 「バロン? 男爵様ね、ふふ、素敵じゃない。格好いいお名前をもらえて良かったわね、バロンちゃん」


 菖蒲は目を細め、いとおしそうに子猫の喉元を撫でる。


「……うん。……強そうなのが、いいと思って。オスみたいだし」


 薺の言葉に、菖蒲はミルクの容器を置き、濡れた髪を乾かしきれていない娘の肩を優しく抱き寄せた。


「そうね。薺が初めて自分で『守りたい』って連れてきたお友達だもの。お母さんも全力で応援するわ。今日から、この子はうちの家族ね」


「……ありがとう、お母さん」


 窓の外では、先ほどまでの雨が嘘のように上がり、雲の切れ間から微かな月光が差し込んでいた。


 膝の上で、小さな熱が「ゴロゴロ」と微かな音を立て始める。


「……よかった」


 心の中でそっと呟き、薺は瞼を閉じる。

 明日から自分の日常がどれほど騒がしくなるか、まだ彼女は予感すらしていない。

 けれど、今はただ、この静かなリビングの温度と、新しい家族の鼓動だけを感じていたかった。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

〘あとがき〙

今回は少し短めのほのぼの回です。

時々こんな感じの話を挟んでいこうかなという試みでございます。

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